1-3 赤い水晶
3話目です。
真琴のサバイバル初日の夜を迎えるお話。
そこそこ近いと思っていた切り立った崖は、それなりに遠かった・・・
自宅の近くの山も行こうと思ったら結構遠かったし、大きい物は距離感が狂う。
簡易帯靴があるとはいえ、無理な動きはできない。
砂利が痛くない、怪我しにくい、ただそれだけで小石は痛いし尖っていれば刺さりもする。
あるとないとじゃ大違いだけど、普段履いていた靴のそれとも大違いだ。
とはいえ、火を起こす為の素材を探して歩いているのでむしろ前より足元を見ている。
時折前方を確認しながら下を向いてあるく。
「何もない・・・。石系な物しか転がってない・・・。これは困ったぞ・・・」
風で飛ばされてきた何かしらがきっとあると思って探しながら歩いたが全く見つからない。
人工的な物があるとは期待していなかったが、落ち葉ひとつないとは想定外だった・・・
まだ日が沈むには時間がありそうな気がするが、歩き出して1時間位・・・ちょっと泣けてくる。
更に30分程歩いた。
「これは・・・厳しいなぁ・・・」
足元の岩がどんどん大きくなっていく。
少し先には浅間山の鬼押出しを思わせるような風景が広がってきた。
一瞬、火山なのかと思ったがどう見ても溶岩ではない、岩だ。
どうやったらこんな地形ができるんだろう・・・
噴火じゃないなら何だろうか?
グランドキャニオンの様に浸食作用で出来上がった地形なのだろうか・・・それにしては平面すぎる気がするし、浸食作用ならもう少し土地に緑があってもいいはずだ。
それに足元は土ではなく砂と石と岩だ。有機物がないってことか・・・
人の痕跡もない。長い間この環境で土壌ができあがらないと言うことは・・・
「・・・・・・・・・・・・・っ!ダメダ!歩かなきゃ!!」
この足場の悪い中、小さな体での移動はかなり"来るも"のがある。
現実逃避なのか、つい足を止めて考え込んでしまった。
これが観光ならば、大自然の神秘と謎に身を委ねてしまうんだけども・・・。
ってダメだ、気持ちを切り替えないと。考えるのは落ち着いてからにしよう。
チャンスを見落としてしまうかもしれない。
更に30分程歩いた。
辛い、辛すぎる。
乗り越えるレベルの岩も増えてきた。日も暮れてきた。
火を起こすための物は何一つ拾えて無いけど、これ以上は危険だ。
場所を決めて少しでも休める体制を整えよう。
目の前の少し高い岩に登り周囲を見渡す。
良さそうな場所が見えた。まだ少し距離はあるけどもう妥協はできない。
休みたい気持ちが足を逸らせる。
「ドッコイショー!ッシ!・・・・・・・よし、ここから降りれる。」
婆臭いと言うことなかれ、体力的には限界で声を出さないと昇り降りが辛いんだ・・・
降り易そうな箇所を見つけて慎重に擦り降りる。
血は出てないけど体のアチコチが白く汚れ皮が剝けてしまっている。
しかし、ここを降りれば今晩の野営地だ。
着地地点に目を凝らして確認し、飛び降りるっ!!
---ポスンッ!!
軽いって素晴らしいっ!
縮んだのは色々と厄介ではあるけど、身軽な体って素敵だなぁ~。
っと、喜んでる場合じゃないね。
私がここに決めた理由は、大きな岩が迫り出してて少し屋根になってるから。
これは雨対策。
水分は欲しいけどずぶ濡れになるのは困る。体を冷やすのは良くない。
そしてもう1つ、少し窪んでいて風避けになるかもと思ったからだ。
思ってた通り良さそうだ。
焚き火ができない以上、身を隠せて雨風・夜露を少しでも防ぐしかない。
できるだけ壁際に平たくなる様に石を並べ、そこに腰を落ち着ける。
「はぁ~~~~~~~やっと落ち着いた・・・」
前はこんなに歩いたら足が浮腫んでしかたなかっただろうに、今はただ疲労感があるだけだ。
とは言え、朝までは動くつもりもないので簡易靴帯は一旦解く。
念の為足の裏を確認・・・・・外傷なしっ!
簡易帯靴の汚れを軽く叩き岩の上に広げ飛ばないように重しをしておく。腰紐も取っておこう・・・
皮袋と腰紐も岩の上に置き、腰紐も念の為重しをしておこう。
さて、これからどうするか・・・もう微かな明るさしかない。間も無く真っ暗になるだろう。
早々寝て、日の出と共に動き出すのが良さそうだ。
獣対策の意味でも火が欲しかった訳だけど、ここまで歩いてみて生き物の気配を一切感じなかった。
きっと大丈夫だろう・・・たぶん・・・。
それにしても、ここは一体どういう場所なんだろう・・・。
こういう地形は私の知識の中にはない。
実際ここにいるんだから在る事は分かったけど、人里の無い田舎でこんな場所が日本にあっただろうか・・・。日本は人里を離れるとだいたい緑が豊かだ。
やはり海外なんだろうか・・・。
昼間は、【悪意ある第三者による物盗りと隠滅の為の拉致】と思ったけど色々不自然だと思いはじめてきた。
隠滅の為に海外まで運ぶだろうか・・・私は大金を持っていた訳ではない。
むしろ、携帯と数千円の入った財布と化粧ポーチと自転車しかあの時は所持していなかった。
わざわざ遠くまで私を捨てる事にメリットがない。むしろ金銭的には大損だ。
更に、縮んだ体とわざわざ着せてくれたガラ袋ワンピース。
この体は【黒い雷】のせいなのか【悪意の人】のせいなのか・・・考えても結論はでない。
あの水晶も一体なんなのだろうか・・・何の為に持たされた物なのか。
水晶の事を思い出して視線を横に置いた皮袋の方に向ける。
皮袋の口が開いてしまっていたのか、【赤い水晶】が飛び出していた。
「ん・・・?光ってる?」
そうだ、昼間確認した時に光ってるような気がしたんだったっ!
明るいから反射か何かかと思ったけどやっぱり光ってる?
---恐る恐る皮袋に手を伸ばし口紐を開く
「うわっ、本当に光ってるっ!何これ!?あ、ちょっと暖かい・・・」
青い方は冷たいと思ったけど、赤い方も暖かかったのか・・・気がつかなかった。
それはとても小さく、淡い光だったが心細くなっていた私にとって希望のように見えた。
少し安心したせいか急に眠気が襲ってきた。
「お腹・・・・すいたなぁ・・・水・・・飲みたいなぁ・・・・・・スー・・・スー・・・」
真琴は、【赤い水晶】を大事に胸に抱え仄かな温かみを感じながらゴツゴツした岩の上で丸くなって眠りについた---
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