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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第十章 舞い月、白銀祭編
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十章四話 『一日目:夜の邂逅(前)』

その時は、波の国(セージュ)北側の宿に半年、住んでいた。


沿岸部ほど人の多い波の国(セージュ)において、内陸部のその村は栄えているとは言い難かったが、村人は穏やかでいい人が多かった。

ただ1つ、村に暗い影を落としていたのは魔物の脅威だ。

村の側の森には既に、広範囲に樹人トレントが分布し、半ば迷いの森と化していた。汚染されているのだ。

そういう土地には大抵、探検家がひょろっと現れては滞在し、軽い衣食住の支援を受けながら魔物への対処を行う。


この村にいたのはアシタバとアセロラだ。


「おっかえりーお兄!ダンジョン調査お疲れ様!!

 お風呂にする?ご飯にする?それとも魔物解体かいたい

 あっ、今日お隣さんからおすそわけ貰ったの!カレイ!!

 あの無愛想なお兄さんによろしくだって!!食べる?煮付けてあるよ、煮付け!!」


迷いの森から帰ってきた兄は、いい加減慣れたのか無反応だ。

カレイか、いいな、と低空飛行な反応を返す。


「どうだったの、森の方は。何か進展あった?」


「……芳しくはないな。どんどん浸食域が広がっている。

 草食の祝福兎イースターバニーの姿を今日見た。

 直に、肉食の魔物を引き連れてくるかもな」


珍しいことではない。

もう少しで勇者が魔王を倒すことになるとはいえ、魔王軍との、戦争の時代だ。

防衛戦線の端々では、そうやって進軍や侵食で、人々の土地に脅威が迫る。

除草剤や間引きで侵食に対応していたアシタバの努力は、あまり成果を出せていない形だ。


「まーしょーがないしょーがない!!

 迷いの森なんて騎士団がかりで対処するものだしね!

 花粉とか棘で迂闊に触れないし、お兄はよくやってるよ!」


「森、焼くってさ」


カレイの煮付けを盛りつけようとしたアセロラの動きが止まる。


「今日聞いた。村の皆で話し合って決めたらしい。

 これ以上、森が汚染されるのを見るのが耐えられないってさ。

 ………勇気のある決断だと、思う」


この時代でのその決断は、土地を失い、難民となることを意味する。

それでも、故郷への愛を優先した。


「でもそれは……一時的には、樹人トレントをやっつけられるけど………」


「………既存の生態系ごと焼き払う。生態系むれとしての抵抗力を失うんだ。

 焼け野原は、魔王軍にとって進みやすい土地になる」


「じゃあ駄目じゃん!!止めなきゃ!!」


「……言ったさ。信じてもらえてないのか、それでもやると決めてるのか……。

 どちらにしろ、決定権は彼らにある」


「嘘つき」


いつもより疲れている兄の顔を、アセロラは真っ直ぐに見据える。


「そんなこと、思ってない癖に」





轟々と、熱が渦巻き火の粉が散る。

暗い夜、森にかけられた火はゆっくりと広がっていく。

1つ、また1つ、木を絡め取り。炎の中へと、飲みこんでいく。


「――アセロラ、ここでもう俺達の仕事はない。次へ行こう」


小高い丘でその様子を見守るアシタバは、悲しそうな顔で言った。


兄はあまり、人と交わろうとはしない。

半年住んだ村にあっても、村人たちと必要以上の交流を持とうとはせず。

探検家組合ギルドでも彼は、いつも孤独を選んだ。

それは、理解をしていたからだ。


森が燃えていく。悲しい。何が悲しい?

半年住んだ村を守れなかったから?自分の不甲斐なさに?報われなかった努力?


そうではない。

村人達が故郷を失って悲しみ、その様子に旅人が心痛める中で、アシタバは火に飲まれていく木々や、鳥達や、そして樹人トレント達ばかりを、悲しんでいた。


ズレている。平等主義者の兄の異端。


人を愛していないわけではない。

だから村人たちのために、アシタバは持てる力を尽くして迷いの森の侵攻を食い止めようとした。

だけど、人への愛だけが理由ではなかった。

やがて森焼きに行き着いてしまうと分かっていたから、樹人トレント達の身を案じてアシタバは迷いの森の食い止めに心身を削った。

人に害為す魔物を思いやるそれは、とても正義と呼べるものではない。

兄は、いつも孤独で板挟みだ。村人も、樹人トレントも、どちらも生きようとした。


「どうなればよかったの?どこへ行き着いたらいいの?」


アシタバは、答えない。

アセロラはその隣に駆け寄って、同じ方向へと進みだす。








「今頃ティア達は接待とかしてんのかな~。めっちゃ気になるぅ~」


「オオバコ!駄目だよ!ほらほら、集中して!!」


盾を構えるアセロラに促され、オオバコはその棍棒を地面に突く。

直後、圧迫された破裂音が鳴る。

地下二階の今、迷宮洞窟の爆弾岩解体作業だ。


メンバーは専門家として、魔物解体家のアセロラ、棍棒を扱う潰し役のオオバコ、

そして少し後方で地図作りを進めるズミの三人だ。


「オオバコ、しゅーちゅー!!ちょっとでも軸がずれると岩が跳ねて危ないんだから!」


「はぁ~でもやる気でねーよこれ。

 アシタバは必要な作業っつってたけど、ここまで視察に来る奴いるのかぁ?

 俺も上で視察の雰囲気に浸りてぇ~。な、ズミもそう思うよな?」


「え?………ああ、うん」


「あーズミも上の空!こんな作業つまんないって思っているんでしょー!?」


「いや、ごめんごめん、そういうわけじゃ!」


視察応対で忙しない地上とは切り離された形、地下二階はしんとした空気だ。


「終わりっ!今日は終わりにしようぜアセロラちゃん。

 結構やったし、そろそろ飯の時間だ。

 ズミには奥さんいるわけで、遅くなっちゃ悪いだろ?」


アセロラは腰に手を当て、不満と呆れが混じった溜息を吐く。

だが言い分は正しい。一行は作業をひとまず終えると、後片づけに入った。

 






「グラジオラスさん!グラジオラスさんッ!!

 私、エーデルワイスです!!あのッ、ちょっとお話しが!!!」


いつもおどおどとしているタチバナ班の魔道士エーデルワイスが、騒がしく魔王城個室のドアを叩く。

魔王城三階東側、独身女性の個室が集められたエリアだ。

その騒々しさには、グラジオラスではなく隣の部屋の主が応えた。


「なんですの………もう寝る時間ですわよ。夜更かしは淑女の敵……ですわ………」


横の部屋から、眠たそうな眼をこすりマリーゴールドが出てくる。

いや、まだ日が沈んでからそんなに経ってないですよとか、その抱えている熊のぬいぐるみはなんですかとか、エーデルワイスは色々ツッコミを抑えて本題を優先する。


「グラジオラス!グラジオラスさんは………?」


「グラジオラスなら、今日は案内係で………。

 積もる話があるでしょうし、遅いのではないですか?」


「そ、そんなっ!?」


「私のことを呼んだか?」


噂をすれば何とやら、向かい合うエーデルワイスとマリーゴールドのところに、汗だくのグラジオラスが現れる。


「私の部屋の前で何かあったのか?」


「グラジオラスさん!!」


ひし、と胴に抱きつくエーデルワイスに、グラジオラスは凛とした振る舞いを崩さない。

会えたことに安堵するエーデルワイスより、マリーゴールドが先に質問をした。


「あなた案内役は………?久々にお師匠様と会えたのではないんですの?

 しかも、どうして汗だくで?」


「なに、これから後二日一緒にいるのだからな。

 積もる話は後でもできる。お二人とも長旅でお疲れのようだし、ここは早めに切り上げて日常鍛錬ランニングでも、とな」


「まぁ、相変わらず精がでますこと。

 ………いえ、あなたの真面目さは褒めるべきですが、それ以外に無頓着なのはいただけませんわね。

 年頃の娘が、視察中に騎士の訓練服でランニングなど……」


「許せ、習慣だ」


「しかしですね、あなたももう少し着飾ったり……」


「オラージュ様!!!」


二人の会話を断つ形で、胴にしがみ付いていたエーデルワイスはがばっっと顔を上げ、叫ぶ。


「あのッ!あのですね!!今魔王城にいらっしゃっているというのは本当なんですか!?」


「あ、ああ………私は直接は会っていないが、エゴノキ殿やユズリハが言っていた」


「ああッ!!」


エーデルワイスが頭を抱えて叫ぶ。

今日はいつにも増してオーバーリアクションな彼女だ。


「どどど、どうしましょう………挨拶に行った方が、でも私なんかが………。

 な、長旅でお疲れでしょうし、そもそもオラージュ様の貴重なお時間を私なんかが割いてしまっては………」


ぶつぶつとネガティブスパイラルに浸り始めたエーデルワイスを、残された二人は困った顔で見守る。


「そういえばエーデルワイスは虚無の流派に属する魔道士でしたわね」


なるほど、とグラジオラスも合点がいく。虚無の魔道士全てが所属する魔法組織………。


“教会”。


大司祭オラージュはそのトップ、つまりは虚無の流派の長とも呼べる存在だ。


「まぁ、後二日もあるんだし……。ゆっくり考えては?」


蹲りあわあわとしだすエーデルワイスに、グラジオラスは気休めのようなものを言う。


教会。

オラージュ個人の評判はさて置けば、魔道士組織にして世間的には良く見られている集団だ。

オラージュの生まれる前からひっそりと存在した教会は、魔王討伐前後の変化の中でその知名度と貢献度を拡大してく。

彼女達は各地に孤児院を設立し、戦争で親を亡くした子供達を引き取り、育てた。

その中から魔道の素質を持った子を虚無の魔道士として育成し、本人の意思を尊重した上で負傷者の多い地へと送る。


戦災への慈善事業、それを担ったのが教会だ。




十章四話 『一日目:夜の邂逅(前)』

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