四:強化服
爆発音が聞こえてからマークス達は所々大樹の根で起伏の激しい森の中を走っていた。
ただし、洞窟を探索した時と装備が大きく変わっていた。
個人的な変更は、
・マークスはMP5KPDWでは威力不足と考えて、威力の高く使い馴れたM110SASSに変更
・アスカは基本的に使うOOB弾から誤射と図体の大きいオーク対策で高威力のスラッグ弾に変更
そして特に変わったのは全員がACU迷彩(と2型迷彩)ではなく、真っ黒な戦闘服にガスマスクとヘルメット、ガスマスクをしている事である。
ヘルメットはナチスドイツのM42鉄帽にそっくりだが、耳にヘッドセットを装着できる隙間がある。
首から下はアメリカの特殊部隊SWATに似ているものの、肌の露出が一切ない。これは設定上、NBC対策の一環で、頭は防護フードで覆われ、顔はガスマスクで防護するようになっている。手首足首も同様である。更に人工筋肉が内蔵されていて、ステータスに多少補正が入る。
顔を覆っているガスマスクも少々変わっていた。円柱型の吸収缶が左頬に付いているが、目の部分にレンズが無く、代わりにワンレンズ型サングラスのような装甲型ゴーグルが装着されている。
表面を近づいて見ればハニカム構造になっており、小さなカメラを大量に内蔵してあり、どれかが故障あるいは破損しても他で補えるように作ってある。さながらトンボの複眼である。
これを装着する事で、他のFPS或いはTPSゲームのようにマップや銃の残弾数などが表示される他、暗視装置の内蔵にスタングレネード無効化機能がついている。
このどこかロマンめいたものを感じるこれは強化服と呼ばれるもので、CASの高難易度ミッションを高ランクでクリアすると報酬で貰えるアイテムの1つである。
<強化服装着時の発動効果>
・拳銃弾及び口径5.56mm弾以下の銃撃ダメージ無効化
・口径5.56mm弾以上の銃撃ダメージ減少
・爆破ダメージ50%減少
・筋力値上昇
・敏捷値上昇
<ヘルメット装着時の発動効果>
・拳銃弾及び5.56mm弾以下のヘッドショット無効化
<ヘッドセット装着時の発動効果>
・防音及び遮音
<ガスマスク装着時の発動効果>
・拳銃弾及び5.56mm弾以下のダメージ無効化
・ガスによるダメージ無効化
・光量自動調整
但し、銃弾を無効化できるといえど衝撃は有り、万能ではない。例えばMINIMIの集中射撃で動けなくされた所に、側面から近づいてきた敵にCQCの即死コンボされて死亡。RPG-7で吹き飛ばされ、頭から落ちて首があらぬ方向に曲がり死亡などetc……。
高性能であれど無敵ではない。おかげで何度も殺してきたし、殺されもした。
今はこの高い性能のおかげでオリンピックマラソンランナー程ではないが、かなりのスピードを武装した状態で、地形が悪くても走っている。それでも、装備重量差で速さにばらつきが出て来て、少しチャーリーが遅れているが。
次第に場所が開けていき、燃えている馬車だったものと薄汚いオークのピンク色が見え始めた。
「森を抜けるぞ。敵は全部焼豚な!」
「それ絶対おいしくないでしょ」
「てか、ただのミンチになるだけじゃね?」
「食べないからどうでもいいよ~」
爆発のあった場所に着いた時、しりもちをついた金髪の男に、オークのハルバートが今まさに降り下ろされんとする時であった。
◆◇◆◇◆◇
森の中を一台の馬車と騎馬が五頭歩いている。馬車には紺を基調として金細工があしらわれており、扉に紋章が描かれてある。
御者台は初老の男性が座り、馬車の中は対面式に座るようできており、御者台側にメイドがその向かい側に身なりの良い青年と少女が座っている。
青年の名前はルイス・タールベルク。金髪碧眼に普段は爽やかな雰囲気をしていそうな、顔立ちのよく整っているショートヘアのイケメンである。その隣にいる少女の名前はステラ・タールベルク。兄が金髪であるのに対し、透き通るような蒼い髪色をしている。瞳は兄と同じ碧眼にパーマのかかったセミロングな髪型、こちらからは活発そうな雰囲気が伝わる。彼らはローシン王国のタールベルク伯爵家の兄妹であった。
二人は王都ピエトロにある王立魔法学院ルーベンスから地方都市シータスへと春休みを利用して帰郷していた。
「平和だねぇ~」
「平和ですねぇ~」
馬車の中はのんびりとしていた。ルイスとステラは外からの日の光に当たり、心地良さそうに目を細めていた。そんな二人の光景にメイドは微笑んでいた。
――が、残念な事に平和な時間はすぐに終わってしまう。
「敵襲っーー‼」
この声に二人は飛び起きる。
「なんだっ!?何が起きた!」
「襲撃です!オークの待ち伏せてっ―」
ルイスに状況を伝えている騎士は横から飛んで来た火球に吹き飛び絶命する。
ルイスは愛剣のレイピアを掴むと、馬車から飛び出し、ステラも愛用している短杖を持って出ようとする。
――その瞬間、ステラには直径1m程の火球が飛んで来るのが見えた。
「ステラッ!」
ルイスが叫ぶと同時にステラは自分の兄の元へ大きく跳び、受け止められると同時に馬車に火球が直撃、爆散する。
まだ中にいたメイドは火球の爆発が直撃し、肉体は爆ぜて辺りに焼け焦げた臭いが立ち込める。
御者の男性は魔法で馬車が吹き飛ばされるのになんとか免れたが、運悪く逃げた先は待ち伏せしていたオーク達がおり、死んだ騎士達の仲間入りを果たすだけであった。
馬車が吹き飛んだ後、間髪入れずにオーク達はルイスとステラを襲い始めた。生き残った騎士二人はすでに応戦している。
「ステラ、支援魔法を!」
「は、はい!筋力上昇!」
ルイスは妹を庇う位置に立ち細剣を構える。
「ブヒー」
「ブヒヒヒ」
オーク達は醜悪な顔で男は殺し、女は犯さんといわんばかりの雰囲気を放っており各々粗末な棍棒を握っている。
その後ろには、長杖を持っていかにも魔術師ですと主張した格好のオークがいた。
「ブピッブピピー」
先程メイドごと馬車を吹き飛ばしたのはこの個体であり、今度は西瓜程の大きさの火球を生み出していた。
「なっ、オークメイジだと!?」
「ブピン」
ルイスの驚きと共に、オークメイジは火球を放つが、
「魔障壁!」
ステラがルイスの前に防御魔法を展開する事で、直撃を防がれてしまう。
すると今度はオークより一際大きいオークが現れる。
オークは通常、黄色の目に桃色の肌をしているが、彼らの前にいる個体は赤い目に黒い肌と違っている。
「ディ、ディザストロ…種……」
黒いオークは斧槍を肩に担ぎ兄妹に襲いかかる。ルイスは振り下ろされた一撃をいなすも、次々と連撃を繰り出して来る。
黒いオークの威力、リーチに優れた斧槍にルイスの細剣が敵うはずもなく、数撃で根元から刀身は折られ、円柱状の石突で体勢を崩されしりもちをつく。
「お兄様!」
ステラはルイスを心配し声を上げるが、オークメイジがその隙を見逃すはずもなく攻撃してくる。生き残った最後の騎士がルイスを助けに行こうとするが、オーク達に阻まれる。
「ブギー」
黒いオークは、ゆっくりとそして見せつけるように振り上げられる。
ルイスは死を覚悟し、黒いオークは下卑た笑みを浮かべハルバートを降り下ろした。
――はずだった。
雷鳴のような轟音とともに黒いオークの指が千切れて無くなり、降り下ろされるはずだったハルバートは、横からの強烈な衝撃によって位置をずらされてルイスの横スレスレに落とされる。血が飛び散ってルイスを紅く染め、手があった箇所からは流血し始めた。
「へ?」
「プギャ?」
ルイスと黒いオークは今起きたことについていけず、マヌケな声を漏らした。そして、他のオーク達だけでなく応戦していた者も今まで聞いたことの無い音に固まってしまう。
轟音は更に鳴り続け、黒いオークの頭に穴が連続して空く。謎の現象に絶命したらしく、体が灰に変化し小山が出来上がる。灰の小山から白い六角柱状の結晶が覗いている。
未だ固まっている他のオーク達も頭や腹から、轟音と共に穴が空き血がこぼれ絶命する。
「いったい、何が…起きているんだ?」
周りを見るとステラや護衛の騎士も何が起きたかわからないという顔をしていた。
「お兄様、あそこ!」
ステラが指差した所にそいつらはいた。人型で兜を被り顔に面?のような物をつけて、見たことも無い鎧のような物を着ているのが四体いた。大きさは多少違うが四体とも、頭からつま先まで黒一色で肌は見えず鉄の杖?らしきものをオーク達に向けている。
一体のオークが顔を怒りで赤く染めて突進するが、鉄の杖からあの轟音が鳴りオークの頭が吹き飛び倒れる。
「あのオークをいとも容易く…」
さらに杖の先端が光り轟音が鳴るたび、オークの頭、胸や腹に穴が空いていき絶命する。
◆◇◆◇◆◇
森から飛び出した瞬間、金髪の男の脳天めがけてハルバートが降り下ろされそうになっていた。マークスは頭よりも体が先に動いた。M110SASSを左に少し傾けて立射状態で撃つ。
目映い発射炎が消炎器から吐き出され、そして音速を超える弾丸が放たれる。狙ったオークの手に寸分違わず弾丸は命中する。
マークスの持っているM110SASSには、スコープとは別にあるサイトを取り付けている。
それはオフセットアイアンサイトと呼ばれるもので、CAS内ではメインにしているサイトが使用不能な場合のバックアップとして、またはスナイパーやマークスマンの近接用に使用されている。
使う時は銃を傾ければ良いので緊急時に大変重宝するため、マークスは愛用していた。
「へ?」
「プギャ?」
金髪の男とオークがマヌケな声を漏らすけれど、無視して無防備な頭に狙いをつけ、引き金を引く。
マークスが発砲したのを合図に、アスカ達も撃ち始める。洞窟を探索中は全員サプレッサーを装着していたが今は注意をこちらに向かせる為に外している。チャーリーは発射速度を最低の550発/分に調整したM240Lを指切りで敵の腹に撃ち込み動きを止め、そこにすかさずマークス、ギル、アスカの単発射撃が最低でも二発は頭に叩き込まれる。
しばらくの間7.62×51mmNATO弾とスラッグ弾の重い銃声が森に響き渡る。
途中オークが一体、一矢報いようと突っ込んできたが、オークの右眉に一粒弾が食い込む。そのまま弾丸は頭蓋骨を粉砕し、右目を押し出し、脳をズタズタに引き裂いて押し潰す。頭の右半分に大穴が空いたオークは血を撒き散らしながらその場に転倒した。
「敵、全滅を確認」
ギルが警戒しつつ報告してくる。
三十秒もかからず敵は全滅し、血と硝煙と肉の焼ける臭いが立ち込める。
「弾倉交換、周辺警戒」
「了解」
「おけ」
俺も弾倉を素早く交換すると、アスカが
「OOBに戻していい?」
と、聞いてきたので
「好きにしてくれ」
と言っておいた。
手早く交換すると、俺達は助けた金髪の男達に向き直った。
ガバガバで適当すぎますが、もう次書きます。
一度湖に戻るか、彼らの案内で近くの町に移動するか…。
移動する時はトラックと装甲車、どっちにしよう
( ̄~ ̄;)