ゲームスタート
僕達に有無を言わせず、抽選が始まる…。
と思ったその時、大きく、だけどうるさくなく、しっかりと耳元で聞こえる。
「佐々木玲、霊媒師、霊媒師に決定致しました事を、お伝えします。」
アナウンスのように声がした。不思議な事に聞こえたというか、自分が喋った時に頭の中で反響するような、脳内で声がした、という言い方の方が正しい気がする。頭の中で発せられた男女ともつかないアナウンスは、もう聞こえてこない。
状況整理に追いつかないまま、ふと、横目に映る僕を見る眼に気付き、視線を流すと、1人のブロンド女性と目が合う。彼女は恐ろしく顔が強ばっていて、怖いものでも見たような顔を向けてくる。
僕は万を辞して声を掛けてみた。
「だ、大丈夫…?この、アナウンスみたいなの…聞こえた…?」
震える彼女に、アナウンスが公式的なものであったかどうか、皆に僕の名を指して言われたものが聞こえていたのか、確認の為聞いた。
「わ、私…」
体を小刻みに震わせ、口元も言う事を聞かないようだった。
「おいおい…こりゃなんの冗談だよ!」
「お、おいやめろ!なんだ近付いてくるなよ!!」
「やめなよあんた。なにいきり立ってんだか知らないけど、周りに迷惑。ダサいだけだし」
「んだとくそあま!!てめえからぶっ殺してやってもいいんだぞ?ああ!」
「はぁ、まだゲーム始まってませんけどー?これどうなってるのー?」
何やら気が立った井上誠司が周りに突っかかっているようだ。
だが、こんな状況下だからこそ1つ分かったことがある。それは、少女の言っていた、〝頭に埋め込まれたマイクロスピーカー〟という言葉が嘘では無かったのでは、ということ。
でなければ、僕は皆の視線を独占する事になっていただろう。
考えに纏まりが付いたその時だった。
「いやーー!!」
突如、三浦紗枝の叫び声が響き渡る。
「わ、わたし!!わたし!嫌っ!!ただ殺されるのを待つなんて出来ないから!変えてよ!ねえ!!」
指を切られた痛みと役による恐怖だろうか、混じって、狂気にも似た状態だ。目を見開き、じわりじわりと少女に詰め寄るが、あの初老の男性がそっと、後ろから三浦紗枝の肩に手を置き抑える。
「その傷と恐怖だ。落ち着けとは言わんが、よく考えてみなさいな。」
低くよく通る、だが穏やかな声は優しく彼女に寄り添う。
「ここで何かをしても、何もならない。だから皆ここまで黙っているんですよ。嘘にせよなんにせよ、〝囚われた〟事実に変わりはないからね。」
初老の細く鋭い眼差しは、静かに少女を見据えていた。
「でも…私守れない」
皆が彼女に注目してる。その僕の視線の端にいた少女が姿勢を落とし、動いた気がした。
ヒステリックになりかけている彼女は、嘆きながらもこう続けた。
「だ、だって私、かり…」
その刹那、少女は彼女の目の前にいて、右腕が彼女の腹の中に入っていた。いや、腹を貫通して背中からは握られた臓物と、赤黒い血にまみれた手が飛び出している。
「かはっ…」
彼女のこれでもかと見開いた目からは、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「な…にこれ」
彼女は下に視線を落とし、言葉を振り絞った。
「まだ喋れるのですね。わかりました」
少女は勢い良く右腕を引き抜き、引っ張り出された臓物と血は宙に舞い、落ちる間もなく更に喉元へ伸ばされた手は、アルミ缶を潰すが如く首を締め付け、圧迫され血は吹き出し、密度を失った骨と肉のひしめき混ざった、潰される大きな咀嚼のような残虐音が響く。
「声帯を壊しました。これで発声は不可能ですね。」
彼女の全身の力は抜け、彼女の喉元を握ったままで首を軸に少女が体を支えていて、辛うじて立った姿が保てている。明らかだが、死んでいる。
「ちなみに、役を他者に公表する言動、及び、あえて気付かせる言動は禁止です。まぁ、遅かったですが」
表情を変えない無感情さ、なによりも、軽々と殺戮するさまに見せた冷酷さと腕力に、誰もが一瞬にして死の恐怖を覚えた事は確かだと思う。
「禁止者が出て、1人減りましたが、滞りなく始めようと思います。」
人を殺した後にも関わらず、変わらず淡々とした口調で続ける。1人死んだ、というより、殺された。この事実が、一気に事の信用性を高める結果となり、全員の表情が変わっていた。
だが同時に、一つだけ重要な事が判明した。恐らくではあるが、あの言い切れなかった彼女の言葉の続き、推測ではあるが、限りなく真実だと踏んでいる。それは、村側が既に、〝狩人〟を失ってしまったという可能性。人がここまで残虐に殺されるのを生で初めて見たのに、だからこそ僕の身が可愛い。いや、愛おしい。だからこそ状況がいよいよ真になる。だからこそ、彼女の言葉は真を持つ。
「では、本日の夕暮れ時、ここに集まってください。ゲームを始めますーー」