後始末
「・・・とまぁデリムさんたちに話した内容は以上です」
あのあとマーニさんの部屋を俺は再度訪れ、付き人が反対するのもマーニさんが説き伏せ部屋に招きいれてもらった後、現在起きてる異常事態のほぼ確定の予測を伝え終わった。
「あらまぁ、そんなことになっていたなんて」
あっけらかんとしているマーニさんとは対象的に付き人のほうは黙って聞いてるが不審者を見るような顔になっていた。
「別に信じなくてもいいんですよ?事実が違えば俺はただの嘘つきなわけですし」
「いいえ信じさせて頂きます。あの青年が警告してきたことの裏付けにもなるでしょう」
マーニさんの言う青年とは誰だろうかと顔に出てたのを察したのか教えてくれた。
「実はね、銀の水の採掘場が出来た頃に錬金ギルドから一人の青年が警告に来たの」
彼は採掘場がこの街の水源の近くにあり銀の水による汚染と街への被害が予想されるから水を浄化できるなにかを用意したほうがいいと街中の一軒一軒に警告したそうだ。当初は「なにいってんだ」「カエレ」など相手にもされてなかったらしい。
「風評被害が出てもおかしくないのにそんなことしたやついるのか」
「でも被害が減っていたのはそのおかげかもしれないわ、実はその警告のおかげかほぼ街中の家庭にある魔術刻印が刻まれてる道具があるのよ。彼いわく『かなり昔に今と違うアプローチで水の浄化をする魔術道具がありとても安いから買っておくべきだ』とね」
当時は銀の水による毒より浄化した水が家庭でも使えるとその魔術道具が飛ぶように売れていたんだと・・・不思議パワーで浄化されてたんじゃなかったか。
『どんなアプローチなんでしょうね』
俺にもわからん。自然界だと浄化作用のあるなにかがあったんだっけか?
「で、その青年はどうしてるんです?」
「いまでも錬金ギルドに居るはずですよ、ただし風評被害というよりギルドの悪評をばら撒いたとして倉庫番に格下げされ従事していたはずですね」
見所ありそうなのも居るじゃないか、おっとそろそろ準備しとこう。
「俺はこのあとデリムさんたちと一緒に水源の調査に行くのでこれで失礼します」
そう伝えてから俺は部屋を出て行く。
「ありがとう、気をつけてくださいね」
マーニさんの言葉を背中で聞きながら部屋を出るとヴァイスの居る倉庫のほうへ向かう。
『マスター、触診はされないんですか?私残念です・・・』
『調べるなら時間をかけたほうがいいだろうしデリムたちとの約束もあるからな。戻ってから報告ついでに聞くからいいだろ』
ヴァイスのところに行くとぽつぽつと人が来ていて祈ったりしてるのが見えた。ヴァイスが手をかざしてなにかしてるのは祝福かな?
「ヴァイス、ちょっといいか」
「ホルスか、朝から騒がしかったようだがなにかあったのか?」
「まぁちょっとな、そのことでこのあと俺はデリムたちと外に出ることになった」
ふむとつぶやくヴァイス。
「我も行くべきか?」
「おそらく大丈夫だ、デリムさんたちと一緒に水源の確認にいくだけだし」
ワイズの能力も強化されたし検証したいと思念でワイズからヴァイスへと伝えてもらう。
「だがもしものことがあると我が困るのだがな」
「戦場にいくわけじゃないしこの程度はできないと生きていけないだろ、ホントにまずけりゃ呼ぶよ」
「・・・わかった、気をつけるのだぞ」
「おう、じゃあ後でな」
伝える相手には伝えたので詰め所のほうに向かうとちょうど戻ってきていたデリムたちが居た。
「ホルス、準備できてるか?」
「んなわけあるかい、俺は金もないんだから必要なものを貸してもらおうとここに来たんだよ」
それもそうかとデリムは団員になにかを伝え一人が詰め所に入っていくと背負い袋を一つ持って出てきてソレを俺に渡す。
「泊まりにはならんが2日分の非常食や野営用の道具などが入ってる、使ったときでも減った分は請求しないから帰ったら返せ」
「助かる」
「協力を要請しといて自腹で来いとか言わねぇよ、アンサムが戻り次第出る」
そういって団員たちに向き直りアレコレ指示を出し始めるデリムを見てると一人こっちを見てるやつがいた。
『誰だ?』
『さぁ、装備や服装からして団員ではなさそうですが』
こっちが相手を見ると向こうも気付いてこちらに近づいてくる。目の前に来ると頭を下げてきた。
「はじめまして、そしてありがとう」
「はじめましてと言うのはわかるがお礼を言われるようなことをした憶えはないぞ」
「いいえ、水の汚染に関して声を上げてくれたことです。僕の考えは正しかったのだと知ることができたのですから」
あーこいつさっきの話で聞いた錬金ギルドの青年か。
『フラグでしょうかね?』
知らん。
「俺より君のやったことのほうがすごいだろ、おそらく水の汚染を限りなく減らせたからこの程度の被害で済んでるんだ」
「僕だってどんな原理でああなったとかわからないんですよ、いまの浄化魔術とだいぶ前の浄化魔術の質が違うことに気付いて2重でやれば抑えられるか?なんて適当なものだったんです」
「質の違いに気付きその発想が出てきたことで街を救えた、わからなかったから適当だったからなんて言葉は意味が無いと思うぞ」
「ですが・・・」
ああもうめんどいなぁ・・・こういうのって自信を持てれば化けるタイプだから誤魔化すとイクナイ方向に進むんだよね。
『マスターの実体験ですか?』
『一応な・・・よし』
「そこまで気にしてるんなら君がこの問題を解決できる道具なり手法を見つけ出し普及させればいい」
青年がはっとして俺を見る。
「俺が水を毒味した感覚から2種の魔術道具を使えば毒性はほぼ無かったと断言する、この事実と君の知識で新しい浄化機能をもつ道具なり魔術なりを作り出せ」
「・・・あなたは救世主ですか」
「絶対違う」
「わかりました、僕がその魔術道具を作り上げて見せます!」
よし誘導成功、うまくいった。
「そろそろいいか、アンサムが報告から戻ってきたし出発するぞ」
俺たちの会話に気を利かせていたデリムが声をかけてきた。
「俺はいつでも」
「はい僕も行けます」
よしとデリムはうなずくと号令をかける。
「これよりデリム分隊6名と協力者2名で水源調査に出る!残りのものはさきほどの指示通りに仕事をしておけ。俺が居ないからとサボるやつは許さんぞ!」
はい!と団員たちの返事を聞くとデリムは街の外へ歩きだす。
「いくぞ!」
街からでて近くの山のふもとまで行軍する俺たちは普段なら居るであろう獣たちから襲われることなく水源まで到着、早々に面子を割り振り錬金ギルドが雇っている作業員たちからの事情聴取、青年立会いのもと採掘場の視察、水源の調査を終えると湧き水の池のそばにある休憩所でようやく一息つくことができた・・・
「ひどい現場状況だなおい・・・」
デリムのぼやきも納得できるほど実態は最悪だった。作業環境や作業員のほうは一応のレクチャーはされていたが経費削減のためか日雇いのなんでも屋がほとんどであり、環境汚染ナニソレ?と言わんばかりに水源の池で自分たちや使った道具の汚れなどを洗浄していた。作業を監督するはずの錬金ギルドからの人員はここにはおらず、来るのは新規の作業員にレクチャーするときだけで普段は街にいるそうだ。
「使った道具の洗浄もここじゃなく錬金ギルドの作業場ですることになってるはずです、レクチャーを忘れたとか言うのでしたらそいつはギルドの恥さらしだ」
青年は錬金に信念を持っているのか、この現状を知って憤慨している。
「池に関してはホルスさんに見てもらいましたが銀の水による汚染もかなりあるようっす」
俺は毒の味が分かるということになってるから池の調査に振り分けられたのだが・・・
「あんなの味わうまでもない、池の底が変色するほどの汚染とかあんなの舐めたら死ぬわ!」
ワイズが俺の指先から『解析』すると「舐めたらダメ!」と普段と違う言葉使いで警告してきて驚いた。
「まぁ救いがあるとすれば池の水が流れ出すところに浄化用の魔術道具があったことか」
そう、池の濃度と比べて流れ出た川のほうは幾分マシだったのだ。それでも飲料水として使うのはダメなレベルではあったが・・・
「状況はかなりまずいので作業員たちには今日の仕事をやめて一緒に街へ戻ってもらう、ついで実態の証言もな。採掘も中止させて一時封鎖する」
「気休めですが僕の持ってきている古いほうの魔術道具を池に投げ込んでおきました。多少の効果があればいいのですが」
「助かる、作業員たちの準備が出来次第帰還するぞ」
作業員たちの準備も終わり街へ戻るとデリムたちは詰め所に戻り、街の代表のところと錬金ギルドへ人を向かわせるとマーニさんへの報告をするために部屋を訪れる。
「・・・以上が水源調査でわかったことです、この街の衛兵権限を利用して錬金ギルドの主要人物を拘束、街の代表のところへアンサムに行かせていまのと同じ報告をさせています」
「お疲れ様です、デリム隊長」
マーニ司祭はどうしましょう?という雰囲気を出して俺を見る。
「・・・部外者の俺がなにかを言うのは筋違いでしょう、特にありません」
「この問題の原因を見つけ解決への糸口を手繰り寄せた人を部外者とは言えないんじゃないかしら?」
「いいえ、俺は事が済めば居なくなる存在ですしこの問題はここの住人である皆さんが解決するべきことです、相談や協力まではともかく具体的な行動までする気はありません」
「手厳しいわねぇ、じゃあどんな感じでまとめたら無難かしら?」
質問ならいいのよね?といった風に聞いてくるマーニさん。
「無難もなにも錬金ギルドの責任として全面解決してもらう、管理責任者とその関係者を全員拘束して賠償と責任の追及、あとはこちらのこういった問題に対する罰則があるならソレでいいんじゃないでしょうか」
こっちの司法とか俺知らん・・・
『大体は道徳的かつ人道的に行動してれば問題ありません、当然商売関係のやり取りで詐欺などや契約不履行は犯罪ですし今回のも錬金ギルドの落ち度ですからアウトです』
『そういや銀の水の扱いは危険物と認識している口ぶりだったな』
「やっぱりそちらの世界でもそんな感じに纏めるのねぇ」
俺の意見を聞きマーニさんはそう答えるとデリムに顔を向ける。
「私としても妥当だと判断しますので、街の代表たちが変なことを言い出さない限りその方向でお願いします」
「了解しました、じゃあ俺は詰め所に戻り事態の収集に取り掛かります」
デリムはそういうと部屋から出て行く。
「ホルスさんはこのあとどうします?」
「特にやることは・・・マーニさん、よければですけど調べさせてもらえませんか?」
なにを?という顔をして首をかしげるマーニさん、なんというかこの人あざとくないか?
『天然でやっているとしたら・・・脅威ですね』
『なんで脅威になるんだ?』
『このあざとさを利用して住人や騎士団の人たちを篭絡しているのではと』
穿ち過ぎだ、たぶん・・・
「足のことです、期待されても困りますが症状が軽度なのでもしかしたらと思いましてね」
「あらホント?それじゃあお願いしようかしら」
「付き人さんを呼んでください、状況によっては服を脱いでもらうかもしれないので」
「こんなおばちゃんに欲情するのかしら?」
「・・・まぁいいです、見るとしても背中なのでまくってもらった後に隠してくださいね」
ワイズの解析で動いてない状態での足と脊椎そして頭まで視てから動かそうとしている状態の差異を視る。途中から付き人が部屋に来てひと悶着あったが立会いのもと続行、マナの流れが極端に少ない部分と麻痺しているところが一致している事実を見つけすこしマナを流してみた。
「あらすこしぴくっとしたわ、なにかしたのかしら?」
「神経ってわかりますか?」
「ええ、詳しいことはわからないけれど身体を動かすためのマナの通り道ってきいたことがあるわ」
こっちじゃそういうことになってるのか・・・
『事実は違いますがこちらの常識として憶えておきます』
「その神経なんですが動かそうとするとわずかですがマナが動いてるんですよね、なので外部から干渉して動かしてみたんです」
そういうと付き人が急に掴みかかる。
「そんな危険なことしないでください!」
『えええ・・・危険なことだった?』
『私にはそう感じませんでしたが・・・』
あらあらとマーニさんは動じない。
「なにか理由があるならお願いします、さっぱりわからないので」
俺はマーニさんに助け舟を求めた。
「マナを流すのは高位の医療行為にあたるのよ、普通の人にはできないし出来ても失敗することがある。失敗したらマナの流れが完全に途切れたりして麻痺どころかその部分が死ぬことになるわね」
「ああ・・・それはすまなかった」
何も知らないし信用もできない相手がそんなことをしたらそりゃ怒るよな・・・
「私は平気だから手を離しなさいな、それに動かなかった足がすこしでも動いたのよ」
マーニさんは喜んでいる。
「ですが俺は医者じゃない、マナの動かし方を知ってるだけの人間です。付き人さんの対応が正しいと思うんですが」
『実際は魔法が使えるほどなんですけどね』
『分かってるけど目立つのはいやだ』
「どうせこのままじゃ動かないし、マナを動かせるほどの医者はここまで来てくれないわ。なら私は神託によってここへ来たあなたの可能性に賭けちゃいます」
「「賭けちゃいますって軽いですよ!?」」
俺と付き人さんがハモる。
「とにかくお願いね、私だって治るならなんだってするもの」
この流れはヴァイスと同じだ・・・生きるために足掻くという教義めぇえええ