二:状況確認
「……クス、起……」
……誰かが、俺を呼んでいる。
「ど………きた?」
「駄………然起……い」
うる…さい、俺は昼まで寝る主義なんだ。
「………リー、や………って」
「O…、任……」
「起きんか寝ぼすけぇー!!」
―タオルを勢い良く地面に叩きつけたような音が木霊する。
「…いっだぁッ!」
突然股間に激痛が走って目が覚めた。そして男にしかわからない激痛が走り続ける。ひたすら痛みに悶え苦しみながら視界に写ったのは、呆れてみているアスカと、満面の笑みを浮かべて仁王立ちしているチャーリーだった。
「やっと起きた。昔からあんたはよく寝るよね」
「悪かったな」
「まぁ、俺の最高のモーニングコールで目が覚めたようだな」
「寝起きどっきりの間違いだろ。よっこいしょ」
チャーリーに皮肉を言いながら、体を起こす。周囲を見渡すと、探索していた洞窟ではなく、森林地帯になっている。ただし俺らのいる所は青々と芝生の生える、ちょっとした広場になっているが。
腹の上にはドラムマガジン仕様のMP5KPDWが乗っかっている。
「ここどこよ?」
2人に尋ねると、アスカが口を開いた。
「それが全然わからない。気付いたらみーんなここに倒れていたってことぐらい」
「おいおい、まじかよ」
「まじです」
なんでだろう、アスカの真面目な顔を見たら信用性が無いな。
「なんか今、信用できないとか考えてなかった?」
「気のせいだろ」
サッとアスカから目をそらす。これ以上の追及を避けるため、チャーリーに話しかける。
「そういえば、ギルは?姿が見えないが」
「お前がまだ寝ている間に、この辺りを警戒するついでに探索しに行った」
「連絡したいが……通信端末《PDA》は使えんのか?」
「問題無し。基本的な機能は一通り確認した、ほら」
すると光の粒子が集束し、OD色に≪AMMO BOX≫と書かれたケースが形成される。蓋を開けると7.62×51mm NATOと刻印された茶色の紙箱が敷き詰められていた。その一つを取りだして手際よく開封していく。紙箱の中身はベルトリンクによって結合された五〇発の弾帯。さらにもう一つ紙箱を開封して弾帯を取りだし、先の一本をベルトリンクを結合して延ばしを繰り返して、最後にはバックパックに残っていた弾薬と結合する。
「なるほどねぇ」
CASでは基本的に通信端末《PDA》を使用する。これは運営から最初に与えられるアイテムで、紛失してもポケットを意識すれば出てくる。見た目は完全にスマホであることから、色々な呼び方をされている。それ以外にもPvEモードをクリアしていけばすぐにPC型も手に入る。機能としては文字通り通信である。他にも、運営からの通知、ログアウト、環境設定、装備変更に支援要請やこのゲームに登場する全ての電子機器(一部家電を除く)に接続可能であるなど。設定では、次元航行強襲揚陸母艦DA-17 XIVI艦内に物質転送装置があり、通信端末を座標の目印にする事で装備等のやり取りができるということになっている。
マークスは端末を操作して、ギルに連絡を取る事にした。
『よぉ、聞こえるか?』
『誰からの連絡かと思えば、マークスじゃん。やっと起きたんだ』
『ほっとけ。それより、この辺り一帯を探索してたんだろ?こっちに戻って来てくれ。これからどうするか全員で相談したい』
『わかった。今からそっちに戻る』
◆◇◆◇◆◇
数十分後
「お、戻ってきた」
ギルが探索から戻って来た。ただし、何故かACU迷彩ではなく自衛隊の2型迷彩を着ているが。
「ただいまぁ~」
そう言って頭から芝生に突っ込んでうなだれ始めた。
「おかえり。この辺り一帯を探索してみてどうだった?」
「それがもう、酷い目にあったよ」
「と、いいますと?」
ギルから聞いた話をまとめると。まず、CASにはいなかったモンスターがいることだ。例えば、異様に牙の長い狼がいること。他にも、2mサイズの蟷螂がいたそうだ。
次に、探索中に汗をかいた、喉が渇いた、尿意を感じたことである。これらも、ゲームではあり得なかったことだ。
本人の酷い目にあったというのは、探索中に突然尿意を感じたことにパニックして、大洪水を起きたんだそうだ。何でも、ズボンのチャックをおろしたはいいものの、パンツが肌に密着しており中々外せず悪戦苦闘している最中に、アナコンダ級の蛇が目の前に出て来て……。
いい歳して何やっているんだか。本当に残念な奴である。
解決法としては、メニュー画面からの装備変更を使って、着替えてなんとかしたそうだ。だから装備が2型迷彩に変わったいたのか。
それにしてもギルの話を聞いている限りだと、俺達はアニメやラノベで流行っている異世界転生、転移モノによくある状態だ。もし本当に異世界だとしたら…。だがそうなると、何故CASのシステムで装備や兵器が使えるのか疑問である。普通は高校生とか中学生とか中年親父が勇者とか魔法使いになるもんだろう。
「おい、ちょっといい..か...?」
3人にこの事を話そうと振り返れば、...寝転がり回って現実逃避していらしゃいました。
「あーだりぃ~」「めんどくせー」「ゴロゴロ~」
そんな駄目人間達に流石のマークスは...。
「俺の話を聞けぇぇえい!」
と言って、チャーリーの腹にドロップキックをし、
「グフゥ!!」
そのまま体を縮めて一気に跳躍する。跳んだ先には顔を青ざめているギルの腹めがけてダイビングエルボードロップを行う。
「ガウゥ!!」
ジ○ンの格闘能力に特化した人型ロボット兵器や輸送機の名前のような声が聞こえたのは気のせいだ。
「ひいいぃぃ!!」
アスカは怯え、悲鳴を上げ、後退りするもすぐに距離を詰められたマークスにアイアンクローの餌食になるのであった。
「俺の話を聞け」
「わかった!話聞くから!お願いだから!放して!痛い!」
そんなやりとりから数分後、それでも半ば現実逃避している3人にこの事を話してみると、反応は三者三様だった。
「元の世界に戻りたい」
こう言ったのはギルだ。対してチャーリーとアスカは…。
「異世界ならやりようによっては大金持ちになってハーレム作り放題じゃん!」
「あ!じゃあ私逆ハーレム作りたい!」
駄目だこの2人、早くなんとかしないと…。ギルも頭を抱えている。
「そういえばよぉアスカ、チャーリー」
「なんだよマークス?俺は今美少女美女ハーレムを作る為の計画を練るのに忙しいんだが」
「そうよ!せっかく異世界に来たんだからイケメンハーレムを作るのよ!」
声をかけたマークスは、血走った目で果てしなく残念な、叶うはずのない妄言を吐く友人に軽蔑と哀れみの視線を送らざらなければなかった。が、せめてこの事だけは告げねばならぬと思い口を開いた。
「ハーレム作りたいという願望は別にいいんだが、来月の同人誌即売会はどうする?それに新アニメも始まるはずだが…」
この言葉にどうしようもない妄言を吐く2人は固まり、次の瞬間に閃光手榴弾が足元で炸裂したと思えるほどの絶叫をあげるのであった。
「そうだったぁー!忘れてたぁー!オォウゥマァイゴォッド!!」
「イヤァァーーー!BLの新作が出るの完全にわぁすぅれぇぇてぇたぁぁ!!」
この絶叫をあげる2人を見て、いつもの光景だなぁと、内心安堵するマークスとギルであった。ちなみにアスカ台詞から察することができるように腐女子である。しかも雑食だ。
「悪いが、BLはどうでもいいし、聞いてない」
「どうでもよくない!」
「まぁまぁ、落ち着いて」
マークスの冷静なツッコミに憤怒するアスカであったがギルに宥められる。そして、ギルはマークス、アスカ、チャーリーを見回しながらこう言った。
「とりあえず、理由は何であれど、僕達は元の世界に戻るってことでいいのかな?」
3人とも頷く。
「だな。アニメの続きも見たいし」
「それじゃあ、帰る方法を探さないとね」
「そうだね。だったらまず、さらに広い範囲を調べてみないと」
「なら、UAVでも飛ばすか?」
「それならさっき探索した時、拠点にできそうなくらい開けた所と湖があったよ」
「「「案内よろしくー」」」
なんやかんや目標が決まったマークス達は、UAVを飛ばすために、行動を始めるのであった。