3 勇者リリアは出会う
もっと多くの方々に拙作を見ていただく営業方法はないものか……。
リリアたちは、村についた翌日の早朝に出発した。
山まではそれなりに近いとはいえ、何が起こるか分からない。荷物は荷車に乗せて、マクシミリアンが引いていくことになった。
「まあ、仕方ありませんね」
「頑張れー、マックスー」
「だからって勇者さままで乗らないでくださいよ」
リリアは抗議したが、マクシミリアンは頑なに拒否した。
山までの道は、荒れてはいたがそれなりに広かった。以前は山へ木の伐採や山菜取りに行くことがあったらしい。
歩きやすいので助かる。マクシミリアンも、荷車を引くのに苦労はなさそうだった。
「あの、マクシミリアン様、いつでも交代いたしますので……」
「ああ、大丈夫ですよ、ラミ。これくらいはどうということもないので」
実際、マクシミリアンの体力は常人とは比べものにならない。魔法使いといえば、頭でっかちでひ弱。そんな常識は、この黒い青年には当てはまらないのである。
まあ、実際は龍族だしな。
六大属性龍の一角が荷車を引くというのは、とても他人に言えたものではないが。
それはさておき、道のりには何の問題もなかった。魔獣どころか、ただの獣すら出てこない。
おそらく、屍龍族の影響だろう。獣の長ともいえる龍族がすぐ近くにいるのだ。怯えて縮こまっているのかもしれない。
主にリリアの都合で休憩をはさみつつ、山のふもとに着いたのは昼を過ぎた頃だった。
「そんなにかからなかったな」
「道のおかげですね。森の中を歩くよりずっと楽でしたから」
そう言うマクシミリアンは、疲れた様子を全く見せなかった。ラミは恐縮し驚いていたが、リリアからしてみれば当然である。
漆黒龍からすれば、この程度の距離、まさにひとっ飛びだろう。荷物がなければ、飛翔の魔法で一瞬だったかもしれない。
村人に教えてもらった山小屋に荷物を置き、最低限の物だけを持って三人は山に向かった。
――なんだか、ゾワゾワするな。
違和感は、山のふもとに着いた時からあった。胸を圧迫されるような不気味さ。おそらくはこれが、屍龍族の気配という奴だ。
直接対面しているわけでもないのに、気分が悪い。リリアでも感じ取れる気配には、マクシミリアンもラミも気づいているようで、二人共表情が硬かった。
気配にさらされることしばらく、山道の途中に、大きな窪地があった。ここだけ、草木が避けている。さらに、酷い異臭があった。
緑とは違う、腐った肉の匂い。何がこの窪地を作ったかは明白だ。
「どうだ、マックス?」
「ほぼ間違いなく。肉の加減からすれば、確かにアンデットになっていますね」
「……そうか」
噂は本当だったらしい。マクシミリアンは周囲に漂う腐臭にも平然と答えた。
リリアは鼻をつまんでいる。ラミの顔も渋かった。
「臭いからして、ここからそう遠くはないですね」
「ん」
マクシミリアンを先頭に、リリアたちは歩き出した。
登るにつれて、腐臭は濃くなっていく。もはや、鼻をつまんでいても意味がなくなってきた。
「ふぐぐ……」
「勇者さま、辛いなら先に帰っていてもいいですよ」
「そうはいくか。マックス一人を行かせられないからな」
「ですが、そろそろ着きますよ。臭いの原因に」
マクシミリアンはそう言うと、前方を指さした。その先には、大きな口の洞窟がある。
原因、ということは、あの洞窟に屍龍族がいるのだろう。
「勇者さま、ラミ、私の後ろに。はぐれないでくださいよ」
リリアとラミは、鼻をつまんだままうなずく。
段々と嗅覚がマヒしてくるように思える。思い切って鼻から手を外してみると、
「ふぐあー!?」
「だから無理しないでくださいって」
「マックス! 何か結界はないのか、便利な奴!」
「臭い対策の結界は持ち合わせていませんよ」
そんなもの、存在するかどうかも怪しい。
――キツイ。キツイけど、マックス一人で行かせるのはいやだ。
覚悟を決めて、洞窟の中へと入る。
まだ昼とはいえ、洞窟内は暗い。マクシミリアンが、光明の魔法を使って周囲を照らしてくれた。
「あんまり明るいと相手にバレないか?」
「ばれても構いませんよ。一応、あちらは敵意がないようですし。それよりも、壁、触らないでくださいね。肉がこびりついていますので」
――うぐっ、マジか?
確かに、目を凝らしてみると、壁にどろりとしたものがくっついている。これが屍龍族の肉だろう。
触れば手が溶けてしまいそうだ。リリアはマクシミリアンの後ろにピタリとくっつき、壁からなるべく離れることにした。
洞窟は、かなり奥まで続いている。太陽が見えないので時間の感覚が危うくなってくる。
それなりに奥まで進んだところで、マクシミリアンが足を止めた。
「いました」
マクシミリアンが光を高く掲げると、目の前に大きな肉の塊が見えた。
――うげっ、これがか。
肉は見たままに腐り、ところどころ骨も見えている。光の具合で全身までは見えなかったが、それが救いとなった。
これの全体を見てしまったら、夢に出てきそうだ。
これからどうするのかと待ってみる。こちらに敵意はないが、屍龍族の方がどう思うか。
――これと戦うのは、さすがにいやだなあ。
リリアは、自分でも分かるくらいに渋い表情を作った。
と、そこで、頭の中に声が響いてきた。
「ナニをしにきた、ニンゲン」
耳ではなく、心に直接届く声。思念による会話だ。
「こんにちは、ちょっと話がありまして」
「ハナシ、だと? ワレにはハナすコトなどナニもナい。ワレはただここでクちるのをマっているだけよ。ニンゲンにはキガイをクワえぬとイったはずだが」
「まあ、そう言わず。色々と聞きたいことがあるんですよ」
まったく臆さずにマクシミリアンは話しかけていた。一応は龍族という同胞なのだから、当然かもしれない。
「ワレは、もはやハナすことすらアヤしいカラダよ」
「でしょうね。朽ちて溶ける直前みたいですね」
「ワかっているなら、ホウっておけ。でなくば、キサマらをオいダさねばならぬ」
「まあまあ。物騒な話はしたくありません。あなたが辛いなら、奥にいる同胞を起こしてください」
「ぬ……?」
同胞、と言われて、屍龍族が動いた。ぐちゃりぐちゃりと肉のこすれる音がする。
――ぐ、グロい。
しかし、動いていたのも、ほんの少し。今度は別の声が聞こえてくる。
「気づいていたのですか、人間」
先ほどの、屍龍族とは違う、はっきりとした声だった。中性的で、柔らかい。
「気配を隠していたわけではないのでしょう? 分かりますよ」
「そうでしたか。同胞の姿にばかり気を取られていたわけではないのですね」
「ええ、もちろん」
光が届いていなかった暗闇の中から、ぬっと龍族が顔をだした。
鱗は青く、こんな場所でありながら淡く光っているようにも見える。屍龍族とは違い、こちらは本物の龍族だ。
鱗と同じ、青い瞳がリリアたちに向けられていた。青い龍族は、こちらを見定めようかというくらいに見つめてくる。
さすがに龍族だけあって、気迫があった。リリアはマクシミリアンで慣れていたが、ラミの方はかなり驚いているようだった。
「それで、人間は何をしにここに?」
問いかけに、マクシミリアンは平然としつつ、
「龍族がなぜこんな人里近くに来たのか不思議でしてね。しかも二体で。何をしに、とは私たちが聞きたいですよ」
「そうでしたか」
「あなたたちがいること自体が不自然ですから。理由くらいは聞かせてください」
「わかりました」
青い龍族がさらに首を伸ばしてくる。
「我らは、追い出され、逃げてきたのです」
力のあった瞳が、少し落ち込んだように見えた。
「我らはもともと、北の方、人間からすると魔族の土地から来ました」
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