鬼和国
「さっきから思ってたんだけど、緋岸とか翠蒼とかって何?」
「ん?そう言えば言ってなかったよな。では説明しよう!」
と気合十分でエナが説明してくれた内容は以下の通り。
・ラストネームのようなもの。
・緋岸は炎、翠蒼は水、雷霆は雷、草樹は草が得意な術者の最上位の者の敬称らしい。
・でも基本なんでも出来ちゃう。
・究極魔法、はそれぞれしか使用不可。
・エナならば炎を得意とするらしい。
・希に属性が変わることがあるらしい。
とまぁこんな感じ。
「リョウは何が使えるのだ!」
おっと、今度は僕の番らしい。
「あぁ、僕は基本の5属性、風、水、雷、炎、草。それと邪道魔法、強化魔法、回復魔法とかの魔法。剣も弓もかじる程度で習っていた。まぁ少しくらいは役に立つだろ。」
「うおぉぉ...これは驚いたな...。」
「ええ、自分も久々に心拍数が上がりました...。」
「やはり私の目に狂いなどなかったな!」
ガイラン、ハチョウ、エナの順にコメントを残した。
「自分、エナ様がリョウ様を連れてきた理由が理解できました。やはり四角の一番上だけありますね。」
「エナが連れてきた奴どんなやつかと思えば、めっちゃ良い奴。しかもハイスペックときた。これは俺らが選ばれないわけだな。」
え、めちゃくちゃ褒められてるんですけど。
てかガイランさん達からは褒められた記憶しかないぞ...。世も末だな。
「いやいや、僕なんてまだまだですよ。」
実際、エナには手も足も魔法すらも出なかった。
僕はこの人達に勝てるわけがない。
「大丈夫ですよ。リョウ様はリョウ様の役目を果たせばいいのです。リョウ様、貴方様の役目はエナ様の戦闘補佐、いわば側近です。」
「そうだぞ。エナのそばにいればいいんだ。そしたらエナがちゃんと指示してくれるし、やることやってくれる。もっと気抜けって!」
うわっ、めっちゃいい人。
何なんだここは。なんなんだこの人達。
別種族の全く知らない奴をここまですぐに受け入れられるか?人間なら無理だ。上官がいきなり鬼人を副官にするとか言い出したらパニックになるだろうし、受け入れられないと思う。
でもここは、すべて受け入れてくれる。
「リョウ、私についてくるがいい。
自分に自信をもて。私が見込んだのだぞ。」
「はは、エナもガイランさんもハチョウさんもありがとうございます。」
「ガイランでいい。」
ガイランさん、...いや、ガイランが僕の頭をクシャクシャに撫でながら笑って言ってくれた。
「自分もハチョウで構いませんよ。」
「じゃあハチョウもリョウって呼んでください。」
「わかりましたよ、リョウ。」
ハチョウも笑って受け入れてくれた。
人間社会よりよっぽどいい。
僕はこの国を守るためになら人間社会に盾突いてもいい。そう決意した。
★
「アマメ様、ガイラン様ハチョウ様共々人間を受け入れたようです。」
暗く妖しい部屋。レースのかかったベッドの奥にその鬼人はいた。
「そうか...。妾を差し置いてあの人間に何が出来るというのじゃ...。」
その藍玉の目を嫉妬色に濁らせ、殺意をあらわにする。
「その人間を、殺せ────。」
「ハッ!」
報告した者は去っていく。
「妾が人間ごときに負けるなど、許されることではないのじゃ。」
爪を噛み、悔しそうに嘆く。
「妾の恨みは海よりも深いぞ。」
嫉妬は時に者を狂わす。
★
さて、やって参りました!鬼和国!!鬼でも平和に暮らせるように の由来で鬼和の国と言うそう。
エナはなんと第十二代、鬼和国国女王。簡単に言うと国の首領!!
わおっ!!なんとビックリ!!
しかし驚くのはまだ早い!なんとこの国で一番強いのもエナ!!一番長生きなのもエナ!!年齢は教えてくれなかったけど。
まぁ強いわけだな!!
っていう驚きに驚きすぎてもう驚かないぞってレベルまできた。
「行くぞリョウ。私が案内してやろう。」
真っ白の上品な着物を着て上には1枚髪と同じ色の布の羽織物を着こなしている。
着物と肌の色ほぼ同じじゃないか...。
いやほんと、よくお似合いです。
思わず心の中で拝んだ。
エナと外を歩くと結構目立つ。
結構どころでは無い。動けないくらいに囲まれるほど目立つ。
女王って言うのは本当らしい。
そしてそれも相当な人気らしい。
いやー、それにしても動けねぇ...。
「皆の者、リョウを紹介しよう。」
えっ、はい?
いらぬ声が聞こえた気がしたがなんだ?
「リョウ、こっちへ。」
僕に向けて手を差し出すエナ。
いやまて。この状況で自己紹介?
驚き通り越してもう帰りたい。って帰る場所なかった。
素直にエナの手をとる。
するとふわり。うんほんとにふわり。
空中の床に立った。
空間魔法まで使えるのかよ...。
魔術師っていうか、人間なら大魔術師だぞ...。
数千年に一人出るか出ないかって言う逸材言うなれば天才。それをいとも簡単に...そんな馬鹿な...。
「あー、えっと、...リョウです。様とかさんとかつけなくていいので、気軽に話しましょ?」
かなり引きつった笑顔で言った。
笑顔になろうと努力したことを褒めて欲しい。
「リョウにいちゃん!」
「あ、こらラミ。」
ラミと呼ばれた小さな女の子。これまた可愛い。
「ほう、ラミちゃんというのか。お主の子か?」
「は、はい...、私の子です。」
母親らしき人は怯えている。
「リョウと仲良くしてやってくれるか?」
「うん!ラミね、リョウにいちゃんいい人だと思うのね!だからラミは仲良くしたい!」
ラミちゃんの言葉にエナの顔がほころぶ。
エナは嬉しそうに
「リョウをよろしくな。」
そう言ってくれた。
「うん!」
ラミちゃんもいい笑顔で。
「あ、えと、リョウ...さん。ラミと仲良くしてやってくださいませ。」
ラミちゃんのお母さんがかしこまって頼んできたが
「もちろんですよ。それと僕はただの一般人です。みんなと普通に接していきたいと思ってます。どうかこれからもよろしくお願いします。」
僕は心から、この街に、この国に馴染みたいと思った。だってこんなにいい鬼人ばかりいる。
僕はまた決意をよりいっそう固めたのだった。
★
僕がこの国に来て早くも七日ほど経った。
家具やら部屋やらはエナが手配してくれた。
その家具やら部屋やらは文句のつけようもないものばかりで逆に困った。
え、僕これ使うの?使っちゃっていいの?
と家具に気を遣った初日だったが二日目からはそんな事してられなかった。
初日は中央地区で挨拶をした。
城を囲むようにしてできている地区だ。
普通ならば王都だとか呼ぶのだろうが、そうではない。ここに階級制度など無く、貴族などはいない。商店街が六本ある。その道をまっすぐ進んでいくとそれぞれの地区に出る。道から外れたところはセントラル街となる。
城を中心として、左上から時計回りに北西地区、北東地区、東地区、東南地区、南西地区、西地区。
「覚えるのは大変だぞ?」
とエナは言っていたがまさにその通り。
頭がショートしそう。
とまぁ日毎に挨拶にいった。
今日やっと西地区まで周り終えた。
この制服もいい加減洗いたい。
浄化魔法で何とかしてたけど、気持ち的にもう嫌だ。
とそこに、
ドアをノックする音が聞こえた。
「あ、はい。開いてます。」
「失礼する。」
エナが入ってきた。
「私らの国はどうだった?」
この七日間の感想か。
「素敵だと思うよ。人間社会よりよっぽど生きやすい。」
「そうか。リョウ、リョウはこの戦いが終わったら人間のところに戻りたいか?」
眉を下げ、不安そうに見つめてくる。
何を今更...。
「出来るなら、このままこの国で生きたい。」
これは僕の本心だ。さっきのももちろん本心だけど、気持ちを込めた本心。
「そうか!私の側近としていつまでも雇ってやろう!」
エナは嬉しそうに歓迎してくれた。
「ところでその手に持ってるものは?」
話が一段落ついた所で聞いてみた。
「あぁ、これはリョウの服だ。やっと完成したらしい。遅くなってすまぬな。」
ちょうど欲しかったやつだ!
黒をベースに金と白で彼岸花の装飾がされている着物。下に赤黒い下着。同じ着物の色をした刀。
一言で言うと、めちゃくちゃかっこいい。
早速着てみたが
サイズもぴったり文句なし。
「うわ、これはすごいや...」
「気に入ったか?似合っているぞ。」
「気に入ったとも。ありがとうエナ!」
美人が目を細めて笑う。
絵になるなぁ...。
「私の部下が作ってくれたものだ。今度連れていくからその時にお礼を言うといい。」
そう言って僕の部屋を後にした。
じゃあ僕も今日という日を後にしようかな!
僕は着物で寝るのは申し訳なかったので上手いこと畳んで今まで通りの制服で寝た。
★
「ガイラン、ハチョウ。裏で動いてる者がいる。」
私はガイランとハチョウを部屋に呼んだ。
内容はもちろん、リョウを狙っている者つまり刺客。
「自分も気付いておりました。まだ推測ですがアマメ様の部下かと。自分の統治するエメラルドを通ったようです。」
草花がそう申しておりました。 とハチョウから報告をもらう。
「やはりそうか。ルビーにも入ったとガーネットから報告があった。そうよな?」
赤髪の鋭い目付きの鉄面皮。“冷徹の紅”とも呼ばれる、私の従者の一人。
「はい。私の監視の目を抜けるなど緋岸様お一人くらいな者です。」
ガーネットの持つ特殊能力の万里網。使う者が定めた範囲の地面に糸を張り巡らしその上を歩いたものが誰なのか知っていれば把握出来る。という恐ろしい能力。
「さすがはガーネット。情報収集は完璧だな。そのまま監視を続けよ。」
「仰せのままに。」
ガーネットは席を外した。
「リョウを貶める、ましてや殺すなど...。私の逆鱗に触れると思い知るが良い。」
エナの琥珀色の瞳は紅く紅く色を変え、怒りをあらわにしていた。