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9 プリースト・ルシアナは憤慨する

第二章もこれにて一区切りです。

 仲間割れを起こした。マクシミリアンはそう言った。


 ――をしていたのでしょうか、魔族は……。


 せっかく情報を送っていたのに、まさかそんな理由で作戦が失敗するとは。

 ありえないとも思える原因だったが、ルシアナは仲間割れ、という事実を信じた。


 あの魔法使い(ソーサラー)、真実を隠しつつも嘘は言いませんからね。


 パーティを組んで一年。勇者、魔法使い(ソーサラー)精霊使い( シャーマン)の性格はだいぶ理解した。そのうえで、ルシアナはマクシミリアンが嘘を吐いていないと信じる。

 最上級魔族を投入する、という手はずだった。いくらあの黒い魔法使い(ソーサラー)が強いとはいっても、最上級魔族を相手にして生きて帰ってこられるとは思えない。

 ならば、魔族内で何かあったと考える方がまだ理解できた。それが実に不愉快であっても。


 ――勇者を始末するには、まずあの男から。そう思っていましたが、手段を変える必要があるかもしれません。


 ルシアナは勇者が嫌いだった。

 パーティを組まされる前から、勇者の噂は聞いていた。口先だけでまるで戦わず、お供の魔法使い(ソーサラー)にばかり戦わせる怠け者、と。今でもそう思っている。

 実際、勇者は聖剣を抜きはすれども振るわない。真っ先に敵陣に突っ込むべき存在でありながら、後ろからなんやかんやと叫んでいるだけだ。


 そんな者が、勇者という天職を持っていていいはずがない。

 ルシアナは決して自分の心中を語らなかった。それでも、自然と周囲には伝わる者がいたらしい。

 今の勇者を排除しようと考える貴族。そんな者からのアプローチが、勇者パーティに入ってひと月もしないうちにやってきた。


 あんな子供が勇者でいいはずがない。即刻、始末するべきだ。勇者としての自覚を持ち、責任を持って戦う者こそが必要だ。

 まさに、ルシアナが考える勇者像を語りながら、貴族は近づいて来た。

 すでに勇者に対する不満が堆積していたルシアナは、すぐに貴族の下についた。


 人を癒し、正しく導く聖職者(プリースト)の教義からは外れるかもしれない。それでも、人族のためには、新たな勇者が必要だと信じていた。

 ルシアナは、どんな小さな情報でも見逃さず、仲間に伝えた。ありとあらゆる可能性を考え、勇者を排除するために動いた。


 ――ですが、あの魔法使い(ソーサラー)がいつも邪魔をする。あの男さえいなくなれば、勇者など簡単に始末できます。


 もはや、同じパーティである事実はいら立ちの元でしかない。ラミ以外の二人は、憎き怨敵だ。


 ――ああ、ラミもあんな男に想いをよせるなんて、可哀そうに。ラミならば、もっと素敵な殿方を慕うべきだわ。


 黒い魔法使い(ソーサラー)を亡き者にすれば、ラミが目を覚ますと信じている。ルシアナにとって、ラミは大切な家族のようなものだ。

 ルシアナには、もう家族がいない。幼い頃、盗賊によって、殺されていた。


 その盗賊は、すぐに王国の騎士団によって討伐され、ルシアナは教会に拾われた。教会の教えは、家族を失ったルシアナにとって、唯一の救いだった。

 人族を救うこと。正しい未来へ導くこと。ルシアナは、心の底から、この教えを信じている。

 

 ――そのためにも、勇者は新しく生まれるべきです。あのような小娘には、任せておけません。


 次がどんな者であっても、今の勇者よりはマシであろう。聖剣、聖鎧は、勇気あふれ、民衆を導くカリスマを持つ者にこそふさわしい。


「ルシアナ、どうかした?」


 持ち場に戻ると、ラミが心配そうに声をかけてきた。


「顔、怖いけど、何か問題あった?」

「いえ、大丈夫よ、ラミ。ちょっと考えごとをしていただけだから」


 微笑みながら答える心中で、ルシアナは純朴な精霊使い( シャーマン)を憐れむ。


 魔法使い(ソーサラー)、しかも、闇魔法を使う汚らわしい男に惹かれてしまうなんて。すぐに目を覚まさせてあげますからね。


「ねえ、ルシアナはマクシミリアン様から話を聞いた?」

「え? ええ、これからの道は安全だと聞いたわよ」

「そう……。じゃあ、本当に安全だと思う?」


 どういう意味だろうか。


 ――もしかして、ラミもあの男に不穏なものを感じたのかしら?


「正直言うと、信じられないんだ」

「そう、よね」

「うん。だって、あんなたくさんの魔族がいたのに。これからいきなり安全っていうのは、ちょっとね」


 綺麗な金髪をすきながら、ラミは続ける。


「マクシミリアン様、アタシたちを安心させるために、嘘を吐いたのかなあ」

「え? ああ、そういう……」

「マクシミリアン様も、案外、嘘が下手なんだね」


 苦笑いするラミが、愛しくも哀れだ。


「大丈夫よ、ラミ、きっとこの先、心配はないわ」

「えっ、ルシアナまでそう言うの?」

「マックス様は、分かりやすい嘘は言わない方よ。何か、ちゃんとした理由があると思うもの」

「そうかなあ……」


 腹立たしいが、あの男の言葉は嘘ではない。

 心配性のラミは道中が気になるようだが、ルシアナは忌々しくも安全だと認めている。


 ――魔族も使い物にならないわね。ここは正攻法で、魔族ともども散ってもらうしかないかしら。


 目的地、『エルテル城塞』は戦争の最前線。魔族の数には事欠かない。

 勇者を、魔法使い(ソーサラー)をなんとか言いくるめ、矢面に立たせれば魔族と相打ちになる。最悪でも、こちらの刺客で殺せるくらいには弱るはず。

 次の目標を定めると、ルシアナは小さな赤い紙きれを取り出した。さらりと文字を書き、呪文を唱えると、紙切れは燃え、灰となって消えた。


 念写の奇跡。遠方と連絡する術だ。

 念写には希少な紙が必要になる。王国内ではほとんど出回らず、王国軍ですらめったに使えない。

 ルシアナが紙を持っていたのは、万が一作戦が失敗した時のために、ととある貴族に渡されたから。

 その貴族がどうやって手に入れたかまでは知らない。しかし、


 ――勇者を殺すのに大金を積む人間もいる……。ああ、人にここまで疎まれる勇者は、早く消してしまわないと。


 改めて思い、ルシアナは祈る。


 ――神よ、どうかあの者たちに天罰を。


 と。

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