三:フラグ
マークス達は今、森の中を移動していた。森自体は所々に光が射し込み荒れてもおらず、全体的にのどかな印象を受ける。
但し、大樹に大きな傷跡が無ければ。
「なんだろこれ?」
ギルが探索で見つけた湖はマップにマーキングを打ちこみ、そこから目が覚めた場所を最短距離で移動中していると、大樹に大きな傷跡を見つけていた。とても目立つようにあったので全員が足を止めている。
樹には高さ2mのところにバツ印が刻んであり、傷跡は綺麗に削れている。それを見たアスカは驚嘆と疑問の声を上げていた。
「なにか大きな生物がマーキングした後だろ」
それに対してマークスはここにいないなにかを警戒し初め、アスカの疑問に答えた。
「と、言いますと?」
さらに疑問で返ってきたので、とりあえずこの場から移動するように促しながら答えた。
「あれはさっきも言った通り、なにか大きな生物がマーキングした後だ。ここは俺の縄張りだって主張するためにな。しかもあれは傷跡が新しい。つまり、傷をつけた奴がまだ近くにいるってこった。てかCASで似たようなの大量にあっただろうが」
「最近やってなかったから忘れた」
「おいおい」
「それにしても、くわばらくわばら。できれば会いたくないなー」
マークスの説明で首をすくめるアスカだが、今なんと言った?完全にフラグである。
「隠れろ!」
「よッ」「ほッ」「ヌォォッ」
マークスが警告した瞬間、全員が素早く近くの茂みにそれぞれ潜り込んだ。
「キシャー」
すると奇怪な声を上げながら3mサイズの蟷螂が歩いてきた。その歩いている姿を見てマークスは、
「カマキラス?」
某怪獣映画に出てくる放射能浴びた蟷螂の初期段階みたいなのでした。
蟷螂は巡回でもしているらしいが、俺達の隠れている茂みを気にせず通りすぎていった。すると、さっき見つけたマーキングされた大樹とは別の大樹に近寄っていき、アホみたいに大きい鎌を振り上げた。
「あのでっかい蟷螂は、何してるの?」
「マーキングだな。あいつがこの縄張りの主らしい」
隠れながら観察してると、最初に見つけた大樹と同じ傷をつけ、それに満足したのかどこかに行ってしまった。
「アスカ、次からフラグにしか聞き取れないような台詞は言うなよ」
「うん、気をつける」
「とにかく、移動再開だ」
「あいよー」「りょーかい」「オッケー」
◆◇◆◇◆◇
その後は、何事もなく湖に到着することができた。
「広いな」
と純粋な感想をもらすマークス。
「広いね」
マークスに追随するようにアスカ。
「競泳の公式プールが三面入りそうだね」
分かりそうで分かりづらい事を言うギル。
「魚いるかな~」
と暢気なチャーリーである。
ギルに案内された湖はかなり広く、開けたところは学校の教室が2クラス分の広さがある。水は澄んでおり、そこがよく見える。
「んじゃまぁ、俺はUAV飛ばすからその間見張りよろしくー」
「あいよ~」
やる気のない返事が返ってくるが、これが普段のマークス達であった。
マークスは周囲の警戒を始めた3人を尻目にUAVを飛ばす準備を始める。といっても、メニュー画面のアイテム欄からUAVを選ぶだけなのだが。
使うUAVは、RQ-11レイヴン。アメリカ軍などで使用されている小型偵察無人機である。早速召喚してみると、光の粒子が何もない所から出て来て≪GADGET BOX≫と書かれたケースが形を成していく。
中身を出し終えると、ノートPC型の端末を背中のポーチから取り出してRQ-11レイブンと接続する。操作は基本プレイヤーが使う通信端末でも可能なのだが、マークスはあえてこちらを使っていた。理由としてはただ気分の問題であった。
電源を入れるとプロペラが回り始める。投げるように飛ばし、胡坐をかきながらノートPC型端末で最大高度の300メートルまで上昇させる。
丁度RQ-11レイブンが最大高度に到達して周りを観測し始めた頃に、マークスの背にアスカがもたれかかる。
「立ってるの疲れた。警戒するのダルい」
「まだ警戒初めて5分もたっていないと思うんだが」
「別にいいでしょ、何も出てこないんだから」
「まぁいいが」
「で、今どんな具合よ?」
端末を覗こうとしてきているので、見やすいように位置をずらす。
「なにこれ、風景に代わり映えが全然ないんですけど」
「いや、そうでもない」
最初に映ったのは延々と森が続いているだけで、遠くに山脈が見えるだけである。対してマークスはカメラの角度を変えて画面に映った一部分を指さす。指差した箇所は森ではなく草原になっており、中央に人工物がある。
「これってもしかして街?」
「あぁ、多分な」
「もう少し拡大して」
「無理。もうこれが限界」
一通り周囲をカメラに収め終わってマッピングもできてきたので、RQ-11レイブンを戻すために操作していると、チャーリーとギルが歩いてきた。
「いやぁ~平和だねぇ~」
なんて暢気に某大怪盗3世の台詞を言っているチャーリーに対しギルが少々冷たい目で見ながら口を開く。
「それってフラグじゃない?」
「えっどうして」
「だってその台詞の後にお姫様助けるイベントがあったじゃん」
「まさか本当にそんなことが起きるわけ...」
チャーリーがギルのツッコミを笑い飛ばそうとすると、突然森に謎の爆発音が響いた。
「「「「・・・・・」」」」
4人の間に沈黙が広がる。どうやらお約束はどこであろうと守られるらしい。全員が沈黙の中、一番最初に口を開いたのはマークスにもたれかかったままのアスカだった。
「マークス」
「なんだ」
「レイブンはまだ飛ばしてる?」
「飛ばしてるぞ」
「爆発のあった方に飛ばして」
「もうやってる」
RQ-11レイブンを爆発のあった方に飛ばすと映ったのは、2足歩行している豚と襲われている人だった。さらに近くには、燃えている馬車と引馬だったであろう焼死体に人?の嬲り殺された死体があった。
「ひどいね」
「移動中を襲われたみたいだな」
「あのピンク色のでかいのはオークかな?」
「見た目だけで行くならそうだな」
オークはゲームやライトノベルによく登場する怪物で、醜悪な顔にでっぷりとした巨大な体躯。性格は凶暴にして残忍でありながらも繁殖力の高い豚モンスターがお決まりだ。それが画面から確認できるだけで20体ちかくいる。
「うげぇー、気持ち悪いー」
「この後は、全員皆殺しか女の子はエロ同人誌と同じ運命になるな。そのうち『くっ殺せ』と言うかもしれない」
「よし今すぐ助けよう。その台詞だけは言わせてはいけない」
アスカの言葉に他の2人も賛同してきた。
「流石に殺されるのはかわいそうだしね」
「ちょっとエロ同人誌みたいになるのは見た..くないから助けに行こう」
...途中チャーリーが何か録でもないことを言おうとしたが、アスカの殺意の込められた眼孔によって阻止されたのは気のせいだろう。
マークスは3人の言葉に対して否定する気もないので、RQ-11レイブンを帰投させながら言った。
「さっさと助けに行くぞ」
腰を重そうに上げ、自然とずり落ちたアスカは、
「はーい」
と間延びした返事し、
「ハーレム作りの第一歩だ」
と鼻息荒いチャーリー、
「絶対無理無理、チャーリーは良いようにあしらわれるのがオチ」
冷たい目で願望を全否定するギル。
ただ無駄口叩きながらも、装備選択画面から新しい装備を選びマークス達は爆発のあった場所へ急ぐ。
ハーレムを書く気は無いので悪しからず。