9 マックスはブチ切れる
タイトルを変えてみました。
インパクトと内容を考慮しての変更ですが、いかがでしょうか?
「さっきからグダグダグダグダうるせぇなあ、おい。調子に乗るなってんだよ、ゴミクズども」
激しい怒気をはらんだ声を聞いて、騎士たちに動揺が走った。
腐っても騎士、腕前には自信があるだろう連中が、この声一つで、固まった。
声の主が分からないのか、せわしなく辺りを見回している。
――ったく、どこを見てんだよ、貴族の駄犬どもは。
まだ気づいていないようなので、俺様は目の前にいた人間一匹を燃やしてやった。
「え? あれ? ひ、火ぃぃぃ!?」
重苦しそうな鎧で固めた大男が黒い炎に包まれてのたうち回る。
いい光景だが、俺様の気分は晴れない。敵は、やはり全部燃やし尽くして灰にしなければ。
指を鳴らすと、大男がさらに燃え上がった。もはや呼吸もできないらしく、叫び声もなく悶えている。
「な、なにがっ!?」
馬上で、騎士が慌てふためていていた。
――まあだ気づかねえのかよ、目玉ついてんのか? 役に立たねえなら抉りだしてやろうか?
声が耳障りだったのと、俺様の勇者さまに、リリアにくだらない声をかけた罰として、間抜け面を漆黒灯で彩ってやる。
「はえっ、がっ、ご……」
騎士が馬から落ちた。それで、連中はやっと気が付いた。
声の主が誰で、今、一番この場所で力を持っているのかを。
「し、漆黒の……!」
だが、気づくのが遅すぎた。慌てて剣が槍が魔法で襲ってきたが、すでに結界は完成している。火の粉一つ通さない。
「やれっ、やれえぃ!」
――何を今さら。
「やれ、じゃねえだろ。てめえらカカシは、ただやられるだけだろうがよお!」
リリアを結界に残し、俺様は前に出た。とりあえず燃やすのは手前の方から。じっくりと後悔を、恐怖をさせながら丁寧に燃やす。
俺様の炎は、炭すら残さない。灯った先から、灰になる。
「火っ、火ッ、俺の足が、腕があああ!」
「どうだ? てめえの体が灰になって消えていく気分はよお」
「た、たすっ、たすけっ」
「黙れよ」
倒れた奴の胸板を踏みつぶす。俺様の靴に触れたそばから灰になり、胸に大穴を開けて、絶命した。
連中の隊列が崩れた。逃げ出そうとする奴もいる。
もちろん、逃がさない。誰一人として。
「つーぎーは、だーれーに、しーよーおーかーなー」
半径百メートル以内を封絶の結界で覆った。誰も逃げられないし、悲鳴すら外に届かない。
目の前で転んだ奴がいたので、腕を灰にした。さらに転んだので、脚を灰にした。のたうち回る様が面白かったので、そのまま放置。
魔法で抵抗してくる奴もいた。うっとうしかったので、首を焼いてやった。詠唱も呼吸もできずに、魔法使いの首が落ちる。
楽しい光景を見て、発狂する奴が出てきた。
「狂うとうるせえだけなんだよな」
なので、心の中に干渉して、正気に戻してやる。
「き、きひひっ、あ、あれ?」
戸惑って、俺様の顔を見て絶望して、また狂う前に灰にする。
――楽しいねえ。絶望した奴を蹂躙するのは、実に、全く、心底から楽しいねえ。
全ては自動自得。俺様のリリアを傷つけた奴らへの報い。ついでに、俺様のストレス解消。
歌うように燃やす。弾むように燃やす。踊るように燃やす。
不愉快にされた分だけ、燃やし尽くす。
相手が人間だろうと気にしない。そもそも俺様は、人間も魔物も区別しない平等精神の持ち主だ。
燃えて灰になれば、全ては同じ。元の形なんて、関係ない。
「飼い主に尻尾振るしかできねえくせに、俺様らにケンカ売ってくるんじゃねえよ。身の程を知れよ」
――助けて? 死にたくない? しーりーまーせーんー。
俺様にとって特別なのは、リリアだけ。リリア以外は、全部カカシ以下だ。
「ちまちま燃やすのも時間がかかるか。部隊の奴らに追いつかれると面倒だしな」
両手に黒い炎を宿す。それをゴムまりのように手で遊び、適当なところに放り投げる。
――するとどうでしょう? 漆黒炸裂玉の発動です。
爆音を上げて、黒い炎がはぜる。近場のカカシを巻き込んで吹き飛ばしてくれる。
これはこれで、楽しい。腹の底からしびれるような音がする。敵連中の耳障りな声も、遠くなる。
もう残りは散り散りになってきた。追いかけるのも面倒だ。
「最後は一発、ドカーンとな」
特大の火炎球を作って、空に放り投げた。
発動まで、あと十秒。連中が消えるのも、あと十秒。
俺様は守護の結界内で震えるリリアを抱きしめた。
「おう、悪いな。いつも怖がらせちまって」
「だい、じょうぶ。でも、マックス、ちょっと趣味が悪い」
「うはは、まあな、伊達に漆黒龍なんて名乗ってねえよ! 体も心も真っ黒だっての!」
瞬間、黒い炎が封絶の結界内を埋め尽くした。




