1-5 二つの水晶
5話目です。
やっと少し幻想世界するかと思いきや、まだ歩きます。
「はぁ~・・・こんななら飲むんじゃなかった・・・」
とは言え、微かにでも生存時間は伸びているはずだ。
後で浴びるほど飲めばいい。贅沢は助かってからいくらでもできる。
泥水だって啜って生き延びてやる。
にしても、どうして液体が溜まったのか・・・
寝る前までは皮袋は湿ってすらいなかった。腿の上の2個の水晶に視線を落とす。
「そういえば、今は暖かくも冷たくもない・・・」
どう言う事だろうか・・・。
少し思いたって、2個の水晶を少し離して岩の上においてみる。
今の内に簡易帯靴を巻いてしまおう。確り足を保護していく。
腰紐も巻いて準備完了。---まだちょっと早いかな?
昨日は日が暮れる寸前でここに来たからこの岩場の窪みの中はまだ探索していない。
岩陰も多いし少し丁寧に探してみよう。何かあるかもしれない。
「うん、何にもないっ!」
本当ここはどうなってるんだ・・・こんなにも何もないなんて・・・
こんなに優秀な清掃団体なんて聞いた事ない。もう少し残してほしいもんだっ!
「さて、そろそろいいかな?」
まずは【赤い水晶】に触れてみる。---仄かに暖かい・・・。
次は【青い水晶】だ。そっと触れてみる。---蒸気を浴びたようにしっとりしている。
「思った通りだったけど。どういう理屈なんだ・・・。」
この2個の水晶は単体になったとき効果を発揮する。
今は30cm程離れていて効果がでてる。この距離は今晩にでも再度検証しよう。
私は何時間位寝ていただろうか・・・8時間かそこらか・・・
皮袋は布に比べたらましだけど、袋が湿っていたからきっとだいぶ漏れている。
全部集め切れたら二口分位にはなったかもしれない。この環境下でこれは貴重だ。
余すことなく手に入れたい。
5cmもある物を口の中に入れておくわけにも行かない。てか絶対入らない。
移動してる間も少しでも液体を確保したい・・・
今は皮袋に戻す方がマシだ。
そうなると問題は【赤い水晶】だ。【青い水晶】の場所は決まってしまった。
ポケットもないし、作るにしてもこれ以上裾を解くのもダメな気がする。
もう少しなにか素材があればどうにか出来るんだけど仕方ない。
【青い水晶】の入った皮袋も腰の右側に結び、左手で【赤の水晶】を握り利き手をあける。
準備は整った。
慎重に一晩過ごした岩の上に登り辺りを確認する。
「う~~~ん。視力は良好のはずなのに何もないなぁー・・・。」
どう進もうか視線を巡らせる。
これ以上崖側に進む意味はない。崖までもう視界が届くが、何もない。崖を登る気もない。
そうなると進む方向は3方向。戻るのは勿体無い。何かあればいいけど、また野営するなら屋根がほしい。相変わらず曇っているから。
「・・・ん?」
行く方向を決めかねていると何かを感じた。
気配というか視線というか・・・なんともいえない感じの物だ。
身を低くして辺りの様子を伺う-----------何もいない。何も聞こえない。
「・・・・・・・・気のせいだったかな?・・・・・・・・痛ッ!!」
ほんの一瞬だったが耳鳴りがした。
「なんか嫌だな・・・。早く移動しよう。」
私は、崖を背にして斜め右方向に歩き出した。
戻るのは勿体無い。でも歩きにくい。少しだけ歩き易い所まで斜めに移動して、いい場所で崖を右手に見る形で移動していく事にした。
右を選んだ理由は特に無い。怒ると目が赤くなる鎖の金髪美少年は全然関係ない。なんとなくだ。
「な~~んもなぁ~い♪な~~んもなぁ~い♪全然なんにもなぁ~い~♪」
再度歩き出して数十分。ついに自作ソングができあがった。
「石が~食べれたら素敵だなぁ~♪食料解決だぁ~♪」
エンドレス「なんにもないの歌」作詞作曲:萬井真琴
「な~~んもなぁ~い♪な~~んもなぁ~い♪全くなんにもなぁ~い~♪」
正直なところ、歌うのもしんどい。でも歌う。
目的地もなく何もない場所を歩く事がこんなにも辛いとは思わなかった。
本当は少しでも体力を温存する為に歌ってる場合じゃない。
でも歌うのが止められなかった。涙がでてしまうから・・・。
「なーーんもなーい・・・なーーんもなーい・・・本当になんにもなーいー」
どんどん抑揚のない歌になっていく。
歩きだして何時間たったか・・・太陽が見えないので暗くなり始めるまで情報がない。
目的地もなければ、時間もロストした。辛い。
「砂がー飲めたら素敵だなー飲み物解決だー
なーんもなーい、なーんもッ痛!!」
また耳鳴りだ。気圧がおかしいのか私がおかしいのか・・・
十分おかしいのは理解してるけど、そうじゃない。身体的な意味でだ。
視線のようなものはもう感じないけど、時々変な風が足元を抜ける。
何かが足元を通ったような、そんな感じのする風。もちろん何もいない。
「そろそろ休憩しよう」
手頃な岩に腰を下ろす。
この環境におかれて丸1日位たっただろうか・・・。
たった1日。たった1日なのにすでに満身創痍だ。
必死に歩いてきたけど所詮子供の歩幅、20キロ移動したかどうか・・・
皮袋は・・・湿ってる。ちょっとは溜まってきてる様子だけど飲み込む実感ができる量ではない。
8時間ごとに一口。って事は、そろそろお昼位だったか。
心が折れそうだ---
空を見上げたままの姿勢で目を閉じる。
現代日本に住むおばちゃんにはサバイバルなんて無理だったんや。体は子供だけど。
知識がいっぱいあるからって出来るとは限らない。
熊五郎さん・・・ごめんよ。貴方のサバイバル術、全然活用できてないよ・・・。
・・・
好きなサバイバル動画の投稿主さんに懺悔するなんて、結構”来てる”な、ヤバイ。
目を開けて、崖の方を見つめる。
もしかしてあの崖を越えたら町があったりするのかな・・・
地平線の方に向かったら何か見えて来てたのかな・・・
たらればな後悔。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「!?」
何かが聞こえる。耳がくすぐったい。
一瞬だったがボソボソと極小の音が聞こえた。
凄く近くで聞こえた気がして辺りをキョロキョロと見渡す。
しかし何もない。
---視線を崖の方にもどした瞬間風が吹いた。
こちらはそうでもないが、崖方面で砂が舞い上がる。
何かが揺れたっ!確かに今揺れたっ!!
すぐに立ち上がって、揺れた何かに急ぎ足で向かった。