1-21 どんぐりクッキーとお爺さん
21話目です。
アデールが久しぶりの美味しい食事をするお話。
転生31日目の朝。
私は起きてすぐ寝床をでて食事も取らずに土器作業場へ向かった。
昨晩、新しく作った土器を埋めて焼いていた場所から上がっていた煙が消えていたのでそろそろ冷えて触れるはずなのだ。しかも今までで一番手ごたえのある出来だった。そんなんで、私は急ぎ確認しに向かっている。
掘り出すのはもちろん手動です。
木の枝で少しづつ掘り出していく。"ホール"なんかつかったら全部消えてしまう。1回やってもう懲りました。どういう原理かわからないけど、埋まってる物ごと消えてしまう。どこに消えてるのかは謎です。
暫く掘り進めると煤がでてきた。そろそろだ…
「あった!…割れて…ないっ!割れてないっ!やったーーっ!!」
土器鍋を頭上にあげ小躍り。頭から土を被ってしまった…
大小様々な土器鍋と土器瓶、それに土器プレートとお茶碗とお皿数点。
釜ではなく土中で、陶器を焼くような形になってしまったがなんとか形になったっ!陶器用の窯ができたら釉薬とかで着色とか絵付けとかしたいなっ!
土器というより、陶器の素焼きに近くなってしまった私の鍋達は丈夫にできあがってくれた。
一番大きな鍋の中に幾つかの作品を入れ棲家に戻る。
そのまま泉へGO!まずは作品を洗い自分も洗う。土塗れになってしまったからね。
水浴びを済ませたら作業開始だ!
まずは、小さな土器鍋に水とユスラウメを投入し潰す。火にかけて沸騰するのを待つ。
その間に、マテバシイを割っていく。只管割る。石で割って中身を木製ボウルへ殻は竈の中へ。たまに間違えて殻をボウルに実を火にくべてしまうがご愛嬌だ!なんせ気が遠くなる程あるからね。
たまにユスラウメを摘みつつ、鍋をかき混ぜたりしながらマテバシイの実を割っていく。
30分近くユスラウメを煮詰め、蜜の実を3粒ほど投入し再度かき混ぜで1品目完成!
ユスラウメのジャムです!!冷めたら土器瓶へ入れなおす予定。
マテバシイは木製ボウル一杯になったところでとりあえず終了。
今度はそれを土器プレートで炒っていく。香ばしいいい香りがしてくる…
転生31日、ずっと草ばっかりでした…ユスラウメで誤魔化してきたけど主食は完全に草でした…コレが上手く行けば主食交代!新時代がくる!
1つだけつまんでみた。…ホクホクして香ばしい香りが鼻を抜けていく…美味しいっ!涎が止まらない…
炒り終わったマテバシイを大きめの土器鍋に移して磨り潰す。この土器鍋のいい所は、釉薬がされていないので表面がザラザラしている事だ。磨り潰すには丁度いい。無心で棒を使い磨り潰す。
マテバシイの粉、シイ粉に数個の蜜の実と水を入れ捏ねていく。
出来上がった種を土器プレートに乗せて麺棒で伸ばしていく…厚さ5mmほどまで伸ばして一口サイズにカットし間隔をあけて置き直していく…
ここまでくれば後は焼くだけ!加減がわからないので弱火でじっくり火を通していく…
もう目が釘付けだ。たまらないいい香りがしてきた…もうすぐだ…
『お前さん、面白い事しておるのう…』
後ろから声を掛けられ、驚いて振り返る。
そこには仙人と表現して問題ない髭を蓄えた賓の良さそうなお爺さんがいた。
『焦げるぞ?目を離していいのか?』
「あっ!あああっ!っとセーフ!…よかったぁ…」
火を消し、菜箸で木製の器に完成したシイクッキーを移していく…
『ふむふむ。上手いもんだのう…そんな2本の棒切れで良く掴めるわ』
「あ、ありがとうございます…で、えっと…どちらの精霊様ですか…?」
最初こそ驚いたが実は来るんじゃないかって思っていた。今朝から2度程、耳鳴りがしていたから。
『ほう?気が付いておったか…侮れないのう人族の小さき者よ』
「あ、いえ…波長を合わせようとしてくれてましたよね?それで、精霊様かなって」
『そうかそうか。あれを感じておったのか…まさか波長合わせに手間取るとは思わんかったからのう…』
「私、アデールと言います。一緒にお昼ご飯にいかがですか?美味しいかわからないですけど」
私は移し終ったシイクッキーのお皿を見せながら昼食に誘ってみた。
『食す意味はないのだがのう…味覚は持っておるから頂くか…』
「では、こちらへどうぞ!少しだけ待ってて下さいね!」
精霊様をテーブルセットへ案内しクッキーを置いて、ユスラウメの果実水と先程できたユスラウメジャムを持ってテーブルへ戻る。このテーブルセットは、食事用と作業用に作った物だ。食卓岩は今、水浴びの時服を置く場所になっている。
「こちらのジャムをお好みで付けて食べてください。シイクッキー自体も仄かに甘いはずなので。あ、ただ今日はじめて作ったので色々不安ではあるのですが…」
『よいよい、気にするな。頂く前に名乗っておくかのう…わしは、土を司る【橙の精霊】じゃ。』
「コアトリス様でしたか。ウェンネス様の知識よりお名前は伺っていました。」
『そうかそうか…まずは折角なので暖かいうちに頂くかのう…お前さんも食え』
「はい!いただきます!」
1つ手にとり崩れない事を確認して口に入れる…
シイの仄かな香りと香ばしさと、ほんの少しの甘みがいい具合にできてる。なんてこった、思ってた通りに出来てしまった!私天才か!もっと美味しくないと思ってたよ!卵入ってないし、プレートで焼いてるし…
2個目を手にとりジャムを浸けてみる…やっばい…むちゃくちゃうまい!ジャムの出来栄えは確認してたけど、これはうまい!
手が止まらず更に何個か食べたところで、ハッとして前を向いた…
ニコニコしたコアトリス様がこちらを見ていた。
「あ、なんかごめんなさい!まともに調理できたのが久しぶりで…美味しくてつい…」
『そうさのう…朝から見ておったが…なんとも一生懸命で生き生きとしとったな』
「お恥ずかしい…」
『よいよい。それにしても久しぶりに人族の物を食べたが…うまいのう』
「ありがとうございます!よかったです!」
コアトリス様が果実水に口を付け、こちらを見据えて話はじめた。
『お前さんが悪い者でない事は解った。風娘が眠りについておるし、青の奴も地を作っておる。赤のも【核】じゃがおる。3精霊の気配が集中し動かずにおるので気になって来てみたわけだが、捕縛ではなく保護の様子…お前さんは何者じゃ…?全く中身が見えん。精霊の心眼を防ぐなど聞いた事がない…』
「えっと、全ての答えになるか解らないのですが…私は異世界からの転生者で───」
それから暫く掛け、ウェンネス様の言っていた事や今日までの事を話した。
コアトリス様は、黙って最後まで話を聞いてくれた。
『そうじゃったのか…大層難儀な…【神の落し子】か…加護を授けて少し見えたか…?』
コアトリス様が髭を触りながら何かを考えている。
『ふむふむ。では、わしも見てみるか…お前さんに加護をやろう』
「え?でもウェンネス様は加護をくれた後眠りに…魔力を沢山使うのですよね?」
『あの風娘と一緒にするでない。あの娘は考えなしのところがあってのう…人族に接触しては魔法を行使し、無闇に魔樹を植えて回っておったからのう…暫く大人しくしとったと思ったらコレじゃよ…』
「そうなんですか…ウェンネス様ってそんな感じだったんですね」
『精霊とて万能ではない。向き不向き、良し悪しがあるもんじゃ…特に風娘は、空を自由に行き来できる分色々見ておったのじゃろう…かわいそうな娘じゃ…』
「・・・」
『転生者のお前さんが気にする事ではない。さて、わしも色々と確認したいからのう…加護を授けるぞ』
「はい、お願いします」
コアトリス様に誘導されてテーブルセットの脇に立たされ膝を着く。
コアトリス様の手が私の頭に置かれた。
『汝、アデール 我、七精霊 土を司りし【橙の精霊】の名に於いて【土の加護】を与える。神と大精霊の祝福があらんことを・・・』
暖かい光が地面から舞い上がり、私を包んだ───




