7 マックスは思いだす
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上っ面だけは平穏な日々。
ラミがクエストに出かけた翌日、私は『都市エステカ』を散策していた。
「おっ、あの店とか良さそうだなあ。それにあっちも美味そうなものがあるぞ!」
「はいはい。うっかりはぐれたりしないでくださいよ」
「いいじゃんか。どうせ今日もヒマなんだしさー」
勇者さまのおまけつき。勇者さまもヒマを持て余していたらしく、勝手に付いてきた。
特に拒む理由もなかったので連れてきたが、あちらこちらを見てフラフラと歩いている。
『都市エステカ』は王国内でも、かなり大きい部類に入る。店、特に菓子専門店なども多いので、勇者さまが子供のようにはしゃいでいた。
――まあ、実際、子供なんですけど。
今日の勇者さまは、白のワンピースに、薄桃色の上着を羽織っている。手入れの良い銀髪と合わせて、貴族のご息女に見えなくもない。
だからか、店の呼び込みにかかりやすかった。私は店に入ろうとする勇者さまの首根っこをすぐさま抑え、
――子犬か子猫のようですね。
と、少しばかり微笑ましく思いながら歩いている。
「そういやあ、ラミはもう帰って来たのか?」
「まだ報告はありませんが、ラミならすぐに帰ってきていると思いますよ」
ラミが受けたのは、大鬼族の討伐だったか。ラミの腕ならば、もう終わっているだろう。
「帰り道の途中くらいじゃないですかね」
「そっかー。まあ、あいつなら楽勝だろうしなー。あ、でも連れがいるんだっけ?」
「ラミが認めたなら、それなりに腕が立つ冒険者でしょう。邪魔にはならないと思いますよ」
なので、私は特配もしていない。遅くとも明日には帰ってきているだろう。
「気になるなら、ギルドでものぞいてみますか?」
「う? うーん、まあヒマだしなあ」
全冒険者のひんしゅくを買いそうな一言である。
「ギルド、どっちの方だっけ?」
「大通りの端の方でしたから、こっちですね」
距離よりも、人ごみを潜り抜けるのに苦労しつつ、私と勇者さまはギルドの建物を見つけた。
今は、昼を過ぎてかなり経っている。それでもギルド内は静かだろうと予測しながら、私たちは中に入った。
ギルドが賑やかなのは、朝と夜。クエスト募集が始まる時間と、クエストを終えて帰って来た冒険者が酒場で騒ぐ時間のどちらかだ。
予想通り、ギルドの中にはそれほど人はいなかった。ちらほらと見えるのは、簡単なクエストを終えて帰って来た新米冒険者だろう。どの顔も若かった。
しっかりと装備を整えている冒険者たちの中では、上品な服装の勇者さまは浮いてみえる。しかし、それを気にした様子もなく、勇者さまはクエストボードを見ていた。
「ふーん、あまり大したのはないな」
私も見てみたが、貼られているクエストの大半は雑用のようなものだった。
駆け出し冒険者用だろう。ラミが受けたような討伐系は、早朝のうちに持っていかれる。報酬が高いもは人気だからだ。
勇者さまは、あっさりとクエストボードから興味を失った。併設された酒場の椅子に座り、
「マックスー、なんか甘いもの食べたいー」
「……ここは喫茶店じゃないんですから。もういいなら、帰りますよ」
ブーブーと言う、勇者さまの非難もなんのその。慣れている私には、小鳥がさえずっているのと変わらない。
しばらくすれば、ギルドに人が戻ってくる時間になる。そこに、場に不似合いな勇者さまと私がいると、いらない問題が起きそうだ。
そういう時は、すぐに撤収するに限る。私は、なお不満をぶつけてくる勇者さまの手を引いて、ギルドを出ようとした。
そこで、だ。
「あれっ? マクシミリアン様……と、勇者様?」
「おや?」
入り口で、入れ違いに入ってこようとしたのは、ラミだった。
「ラミじゃん。帰って来たのか」
「あ、はい。今、到着したばかりです」
「ふーん、クエストは?」
「問題ありませんでした。後は報告するだけです」
でしょうね、と言いたくなる。勇者さまも、特に何か考えている様子でもない。
「お疲れ様でした、ラミ。この後の予定は? すぐに戻ってきますか?」
「はい、報酬を受け取ったら、すぐに城に戻ります」
「分かりました」
「晩飯までには帰ってこいよー」
こんな感じでのんびり話していると、ラミの後ろから別の視線が飛んできた。
「……ラミ、早く報告」
「えっ、うん。分かってるよ」
ラミの同行者だろう。黒髪で小柄な少女だ。
「おや、あなたは確か……」
小鬼族掃討戦で、先陣を切っていた少女だった。
「……なに?」
「いえ、なんでも。この前、ちょっと姿を見かけたもので。小鬼族掃除の時に」
「……ああ、うん」
あまり会話が好きではないらしい。私の言葉にも、最低限返事をするだけ。
「……先、行くよ」
「あ、待って、すぐに行く。では、マクシミリアン様、勇者様、また後ほど」
黒髪の少女は、私たちの横を、さっさと歩いていってしまった。ラミも、挨拶を終えると、小走りで追っていく。
私と勇者さまは、それを見送りつつ、
「なんか、変な奴と組んだんだな」
「勇者さま、初対面の相手にいきなりケンカ売るようなことは言わないでください」
――まあ、確かにラミが組む相手としては、少々風変りですが。
ラミが組むならば、もっと快活な相手だと無根拠に思っていたので、少しばかり意外だった。
――もっとも、無事に帰って来たなら、それで充分です。
私は勇者さまを連れて外に出た。陽はかなり傾いている。群青色が、空へと昇り始めた。
そろそろ帰らねば。いくら勇者パーティだからといっても、夜までほっつき歩いてはいられない。
「腹減ったし、帰るぞー」
勇者さまも同じ意見らしい。私たちは、城への道を、のんびりと歩き出した。
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