表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/78

8 シャーマン・ラミは見つける

100pt頂きました。

個人的な快挙です。ありがとうございます。

 龍族(ドラゴン)たちの戦いは壮絶で、ラミは目を背けぬよう必死に見つめていた。

 青い龍族(ドラゴン)が不利。青く輝いていた鱗は腐敗の吐息ブレスでくすみ、屍龍族(ドラゴンゾンビ)の牙と爪が容赦なく引き裂いていく。


 だが、青い龍族(ドラゴン)は痛みを感じさせぬ勢いで、必死に食らいついていた。腐り果てた同胞に、文字通り噛みつき、炎の吐息ブレスをたたきこんでいる。

 一撃が放たれるごとに、ラミの胸は軋むような痛みを得る。知らず、涙があふれて頬を伝っていた。


 こんなに悲しい戦いが、他にあるだろうか。大切な者を、自分が死ぬかもしれない覚悟でもって、倒さなければならない戦いが。

 ラミは、この前マクシミリアンに、自分と重ねるな、と言われた。その時は失うことの悲しさだけを見ていたが、


 ――こんなの、こんなのって、ないよお……。


 二体の戦いは激しくなっていく。

 屍龍族(ドラゴンゾンビ)はすでに翼を焼かれ、前足を砕かれていた。それでも、残った頭で噛みついている。

 対する方も、翼を切り裂かれ、鱗をはがされながらも、相手を抑え込まんと必死だった。


 激闘と呼ばれるほどの戦いを、ラミは潜り抜けたことがある。死ぬ覚悟で精霊を操ったこともある。我を忘れるほど、血を流したこともある。

 そんなラミでも、受け止めきれないほどの戦いが、目の前で繰り広げられていた。

 拳を握りしめている。涙は流れっぱなしで、視界は歪んでいた。それでも、決して目をそらさない。


 ――お願い。


 と祈る。


 ――あの二人に、望まれる決着を。


 と。

 もはや、二体の戦いは手を貸せぬほどに激化していた。手を出そうものならば、世界中から憎まれるような気がした。


 マクシミリアンも動かない。思うものはラミと違うようだが、二体の様子を見つめるだけ。瞳には、今まで見せたことのない厳しさがあった。

 互いの傷など、もはや関係ないとばかりに、二体は爪を、牙を突き立て合う。

 戦いは、永遠に続くかのようだった。勝ち負けなど、どうでもいい。


 そして、


 ――アタシは他人に、自分の結末を重ねていた。大切な人を亡くすことがどんなに悲しいかって、他の人に聞いて、それを答えにしたかった。


 しかし、


 ――そんなことしちゃいけないんだ。


 人それぞれの思いに、平等も、優劣もない。誰かに自分の悲しさを語ってもらうことはできない。

 いくら自分と似ていたからといって、感じるものまでが同じだとは思えない。こんな戦いを見せられてしまったなら。


 ――お願い、終わって。


 これ以上、と思う。これ以上、


 ――もう、苦しまないで。悲しまないで。


 と。

 その願いに応じるかのように、ついに決着の時が来た。

 青い龍族(ドラゴン)が、屍龍族(ドラゴンゾンビ)の首にかみついた。腹を大きく膨らませ、特大の吐息ブレスを至近距離から、自分ごと吹き飛ばそうというかというほどの威力で放った。


 屍龍族(ドラゴンゾンビ)の首が、もげる。頭も、そして胴までも炎が貫き、動かなくなった。

 双方の動きが止まった。


「っ!」


 ラミは、決着がついたと思うやいなや、すぐに地に下りた。青い龍族(ドラゴン)に駆け寄り、水の精霊(ウンディーネ)を呼び起こす。


「……来ていたのですね、人間」

「何も言わないで、動かないで、お願い」


 龍族(ドラゴン)の傷など癒したことはない。なので、ラミは精霊の加護を全力で使った。


「ありがとう。ですが、もう我の傷は……」


 何を言いたいのかは分かっている。ラミがどれだけ精霊の加護を借りようと、青い龍族(ドラゴン)の傷は癒えない。


「……私も手伝いましょう」

「マクシミリアン様……」

「あまり得意ではありませんが」


 マクシミリアンが、特大の魔法陣を展開させた。龍族(ドラゴン)全体を覆うかのような大きさで、


「これは……?」


 徐々にではあったが、傷がふさがっていく。青い龍族(ドラゴン)が驚いている。


「まさか、人間に我らの傷が……?」

「静かに。私は治す方は苦手なんです。動かれると、気が散ります」


 傷がふさがるのは、マクシミリアンの魔法のおかげ。そう分かりながらも、ラミは精霊の加護を使い続けた。


 ――気づかせてもらったんだから、せめて、これくらいのお礼は……。


 ラミは、精霊の力が無くなるまで、治癒を続けた。マクシミリアンの魔法と合わせ、青い龍族(ドラゴン)の傷は、かなり治せた。

 力の使いすぎで、胸が痛くなった。しかしこれはただの疲労。先ほどの胸を締め付けられる痛みとは全く違う。


 ――あれに比べたら、こんなの、痛くなんてない……!


 肩で息をしながら、ラミは青い鱗にもたれかかった。力が抜けてきている。限界近くまで精霊を使った反動だ。


「ありがとうございます、人間よ」

「ぜんぜん、これくらい……」


 赤子を呼ぶかのように優しい声だった。思わず、ラミは意識を失いそうになった。

 だが、まだ倒れるわけにはいかない。


「あり、がとう」

「礼ですか? 我はあなたに何もしていませんが」

「いいの、ありがとう」


 重ねて言うと、青い龍族(ドラゴン)は何も言わなかった。

 ありがとう、この言葉以外、ラミには思いつかなかった。問いに、願いに応えてくれた者への礼として。

 重くなってくるまぶたに必死に抗い、青い鱗を撫でる。まだ汚れてはいたが、きっとこれから元の美しさを取り戻すだろう。


 ――本当に、ありがとう。


 意識が無くなるまで、ラミは思い続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ