1-9 黄の精霊
9話目です。
タイトルがネタバレしてますね。キーワードをタイトルにするって難しいです。
『そうね、解ったわ。好きなように話してちょうだい。その後、私が足りない情報を聞くわ。』
綺麗な幽霊さんはそう言ってふわっと浮かび上がり、空中で優雅に座った。
「えっと、ではまず・・・。私は萬井真琴と言います。今年で45歳になります。日本で生まれ日本に育ちました。」
綺麗な幽霊さんは眉を顰めた。が、何も言ってこないので言葉を続ける。
「仕事場からの帰宅中に、空が赤く光り黒い雷の様な物に打たれて意識をうしないました。」
綺麗な幽霊さんの眉間に更に深い皺が寄る。
「意識を取り戻したら、見知らぬ岩場におりました。所持品がなくなり、代わりにこの服とそこの岩においてある皮袋を手にした状態でした。その時、皮袋を開け中身を確認したところ【赤い水晶】と【青い水晶】が入っておりました。」
綺麗な幽霊さんの目が微かに開いた。驚いているようだ。
「私は、その現状を何者かに連れ去られ捨てられたのだと理解し救助を求めるべく移動をはじめました。しかし行けども行けども何も無く。偶然気がついた【青い水晶】の僅かな液体で喉を潤し、昨晩見つけた枯れた木を空腹を紛らわす為に食べました。他にも色々作ったり火を起こそうとしました。それが昨晩の事で現在に至ります。」
綺麗な幽霊さんは、真っ直ぐに私を見つめている。金の瞳に吸い込まれそうだ。
『・・・そう。嘘は・・・ないようね。』
綺麗な幽霊さんは、少し考え込む様に視線を巡らせる。
『そうね・・・、まずお前はここをどこだと思う?』
「ここですか・・・。私の住んでいた日本ではないと思っています。何処かと問われると困ってしまいます。」
『質問を変えるわ。この世界の名前を答えなさい。』
「世界ですか?世界・・・、この星の名前ではなくですか?」
『そう・・・やっぱり・・・。概念が違うのね。』
綺麗な幽霊さんは、深くため息を付き真剣な表情でこちらを見つめた。
『これから話す事は理解し難いかもしれない。私も其方の事は良く知らないから想像も込みで話するわ。そもそも干渉する事がないので知る必要もないのよ。聞きたい事もあると思うけど、まず聞いて頂戴。』
「はい。」
あまりにも真剣な覚悟を持った視線に私は返事をするのがやっとだった。
『この世界は【ガー・ナーク】貴女の知る星とは違う概念で存在しているわ。基本的に違う概念で存在しているけど、どの世界でも共通する物があるの。それが【黒い雷】よ。その【黒い雷】は【神の鉄槌】。この神罰を受けるとその世界での存在が許されなくなるわ。そして全ての世界の輪廻の輪から外れ虚無を彷徨うの。』
私という存在を下に置く物言いが少しの哀れみを含んだものに変わっていたが、そんな事はどうでもよかった。そんな漫画みたいな話を信じられるかっ!
『でも、おかしいの。その【黒い雷】は外敵に、世界を浸食する者に使われる。貴女に神の領域を侵す何かがあると思えない。ここからは私の憶測なんだけど…』
「・・・っ!そんな・・・そんな馬鹿みたいな話信じられると思ってるんですかっ!!」
『聞きなさいと言いましたよね?』
「聞けませんっ!不思議な事も確かにあったけど、それでも!それでもっ!」
『黙りなさいっ!』
───腕をスッと上げ人差し指をこちらに指す。鋭い風が顔の横を抜け、薄く頬が裂け血が垂れる。
「!?」
『その様子だと貴女の世界には【魔法】と言う概念がないようね。手荒い事をしてごめんなさいね。』
「・・・」
『見なさい。』
───私を指差した手をそのまま横へ向けると手を広げた。次の瞬間、掌から何かが飛び出し岩が吹っ飛んだ。
『これは風の魔法よ。どう?話を聞く気になれたかしら?』
「・・・はい。ごめんなさい」
『いい子ね。無理もないと思うけど、大事な事よ。しっかり聞きなさい。』
一呼吸置いてからまた話出す。
『そう、ここからは私の憶測。貴女は偶然か必然か【黒い雷】を受け、全ての世界の輪廻から外れてしまった。それを我等が神が拾い上げ、新たな肉体を与え【精霊核】を持たせて降ろした。私には神のお考えは解らないわ。でも、神はこの世界の崩壊を望まない。貴女は神の意思によって降ろされた。ならば私は貴女に力を貸しましょう。よろしいかしら?』
「あ、ありがとうございます・・・。」
────にっこりと微笑み立ち上がる。
『貴女の謎の行動には驚かせれたけど異世界からなら納得がいくわね。』
「そんなに可笑しな事をしていたでしょうか・・・」
『そうね。この【ガー・ナーク】の全ての生命は魔力の力を借りて生きているわ。細かい話は後で話すけど、長距離の移動を純粋な身体能力だけで行う事は有り得ないのよ。』
「それって・・・どういう事ですか?」
『貴女がどれだけ移動したかは途中からしか見てないから解らないけど、【ガー・ナーク】の今の魔素濃度でも2倍は移動できたんじゃないかしら?』
「2倍!?」
『そう2倍。遅すぎて驚いたわ。使うの忘れてるのかと思ってサインも送ったのよ?』
「サイン・・・?あ、足元の風ですか?」
『そうよ。それから【魔樹】よ、枯れていても【魔樹】。まさか食べるなんて思わなかったわ。【魔樹】はね、魔法を行使する時に発生する黒魔素を白魔素に変換し排出する性質があるの。神聖な物だから近寄り難いものを感じるはずなの。なのに、貴女ときたら迷いなく近寄り、加工し、食べたわ。そのまま食べたら体内の魔力を誤認して排出してしまうのよ。』
「あの木がですかっ!?」
『そうよ、それで貴女魔力枯渇で死に掛けたのよ?助かったのは、貴女の魔力量が異常に多かった事。神に感謝なさい。それから、枯れていたから効果が薄かった事。何よりも私のお陰ね。私にも感謝なさい。まぁ貴女の魔力排出のお陰でこの土地の一部が復活したんだけども、これも少しおかしな現象なのよね。』
「そ・・・そうなんですか。えっと、神様と・・・女神様?ありがとうございます。」
───微妙な間。
『私とした事が名乗っていなかったのね。私が神などと恐れ多い事よ。』
「すみません、お伺いしてませんでした。改めまして私、萬井真琴と申します。」
『ごめんなさいね。【ガー・ナーク】でその名前は、使う事ができないの。正確には、音が聞き取れないのよ。』
「そうなんですか?」
『私が新たな名を授けましょう。そうですねぇ・・・決めました。貴女の名は聞き取れませんでしたが、似たような響きの名にしましょう。』
『【ガー・ナーク】に神より遣わされし落し子よ。我、七精霊【黄の精霊】名に於いて新たな名を授けます。是より先、貴女は【アデール】を名乗りなさい。神と大精霊の祝福があらんことを・・・』
───黄の精霊様がそう告げると、私の足元からキラキラと金色の粉が舞い上がった。
私は【アデール】になった。
2017年3月7日 会話の文章の一部と矛盾を修正しました。