3 プリースト・ルシアナは相談を受ける
今回は短めです。安定して文章を書くのは難しいですね。
「それで、チョコレートという食べ物をマクシミリアン様に食べさせていただいたんだけど、作り方、ルシアナは知ってる?」
出発前夜、聖職者ルシアナは、ラミから今日の報告を受けていた。
報告と言っても、主にマクシミリアンについての話。たまに受ける恋バナというやつである。
今日は、ラミに色々な食べ物を教えてくれたとのこと。その中でマクシミリアンがチョコレート好きだと判明したらしいのだが、
「ごめんなさいね、ラミ。私もチョコレートの作り方は知らないの。カカオ、というものが原料になっているのは聞いたことがあるのだけど……」
「かかお? それって、芋……だったりする?」
「いいえ、お芋ではなかったと思うわ」
「そう、なの……」
ラミは料理が得意らしいので挑戦しようと思ったのだろう。芋はラミの得意素材だと聞いた覚えがある。
ルシアナも料理はできるが、さすがにチョコレートの作り方までは知らない。売られているチョコレートを溶かせば、形を変えられるというくらいだ。
――ラミはいつも一生懸命ね。
微笑ましい。好いた異性のために努力しようという姿勢を、ルシアナは嬉しく思う。
ラミは、元々は静かな子だった。精霊使いの代表として勇者パーティに加わった重圧から、常に気を張っていた。
それを見て、ルシアナは少しずつラミの緊張を解いていった。そして、今では一番の相談相手となっている。
「もし作れるなら、マクシミリアン様に召し上がってもらおうと思ったのに……」
ラミは、ルシアナの前では表情をコロコロと変える。落ち込む姿も可愛らしい。
「マックス様は、小食でらっしゃるものね。チョコレートがお好きというのは初めて聞いたわ」
「アタシも。ふわふわ……えっと、ケーキ、だったかな。こっちよりもチョコレートをよく召し上がるらしいの」
今日は、ラミにとって刺激に満ちた一日だったようだ。未知の食べ物との遭遇は、ラミに良い影響を与えている。
――ちょっと、女の子らしくなってきたのね。
まるで我が子の成長を喜ぶ母のようだと思う。いや、ルシアナは未婚だが。
「ケーキなら作り方を知っているわよ。挑戦してみる?」
「ホント!?」
「えぇ、今度教えてあげるわね」
「うん!」
出撃前夜らしからぬ、穏やかな会話だ。
明日からはいつ敵と戦うとも知れぬ強行軍が始まる。しばらくはこんな会話もできないだろう。
勇者・リリアと魔法使い・マクシミリアンのコンビは最強。ラミも精霊使いとしての実力は折り紙付きで、ルシアナも勇者パーティに入れるだけの能力を持っている。
それでも、ルシアナには不安があった。
――ちゃんと上手くいくかしら……。
王都から『都市エステカ』に来るまでにあった野盗の襲撃と、勇者を狙う人間の存在。
上手くいくか、と思ってしまうのも、当然だ。
歯車がかみ合わなければ、勇者パーティとて壊滅する。勇者と魔法使いが今回の肝だ。
ルシアナにできるのは、けが人を癒す程度。後は、方々が失敗しないように知恵を絞るくらいである。
『エルテル城塞』までの道中が一番危険だろう。
――ラミは私が守ってあげなくてはいけませんね。
せめて、ラミの恋の行方がどうなるかくらいは見届けたい。結果がどうなるにせよ。
「ラミ、そろそろ寝ましょう? 明日も早いわよ」
「あ、そうだね、うん」
それじゃ、と言って部屋を出るラミを、手を振って見送る。
静かになった部屋で、ルシアナは日課の祈りをささげる。
――神よ、どうか、あの少女をお守りください。
ルシアナは、教会の中でも信仰厚い者として有名だった。
これからの旅の安全を祈り、
――どうか、かの者たちに天罰を。
作戦が上手くいくよう、熱心に祈り続けた。




