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転生少女は雑貨屋になりたい  作者: conon
第二章 少女期
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2-9 鏡とそこに映る者

「うーん…う~~ん…」


 私は、悩んでいる。雑貨屋の前で腕を組み、悩んでますのポーズをとる。そこに特に意味はないのだが、なんとなく考えが浮かびそうな気がするからだ。


「お姉ちゃん。何してるの?」


「あー、エル。洗濯終わったの?ソニア母さんは?」


「終わったよー!お母さんは、前掛けだっけ?作ってるよー」


「また作ってるの?もう結構色々作ったよね?そんなにいるかな?」


 ソニア母さんは、毎日何かを作っている。元々働き者な所があるのだが、力のいる仕事の殆どを分担されてしまい自由な時間が増え、持て余しているようだ。あまり集中しすぎるとお腹が張るので大人しくしていて欲しいのだが…働き者のソニアお母さんは止まらない…

 二人で顔を見合わせ、思わず苦笑いをしてしまった。


「それで、お姉ちゃんは何をうんうんしてるの?」


「私の雑貨屋さんの事なんだけどねー…何か足りない気がするんだよね…」


「私、お店を見た事ないからなぁ…開拓村に居た時、私動けなかったし…」


 エルが少し悲しそうな顔で笑った。嫌な事を思い出させてしまった…。なんと声を掛けていいか解らなくなり、視線を彷徨わせているとエルが言葉を続けた。


「お姉ちゃんが気にする事は何も無いよ。それどころか、私を助けてくれた。私…知ってるよ。背中の傷…あの時できた物だよね…寝てるお姉ちゃん、凄く汗かいてて…傷がまだジュクジュクしてて…その後も暫く辛そうだった。ごめんね。お姉ちゃんは強いから、きっと私を守る為についたんだろうって…」


「え?いや、そんなのいいんだよ!傷なんか全然忘れてたし…」


 これは本当だ。背中なんて見ようと思っても対して見えないし…背中の開くような服も着てない。もう引きつる様な事もないから、痕が残っていようとも全く気にしてなかった。


「ごめんね。本当はもっと早く言いたかったんだけど…」


「気にしないでっ!本当に忘れてたくらいなんだから!!」


「お姉ちゃんは、やさしいね。でも、言わせて欲しいの…あの時、助けてくれてありがとう!私、今とっても幸せだよっ!本当にありがとう!!」


 今更こんな話になると思っていなかったので、気恥ずかしい…


「あー…うん。エルが幸せならよかった。」


「うん!…でも、お姉ちゃん…背中の傷、本当に気にしてないの?」


「違和感ないし、見えないからなー…」


「あのね…、一緒にお風呂はいる時にね…見ちゃうんだけどね…傷、気にならないの?」


「エルだって自分の背中見えないでしょ?…って、そうか!!」


 なんてこった!うちには鏡がなかった!水鏡で顔位なら映せるし、髪もソニア母さんが結ってくれるから全然気にしてなかったっ!これじゃあ、お客様が髪留めの付けた雰囲気を見たくてもその場で確認できないっ!そうか、私の雑貨屋に足りないのは鏡だ!!姿見と顔だけ写すスタンドミラーと…お風呂場にも欲しい!!


「エル!エルエル!!ありがとう!解ったよ!!鏡だよ!鏡!!」


「え?え?かがみ?」


「そう!鏡!水が無くても顔が見られる道具っ!ちょっと作ってくる!!!」


「え?あ、いってらっしゃい!!」


 私はその場を駆け出し、走りながら考えた、金属とガラス!!表面加工と確か、蒸着!!何回か繰り返せばきっとそれなりのが出来るはず!ふふっ、私の雑貨屋さんは日々進歩するのだよっ!




「ん?エル、あれアディ姉か?どこいくんだ?」


「なんか、かがみ?っての作るんだって。」


「ふーん。あー、デレアのババアが持ってたな。顔とか映すやつだろ?」


「うん。水がなくても顔が見れるって言ってた。急に走って行っちゃった。」


 兄と妹が「いつもの事だ」と諦め顔で姉を見送る。二人の姉はいつも衝動的だ。これだと思う事があれば、即座に行動し必要であれば徹夜だってする。その情熱をいつも目の当たりにしている二人にとって、姉は尊敬する存在であり目の離せない危うい存在でもあった。放って置けば、姉の生活はきっとぐちゃぐちゃになり工房から何日も出てこなくなるだろう。


「で?今度は何を思いついたんだ?」


「えっと…。なんか、雑貨屋さんに足りない物考えてたみたいで…私とお話してたら、鏡を思いついたみたい。でも思いついてよかった。」


「足りない物ねぇ…」


 何かを考える様子の兄に、妹が尋ねた。


「お兄ちゃんは、お店見たことある?」


「獣人の村は物々交換だったからなぁ…あ、でも開拓村に来てた行商人を1度みたな。」


「そっかー。お店見て見たいなーお店がいっぱいあるのが町て言うんでしょ?」


「俺も見たことねぇよ。でもそうだなぁ、いつか…見て見たいな。」


「お姉ちゃんのお店にも、いつかお客さんが来たら嬉しいね。お姉ちゃんの作る物、みんなかわいくって素敵だよねっ!きっと、お買い物?してくれるよね!」


「…それだ。アディ姉の店に足りないのは、それだよ…」


「それ?お客さん?」


「いや…、買い物ってのは金を使うんだ。」


「知ってるよ!銅貨とか金貨とかでしょ?本に少し書いてあった。見たこと無いけど。」


「アディ姉の雑貨屋には値段がねえ…。」


 姉の店には、沢山の品物が並んでいる。日用品にアクセサリー、最近はロンの作った紙も置いてくれているが、そのどれもに値段が付いてなかった。


「いつ気が付くかな…」


「教えてあげないの?お姉ちゃん、喜ぶよ?お兄ちゃんの事もっと大好きになるよ?」


「っ!!ばっか!いいんだよ、アディ姉は自分でお店を作りたいんだ。だから、いいんだよ」


「そっか。難しいね…」


 

────────────────────


「アディ姉、鏡はできたのか?」


 鏡作成から数日立った夕食の時、ロンが問いかけてきた。


「うん、いい塩梅が見つかったから…もうちょっとかな?完成したら本に書くから安心して」


「ん、あぁ。…ありがとう。」


 ロンが、珍しくお礼を言ってる。今夜は、魔法か槍が降るな…


「アデール。食後に、"大地豊穣"をするんだろ?着いていかなくて平気か?」


「大丈夫、今回は薄く広げる方をやるから倒れる心配はないよ。」


「そうか。無理はするなよ」


 ヴァン父さんが心配してくれた。今夜は"大地豊穣"をする日だ。毎回3日置きにやっている訳ではないが、魔法の練習をしたりもするので魔力(マナ)の具合を確認しつつ、色々なパターンで森を豊かにしている。今晩は、ヴァン父さん曰く「森が安定してきた」ので周辺の土地を広げる方に重点を置いて"大地豊穣"をする予定になっていた。


 "大地豊穣"は、基本寝る前にやるようにしている。魔力(マナ)を送ると、この範囲では流石に脱力感がでる。寝る前ならば寝てる間に回復できるので、そんな理由から夜にしているのだ。


「じゃあ、行ってくるね。」


「気をつけるんだ。まだ起きているから、何かあれば声を掛けるんだ。」


「ヴァン父さん、ありがとう!いってきます!」


 私は知っている。心配ないと言っても、私が戻るまで両親がしっかり起きて居てくれる事を。本当に心配なんかないのに、やさしい両親だ。


「さて…、はじめますかっ!」


 私の森は、既に直径100kmを超えており、薄く魔力(マナ)を延ばし範囲を確認するだけでも結構な時間がかかるようになっていた。薄く…薄く…只管に延ばす…。時間を掛け伸ばした魔力(マナ)の膜は、今の"大地豊穣"の範囲で一度止まった。


「うん、ヴァン父さんの言う通り。特に問題は、無さそうかな…」


 この視点は不思議だ。目を瞑ると、森全体を感じる。夜で活動こそないが、動物が増えている事等森の変化が解る。現在の範囲には、維持を意識して実りの継続分だけ魔力(マナ)を送るように意識する。そして、新たな範囲へと意識を向けまた膜を伸ばしていく…


「どこまで伸ばそうかな…この辺で止めておこうかな…」


 範囲を決めかねていると、その膜に何かが引っかかった感触があった。


「え?何?」


 薄く延ばした新たな範囲に何かがいる事がハッキリと解った。更に集中して確認を試みる。


「っ!?頭が…頭が割れるように痛いっ!!」


 その何かに集中しようとすればするほど激痛が走る。強い塩素の効いたプールで目を開けるような、その痛みが目ではなく頭に直接きている様なそんな感じだっ。痛みを堪えながら、何かに更に集中する…


「4…5…いや、6だ。違う、重なってる…11、11だ。何かが接近してる!!」


 私は目を開け、立ち上がって家に向かって走りだした。何かが来るっ!動物?いや、動物が自らの意思で【死の大地】を徒歩で越えるだろうか…。"大地豊穣"は、いつも魔樹(マナツリー)の根元で行うのですぐに家に着いた。私は家に入る事もせず、外から声を掛けた。


「ヴァン父さんっ!ヴァン父さんっ!!!!」


 勢い良く両親の寝室へ繋がるドアが開き、ヴァン父さんが外付け階段の踊り場に飛び出してきた。


「アデール!どうしたっ!何があった!!」


 ヴァン父さんは、私の声の雰囲気からただ事でない事を察したのか、その手には普段使わない剣が握られていた。


「何か来るっ!豊穣に引っかかった!!数は11!!何かは解らないっ!」


「アディ姉!!どうしたっ!!!」


 ロンも寝巻き姿で家から飛び出してきた。家族に緊張が走る。


「わからないっ!私、見てくるっ!!!"アクセラレイション!!"」


「アデーーール!!待ちなさいっ!!」


 私は、ヴァン父さんの制止を振り切り森へと駆け出した─────

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