2 マックスは説明する
さて、ここでちょっと細かい話をしましょうか。
今現在、人族は魔族と敵対しています。昔は仲の良い時期もあったのですが、今はケンカ状態です。
ことの発端は知りません。私、寝てましたから。六大属性龍は、本来ならばどこにもくみしない中立派なんです。勇者さまに手を貸している状況は、かなり特別です。
それはともかく、ケンカしているんです。ここ、パラジニア大陸の南北に分かれて。
南が人間の領域、北が魔族の領域です。戦線は、人間有利。南北の境界線は、少しずつですが北に押し上げられています。
と、言っても五百年戦い続けて少しずつ。ですので、実際は一進一退かもしれません。
魔族は人間よりも強力です。人間が言う魔法というやつを、腕の一振りで、視線だけでも使うことができますから。魔法とは、魔族の使う自然法則だから、そう呼ばれているのです。
対して人間は、武器防具、あと魔法を研究してやっと戦っています。弱いです。なんとか戦線を維持できているのは、単に数が多いからです。
さて、この泥沼の状況、唯一の打開策は、人間側が魔族の王を倒せるかどうかで決まります。この仕組みは、魔族側には少し不利です。
なにせ、勇者っていうのは、人間がいる限り、というか生まれる限りいくらでも出てきます。ですが、魔族の王は一度倒されると百年単位で生まれません。そして、王が倒されたら魔族の団結などあっという間に霧散します。
魔族は種類が多い分、団結力に欠けています。同族内の結束は固いのですが、他種族とはあまり交わろうとしません。それをなんとかまとめられるのが、魔族の王という存在です。
第三勢力というのも、あります。人間にも魔族にもつかない、亜人と呼ばれる存在ですね。森人族や鉱人族などがそれです。
亜人は姿かたちが人間の方に似ていることもあって、人間と付き合いがあります。基本的には、あまり肩入れしませんけどね。
厄介ごとには関わらないスタンス。私にも分かります。
亜人は人間よりも寿命が長いので、長期的な視野がある点も関係しているでしょう。どちらが滅んでも、いえ、どちらも滅ぶまではいかないだろう、なんて思っているのかもしれません。
実際、私が生きて来た一万と五千年くらいの間で、人間も魔族も絶滅はしませんでしたし。
そんな中で完全中立である、はずの六大属性龍は、名前の通り、漆黒龍の私を含めて六体います。
それぞれが六属性の頂点に立ち、自分で言うのも恥ずかしいですが、強いです。
そのため、どちらかに手を貸そうものならパワーバランスが崩れるのが必定。本来ならば、どこかに手を貸してはいけないんです。
これも、私が人間の姿を模している理由の一つです。他の五体にばれたら、叱られるだけじゃすまないでしょうね。
まあ、ですが、この均衡を破らねばならないだけの対価を貰っています。勇者の将来性をすべて貰う、というのはなかなか大きなものなんですよ。なにせ、人間側最強、最高の切り札ですから。
本人にはあまり自覚がありませんけどね。あの態度は、半分天然です。
ただし、私もあまり大きく動くわけにはいきません。小競り合いをちょちょいと鎮めるくらいがせいぜいです。先ほども言いましたが、他の六大属性龍にばれてはいけないんです。
全力を使えば魔族の城まで一本道、ただし焼け野原、を作れます。その後、私は同族にボコボコにされるでしょうが。
まあ、現状はこんな感じです。
人族も魔族も大変ですね。
……え? 他人事じゃない?