六:勇者?
「君達、本当は勇者ではないのか?」
「ブフォッ」
アスカを締め上げて戻ってくれば、ルイスのこの唐突な質問に一瞬固まってしまうが、言葉の意味がわからず吹き出す。
俺達が勇者ぁ?ありえないんですけど。
本人はいたって真面目に聞いてきたのだろうが、その顔ゆえに笑いを堪えきれない。さっきまで痛がってた奴は文字通り笑い転げてるし、チャーリーは腹抱えて笑っている。ギルは堪えようと口を押さえているが、まったくもって堪えきれていない。
「あかん!腹が!腹がイテェ!」
「なっ、何がおかしい!」
チェフが憤慨するが、笑いは止まらない。
「だってだって! こんなダサいおっさんとッスケベなデカブツにフヒヒ!ムッツリのギルがッ勇者なんてありえないよ!」
誰がダサいおっさんだコラ。
「そーゆーお前だってッどチビな上に、絶壁どころかッ抉れてるだろッ」
「うるさーい!おとなしくダサいおっさんだと認めろー」
「「そーだそーだー」」
「黙れムッツリにスケベ野郎!」
「そうです、私がムッツリです」
「そして俺がスケベです」
「「二人合わせてムッツリスケベです」」
「やかましいわ!」
漫才のごとき会話は、咳払いをもって締められる。
「話を続けたいのだが」
あ、ヤベェ。青筋が浮かんでる。
「失礼。それで、なんで俺達が勇者なんですか?」
「理由は三つある。一つ目は胸元の記章だ」
ルイスの視線を追えば、胸元の略綬程に小さな日の丸が目に入る。
これはログインしているサーバーで決まり、日本なら日の丸、アメリカならば星条旗が付けられ任意で外す事も出来る。ストーリーモードやPvEモードでは潜入任務以外は大抵見える位置にある。
あまり意味のないものに思えるが、任務やオンライン部屋によっては付けなければ参加できないものが有るため、必須アイテムではあったりする。
「これが?」
「その昔、人々を救う為に異世界より召喚された勇者は己の故郷を忘れない為、鎧に描いていたそうだ。そしてそれは皆の希望の象徴となった特別なものだ。付ける事が出来るのは勇者とその子孫、後は勇者の仲間だけだ」
「勝手に付けたり、悪用した場合は」
「子供が憧れて真似する場合があるが、それ以外は注意される。悪用したのなら良くて犯罪奴隷、悪くて死刑だな」
「踏みにじったら」
「即刻死刑だ」
「ナニソレコワイ」
「勇者を侮辱する行為にあたるからな。これは王族や貴族の紋章でも同じ事が言える」
「ふむふむ」
「ねぇねぇルイスさん」
大の字で寝ころんだままのアスカが尋ねる。
「勇者は何者なの?」
「神が遣わした異世界の人間だと言われていて、強大な力を託されてこちらに来るそうだ」
「強大な力?」
「神話の武器や我々では扱う事のできない魔法らしい」
「なんだ、ただのチートじゃん」
ルイス達には聞こえない程度だが、ギルの呟きが聞こえた。
「どうしました?」
「いえ、なにも」
ギルの呟きには同意できる。最近は転生、転移後に神様からチート級の能力を入手してハーレムルート。そんなものがテンプレ化しているからな。
まぁそれなら俺達のこの力はどうなんだって言われたら、そこまでなんだが。
するとアスカは起き上がりながら「じゃあさじゃあさ」と続ける。
「さっき人々を救うって言ってたけど、何から救うの?」
「邪神からだ」
「「「「邪神?」」」」
◆◇◆◇◆◇
―――邪神
この世は大地母神の創造したとされ、たくさんの種族が誕生し、当然戦争が幾度となく起きたが、それでも長い間平穏と繁栄が続いた。
だがなんの前触れもなしに、何処からともなく邪神が現れた。嫉妬心か羨望心、あるいはその両方の感情を持っていたかはわからない。邪神は災厄と呼ばれる化物を大量に産み出し、破壊の限りを尽くそうとした。
化物は当時最強と謳われた軍隊ですら生ぬるすぎると感じる程で、多くの国が、町が、人が蹂躙された。
しかし大地母神は邪神の暴虐に気付き、人々に力を与えた。
それは異世界より勇者を召喚する魔法。
召喚された勇者は二人。それぞれが力を合わせ、全ての災厄を退ける事に成功し、手駒を失った邪神は再度侵攻する力を養う為に眠りにつく。これが起きたのがつい百年前。
これは後世に"生存戦争"と呼ばれることになる。
勝利した勇者達だが、戦いの爪痕を大きく残った。そして邪神はまた攻めて来る。それがわかっていた彼らは次に備えていくつもの城塞都市を作り、
―――行方不明となった。
理由も不明で、邪神とは逆にこちらは姿が消えたそうだ。
残された人々は城塞都市を首都に、国を再編した結果、四つの国と二つの連合が生み出された。
広大な森林と平原を有する西のローシン王国。
東にある大地母神を崇める宗教国家、ルマン法国。
法国の南方に位置し、ルマン法国を宗主国とするビトリア公国。
法国と王国の間にある小さな国、ベレロフォン中立国。
多数の獣人が共生する南方のグロワール獣人大連合。
ローシン王国の南方に小さな島国が纏まったロドニー諸島連合。
それぞれは不可侵条約、通商条約等の条約を締結、また生存戦争時における連合軍の設立を行った。
二回目の侵攻は生存戦争からのたった五十年後。第二次生存戦争と呼ばれ、一回目から期間はかなり短いが対抗策は練られていた。
第一に城塞都市。高い城壁に深い空堀、緊急時の避難所としても使える地下水道。籠城戦にもってこいである。
第二に勇者が伝えた知識。例えば食料の長期保存方法や医療技術の向上などetc……。これにより長期間の籠城戦や素早い情報伝達が可能になった。
第三に騎兵を中心とした即応機動部隊の編成。ローシン王国ならば王都に駐屯する王都即応機動部隊と、各地方都市に駐屯する地方即応機動部隊の二種類が存在する。
情報が入り次第に出撃が可能な部隊で、付近で確認された災厄の殲滅を主任務としていて、また他の地方都市が攻撃にあった場合はすぐさま援軍として駆けつける事が出来る。
第二次生存戦争の結果としては勝利に終わったが厄災は全て殲滅する事が出来ず、何体も取り逃がしてしまう。何故なら数が尋常ではなかったのだ。生存戦争は群れだとしても一度に百体前後といったところに対し、第二次生存戦争は数千もの災厄が津波のように押し寄せた。
その為、王国北東部にある城塞都市は陥落し災厄の住処となってしまっただけでなく、邪神が眠りにつかなかったのである。
だが悪い事ばかりではなく、災厄の発生頻度が格段に減った事や、死亡した際に落とす魔結晶が高品質で、生活水準が高くなるということもあった。
その為陥落した城塞都市は魔結晶を安定供給できる絶好の狩場になり、現在は国に管理されている。
◆◇◆◇◆◇
「なるほど、そんで二つ目は?」
「髪と瞳の色だ。黒髪黒目は勇者の特徴の一つだ」
視線がマークスとギルに集まる。
「え?な、なに」
たじろぐギルに思案顔のチャーリーが口を開く。
「勇者ってキャラじゃねえよな~」
「なんでよ」
「どっちかつーとあれだ、悪の幹部の一人で勇者のライバルになって戦うけど、最終決戦で勇者側に着く奴」
「「あー確かに」」
チャーリーの言いたい事がなんとなくわかってしまうアスカとマークス。
「そんな人なのか?」
「あくまでそういう風に見えるだけです」
「なるほど。それで三つ目だが、それは今年で第二次生存戦争から数えて五十年目、災厄の発生頻度が増えていてな第三次生存戦争が起きるのではないか、と噂も飛び交っている時に君達が現れた」
「で、滅茶苦茶強い化物の群れを簡単に皆殺しにした、と?」
「そういう事だ」
勇者と言われた理由を聞いて納得するとチャーリーが手を上げた。
「そのさっきから言ってるディザストロって奴はどんなのがいるんすか?」
「君達が助けてくれた時に斧槍を持った黒いオークがいただろう。あれも災厄の一種だ」
「どうやったら出現するんすか?」
「急に空が曇り出して大雨と共に黒い雷が落ちる。そして雷に直撃した魔物が災厄になるそうだ」
すると待ってましたといわんばかりに、黒く分厚い雲によって太陽が隠され土砂降りの雨が降りだす。更に雲の一部が妖しく光だして今にも雷が落ちs――黒い閃光に一拍して轟く雷鳴――落ちやがった……。
空気を引き裂く音は凄まじく、軽い耳鳴りが起きる。
落雷が起きると倍速をかけた動画のように雲が消えていき、雲ひとつ無い快晴になった。
「「「「AHAHAHAHAHAHAHAHA」」」」
しばしの沈黙の後に、四人の間でアメリカンな渇いた笑いが起こったのであった。
登場してほしい銃でリクエストがあったらコメントください。参考にします。
テーマは市街地戦でお願いします。
(。・ω・。)ゞ
※アクセサリーをごてごてに付けた奴が作者は大好きです。