一:プロローグ
ある日、仕事から帰ると俺は中学生時代からの友達に連絡しながらゲームを起動した。
《Call A Squad》通称CAS
これはVRMMOのFPSゲームで、現代兵器からそれに関するもの全てが色々とリアルすぎて登録プレイヤーが数十万人程度ながらも人気の作品である。
ストーリー設定のあらすじは今よりはるか未来、地球は馬鹿なことを考えた馬鹿な組織がタイムマシンで過去を改編したために、荒廃し人類滅亡の危機が迫っていた。そのシナリオを変えるため主人公は、次元航行強襲揚陸母艦DA-17 VIXIに乗り過去の大戦、内戦、紛争にこっそり介入し、記録の修正を行うために戦うというものだ。
このゲームには、ソロプレイのストーリーモードにオンラインマルチプレイのオープンワールドモードから最大6人による協力プレイが可能なPvEモードがある。
今回は中学生時代からの友達とのんびり遊ぶ為に、PvEモードを選んだ。
◆◇◆◇◆◇
ログインしてから待ち合わせ場所に行くと、茶色いACU迷彩に――MOLLEシステムにマガジンポーチやM67破片手榴弾を付けた――防弾ベストを着てる男女が三人いた。そして全員がそれぞれ銃をスリングで吊っている。
「遅いぞマークス」
「すまんすまん、少し読み込みに時間がかかった」
待ち合わせの場所で、声をかけてきたのは茶髪茶目で身長一八五センチ程の大柄な体躯の男だ。スポーツ刈りの髪に端正な顔立ちで頼れる男の雰囲気が出ている。キャラクター名はチャーリーで、本名は湯上 賢治。
持っている銃は、汎用機関銃M240シリーズの派生型である短銃身、伸縮式銃床のM240LにTrijicon社製のサイトTA47 ACOGとサプレッサー、ショートグリップが付いている。さらには7.62x51mm NATO弾が五〇〇発分入ったバックパックと長い給弾レールのバックパック給弾式仕様。機関銃手として皆をサポートしてくれるが、トリガーハッピーになって我を忘れるのがたまにキズ。
対してマークスと呼ばれたのは俺のことだ。キャラクターは黒髪黒目の東洋人で身長は一七五センチ程、ボサボサに生えた髪は目と耳を覆い隠し、後ろ髪は肩甲骨近くまで伸びている無精髭の男。しかも眼つきが悪く濃い隈はニートと中二病を拗らせた人のようだ。本名は西山 甲斐。
背中には短機関銃のMP5シリーズの一種であるMP5KPDW。アクセサリはタクティカルライト、サプレッサーとAimpoint社製のドットサイトJH406が取り付けられ、弾倉は七五発入るドラムマガジン仕様を背負っている。本来はマークスマンかスナイパーをやっているが、今回は狭い洞窟内がメインとなるので今は装備から外している。
チャーリーから後の2人に声を掛けようとすると、後頭部と腹部に銃を押し当てられた。
「まぁ、集合時間にはギリギリ間に合ってるから、別にいいんじゃない?」
「とりあえず、マークスの後頭部にベレッタを向けるのやめよーか、ギルー?」
「そう言っているアスカもベネリの銃口を下に向けてくれないか?というか!なんで銃を突き付けてるんだよ!」
ベレッタを後頭部に突き付けているのは、ギルと呼ばれた少々気味の悪い笑い方をする黒髪黒目の男。本名は高山 広元。身長はチャーリーより少し低い程度に髪は目と耳に掛からない長さ、顔はしゅっとしたイケメンなのだが笑い方のせいで台無しないつも残念な奴である。
そしてマークスの後頭部に当てているベレッタとは92FSの事である。この拳銃を俺らは共通のサブウェポンとして腰や太腿に装備しているが、ギルはもう一丁提げている。それとは別に二点スリングでCQCモデルのSCAR‐Hにサプレッサー、タクティカルライト、グリップポッド、EOTech社製のホロサイトを取り付けた物を吊り下げている。
次にベネリ事ベネリM4スーパー90を突き付けているのは、ボブカットの黒髪に大きな蒼い瞳の少女。本当は二十歳なのだが、キャラクターの身長一四七センチの低さと幼い顔立ちで容姿が少女と形容した方が合っているのだ。オマケに、左側頭部にタクティカルライトの取り付けてあるヘルメットと、ボディアーマー着るのではなく着られている感じが小ささを強くしていた。
キャラクター名はアスカで本名は松藤 明日華。キャラの名前を考えるのが面倒で本名にしている。本人曰く、「似たような名前の人間はリアルに多いから大丈夫でしょ」との事。
彼女のベネリM4は伸縮式のストックで、アクセサリーにサプレッサーのSilencerCo社製Salvo12と六発保持できるサイドシェルホルスターが取り付けられている。これには弾種別にカラーコードが設定されており、赤色のOOB、白色の一粒弾、緑色のバードショットが2発ずつ挿入されている。
「なんでって、遅れてきた無精髭生やしたおっさんの股間にゴム弾を撃ち込んで~悶絶する姿をネットにさらそうか考えたんですけど~?」
「ネットにさらすなんて最低だなぁおい。後、俺はお前と同じ二十歳だ!そんな事するから彼氏が出来なぁッ」
――マークスの反論は、抑制された銃声とともに腹にゴム弾を食らったことにより、最後まで言う事ができなかった。
「次にその事言ったら、ゴム弾じゃなくてスラッグを全身に叩き込むからね?」
「おーい、そこでイチャイチャしてないで、そろそろ洞窟探索に行くぞー」
二人のやりとりに飽きたチャーリーの言葉で、ようやく動き始めた。
今日全員が集まった目的は、PvEモードで新しく実装された洞窟を攻略するためであった。
洞窟探索に使用する装備はそれぞれの役割によって決まっている。前衛はポイントマンのベネリM4を扱うアスカ。そして、アスカがリロードする時などをサポートするのは、MP5KPDWの俺。中衛にはSCAR-Hのギル。後衛兼殿には、M240Lによる弾幕で相手を牽制するチャーリーの布陣で自然と楔型の隊形になる。全員が装備を確認し終えた所で、今回の目的である洞窟探索を始めたのであった。
◆◇◆◇◆◇
洞窟内部
「今回のイベントは敵キャラの姿がキモチ悪くて嫌だわー」
「超笑顔でM240L撃ってる奴が何言ってるんだよ」
洞窟内部の敵を殲滅しながら進んで行くとチャーリーがぼやいた。確かに今回の実装された敵は機械と生物を組み合わせた外見で、こういうのが苦手な人が見たら気絶してしまいそうだ。まだ断面がポリゴンなのが救いである。
マークス達が通路の途中に、学校の教室ひとつ分の大きさはあるだろう広間に到達し、配置されていた敵を殲滅し終えた頃にベネリM4をホールドオープンさせたままのアスカが口を開いた。
「ねぇーねぇー私疲れた。この広場で休憩しよー」
「僕もアスカに賛成」
「という訳で休憩」
「唐突にそして勝手に決めるなよなお前ら」
アスカの言葉に続けてギル、チャーリーが賛成の意を表明し、勝手に休み始める三人に対してマークスが呆れながらツッコミを入れる。だがしかし、
「アスカが言い出した瞬間に煙草吸い始めといてよく言うよ。さらにマークスがおっさんに見えるわー」
「確かにおっさんに見えるねぇ」
ギル、アスカの順にツッコミが入るものの、無視して煙草を吸い初めているマークスであった。ちなみに煙草と言っても、ただのカッコつけるためのアイテムで現実のように有害物質を含んでいない。
こうやって時折グダグダにふざけているのがマークス達が全員でFPSをする時の日常なのであった。
アスカはマークスをバカにしながら、壁に寄りかかった。その瞬間。
――何か渇いた物が割れる音が鳴る。
「「えっ」」「ん?」「あっ」
「なッなに今の音!?」
「アスカー壁から離れて後ろを振り返って見なさい」
困惑した表情のアスカに対しチャーリーはニヤニヤとした顔で答える。
「何よこの亀裂」
アスカが寄りかかった部分の壁を中心に、放射状の亀裂が走っていた。
「アスカが壁に寄りかかった瞬間に割れたんだよ。多分、体重が重すぎたん…」
――抑制された銃声が洞窟に響き、チャーリーの股下ぎりぎりを一粒弾が通っていく。
こいつ、ファストリロードして撃ちやがった。
「女の子にその話は禁句だよ。次言ったら男の娘にするからね?」
「はいッすいませんでした!二度言わないので銃口を股間に向けないでください!」
「バカやってないで壁を調べるぞ」
マークスは、アスカを制しつつ壁を調べてみる。壁はアスカが寄りかかった中心に亀裂が走っている。軽く叩いてみると表面がボロボロ剥がれ落ちていく。剥がれ落ちた部分には小さな穴――といっても亀裂のようなもの――が所々あって覗きこんで見るものの、なにも見えない。
「ん?」
咥えたままだった煙草の煙の流れが乱れている。普通、煙は上にのぼっていく筈だが煙草を穴に近づけると煙が吸い込まれていく。穴の奥をよく見る為に覗こうとすると、いつのまにか隣にギルがいた。
「なんかこの先にあるのかな?」
「だよな」
「どうする?」
「んー、ギル。お前C4を持っていたよな?」
「あるよ」
「この壁に設置して爆破しろ、この向こう側に空洞がある。おそらく隠しエリアだ」
「OK、任せなさい」
やることが決まったので、早速行動に移す。ギルがC4を設置して起爆の準備が完了すれば、マークス達はこれまでに通って来た通路の影に隠れる。
「それじゃ、起爆するよ」
ギルが起爆スイッチを押す。
――洞窟内にC4の爆発音が響き渡る。
ギルが隠れている通路から顔を出しながら、尋ねてくる。
「うまくいった?」
「みたいだな」
通路から出て来て、爆破した場所を囲むように警戒する。煙が完全に晴れると、その先は今までの通路と違って明かりが1つもないとても広い空間だった。大抵このゲームに登場している洞窟は敵NPCの拠点か、拠点がクリーチャーに奪われたものなので、蛍光灯が設置してあって点灯している場合が多い。だがそれがないということは、クリーチャーが穴を掘った設定なのだろうか?
「陣形はそのままで入ろう」
「「「了解」」」
ヘルメットやライフルのライトを点けて、中に入る。中は所々に人の背丈程度の岩があるぐらいで、それ以外には何もない。そんな殺風景な道無き道を何分もの間進んだの時の事だっただろうか、
――また、ひび割れる音がした。
全員がアスカの方を見る。
「なんで私を見るのよ」
「だってさっきも音がした時、アスカが原因だったじゃん」
「確かに」
ギルが指摘し、マークスが同意する。
「色々と問い詰めたいけど、それより足元見て」
アスカがジト目で、こっちの足元を見てくるので言われるがままに三人は足元を見る。アスカのライトが照らしているからそれはよく見えた。
「え?」「ん?」「ファッ!?」
足元を見れば、俺達を中心に大量の亀裂が広がっている。
「ねぇ、さすがにこれはやばいんじゃない?」
「やばいね」
「なんか、亀裂がドンドン広がってない?」
「広がってるね」
ギルの疑問に、チャーリーが答える。
ギルが疑問にしたように亀裂が広がっている。
「入り口まで走れ!」
「異議なし!」「走れッ」「ちょ、早ッ」
マークスが叫んだと同時に、全員が走り出す。
――だが無慈悲にも、地面の亀裂はさらに広がっていき、そして崩れた。
「「「「ああああああぁぁぁぁぁああぁぁ!!!」」」」
「アスカのせいだー!!!」
「なんでよー!!」
チャーリーはアスカに文句を言い、アスカは逆ギレ気味に言い返す。
「それより助けてーー!」
「くそったっれーー!!」
ギルはどこかに掴もうと手を伸ばしながら助けを求め、マークスは自分たちの不運に悪態をつく。
どこかに落ちていく俺達は、すぐに意識を失った。
登場銃器
M240L
FN社製。アメリカ軍で採用されたM240の派生系の1つ。銃身・銃床を短縮化、機関部にチタンを使用する事で軽量化している。
MP5KPDW
H&K社製。MP5の小型版MP5Kの派生系の1つ。PDWとして運用するために開発された。折り畳みストックと大型のフラッシュハイダーが追加されている。
SCAR-H
FN社製。7.62×51mmNATO弾を使用する。アメリカ特殊作戦軍向けに開発されたアサルトライフル。
ベネリM4スーペル90
ベネリ社製。12ゲージを使用する半自動散弾銃。アメリカ軍でM1014の名称で採用されている。
ベレッタ92FS
ベレッタ社製。92の系列で9×19mm弾を使用する。アメリカ軍でM9の名称で採用されている。