3 プリースト・ルシアナは絶望する
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ラミの背を見送ってから、ルシアナは大きなため息を吐いた。
先ほど語ったのは、全くのデタラメというわけではない。
――あの魔法使いには、何が秘密があるはず。人間が魔族と戦って無事でいられるはずがありません。
内通した魔族には、高位のものもいた。最上級、と言っていたか。そんなものを、たった一人で追い払えるものか。
ラミが言うには、マクシミリアンは無傷で帰って来たらしい。いくら魔族が仲間意識に乏しいれんちゅとはいえ、仲間割れをしたというのも胡散臭い。
ルシアナは、青い小さな紙を取り出した。何も書かれていない。
――念写への返事がない……。
青い紙は、先日使った念写の奇跡を受信するもの。魔族にこちら側の状況を伝えたはずなのだが、
――何をやっているのでしょうか! 連絡すら怠るとは!
魔族からは、なんの反応もなかった。シュルケ、という魔族に、勇者が『エルテル城塞』に着くころを見計らい戦を仕掛けけろと伝えたはずなのに。
まさか、本当にマクシミリアンに撃退されてしまったのか。たった一人の魔法使いに倒されてしまったのか。
考えてから、いいえ、と首を振る。強力な魔族に対抗できるのは、それこそ魔族くらいなものだ。
ラミに話したデタラメが、まさか真実であるはずがない。あれはラミを揺さぶり、こちら側に引き込むための芝居である。
こちら側、つまりは勇者討伐派。
ラミも、勇者に対しては疑問を抱いている。なぜ、小娘が勇者なのか。勇者としてやっていけるのか。
しかし、魔法使いへの恋慕が、ラミの目を曇らせている。このままでは、あの純朴な少女がいいようにろうらくされてしまう。
――早く、なんとかしないと……。
焦りを感じながら青い紙を見つめる。すると、紙に変化があった。
ゆっくりと文字が浮かび上がってくる。
――やっと!?
待ちわびた返事だ。希望が湧いてくる。今ならまだ勇者を『エルテル城塞』に引き留められる。
一文字一文字、ゆっくりと記される紙を、ルシアナは祈るように、すがるように待ち続けた。
そこに書かれていたのは、
「……え?」
シュルケは死んだ、という短い、簡素なものだった。
それで終わり。これからどうするとも、どうなるとも書かれはしなかった。
「死んだ……? 最上級魔族が……?」
希望が、一瞬で絶望に変わる。待ちわびた返事は、ただの訃報でしかなかった。しかも、最悪の内容だ。
何度見直しても、文字がこれ以上変化することはなかった。
呆然とするし、それでも次第に怒りが頭を染め上げていく。
紙を、握りつぶした。
――ありえないありえないありえない。
まさか、あの魔法使いは本当に魔族だというのか。自分のデタラメが、真実だったりするのか。
一体どんな化け物なら、一人で最上級魔族を倒せるというのだろう。人間が数千単位で戦って、やっと無力化できるようなもの相手に。
髪が乱れるのも構わずに、頭を掻きむしる。理解できないことだらけで、考えがまとまらない。
どうにかしなくては。だが、どうしたらいいのだろう。
化け物が相手では、ルシアナ一人ではどうしようもない。ここには協力者もおらず、指揮官カーライル卿は勇者を戦いに出したがらない。
――考えろ! 考えろ!
しかし、良い案は浮かばない。考えも行き詰まり同じ言葉をはんすうするしかなくなった。
――神よ、どうか神よ!
祈るよりもすがるように、ルシアナは神に唱え続けた。




