2-8 貴族の娘
弟のロンの決意を聞かされた私は、全面的に協力する事にした。
手始めにまず、新たに木製の紙すきを作り決まったサイズの紙を量産してもらった。
出来上がった紙の端を切りそろえ、別に木枠を作り等間隔に糸を張り墨を付け糸を持ち上げ離すと「パンッ」と言う音が鳴って紙に線が入る。大工さんが使う墨つぼの応用だ。
10穴の穴あけパンチも作った。穴あけパンチなんて簡単な構造だ。魔法があれば、スプリングもブレードも簡単に作れてしまう。10穴用のツインルーフも同時に作成する。バインダー形式も考えたが流石に構造がパッと思いつかなかったので簡単な方にした。
表紙用に木材を薄く加工し、10穴の穴を開ければ完成だ。
これが、教科書でありノートになる。
出来た紙を端から加工し、どんどん内容を書き込んでいく。内容は、小学生向けの算数・魔法の基礎・歴史と世界の成り立ち・クララさんから得た最近の情勢・私が作った物の図面や材料 等等
触発されたソニア母さんも料理の本を書いてくれた。ヴァン父さんも獣人語の本を書いてくれた。エルは…伝書燕のスケッチをし始めた…相変わらずマイペースだ。
我が家のリビングの本棚は、ちょっとした学級文庫の様になった。
ロンの為に作った物だったが、結果的に全員が見るようになり「これはそういう物」と認識していた事柄を考えるようになった。これはとてもいい傾向だと思う。私の家族は、とっても素敵だ。
家族で分担した家事にも慣れ、赤ちゃんを迎える準備ができてきた頃、一月振りに伝書燕がやってきた。
「お姉ちゃん!ハンネが来たよっ!!」
「今回は間隔があいたねぇ。忙しかったのかな~?」
「ハンネ!ハンネー!!こっちだよー!!」
いつもの様にハンネがエルの肩に止まり頬ずりをする。いつ見ても、この光景は微笑ましい。
「はいっ!」
手馴れた様子で真鍮製の筒を外したエルが手渡してきた。
「ありがとー。ハンネもありがとうね。」
「じゃあ、ハンネと遊んでくるねーっ!」
「いってらっしゃい~」
一ヶ月もの期間が開いたのは、今回がはじめてだったので少し心配していたのだ。何事もないといいのだけど…私は工房にいき、真鍮の筒をあけた。
「え?そんな…」
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アディへ
期間が開いてしまってごめんなさい。困った事になってしまいました。
アステア王国でクーデターが起こり、家族との連絡が途絶えてしまいました。
アステアに戻るべくすぐに行動を起こしましたが、叶いませんでした。
クーデター側が海路を閉ざし入国を制限する旨の通達がこちらの国に来たのです。
帝国を抜ける手段も考えましたが、帝国側もまた入国を規制したそうです。
ハンネに頼んでも飛んでくれませんでした。魔力が追えないという事です。
助けて貰ったあの時ハンネはアステア王国からこちらに向かう為に移動していました。
イロンデルは最短経路で目的地まで飛びます。
アディは、アステア王国の住民ではないですか?
もしそうならば、国内は一体どうなっていますか?
国王派の貴族達は無事ですか?
何でもいいのです。何か知っていたら教えて下さい。
クララ
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縋る様な思いの詰まった手紙だった。心なしか字も乱れている…。
クララさんは、アステア王国の貴族で国王派なのだろう…伝書燕が飛ばないという事は、主に魔法使い用に使われる牢屋などに幽閉されているか…或いは…
帝国派によるクーデター…帝国が陸路を閉ざすなんて、どう考えても絡んでる。アステア王国を手中に収めて何をする気なのだろうか…この周辺国家で武力に於いて、帝国は最強だと言われている。攻め入るのではなく、内部から崩壊させた目的って何だろうか…
この世界に疎い私には、考えても答えはでない。
それよりも…クララさんの家族の事だ。
なんと返事を書いたら良いだろうか…何も知らないとだけ書くのは簡単だ。何かを知っている訳でもないし、力になれる事もない…経路の話を見るに、クララさんはがいるのはヴィドルシス教皇国だろう…アステア王国とヴィドルシス教皇国の間には、死の大地しかない。迂闊な事を言えばここがばれる。
何も出来ない悔しさともどかしさで心がぐちゃぐちゃだ…
私は、迷いながも万年筆に手を伸ばした。
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クララへ
大変な中、お手紙ありがとう。心配していました。
きっと縋る思いで、私にお手紙を書いたんだと思います…でも、ごめんなさい。
私は、家族だけで人里を離れ生活しています。
クララとのお手紙だけが、私と外を繋ぐ物なのです。本当にごめんなさい。
もしも、何か聞ける事ができたなら必ずお知らせします。約束します。
クララのご家族が無事である事を祈っています。
ハンネに薬を持たせます。とても貴重なお薬です。何かに役立ててください。
アディ
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私は、小さな瓶に魔樹の実の汁を入れハンネに持たせる事にした。
シルバーのチェーンを付け首から下げられる様に、せめてお守りになる様に…
文通相手からの薬なんて信用できないかもしれないけど、これが私にできる精一杯だ。
翌朝、ハンネの足に真鍮製の筒を付け首から皮袋を下げさせクララの元へと送り出した。
「ハンネーッ!!いってらっしゃいー!またねー!」
エルがハンネに手を振っている。
もしかしたら、ハンネはもう来ない事もあるかもしれない…そんな可能性がある事を、私はエルに伝える事ができなかった。
どうか、クララの家族が無事でありますように…




