1-13 巨木と精霊核
13話目です。
現状1番文字数の多いお話になってしまいました。切りのいいところを作るのは難しい。
痛い。物凄くお腹が痛い…
押しつぶされそうな腹部の痛みで目が覚めた。良くない草でも食べてしまったのだろうか、それとも草しか食べていないからだろうか…。目は覚めたものの痛みで目も開けられない。腹部を押さえて丸まるような姿勢を取りたいが体が思うように動かない…。
喉を潤したい。そんな衝動に駆られ身を起こそうと目を開ける。
視界一杯に木の肌が映った…
本当に腹部を押されていたようだ…。
急成長した魔樹と偶々背にしていた岩の間に挟まった。幸い頭部は、木の根の開いた部分にあった為潰されなかった。少しづつ身を動かし体を出そうと試みる。完全に芋虫状態だ…。
横向きの姿勢で挟まっていたので、少しづつ上へと体をずらす。左腕で体を支え右手で探るように掴める場所を探す。挟まってる故にかなりきつい体勢だ。油断するとまた落ちる。早く脱出しないと…
寝床の岩の上部は平らな感じでも、側面はゴツゴツしている。
数日前までは岩の上で寝ていたが草の上の方が寝やすいので地面に寝ていたのが完全に仇になった。動くたびに背中が痛い。一張羅が破けてしまう…。
どれ位経っただろうか…目を開けたとき辺りはまだ薄暗い感じだった。今は完全に明るい。1時間か…2時間か…辛い時間は長く感じるし、もしかしたら1時間も経っていないのかもしれない…左腕の感覚が無くなってきた…しかしこの支えを取ると自重で努力が水の泡になる。
「まさカッ!こんなことニーーーッ!なるなん…テェェェッ!!」
一言毎に気合を入れて体をずらす。全部語尾上げ、一昔前のギャルもビックリだ。
少し背中の上部(横になってるから本当は腰の右側)に余裕が出来た気がする…。いや、できてる。もう服が破けようが、少々怪我しようが関係ないっ!!
右手で掴める所を探りいい場所を探す…あった!!左腕を踏ん張り、右手で引き上げ、身を捩るっ!
「イダダダッ!イギギギギギッ!ッァアアーーーーッ!!!!」
ブチブチブチッ!と一張羅が裂ける音と共に身体が開放され、勢いそのままに草むらに突っ込んだ。
「抜けたあーーーーーーーっ!!!!」
仰向けになり両手両足を投げ出だした。なんという開放感!!
目をつむり息を整える。辛かった!苦しかった!転生して6日目、まさかこんな事で死に掛けるなんて思いもしなかった!背中とお腹がヒリヒリする…血が出てないといいな…化膿しちゃうかもしれないし…ん?バイキンって生物なのかな?いや、バイキンがいようがいまいが清潔にしないといけない…って今の私に清潔とか…全身ドロだらけだし髪の毛ツヤツヤしてるし…全体的に草臭いもん…
とにかく!こんな事になったのも魔樹のせいだ!大きくなって欲しいとは願ったけど、こんなに急成長して私を殺しに掛かるなんて!起き上がったら絶対蹴っ飛ばしてやるっ!仕返ししないと気が治まらない!
やっとこ息が整ったところで、寝たままの姿勢で睨む様に目をあける。
木漏れ日とまでは行かないが、文字通り青い葉の隙間からキラキラと光が見える。
「木だ…」
文句の一言でも叫ぼうと思っていたのに、そんな当たり前の感想が出てきた。
木だ、そう木なのだ。良く分からないけど…たぶん私は感動しているのだと思う…。草が生えたときも嬉しかったけど、それとは比にならない…胸に何かが込み上げてくる。
身体のアチコチが痛むが我慢しながら立ち上がり、少しづつ後退する。
「樹齢300年の樫の木」を見た事がある。
幹周りが7m近くあり、幹が大きく二股に分かれ、根元にある大きな岩を根で山ごと抱き込む様にした神々しい姿の大樫だ。苔や蔦、木の虚が長い年月を物語る…そんな大木だった。
そして今、私の目の前にあるのは「樹齢500年」そう言われても信じてしまう程の雄雄しい魔樹。歴史を感じさせる苔や虚はないが、太い根が大地を掴むように広がり瑞々しい樹皮をした巨木だ。葉は高すぎて手に取る事はできないが、どことなくあの樫の葉に似ている気がする。幹周りは10m以上ありそうだ…25mの草むらが狭く感じる。
「凄い…これが私の魔樹…」
『神聖な物だから近寄り難いものを感じるはずなの。』ウェンネス様は言っていた。
私の魔力を吸って育ったからなのか、近寄り難い事など無く親しみさえ感じる…。
「蹴っ飛ばしてやるなんて思ってごめんね…。これからよろしくねっ!」
魔樹は生えた。
魔樹と草むらの外周の丁度中間位をぐるっと周りながら、他の変化を探す。
一番の変化は、25mの草むらの殆どが日陰になってしまった事だ。元々曇りなので更に暗くなってしまった。そろそろ火起こしを再開しないとまずいかもしれない。昨日刈った草むらは、また復活していた。無限ループって怖くね?
一周したが、植物関係に周辺に変化はなかった。本当草しかはえねぇ…笑えない。
「とりあえず、そろそろお昼にしよう。」
腹痛は、草のせいじゃなかったのでまた安心して食べられる。美味しくないけど…。
事件現場の寝床岩まで戻り、籠を探す…みつからない…。寝床岩の上に置いてあったはずの籠がない。脱出の時にぶつかって落ちてしまった…?草を掻き分けながら籠を探す。
「籠ちゃ~ん、私のかわいい籠ちゃ~ん。どこいったの~?」
イネ科の謎の草は、切っても切っても踏んでも踏んでもちょっと目を離すとシャキンと元に戻っているので探すのは一苦労だ…遠くまで飛んでいませんように…
腰まである草を掻き分けながら籠を探す。今の私は7歳。小学校に上がる頃の娘はどのくらいだっただろうか…?あ、入学式用に購入したワンピースが確か110だった。地球と同じ感じで成長するかは解らないけど今は日本人の女児と変わらないサイズなんだな…あれ?私は前の私と同じ人間なんだろうか。あ、ここでは人間じゃなく人族なんだっけ…人族の成長ってどんな感じなのかな…?同じかなぁ?
「お?あったー!!」
籠は、魔樹の根元の付近に転がっていた。歩けば寝床岩から数歩の距離。この草マジ厄介。どうにかならないかなぁ…いっそ燃やしてみるか…あ、だめだ火がなかった。まぁ、大事な魔樹が燃えたら困るから火があっても燃やさないけどね…。
「あれ?これは…?おーっ!これは凄い!」
籠を広い上げ顔を上げたら、根と根の間に空間がある事に気がついた。
草を掻き分けながら中に入ってみる…
そこには畳半畳分位の空間があった。一瞬、虚なのか?と心配になったが根の隙間の様だ。樹齢半日で虚があるとか、白髪の生えた赤ちゃんと一緒だ。よかった。
「これは新たな寝床になるな…」
雨風凌げる場所は欲しいと思っていたので丁度いい。3匹の子豚よろしく、藁の家からはじめようと思っていたが手間がはぶけた。いきなり木の家ゲットだぜ!
小脇に籠を抱え、柔らかい草を採取する。
ついでに草束を確認しに立ち寄る。水分が抜けてきたのか葉はまだ緑色だがシナシナになっている。青臭さは抜けてきているのでもう少しだと思う。干草ベットはまだお預けだ。
いつもより少し多目に採取して戻る。朝は事件で食べられなかったのでしかたない。
本当は美味しくないのでさっさと食べ終わりたいのだが…これまたしかたない。
寝床岩は、食卓となった。君とは長い付き合いになりそうだ、よろしくね。
辛く苦しい食事を終え、新しい寝床と寝床岩改め食卓岩の周辺草を踏んで歩く。
食卓岩の横にあった、枯れた魔樹の枝束を新しい寝床の入り口脇に移動し、【青の精霊核】の入った皮袋や未使用の投擲用スリングとそれに包まれたままの【赤の精霊核】を新しい寝床の中へ持ち込み引越し完了。
腰を下ろして身体の確認をする。
ガラ袋ワンピースの腰部分が10cm程破けていたが修復可能な感じだ。身体のほうは、アチコチ擦れて皮が剝け所々に痣と小さな出血はあるが大丈夫だ、問題ない。
問題は、魔力だ。私は、白魔素の変換効率が良く魔力の蓄積量も多いらしい。今朝の事件があって実感していなかったが、怪我があるものの明らかに体調が良い。魔力が回復して来ているのだろう。
【精霊核】について考えてみる。色々な疑問を投げかけていく。
【知識の一端】曰く、【精霊核】を"大地豊穣"の効果を受けている魔樹の傍ら地面に置き手を翳して魔力を送ると、その魔力に反応して【精霊核】が目覚める。目覚めた【精霊核】は、内包している自らの魔力を使い司る属性に合わせた地を作るそうだ。
過去に1度だけ【精霊核】が産み落とされた事があるそうだ。森を司る【緑の精霊】様が大森林の災害を食い止め復活させる為に魔力を使い切り、100年後【緑の精霊核】として産み落とされた。それを地を司る【橙の精霊】様が回収し魔力を流して目覚めさせた。そして、2m程の背丈の真っ白な蕾が長い年月を経て開花し【緑の精霊】様が復活したそうだ。
条件は整っている。【青の精霊】様は水を司る。
私の今できる役割と私が今欲しい物が恐らく一致した。やるしかないっ!