1-8 幽霊
8話目です。
お待たせしました。やっと幻想世界しはじめました。
───サワサワと頬を撫でるような風が吹いている。
眠りから覚めた。
目を開けたはずなのに良く見えない・・・光は感じるがぼやけて見える。
体を起こそうとするが起き上がらない。腕に力が入らない・・・
「・・・ッア・・・・・・ァゥ・・・・・・・」
声も上手く出せない。口の中がカラカラだ・・・
寝る前はまだ元気だったのに何で・・・
何故かを考えようとするが思考が上手くまとまらない・・・ぐるぐるする・・・
『うん?あぁやっと気がついたのね。危なく死ぬとこだったのよ?』
声がする。
『そのままじゃ会話もままならないわね。』
女の人?
『うーん・・・本当は人族になんか分け与えたくないけど事情も聞きたいし・・・しかたないわね』
───前髪がふわっと持ち上がり額に何かが触れる感じがした。
『どうかしら?まだ起き上がれないでしょうけど、声位だせるんじゃない?』
ほんの少し気分が楽になった気がする。
「・・・ぁ・・・がとぅ・・・・」
『まだ喋れないの?もー、色々な面倒な人族ねお前。』
───また前髪がふわっと持ち上がり額に何かが触れる感じがした。
『どうなの?』
「・・・あ・・・ありがとうございます。」
『はぁ~やっとね。全く手間ばっかり掛けさせて。』
「あの・・・何かすいません。」
『人族は脆い癖に余計な事ばっかりするから嫌いよ。己の役割も放棄するし・・・』
この女の人は一体なんなのだろう。しかしまだ目が霞んでよく見えない。
人族人族って言うけどどういう事なのだろうか・・・
『まぁ子供の貴女には分からない事ね。』
「そう・・・なんですかね?・・・良く分からないです。ごめんなさい。」
『で?どういう事なのかそろそろ教えてもらおうかしら?』
さっきまでの呆れと嫌悪交じりの雰囲気に威圧の様な物が追加される。
助けてくれた人なのに・・・怖い。
「・・・あの・・・、どういう事と言うのは・・・色々分からない事が多すぎるのですが・・・。」
『しらばっくれるのね、人族風情が・・・』
何かに押し潰されそうな感覚がする。
実際には何にも押し潰されていないのだが、得体の知れない何かそこに有るのだけは解る。
何だか解らないけど怒ってる!弁解っ!早く弁解しなくてはっ!
私は腕に力を混め、残った力を振り絞って身を起こした。
「ほっ本当に何も解らないんですっ!気が付いたらこの何も無い岩場にいたんですっ!自分の持ち物も全部取られてしまって、体も小さくなってしまっていたんですっ!私のじゃない服と荷物を持っててっ!それでその、何も持ってないのが不安でっ!あ、そうか、もしかしてコレの持ち主の方だったんですね!?服と荷物の持ち主の方ならお返ししますっ!」
もう何を言ってるのか良く分かってなかった。
圧倒的な重圧の前に私は考えるよりも先に口が動いてしまっていた。
服を返そう!脱ごう!そう思って、支えていた腕を外し裾を持ち上げようとした瞬間バランスを崩し岩の上から落下してしまった。マズイっ!
───ポスンッ
思っていたのと違う衝撃が体に伝わる。
大小様々な石の上に落ちるはずなのに、その衝撃は───草の上・・・?
───また前髪がふわっと持ち上がり額に何かが触れる感じがした。
『解った。はぁ~・・・。本当めんどうね。嘘の色がないのは解ったわ。落ち着きなさい』
急激に威圧感が収束し、呆れの声色に変わる。
『今ので、流石に見える様になったでしょ?ゆっくり目を開けなさい?』
「あっ、はいっ!」
身を起こし地面に座ったままの状態で俯き加減に恐る恐る目を開ける。
「え?うわぁ~~。草だっ!草が生えてるっ!岩場じゃないっ!」
この二日間一切見られなかった生きた植物。青々とした背の低い草むら。
・・・そうじゃないっ!まずお礼を言わなきゃっ!
声のした方に勢い良く顔を向ける。
「見えますっ!ありがとうごっ───ふわっ!綺麗・・・・」
声のする方には、今までに見た事の無い程の美しい女性がいた。
キラキラと輝く金糸のような長い髪、切れ長で妖艶さを感じる金の瞳、北欧風の妖精のような整った顔、今にも折れそうなスルリとした長い手足・・・
どこを切り取っても何者も文句の言えない美しさ・・・こんなにも完璧な人がいていいのだろうか。
肌なんて真っ白で透けているかのような・・・透けて・・・・・・実際向こう側が透けて見えるっ!!
『あら、嬉しい事言ってくれるのね。人族にしては素晴らしい感性よ。褒めてあげるわ』
「・・・っ!!あ、ありがとうございます・・・。」
人じゃないっ!透けてるっ!幽霊??幽霊なの??
『だいたいの人族は、私の魔力を感じて見る事も適わない位平伏しちゃうからね。面と向かって綺麗だなんて言われたのは200年振り位かしら?そもそもこの200年、人族の前になんか出てないんだけどね。出てなんかやるもんですか。我等を今も崇める人間もいるみたいだけど、そんなの関係ないわ。人族の行いは許しがたいもの。貴女だってそう思うでしょ?都合が良すぎるのよ。自分達で破滅へ向かっておきながら一方で信仰して助けを請うなんて虫が良すぎるわよね?』
機嫌が良くなったのか、一方的に物凄い喋りだした。理解が追いつかない。
『確かに?人族もこの世界を担う存在の一つではあるわ。だから必要に応じて手を貸すこともあった。愚かで身勝手な考えで同士討ちをするのも別に構わないわ。でもね、循環以外の役割は与えられていないのよ。その権限もないし。下手な知恵を与えすぎたのがこの結果よ。見てみなさいこの大地を。これが人族の身勝手で愚かな行いの結果よ。まぁあの子が怒りに任せた結果でもあるんだけどね。・・・そう、あの子!あの子達の話よ!お前、説明しなさ・・・何を呆けた顔をしているのです?私の美しさに見惚れてしまうのは解りますが説明して貰わないと困ります。その為に魔力を分け与えたのですから。』
「・・・マナですか。それを使って助けて貰ったのですね、ありがとうございます。それで・・・その、説明ですか・・・。ちょっと貴女様の言ってる事への理解が追いつかないのですが・・・、私の解る範囲で今までの流れを説明致します。」
とりあえず、この幽霊さんが何なのかは解らないけど助けてくれたみたいだし怖いけど悪い感じもないから従っておこう・・・。言葉から偉い人っぽい感じもするから丁寧に喋るのが無難そうだ・・・。情報も聞けるかも知れないし、よし頑張ろう。
2017年3月7日 真琴の言い回しを一部変更致しました。




