2-13 祝福と困惑
外から騎士団長ナサメアが指揮を飛ばす声がする。何を言っているかは解らないが、バタバタとした足音や荷物を降ろす様な音が聞こえている。
「ソニアいいぞっ!そのまま息めっ!」
「かーちゃんっ!ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!」
「お姉ちゃん、洗い流せたよっ!どうしたらいいの!?」
「様子が落ち着いたら、用意してある布団に寝かせてっ!」
家族が一丸となってお産に望み続ける。しかし、ソニア母さんの息みとは裏腹に次の子が出てこない。頭は見えているはずなのに…一人目がすんなり言ったのに対してこれは…もしや…
「様子がおかしいっ!ソニアっ!どうしたんだっ!」
「父さんっ!場所変わってっ!」
「っ!?しかし!」
「大丈夫!杞憂で済めばいい。そしたら、また変わって貰うからっ!」
ヴァン父さんは一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐに姿勢を起こして私の両手に手を重ね、強い目で交代を了承してくれた。
「ソニア母さん、ごめんね!ちょっと辛いかもっ!………っあ!やっぱり…」
「アデール!どう言う事だ!?」
「臍の緒が首に絡んでる…どうしよう、ヴァン父さんっ!!」
ぐるぐると色んな事が頭を巡る…どうしたらいい…何が最善だ…
「失礼致しますっ!お待たせ致しましたっ!」
振り返ると、そこには白めのワンピースに身を包んだ騎士団の魔法使いの女の人がいた。
「私は、スマリナ・ガラソンと申します。騎士団所属前は、修道院の療養所に勤めておりました。ここの森に入ってから、急速に魔力が回復しているのです。助産は1度しかありませんが、水の回復魔法が使えますっ!」
「え?水って回復魔法もあるんですか!?あ、靴脱いでください!!」
「ええっと…お話すると長くなりますので、結論だけ申し上げ為すと…水の回復魔法では、傷の類の治療が行えます。」
「そうなんですねっ!やる事が決まりましたっ!スマリナさん、少し変わって下さい!維持でお願いしますっ!」
傷が回復するならばやる事は決まった。直ぐ様、桶に魔法で氷を用意し、1本のナイフを取り出し熱し始めた。
「アデール!!何をする気だっ!」
「落ち着いて、ヴァン父さん!傷を癒せるなら大丈夫だから!!」
「っぐ…解った。信じる…」
「スマリナさん、良く聞いて下さい。氷で幹部を冷やし、少しですが麻痺させて会陰切開します。お産が終わったらすぐに癒しの魔法をお願い致します。」
「切開…自ら切るのですか?絡み綱は、天命に任せる物では…」
「現代医学での臍帯巻絡の死産率は0.1%です!魔法があるなら、それに近い事ができるかもしれないじゃないですかっ!医療従事者が諦めないで下さいっ!」
「いがく…いりょう…?」
「ソニア母さん、行くよっ!!」
ソニア母さんが、呻き声を上げながらも小さく頷くのが見えた。私は、震える手を押さえ冷やした幹部にナイフを当てた…
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「スマリナさんっ!お願いしますっ!」
「はいっ!『我ニ集イシ妖精達ヨ…………………癒シノ加護ヲ"ヒール!!"」
スマリナさんが回復魔法を唱えると、ソニア母さんの傷が塞がり、切開の跡など一切ない状態になった。凄い…水にこんな力があったのか…ヴィラシス様の力はんぱない…
「え?え?えええええ?そんな?なんで???」
感謝を述べようとしたその時、スマリナさんが動揺の声を上げた。一体何を驚いているのか…
「あの、スマリナさん?ありがとうございました。それで…何か問題でも…」
「あ、あの…それが、聖女様の本来のお力であれば、この様に即座に傷が塞がるのですが…私の回復魔法では…その…まず出血が止まり、その後1日程かけて傷が塞がるので…驚いてしまって…」
「え?こういう物じゃないんですか?」
「はい…、ここまで劇的な物ではないのですが…」
「そうですか…。解りました、この話は後にしましょう。他の皆さんは…」
そういえば、家に入ってきたのはスマリナさんだけだった。必死すぎて余裕がなく、その事に全く気が付かなかった。
「出産とは、神聖な物です。癒しに携わる物と近親者以外は、踏み入る事のできない聖域の様な物です。本来であれば聖女様も…あっ、その、皆外で待つと言っていました。」
「そうですか。では、皆さんを中に案内してあげて下さい。布団を用意します。まずは、皆休みましょう」
「解りました。呼んで参ります。」
スマリナさんが玄関から出るのを見送り、振り返ると幸せそうな家族がそこにあった。
「アデール、こちらへいらっしゃい。」
ソニア母さんが軽く身を起こし、優しく私に呼びかける。ヴァン父さんもロンもエルも笑顔で招いてくれた。
「ソニア母さん、大丈夫?」
「大丈夫。アデールが頑張ってくれたから元気よ。ありがとう。」
「アデール、お前が頑張ってくれたお陰だ。新しい家族の顔を見て欲しい。」
「うん。」
ソニア母さんが抱いているのが、先に生まれた男の子。ヴァン父さんと同じ色合いの子だ。ヴァン父さんが抱いているのが、先の男の子と同じくヴァン父さんと同じ色合いをした女の子。まだ顔つきは両親のどちらとも言えないが、とても可愛らしい双子らしい双子だ。
そしてもう一人、エルの抱いた子…そう、新たな家族は双子ではなく三つ子だった。
私と良く似た茶色の髪色をした男の子だ。
「え?どうして茶色…?隔世遺伝かなんか?」
「何言ってるの?アデール。ヴァンが白金、私が赤よ?茶色が生まれても可笑しくないわ。アデールと同じ色よ。どちらかが生まれ易いのは確かだけど、普通の事よ。」
「そういう物なのか…良く解らないけど…凄く嬉しいっ!!」
「一気に大家族ね。忙しくなるわよ。ほら、アデール。お友達も紹介して頂戴?」
振り返ると、布をかけた荷物をもった聖女様以下騎士団の5名が入るタイミングを逃して玄関で待ちぼうけをくらっていた。しまった…忘れてた…
「あの、すいません。聖女様、靴を脱いでこちらへどうぞ…」
「はい。先程、スマリアから伺いました。履物を脱ぐのですね、では失礼致します。」
ゆったりとした動きで聖女様が浅いヒールの靴を脱ぎ、荷物を持ち直してこちらまでやってきた。聖女様でも荷物持つのか…生粋のお姫様みたいな感じではないのかな?と疑問を持ったが、その答えはすぐに解った。
直ぐ後ろにいたエルが私の袖を引く、振り返るとエルの目が爛々とし耳がヒクヒクと動いている。
「お姉ちゃん、あの箱…」
「出産と言う神聖なる日に、予期せぬわたくし達の行動で混乱を招き、大変申し訳ございませんでした。産後のご家族の一時にお邪魔する事をお許し下さい。この度は、出産おめでとうございます。」
「えーっと、こちら…ヴィドルシス教の聖女様と騎士団の皆様です。」
「お初にお目に掛かります。わたくし、エスティエーヌ・ウント・クララ・アステアと申します。先日まで、祖母の加護の残滓によりヴィドルシス教の聖女の名を賜っておりましたが、排斥となりました。ヴィドルシス教の教えは最早穢されており、わたくしたちがそれに従う事はありません。ご安心下さい。」
「いらっしゃい、エスティエーヌさん。ゆっくりしていってね。」
おう、ソニア母さん物怖じしないなー母は強しッてこと?それよりも、アステアって…アステア王国のアステア…?それとも珍しくない苗字だったりするのかな…私の前の世界にも苗字が日本の人がいっぱいいる場所があるってテレビでいってたし…
「ありがとう存じます。それと、こちらは私の伝書燕のハンネです。」
「え?」「ハンネー!!」
疑問を投げかけようとしたその時、間髪入れずにナサメアさんが口を開いた。
「私は、アステア王国ヴィドルシス教所属白薔薇騎士団団長を勤めておりましたナサメア・シャル・ロングヴィルと申しますっ!ご主人様には、先程大変な無礼を働き…申し訳ございませんでした!我等白薔薇騎士団は、エスティエーヌ王女同行しヴィドルシス教皇国を訪れておりましたが、訳あってエスティエーヌ王女と志を共にする事を誓い同行しております!」
「今は、クーデターによりわたくしの身分など無いような物です。今まで通り、クララとお呼びください。」
流石のソニア母さんも揃って顔が硬直する…え?クララさん?アステア王国王女…?
「え?あの…ごめんなさい…理解が追いつかない…」
「そうですわね、お産の後でお疲れでしょう…ではアディさん後程、と言う事で…」
「二階のお部屋、有り難く使わせて頂きますっ!聖女様、こちらです!」
団長ナサメアの案内で、クララさんが優雅に我が家の質素な階段を上がって行った…え?ごめん、本当に全然理解できないんだけど?偽名じゃなく、ミドルネームだったんだとか正直どうでもいいくらい…わけが解らず、外の明るさと相まって眩暈がした…




