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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第九章 舞い月序、七草兄弟編
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九章九話 『四女タビラコと回る日常(前)』


地下三階の騒乱は、一先ずの終わりを迎えることとなる。


戦車蟹タンククラブはその全てが動きを停止し、ウォーウルフ達によって正確に止めがなされた。

セイレーンはその様子を見届けると、地下四階へと撤退していき。

戦闘部隊一同は鉄籠に入ったカルブンコを担いで、地上へと帰還した。


「っはー良かった良かった。無事一匹も逃さず仕留められたようで何よりだぜ。

 今後はじっくり、奴らが卵でも残してないか確認しながらの攻略だなぁ」


ツワブキが呑気に呟き、そして彼の隣の、カルブンコの入った鉄籠を小突いた。


「成果も上々。生きたカルブンコと戦車蟹タンククラブの迎撃報告となりゃ、戦闘部隊の視察対応としちゃ十分すぎる内容だ。みんなご苦労だったな!

 特にスズシロ、カルブンコの捕獲に最後の戦車蟹タンククラブへのトラップ、大手柄じゃねぇか!」


「…………………はい」


いつも低空飛行なテンションのスズシロだが、その声色は少し、勢いに欠けている。

その姿をスズナと、そしてアシタバが心配そうに見ていた。






地下一階、農耕部隊の朝の集会ミーティング

男達の前に、隊長クレソンと一人の男が立つ。


「えー、彼が今日から農耕部隊の新しい仲間となる、リンゴ君だ!!

 みんな、仲良くするように!!リンゴ君、自己紹介を」


「どうも!!今日からお世話になります、リンゴと申します!!

 畑のことは分かりませんが、体力と筋肉には自信があります!!

 精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!!!」


流石のツバキも、困惑するしかなかった。

拍手をしながら、周りの男達も同じような具合だ。


「リンゴ?リンゴって……」

「あの腰の剣、例の聖剣だよな……?」

「っつーか俺、あいつがハルピュイアの親玉と戦っているとこ見たぞ………」




「親父、勇者が畑を耕し始めた件についてなんだが」


「おお、ツバキか」


朝の集会の後、それぞれの担当する樹人トレントの、実験具合を確認するため散る男達。

その中でツバキは、父クレソンに駆け寄った。


「なんだあれは。どうした?」


「いや、前々から畑に興味がある様子だったんだがな。

 昨日とうとう本格的に学びたいと言われたもんだから、引き入れたんだ」


「………勇者だろ?」


「畑の前では皆同じだ。農家への扉は常に、開け放たれている」


ツバキはたまに父が馬鹿なんじゃないかと疑うのだが。

勇者を農夫として使い始めるなんて思わなかった。


「お前、違うぞー!鍬はこうして振り下ろすんだ!

 地面を叩くわけじゃないんだぞ!?」


「む?そうか? ハコベラ、もう一回やってくれ」


などと、遠くでハコベラに弟子入りし始めたリンゴを、ツバキは戸惑いつつ見守る。


「いやいや、我が息子ながら勇者に指導を施すとはな。

 果ては王にでもなるかもしれん」


ツバキの隣に現れたのは、五十代ほどの男……。

蓄えたチョビ髭、農業で鍛えたがっしりとした体、セリやハコベラの父、イソマツだ。


「どうも、イソマツさん。畑の方は順調で?」


「ああ。アシタバ君が以前言っていたように、樹人トレント産の野菜は結構成長が早いな。

 白銀祭の頃には、白菜の第一陣が間に合うかもしれん」


ハクサイの実験を担当していたイソマツは、責任を果たした頼りがいある男の顔を見せる。


「―――――で、見合いはどうだった?」


一転、娘を気遣う、自信なさげな父親の顔になった。


「い、いえ………よかった、と思います。何分自分も、ああいったことは初めてで……」


ツバキの言葉に、イソマツは煮え切らない様子だ。







うちの娘、セリと見合いをしてやってはくれないだろうか。

とイソマツは、父クレソンとともにやってきた。


「気丈な子だ。下の子の面倒を見てきて、家事も一通りこなせる。

 何より美人だ。美しさだけなら、そこらの娘に引けは取らない………」


はじめ獣のような勢いで迫ってきたイソマツに、ツバキは恐縮するばかりだった。


「ちょ、待って下さい!み、見合いですか?」


「……君とここ半年共に仕事をしたが、君は非常にいい奴だ。

 真面目だし責任感がある。人を思いやれるし仕事熱心だ。

 それでいてちゃんと先のことを考えられる。正直、娘が釣り合うか分からないが……。

 会うだけでいい。席を設けてくれないだろうか!!」


ツバキは困った目で父親を見た。

自分の家柄が貴族と遠縁にあたる、特殊な家であることは理解している。

長男である自分の役目も。


「家のことなら構わない。そもそも庭師の家を捨てた俺だ。

 その息子のお前が、あれこれ気を回さなくていい」


父はそれを理解して、適切な言葉を寄越してくる。


「いいか、ツバキ。これだけは何にも囚われるな。

 お前の想いを第一にして、お前が決めろ」





何となくだけど、父とイソマツさんの間の、無言の了承というものは察することができた。

セリに会って、それは確信に変わる。

イソマツさんは、セリを心配しているのだ。


彼女は家族を大事にして。弟達を思いやって。

だからこれまでどこにも、彼女がもたれかかる場所がなかった。

それは親の責任なのかもしれないけれど、難民の生活の中で、そこまでこなすのがどれだけ難しいかはツバキにも想像できる。

一度固まってしまったものを解きほぐすのも。


だからイソマツさんは今回の縁談を進めた。

少しでもいい家に。少しでもいい奴に。そしてその思いを、父クレソンは理解し。

ただ善意だけではなく、多少の打算を織り込んで、今回の見合い話を受けたのだ。




「…………俺は、人を安心させるにはまず、こっちの感情論じゃなくて理屈で納得をさせる、って考える奴なんです。だからまず、そっちを言うんですが……」


不安そうな表情のイソマツに、ツバキは説明を始める。


「まず家が難民、ということは俺達にとってマイナスにはなりません。

 父からして庭師の家を出た経歴ですし、いい家柄のとこと結婚して家系を持ち直す、なんて考えちゃいない。

 むしろ父は、戦後復興を農業革命で加速させ、難民の生活を助けたい、と考えているわけで、俺もそれを手伝いたい。

 だから難民の目線を知っているというのはプラスですらある」


最初に、相手の不安をぬぐい去ろうとする。


「次に人格。見合いの途中で、彼女の価値観に触れましたが……。

 正直に言って尊敬できます。積み上げるという難しい事をやっていく。

 俺がやりたいことに沿う考え方だった」


イソマツは難しそうな顔で頷く。


「それで………後は…………思っていたよりその………美人でして。

 正直見合い中、ずっと緊張してしまいました」


イソマツは難しそうな顔で一旦頷き、ん?と首を傾げると、やがてパァっと晴れた顔つきになる。


「そう………そう!そう!!そうなんだよ!!美人なんだよ!!やっぱりそう思うか!!」


「はい………いや、たまに噂には聞きましたが、後半緊張がとけてきた後の、自然な笑顔が……」


「そーなんだよ!!笑うとな!!愛嬌がある!!ウチの娘は可愛いんだ!!」


ガハハと大笑いをしながら、イソマツが背中を叩いてきた。


「流石だ!なんて分かる奴なんだツバキ君!!よし、今日は仕事上がりに飲もう!!

 サマーキャンドルでな。奢るぞ!!君の印象をもっと聞かせてくれ!!」


不安は吹き飛びすっかり上機嫌、イソマツはツバキと肩を組み、自分の担当地へと向かう。

今はまだ、自惚れているとしか言えないかもしれない。


でも弟達を思いやる彼女なら、上手くやっていけると思ったし。

弟ばかりを思いやって、自分のことが視界に入っていない彼女に寄り添えたらいいと思った。

故郷を失って、まだ子供なのに難民生活に叩き落とされたのは、彼女も一緒のはずだ。


憐れみ、ではないと思う。

もう少し彼女に幸せになって欲しいという願いで、その役目を自分が果たせたらいいというエゴだ。


 







地下三階の一件がひとまず落ち着き、戦闘部隊の者達は白銀祭まで、休暇となった。

地下一階、樹人トレント畑の端には、一時的に鉄籠が置かれることになる。

カルブンコを収容した鉄籠だ。


「―――あれ、見たかよアシタバ」


籠の中でもしゃもしゃとバナナを食べるカルブンコを見ながら、ツワブキとアシタバは二人、会話を交わす。


「あれ?」


戦車蟹タンククラブの自切」


「……………………」


パッシフローラが攻撃していた戦車蟹タンククラブが、自らの脚を切り離したこと。

アシタバはその瞬間は見ていないが、戦闘後にその様を確認していた。


人魚マーメイドも出やがるし、あーやだやだ、おっかねーぜ海の魔物は」


森に生きる魔物。洞窟に生きる魔物。

様々な環境と、魔物のグループがあるが、最も恐ろしいグループは何かと尋ねられれば、探検家達は満場一致で海の魔物達を挙げる。

あまりに未知の部分が多すぎるからだ。水中は、圧倒的に向こうの独壇場ホームで。

重力から解放された水中では、体格が陸の比ではなく。底深く、何が蠢くのかは推測による部分が大きい。


自切は自らの体の部位を囮として切り離す、弱者側の習性だ。

戦車蟹タンククラブがその習性を保持していたということは。


「アシタバ、腕怪我しているとこ悪いが、今日地下三階の見張りやってくれねーかな」


それを二人は、今は置いておくことにした。


「別にいいが。何か理由があるのか?」


「スズシロ」


ツワブキが真っ直ぐにアシタバを見る。

人を見る目に関してはアシタバより秀でる男だ、彼の異変はしっかり把握していた。


「あいつと一緒に見張りやってくれ。それでまぁ、話があったら聞いてやれ」


「…………俺でいいのか?」


「ま、俺の勘だがな…………人選は間違っちゃいねーと思うんだ。

 お前で駄目なら、何とか次を考えるよ」


こういう時に、この男はひどく繊細になる。

だからアシタバも、素直に従った。





九章九話 『四女タビラコと回る日常(前)』

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