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王都へ

あれから2日、人気(ひとけ)のない日もまだ上っていない早朝、街の入り口から出て行く竜と人の姿があった。入り口の警備をしていた団員はヴァイスの『騒ぐな』という一言に黙って見送ることを選択させた。


 「どうしても黙って行かれるのですか?」


門番をしている一人が問いかける。


 「ホルスが目立つのを嫌がっている、治療のあと『救世主』だとか『我らの恩人』だと騒いだのがよくなかったのだろうよ」


準備中の2日は誰も彼もが姿を見て感謝の言葉やらもてはやすことばかりでホルスの精神は限界だった。いまヴァイスが事情を話したことでホルスの傷口が再び開く・・・


 「こっちの事情も知らんで好き放題言いやがって・・・どんだけ色眼鏡で見てんだチクショウが・・・」


 「とまぁこんな状態なんでな、我としても騒がしくされるのは遠慮したいのだよ」


こりゃ無理かと門番たちは顔を合わせてうなずき『良い旅を』とおかしな二人組の旅人を見送った。



 


 「行っちゃったわねぇ」


既に街道を進み見えなくなるぎりぎりで門のところに現れたマーニ+付き人とデリムを含めた聖堂騎士団一同。

 

 「一言くらいあってもよくなかったっすか?」


アンサムは少しむくれてた。


 「仕方ねぇよ、あいつの性格はお前らにも話しただろ」


デリムは酒の席でホルスの性格をある程度把握していた。故に街の住人があんな対応をしたことで面倒を避けるのではないかと予想し、職権乱用ではあるが一人専属で監視をさせていたので見送りができた。


 「感謝の言葉が届いてないわけじゃないからこのまま見送りましょ、一応ドアの隙間から手紙が差し込まれてて別れの挨拶が書かれていたわ」


 「なにが書いてありました?」


 「『あわただしいが今日の日が昇る前に俺たちは旅立つことにした。騒がしくなったり面倒になるのは困るので見送りは勘弁して欲しい。俺が死ぬか移動することが困難にならない限り旅を続けるから東の大陸に渡るためもう一度ココに来ることになるだろう。その時までに街の改善をしておいてくれ、暗く沈んだ街なんぞ観光してもつまらんしヨロシク』ですって」


 「ずいぶんなことを言ってくれる・・・」


 「そうっすよ、デリム分隊の駐屯期間ってあと1年でおわりっす。それまでに戻ってくるっすかね?」


 「まず無理だろ、つまり俺たちに伝える為の言葉というより街の住人宛と言うべきか」

 

 「彼は治療費というものを求めはしたけどあれだけの治療の対価としては破格なのよ、安くしてやったのだから次に来るときまでまともな街にしておけというメッセージでしょうね」


 「ひねくれてるっすね」


 「ああ、あいつはひねくれてる・・・だがスジは通すやつだ」


 「ふふふ、じゃあ彼はやっぱり『ひねくれた聖者』様ってことになるのかしら」


 「なんすかそれ!めちゃくちゃ合ってる気がするっす!」


団員たちも吹き出したり笑い出したりしている。


 「どうして『聖者』なんです?」


 「彼の取った行動は『勇者』と言われてもおかしくないでしょ?でも自他共に認めるくらい性格がひねくれてるからそう呼ぶには抵抗もある。そう考えた後にどんな言葉が当てはまるか探してみたら『聖者』って言葉が引っかかったのよ」


あらゆる行動で人々を救う『聖者』、だが彼は善意で動くことは無い。


 「ただの『聖者』ではちょっと違うかしら?と思ったら浮かんだのよ『ひねくれた聖者』ってね」


 「では意趣返しとしてこの街を救ったあいつを名前で呼ばず、その名称で語るようにしますかね」


 「あら素敵、銅像とか建てちゃう?」


 「それはやりすぎだと思うっす」


『ひねくれた聖者』・・・この呼び名はいつのまにか救生教を通して浸透し世界中で呼ばれるようになるが本人が知るのは当分先であった。




 「・・・監視してたのはバレバレだったから出てくるかと警戒してたんだがな」


街道から街が見えなくなるくらいに一度振り返って確認したら全員居たのでびっくりした。


 「あやつらとてホルスに迷惑をかけた負い目があったのだろう」


 「面倒事にならず済んだからよし」


 「まぁホルスがよいのであれば我に思うことは無い、それで次はどこへ向かうのだ?」


 「この地方『氷の国』とか言われてるそうだがその王都だな、道を外れたら別の場所へいけると思うが王都から街道を使ったほうが迷わないし街中で様々な情報も入るだろ、俺もまだわからないこともあるしヴァイスだっておつとめだけじゃなく観光とかもしたくないか?」


 「そう言われれば我はあの街でおつとめと食事をしていただけだ、ホルスの言う様々なものを見る観光とやらは大いに興味がある」


 「特に使命だとかやらなきゃならんことがある訳じゃないし、のんびり旅を楽しもう」


 「観光・・・楽しみだ」



王都まで約二日・・・テンプレ的な盗賊の襲撃や追われるお姫様救出なんてイベントはなく、獣の襲撃もヴァイスが居るおかげで夜も安心して寝れたので寝不足もなく・・・



 「見えたな、あれがこの国の王都か・・・」


そこには結構立派な城もある大きな城下町があった。


 「旅とはこんなにも退屈なものなのか?」


ヴァイスはいまいちだと愚痴をこぼす。


 「んー獣の襲撃とかがあれば退屈しのぎにはなったかもしれないけど、向こうがヴァイスを避けたようなものだろ」


実際は怖いもの知らずなのか10匹ほどの犬か狼と思える獣が物陰を使いながら迫ってはいた、がヴァイスを視認できるくらいの位置についたと思ったら全速力?で逃げ出していたのだ。


 「あれか・・・だがあの程度のものに襲われたところで我の鱗を貫くことはできまい、無益でもあったし面倒はないほうがよかろう」


 「それには同意する、あと俺は皮や肉の処理方法とか知らんし」


街道を歩きながらそんな話をしつつ城門が見える頃・・・がっつりと統一された装備をした一団に包囲された。


 「・・・なんで囲まれるんだ俺たち」


 「我が知るわけなかろう、邪魔をするのなら推し通るまで」


ヴァイスがほんの僅か剣呑にそうつぶやくと包囲する一団は一斉におどおどしだす。


 「・・・ヴァイスちょいとまった」


ヴァイスの横に立ち首元をポンポンと叩いて『落ち着け』と意思表示をしてから俺はヴァイスの前に出る。スジは通さんとな・・・


 「話が通じるんなら答えてもらえるか、どんな理由があってこんなことをする?」


統一された鎧を着ている集団は「おいどうする」「けど俺たちは足止めしとけとしか」などとぼそぼそ話している。全部筒抜けなんだが・・・


 「どうやら上から一方的な命令でもされてこんなことをしてるっぽいな」


ふむとつぶやくヴァイス。


 「ならばもう良かろう、話も出来んのであれば聞く必要もない」


ヴァイスはそいつらを無視して街の門へと歩き出すと雲を散らすように集団は進行方向から逃げる、だが一人だけ進路の前に立ちふさがる。


 「ま、ま、ま、待ってくれ!」


足を止めそいつを凝視するヴァイス、俺もヴァイスの隣まで行きそいつを見る。


 「お、俺たちは王宮騎士団の下っ端だ!城下がパニックになることを恐れて上司から足止めを命じられている!」


 「パニックにならないよう教会から知らせとか行ってないのか?王都なんだし城のほうまでこういう事態があると伝わってると思ったんだが・・・」


俺の言葉を聞いたその騎士?はハテナ?という顔をする、そして回りの同僚たちを見回し全員が知らんとばかりに顔を横に振ったり手でナイナイとジェスチャーをすると「ここにいる俺たちは聞いてない」と答えた。


 「どうなっているのだ?」


 「俺にもわからん、ただ事態が不明瞭すぎるな・・・なぁあんたらの望みどおり足を止めて待つからこっちからの交換条件を飲んでくれ」


 「なにをさせる気だ?」


 「なにがどうなってるのか知りたいんでね、教会の責任者か相応の権限がある人物を連れてきてくれ」


下っ端騎士団のまとめ役っぽいそいつは即座に指示を出し何名かが走って中へ戻っていった。


 「ヴァイス、次に誰かが来て事態が動かなかったら強行突破する、だからもう少しだけ待ってくれ」


俺の言葉に下っ端騎士団の面々はざわつきだす。


 「我は願ったりだがホルスは良いのか?面倒事になってもつまらんだろう」


 「悪いことを指摘されたのならともかく今回は特になにもしてないだろ、俺は確かに面倒は嫌いだがいわれの無い理不尽はもっと嫌いなんだ」


 「そこまで言うのならホルスに免じて待つとしよう」


俺たちは街道の端によりしばらく待つ・・・大体前半刻くらいすると上物だと判る鎧を来た男が馬に乗ってきた。それとは別に走ってこちらに向かってくる背の低い少女?も見える。そして俺たちの前まで来ると鎧の男は馬を降りこちらに頭を下げる。


 「白竜様と旅の供の方、私の不手際で部下に詳細を告げぬまま指示を出しこのような所で待たせてしまったこと大変申し訳なかった!」


下っ端騎士の上司だろうその男がそう謝罪するとそこにいた少女も頭を下げていた。


 『着ている服装から見て教会の司祭でしょう』


ワイズの指摘でよく見ると確かにマーニさんが着ていた服に似ている。


 「は、初めまして私は神託を受けたこの街の司祭を任されているトリンと申します」


俺はたたずまいを整え名乗る、ヴァイスもそれに倣い二人のほうを向く。


 「初めまして、旅人のホルスです」


 「我はホルスの旅の供であり友であるヴァイス、創造主(あのおかた)の眷属でもある」


そう挨拶すると騎士の男と少女司祭は顔を上げる。


 「お二方を城まで案内するように王から勅命を受けている、ついてきて頂けるか?」


 「待ってください、白竜様は教会に滞在することになっているんです、城に案内するとはどういうことですか」


 「それは王も承知している、ただ迂闊に出歩くこともできぬ身であるからせめて城まで来ていただき挨拶をしたいと仰せられたのだ」


事が済めば教会のほうへ案内すると騎士の男はトリンにそう告げると再度こちらを向き頭を下げる。


 「どうか王に一目会って頂きたい」


 「あーそちらの言い分は分かったけど、なんでこんなことになったかの事情が知りたいんだが?」


騎士の男が申し訳なさそうな表情をして小声で話をする。


 「内々の話なのだがそこにいるトリンは神託を受けた後、王城へ事情を説明するため来てはいたのだ。ただ頭の固い大臣と与太話など信じないぞと言い張る大臣の二人が対応したため王や情報の総括をする部署に話が届いてなかったのだ」


 「私の見た目がこんなですから馬鹿にされたというのもあると思います」


幼女とまではいかないが小○6●生くらいに見えるよな・・・


 「トリンさん、失礼を承知で伺いますが・・・おいくつで?」


 「・・・20年は生きてます」


リアル合法ロリだー!


 『マスター・・・』


 『大丈夫だ、俺は問題ない!』


ロリOKとかそういうことじゃないですからね!おっきいほうに興味があるってことです!いや本気なら合法ロリはありか?


 「なにか失礼なこと考えてますか?」


トリンがこちらをジト目で見てくる。


 「失礼なことは考えていません」


嘘じゃないですからね!?ゴホンと気を取り直して俺はヴァイスに顔を向ける。


 「不明瞭な部分のふたを開けたら大したことはない事実、どうするヴァイス?」


 「なぜ我に聞くのだ」


 「王様の会いたい相手はおそらく俺じゃなくヴァイスだからだよ」


異世界の元住人とはいえただの人に変わりないしトリンはその事実を話した様子も無い、となれば俺は白竜と旅をする珍しいだけの存在でしかない。


 「人間の城を観光するのも一興、この国の王とやらに会うとしよう」


 「かたじけない!」


騎士の男は安堵の表情だ。


 「あとひとついいか」


騎士の男はまだなにか?とハテナマークを浮かべる。


 「名前教えてくれ、でないと騎士のおっさんと呼ぶしかなくなる」


おっさんと呼ばれ僅かに肩を下げる。


 「ダルトンだ、コレでも王宮騎士団の団長でもある」


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