4 マックスは魔族に襲撃される
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――はい、どうも、『都市エステカ』を出てから二日経ちました。
今日も今日とて忙しい。
出発してからというもの、魔族がひっきりなしに襲ってきた。
一日目で三回。本日は二回目。
『エルテル城塞』までの道は、予想以上に過酷だった。
「いけー! マックス、どんどんやれー!」
「はいはい、頑張ってますよー」
漆黒灯で鳥人族たちを撃ち落としながら、私は部隊に襲い掛かる魔族を追い払っていた。
周囲は戦いの喧騒にまみれている。兵士が負傷した、荷物が狙われた、聖職者の治療はまだかなどなど。
――ああ、忙しい忙しい。
魔族の波は、まだまだ収まらない。
――大きな吐息が使えるなら一気に倒せるんですけどねー。
兵士と魔族が入り乱れる戦場では、強力な吐息は使えない。なにせ、敵も味方もまとめて消し飛ばしてしまう。
勇者さまは、いつも通り聖剣を振って私を応援している。馬車には魔族の一匹すら届かせていない。
「マクシミリアン様!」
「ああ、ラミ、左の方を任せてもいいですか?」
「もちろんです!」
ラミが火の精霊を呼び出し、真っ赤な炎で屍人族の群れを焼き払う。
うめき声を上げながら燃え尽きる屍人族たち。腐臭があたり一面に漂い、血の匂いと混ざって酷いことになっている。
――さすが、優秀ですね。
『都市エステカ』を出てから、ラミのレベルは2も上がっていた。それだけ敵の数が多く、私一人では手が足りていない。
兵士たちも奮戦していたが、リーマン卿の自慢部隊も、徐々に数が減ってきている。
聖職者たちは、治療もだが結界の準備にてこずっていた。ルシアナも、結界担当。敵の隙を見ては、一つ一つ結界を作っている。
――時間がかかっていますね。
まだまだ『エルテル城塞』は見えない。何事もなければ三日で行ける道のりなのだが、今は半分どころか三分の一も進めていない。
魔族の壁が厚い。息つく暇もない。
「マックス! 前からなんか来た!」
「えぇっと……。ああ、亜龍族ですか。勇者さまは馬車の中に引っ込んでいてください」
「なにおう! 私だって戦えるぞ!」
「勇者さまじゃ、かぎ爪で一撃ですって」
――もちろん、一撃で、やられます。
鳥人族の数が減ってきた。残りは弓兵部隊に任せ、私は前方、亜龍族の方を相手にする。
亜龍族はそれほど大きくない龍族の亜種。得意技は、火炎の吐息。
このまま来られると、結構な打撃を貰うだろう。私は黒い炎を固めて作った剣、漆黒炎剣を持って斬りかかる。
私の接近に気づいた亜龍族たちが、口から炎を吐いてくる。
飛んで、跳びかかって、首を斬り落としていく。亜龍族はしぶとい。倒すなら一撃で確実な方法がいい。
普通の剣も槍も、硬い鱗に弾かれる。魔法への耐性も高いので、魔法使い部隊でも荷が重い。
となると、必然的に、私が対処しなければならなくなる。
――それこそ、聖剣なら楽なんでしょうけどね。でも勇者さまは以下略。
部隊は、完全に足止めを食らっている。
悲鳴と怒号が入り混じる。兵士たちが徐々に圧されてきているようだ。
六頭の亜龍族を倒して、私はまた勇者さまの乗る馬車へ戻る。ラミが良い仕事をしてくれたようで、敵の接近は許していない。
「風の精霊よ、敵を刃で斬り捨てろ!」
「ラミ、あまり無理はしないでくださいよ。まだまだ先は長いのですから」
「は、はいっ!」
肩で息をしているラミの頭を撫でて、私は部隊後方へ飛ぶ。
人馬族が向かってきている。結界を張っていた聖職者が何人か倒れている。隙を突かれたらしい。
漆黒炎弾幕を撃ち込んだ。直撃。だが、人馬族は数で圧してくる。
――エーテルが残っているとはいっても、これはなんとも大変ですね。
魔法使い部隊と協力して、とにかく弾幕を張った。後方が終わっても、まだ左右から魔族が押し寄せている。
急ぐ中で、私は今回の襲撃。いや、昨日からの襲撃を考えていた。
――統率が取れていますね。どこかに頭のいい上級魔族が潜んでいますか。
警戒の結界に、上級魔族の反応はない。指示は遠くからやってきているのか。
となると、今の戦いを収めても次が、またその次もありそうだ。
部隊は完全に捕捉されていると思った方がいいだろう。場合によっては、物資を破棄してでも逃げることも考えるべきか。
――まあ、こんな中途半端な場所じゃ、どちらに逃げたらいいかもわかりませんが。
最悪の場合は、勇者パーティの皆を連れて飛ぶしかないだろう。私にとっての最優先は勇者さまだ。
私とラミ、そして兵士たちの奮闘もあって、徐々にではあったが、敵の数が減ってきた。
もう一押し、と踏ん張り続けて二時間。
魔族をやっとのことで撃退して、私たちはつかの間の休憩時間を取れた。
部隊長から、報告を受ける。やはり、倒れた兵士は多く、ここまでの間で六分の一が亡くなったことになる。
「お疲れ様でした」
「はっ!」
部隊長に敬礼で見送られて、私は勇者さまの馬車へ戻る。
聖剣を持った少女は、渋い顔で私を出迎えた。
「おかえり、マックス。どうだった?」
「結構な数がやられました。物資にも被害が出ていますね」
「……そうか」
嫌な予感が当たった、というところか。私の大雑把な説明を受けて、勇者さまは落胆していた。
「ラミ、お疲れ様でした。少し休憩してください」
相当消耗したらしく、ラミは疲れ果て、地面に座り込んでいた。
優秀な精霊使いとはいえ、まだ年若い女の子。倒れ込んでいないことを褒めるべきだ。
「い、いえ、アタシは大丈夫ですから……」
「大丈夫そうに見えないので、そう言っています。勇者さま、ラミを馬車に乗せてもいいですか?」
「うん、仕方ないな。ちょっと休め!」
私と勇者さまの二人に言われて、ラミは戸惑いながら馬車に乗り込んだ。
ルシアナはけが人の治療に追われていた。まだ休憩できるような状況ではないだろう。
私は、水筒をラミに渡し、自分の馬車に乗り込んだ。
警戒の結界はまだ展開中。今のところ、不穏な気配はない。
進軍は、襲撃が終わってから一時間後だった。
騎兵も歩兵も、もう疲れ切っている。この状態では、襲撃にあと何回耐えられるか。
「マックス、どう思う?」
嫌な想像をしていると、勇者さまが呟いた。
「状況としてはかなりよろしくないですね。『エルテル城塞』までたどり着けるか分かりません」
「……っ」
私の予測を聞いて、ラミが息を飲んだ。反論してこなかったのは、ラミもまた私と同じ予測をしたからだろう。
「帰った方がいいか?」
「どうですかね。行程が微妙です。戻るにしても、また時間がかかりますし」
「でも、『都市エステカ』に戻る方が早いぞ」
確かに。勇者さまの見立てはあっている。
だが、私には気になることがいくつもある。
「戻る方が早い、とは思うんですが、さっきの人馬族が気になります」
「ん? 後ろから来たってやつか?」
「えぇ。後ろから来たってことは、完全に回りこまれてますよね。今回の襲撃は統率がとれています。おそらく、帰り道にも敵がわんさかいますよ」
「結界を張ったのにか?」
「張ったのに、回り込まれましたから。念入りにやったとはいえ、ほころびがあるか……」
もしくは、結界をものともしない上級魔族がいるか。
――今回は楽観視できません。どうしたものか……。
私が考えあぐねていると、
「マクシミリアン様、アタシにお任せいただけませんか?」
「はい?」
「道の先に何があるか、精霊に聞いてみます。先のことが分かれば、対策も立てやすいですよね?」
「それは確かに。ですが、あなたはかなり疲れています。無理はさせられません」
「大丈夫です。精霊との交信にはそれほど力を使いません」
ふむ、と私はうなずいた。
ラミの言う通り、これから先のことが分かれば助かる。
――待ち伏せされている可能性も高いでしょうし……。それに、敵がいるならば私が先行して倒してしまえば楽に進めますか。
「では、お願いできますか?」
「は、はいっ、お任せください!」
では早速、とラミが腰につけていた袋から、ビンを出した。
中に入っているのは、砂のようだ。ただ、普通の砂ではなく、赤い色が付いている。
「特別な石を砕いたものです。これで陣を作って、その中で交信します」
ラミは、すぐに砂で馬車の荷台に文様を描いた。魔法陣に似ている。
文様の上に座り込むと、
「風の精霊、アタシに力を貸して……」
私と勇者さまは、荷台の端で、ラミの儀式を見守る。
赤い砂が、わずかに発光した。ラミは呪文を唱え、精霊と対話を続けている。
「おー、こんなことできるのか」
勇者さまが感心していた。私も、ラミの力をじっくり見るのは初めてだ。
交信は五分程度で終わった。砂の発行がやみ、ラミは額に汗を浮かべながら、長く吐息した。
「大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません。それで、精霊が言うには、やはり魔族が待ち構えているとのことです」
――待ち受けている、ですか。やはり、やみくもに襲ってきたわけではないのですね。
「いかがいたしましょう、マクシミリアン様」
「そうですね……」
待っている、というのは、ある意味好都合かもしれない。あちらが正面から襲うつもりなら、
「分かりました。私が先行します」
「えっ、またですか!?}
「ええ。少し派手になるかもしれないので、今回は一人で。あらかじめ数を減らしておけば、先に進むのも楽になるでしょう」
「で、でしたらアタシも行きます! お一人では危険すぎます!」
先日と同じ展開だ。ラミは一生懸命に私を止めようとしてくれるが、私としては、一人で行く方が遠慮なく吐息を使えるのでやりやすい。
ラミには、勇者さまの警護をお願いしたい。今回はさすがに勇者さまを連れていくことはできない。
「マックス」
勇者さまが聖剣を抜こうとするのを制して、
「勇者さまはお留守番ですよ」
「なにおう!?」
「ラミ、あなたには勇者さまの警護をお願いします。私がいないと、この勇者さまは何もできませんから」
「なんだとコノヤロー!」
――事実でしょうが。
「ですがっ!」
「ラミ、あなたにしかお願いできません。疲れているところに申し訳ないと思うのですが、あなたにしか頼めません」
「う、うう……」
今の部隊で、私の次に強いのはラミだ。ルシアナは別の仕事で忙しいだろうし、兵士たちは疲労が濃すぎる。
悲しそうにうつむくラミの肩に手を乗せ、しっかりと頼み込む。
「お願いです、ラミ」
「……ひぅっ! わ、分かりました……」
渋々、納得してくれた。手を置いた瞬間に悲鳴を出されたのは、地味に気になるが。
決まればあとの行動は迅速に。私はすぐ近くにいた兵士にも先行する旨を伝えて、すぐに飛んだ。
「では、お先に」
「ちゃんと帰って来いよ!」
「お気をつけて!」
「分かっていますよ」
勇者さまとラミの気遣いを聞いてから、私は前方をにらんだ。
――さて、早々に親玉を潰せるといいのですが。
加速はすぐに。後ろを振り返らずに、私は全力で飛んだ。




