1-14 魔力
14話です。
アデールがはじめて自分の意思で魔力に触れるお話。
「…よしっ!」
決心をした私は、【青の精霊核】の入った皮袋を掴み寝床から外へでた。
先程踏み固めた食卓周辺を見渡し、食卓から魔樹と反対方向に五歩程進みもう一度周囲を見渡す。
【緑の精霊核】は大きな花になった。森を司るから自然の植物を模した地にしたのだろう。
【青の精霊核】は水を司るから、水場が生まれるはず…。水草とか貝とか水棲生物の可能性もなくはないけど、水が無ければ駄目なので結果として水場になるはずだ。
もしこれで駄目なら、現状水分を取る手段がなくなる。
他の方法を探すか、旅に出なくてはならない。
賭け事はあまり好かない。でも、今か賭けるしかない。
【緑の精霊核】の花は、花としては大きいがそれ程場所も取らない状態だったと思う。"大地豊穣"の効果範囲25m内、【青の精霊核】の目覚めの地の大きさもそれ程ではないと思う…そう考えると何処で目覚めさせても大差ない。もしかしたら一帯が水浸しになるかもしれないが、それはその時考えよう…魔樹がマングローブみたいになって、草むらが田んぼみたいにになってしまうな…。
理想は、今の棲家である魔樹の横にある小さな池だ。素敵っ!
更に3歩、魔樹から遠ざかる様に歩を進めその場で座り込む。
地に置くって話だから、少し草を抜いた方が良さそう。簡易帯靴を足から外し両手にグルグルと巻き付けていく。子供の頃、遊んでいて手を葉で切った事があった。この成長しきったイネ科の謎の草の葉は堅い…たぶん、握って引き抜いたら手が切れると思う。念の為やっておくに越した事は無い。これ以上怪我は増やしたくないし、何より葉とか紙で切った傷は痛い。他の怪我より苦手な痛みだ。
皮袋を横に置き、一株の根本を両手で掴んで一気に引き抜…けなかった…
子供の力と根の力を舐めていたわ…。
2度3度と力を込め、5度目にして漸く抜けた。根の土を払い落とし、抜けた草を横に置く。次に手を掛け同じ工程を繰り返す。10株程抜くと20㎝位のスペースが出来上がった。
すぐに始めようと思ったが、今朝の事件を思い出した…片付けよう…
簡易帯靴の土を落として足に巻き直す。中敷きも忘れない。
草を肩に担いで食卓まで戻り、籠ちゃんに鋭い石を入れ小脇に抱えて草の束干し場の岩まで移動。鋭い石で草の根を切り落とす。ほとんど擦切っている様な状態だが切れればなんでもいいのだ。根を落とした草を干し草の横に並べ根元に重石をしておく。根はそのへんに放り投げました。何れゴミを捨てる穴を掘らないといけないな…トイレの穴も作ろう…毎回岩場まで行くのも面倒だし…
棲家方面に歩きながら今晩の夕飯を摘んで歩く。魔力が増えたら体が軽くなった、魔力を使ったら怠くて動きたくなくなるかもしれない。他の人族も魔法で戦争している訳だしきちんと加減が解れば怖がる必要もないのだろうけど…私は一度死にかけている。しかも魔法初心者だ。警戒して損はない。動ける今の内に夕飯を集めておく。杞憂に終わればそれでいい。なるべく備えるべし。
更に念の為を考えて夕飯一杯の籠は棲家に置く。水でびちゃびちゃになったら困る。
思い当たる準備を整え、草を抜いた場所まで戻る。また草が生えてたらどうしようかと思ったが、まだ大丈夫だった…"大地豊穣"の効果が強いのはいいけど、このままじゃ不自由すぎる…4か月分の栄養を大地に送ると考えるとこうなっても仕方がない事なのかもしれないが、種もないのに生える原理が解らない。【知識の一端】さんが答えてくれないって事は…ウェンネス様が気にした事がないのか、種自体がない世界なのか…いや、それだと人族が増えなくなるな…国がある位だ、農業は行われているはず…解らん。
その辺は後々考えよう。畑の前に水だ!
皮袋から【青の精霊核】を取り出し、草を抜いた土に置く…両手を翳して…
「はて…魔力ってどうやって与えるんだろう…」
【知識の一端】さんの答えが返ってこない…。【精霊核】【魔法】の両方にHITしそうなもんなのに応答がない…。これは困ったぞ…。最後の最後で解らないとか…。それっぽい事を兎に角やってみるしかない。
両手に力を込めてみた。指が反る程力を込める。…反応なし!
そのままの恰好で肩から腕かけてもにも力を込める。…反応なし!
足を開いて全身に力を込めるっ!…反応なしっ!
一端身体の力を抜いて掛け声と共に一気に全身の力を込めるっ!!…反応なしっ!!
呪文か?呪文がいるのか?魔法ぶっ放す訳じゃないけど呪文がいるのか?
「魔力あげますっ!」…反応なし。
「魔力よ!出ろっ!」…反応なし。
「【青の精霊核】に私の魔力を訳与えたまえっ!」…反応なし。
過去にやったゲームでMPとかSPとか渡す技があったはずだ…思い出せ…
「マ…マジカルリジェネ!!」
「ソ…ソウル…ソウルヒールッ!!」
違うこれっ!回復させる呪文だ!あげるやつ…譲渡…
「マジヤル!マジヤズン!マジアゲル!!」
「ソウルトランスファー!」
「マジックギフトッ!!ハイマジックギフトーッ!!」
なにこれ超恥ずかしいーーーーーーっ!私、阿呆なの?完全に魔法に憧れた小学生みたいじゃないですかーやだー!顔が熱い…穴があったら入りたい…
冷静になろう…落ち着けアデール。大丈夫…誰も見てないから…。
ウェンネス様は、魔力をくれた時私の額に何かしてくれてた。その時呪文は無かった。【知識の一端】は手を翳すって言ってる…。やり方は色々あるのだろう…
単純に体に力を入れても意味がない事はわかった。
魔力って何…魔法って何…魔法を行使するってどうするの…
「…。」
【知識の一端】さんが今更返事をくれました…。
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魔力 あらゆる生命の内側に存在し全身を循環している。魔法の行使によって放出されるが、白魔素を取り込み魔力へと変換する事でその個体の上限まで貯める事ができる。魔力が減り循環する量が一定値を下回ると行動力が低下し意識を失う、枯渇状態が長く続くと死に至る。成長もまた魔力を必要とする。
魔法 体内の魔力を消費し属性を放つ事ができる生命活動の一つ。魔法には七種の属性がある。属性の才能や遺伝子が無ければ扱う事が出来ないが、生命は必ず一つ以上の属性を持ち生まれる。
魔法の行使 体内の魔力の循環を感じ、属性を選択、その属性を考慮し行使する状態を鮮明にイメージする事で体外に放出する事。
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分かった。ウェンネス様にとって魔力を与える事は魔法じゃないんだ。「魔力の与え方」では【魔法】の知識の検索にはHITしなかったのか…。そして【精霊核】には、やり方は書いていても詳しい説明は入っていないって事か…。そんなの解らないよ…説明なかったもん…。
「では、改めまして…」
私は両膝をつき膝立ちの体勢で両手を【青の精霊核】に翳し目を閉じた。
自分の中の魔力を探す…。地球で45年生きた。肉体になかった何かを探すのは難しくないはずだ。【ガー・ナーク】の生物は皆、魔法を使える。私もできるはずだ…
風が魔樹を揺らしザワザワと音を立てている…
自分に意識を向けると心臓の音を感じる…鼓動が一定のリズムを刻んでいる…
手首の辺りの血管が脈打つのを感じる…地面についた膝からも感じる…
腹部の辺りも脈動を感じる…あったかい…
腹部の辺りに感じた脈動が流れ始めた…どこへ行くんだろう…腹部でグルグルと周回し身体の外側を沿うようにゆっくりと動いている…心臓の鼓動とは違うもっとゆっくりとした速度で全身を巡る…
もしかして、コレが魔力…?
「魔力を与える」事は魔法ではない。ならば、属性の選択と考慮の部分を飛ばして【青の精霊核】に分け与えるイメージだけをすればいいっ!
感じた流れを少しだけ手から溢れさせ指先から雫が滴るイメージで分け与えるのを想像する。
恐る恐る目を開く…ん?失敗…?こうじゃなかった?
そう思った瞬間、指先がムズムズし始めた。
「お?…成功なの?……え?えぇぇ?ちょっとちょっとストップッ!!」
掃除機で指先を吸われているような感覚に襲われた。慌てて両腕を引っ込め、後ろに倒れた。
【青の精霊核】の中心部分に気泡が立つ。気泡はどんどん増え、まるで沸騰しているかの様にゴポゴポとし、今にも破裂しそうに振動しはじめたっ!
私は尻餅をついたまま後ずさる。離れよう!そう思った瞬間、地面が沈み始めた。
「おぉぉぉ…にげ…逃げなきゃ…」
魔力を予想外に吸われてしまったのか、上手く移動できない。
食卓岩の所までなんとか這いずり、上半身を食卓岩の上に持たれかけて後ろを振り返る。何故か地面から岩が生えてきた。なんでっ!?
「あれ…?視界が…霞む…」
私は、意識を失った。
お話の中で登場するゲームの呪文は、
私の知るゲームの呪文をもじったり、それっぽいのを考えてみました。
本当はもっと沢山叫ばせたかったんですが解り易いのが思い浮かびませんでした…
「その呪文、ゲームにあるよ」とか「呪文作ったよ」というご意見あれば宜しくお願いします!