1-17 大地豊穣2
17話目です。
大地豊穣のちょっとややこしいお話。
魔法が使えるようになって更に二日、転生9日目。
私の生活は、ほんの少しだけ良くなった。
泉のお陰で水に困らなくなった。石鹸はないけどある程度の清潔を保てるようになった。棲家の中に藁が追加された。皮袋が使えるようになったので尖った石を常に持って歩けるようになった。
風の魔法が少し使えるようになった。真空を使って鎌の様にし、前方1m位の草をカットできるようになった。遠くまで飛ばしたり、範囲を広げる事はできてない。なので"ウィンドシックル"と名付けた。 1回1回イメージするのが面倒だったので、これはそういう物だと意識する為に名前を付けてみたら上手くいった。名前をイメージするだけで魔法が行使できたのだ。凄い発見だ!
藁を寝床に使ってしまったので、二日かけて作った10束を短い時間であっという間に作り直す事ができた。運ぶのは自力なんだけどね…何か便利な方法はない物か考え中。
同じ要領で、服の乾燥の為の"ブロワー"とまだ薪は無いけど"ライター"が使えるようになった。
そして、私の"大地豊穣"の地に変化がないという変化もあった。
最初に気が付いたのは、寝床の周辺の草が倒れたままだった事に疑問を感じたからだ。一見普通の事なので気が付くのが遅れてしまった。前日に刈った草を確認したところ生えてきていなかった。生えてくるのがおかしかったのに生えてこないとなると気持ち悪い。
あちこちから柔らかい草を採取していて気が付かなかったがこのままでは食べられる草が無くなってしまう…
いつから草は倒れたままだっただろうか…そうだ、【青の精霊核】の場所を決める直前だ。
あれは、魔樹が生えた翌日…
魔樹のせい…?あ…"大地豊穣"での魔力が馴染み終わったから?あの3日間、切っても切っても食べても食べても元に戻った。どういう事だろう…
もう1度【知識の一端】さんに"大地豊穣"の事を確認しよう。
通常の"大地豊穣"は、魔力量の多い4~5人で年4回行う、その理由は3ヶ月掛けて大地に魔力を馴染ませ、次の季節の実りを豊かにする為だ。範囲は100km。
私の"大地豊穣"は、私一人で出来る。魔力が馴染むまで3日。最初の範囲は25m、今後範囲を広げる事も可能。まぁこの広げる範囲は最初の25m相当なんだろうと思うけど…
よくよく考えるとちょっと変だ。いや、全部変なんだけども…そうじゃなくて!
えっと、次の季節の実りを豊かにしたいから"大地豊穣"をやってきてたわけで、年4回やるって言ってるしずっとやってきた事なのだろう。私の"大地豊穣"みたいに切っても食べても元に戻るなら毎回季節ごとにやらなくてもよくないかな?1回頑張っていっぱい収穫して回数減らせないかな?3ヶ月取り放題だよ?凄い事になるよね?
それに馴染む期間は次の季節の為だ、じゃあ今の季節の実りが豊かなのは?
"大地豊穣"での魔力=土の栄養 みたいに考えてたけど違うのか…
一頻り考えてそれっぽい仮説ができた。
通常の"大地豊穣"で大地に送られた魔力は、大地の中で3ヶ月過ごし栄養みたいなのを一気にばら撒く…その栄養を使って作物が育つ。収穫は普通に1回。
ここからは余談も含む話。毎回やらなくても栄養はなくならないけど、収穫量が増えるから毎回やってた。でも戦争が激化して魔法使いが戦争にいってしまった。"大地豊穣"をしなくなったが大地の栄養は残っていた。それでも収穫はあるから偉い人は"大地豊穣"を軽視したんじゃないかな…お金持ちに農家の苦労は解らない。畑を増やしたり休ませたりしてなんとか頑張ってたんだと思う…"大地豊穣"があったから肥料が存在するか怪しい…
その先は正直想像したくない…
大地が痩せている。魔樹も減少。白魔素が減って魔力も満足にない。生物は成長に魔力も必要としてる…。
「人族絶滅してないよね…?」
言葉を口にして慌ててその想像を振り払う。今はその事を考えてる場合じゃない。
私の話だ。私が絶滅するっ!悪い想像を勝手にしておいてアレだけど、見たこともない他人は救えない。もしかしたら打開策があって元気かもしれない!切り替えよう、そんなの後回しだ!
そう、それで私の"大地豊穣"だけど、通常の方の仮説を考えると馴染むまで3日とかどう考えてもおかしい。たぶんもうやった端から馴染んで栄養をぶちまけてるんだと思う。それが尽きて栄養最高値になるのが3日目。そこからは普通。その期間はわからないけど栄養のある普通の土地になるんじゃないかな…?
【精霊核】が"大地豊穣"の影響を受けた土地と魔樹を必要とするのは、凄く肥沃な土地で白魔素っていう食事が常に必要な場所って意味なんじゃないかな…毎日食事がでるならどこでもいいんじゃなかろうか…気になる…【赤の精霊核】で実験してみよう…駄目なら目覚めない訳だしやり直せばいい!
そろそろ日も暮れてきた。夕飯取りに行こう。
籠を小脇に抱え、夕飯を探す。念の為、明日の朝の分もだ。この後やる事がある…
そういえば、日が暮れるで思い出したけどこの世界の太陽はおかしい。
そもそも太陽じゃないと思ってる。明るくなる時も暗くなる時も全体が一斉になる。
曇ってるから日の傾きが解らないのだと思っていたがそうじゃないっぽい。この世界の人族はどうやって時間を計ってるのだろうか…いつか確認したいな。…絶滅してなかったら…
手早く夕飯を済ませ、水浴びをし、色々片付け、寝るだけの状態にする。
寝床の藁を少し掻き分け地面を露出させ両手をつける。
目を閉じて、一呼吸…前は勝手になったのでコレがはじめてだ。
体内の魔力に意識を向け地面に薄く薄く膜の様に延ばしていくイメージをする。すると不思議な事に上空から見ているかの様に伸びた魔力の範囲が頭の中に映る。凄い…。
どんどん伸びる…25mの範囲ぴったりで一度魔力膜が止まる。
「ここからだね…」
もう1度深呼吸を挟んで集中していく…更に膜を広げるように意識する。
広がっていく…どんどん広がる…
25mの端から更に5m程進めた円が出来上がった。
頭の中で魔力の配分を決める。
私の今ある魔力の9割をつぎ込む。25m範囲はその魔力の半分を、新たな土地に残りの半分を…
目を開き大きく息を吸い込み───「"大地豊穣"!!」
両手から一気に魔力が抜けていく。魔力が届いた範囲の地面が発光しているのが解る。不思議な感覚だ…。今見ている物とは別の映像が頭の中で流れている…
魔力が全域に届くと、一度強く発光してゆっくりと消えていった…
「…終わった…出来た…。うまくできたんじゃないかなぁ…?」
9割の魔力を使ったので体はだるいが意識が途切れる程ではない。
備えていたけど大丈夫そうだ。
喉が渇いたので少し重い体で外に出る。もう真っ暗だ…
辺りがザワザワとしている…効果が出ているのだろうけど、夜は怖い…
急いで水を飲み、足早に寝床に戻る。
「夜怖い…水差し作ろうかな…」