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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第七章 浮き月序、工房街の三人娘編
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七章四話 『装飾職人フウリンとスズラン』

魔王城西側に立ち並ぶ工房街。


多種多様な職人達の要望が反映された工房が立ち並んだ結果、カラフルな貧困街とでも言えばいいのだろうか、統一感のない奇抜な家が所狭しと肩を並べる奇妙な光景が広がっていた。


「………何度見ても見慣れないなぁ」


ローレンティアが変に感心した声を上げると、何故かナズナが胸を張る。


「へへ、いいですよねこの景色!

 この俺達自分勝手にやります感が前面に出てる感じ、好きなんですよねー」


「それで、最初はどこいくのー?」とアセロラがのんびりした質問をすると、


「そうですね………。個人的には、ローレンティア様がよく通うことになる工房に行くべきかと」


とナナミがてきぱき答える。


「通うことになる?」


「ええ、ローレンティア様は魔法の訓練をされているのですよね?」


「まあ、僭越ながら………」


「でしたら、最初はフウリンさん達の工房がいいかと」






その工房は、まさに風鈴をそのまま大きくしましたと言わんばかりの、地面に少し埋まった球体状の形をしていた。

外壁は白と黒のモダンな波模様。そして内側、円状の壁際には商品棚が備え付けられ、イヤリングやネックレス、指輪や髪飾りなど宝石に彩られたアクセサリが並べられている。


「こちら、装飾アクセサリ職人のフウリンさんと銀細工職人のスズランさん。

 小物のことなら何でも彼女達にお任せです」


ナナミの紹介を受け手を振るのは、この工房、“風鈴亭”を営む二人の女性だ。


「初めまして、ローレンティア団長。装飾屋のフウリンと申します。

 此度は私の工房にお立ちより頂いたこと、光栄に存じます」


フウリンという女性はにこやかで愛嬌があった。

茶色のふわふわとした髪にポーラーハットを乗せ、ややゴシックなファッションに身を包んでいる。


「どうぞ僕達の作品たちをご覧あれ。どれも一級品ですから!」


スズランという女性はボーイッシュで凛としている。

ワークキャップを目深に被り、黒髪とミリタリーのような服はかっちりとした印象を受ける。


「ど、どうも初めまして………」


挨拶に応えつつ、ローレンティアは工房内のアクセサリを眺めていく。

王族や貴族がしているような意匠の凝ったものから、一般の人でも手が届く価格帯まで様々だ。


アクセサリ専門の、フウリンとスズラン。

鍛治師でもあるスズランが造形を行った銀細工に、フウリンが宝石や裁縫、塗装により装飾を行う。

老舗や大手ではないが、装飾業界の新進気鋭の職人コンビだ。


「いやいや、今日はどういった御用件で?

 ローレンティア様もアクセサリをお揃えになりたいとか?」


揉み手をしながらのフウリンに、アセロラが対応する。


「今日は団長さんに工房街を見てもらおうと思って寄ったんだよー。買うまでは―――」


「なるほど。しかしローレンティア団長におかれましては、来る視察団の応対等、来月は公の仕事が控え心休まる時がないのでは?」


「え?ええ、まったく………どうにも緊張してしまって………」


「うむうむ、ところで視察団の応対の際のお召し物はもう決まっているので?」


「はい………お召し物?」


ぽかんとするローレンティアを、にんまりと笑うフウリンが捉える。

獲物を捕まえた時の肉食動物の顔だ。


「決まってないのですね?

 それでしたらローレンティア様にはおすすめの物がありますよー。

 このネックレスなどどうです?

 ローレンティア様の銀の髪に合う白銀とサファイアの造りでございます。

 あ、こちらのルビーのイヤリングでアクセントをつけるという手も……」


「ちょ、ちょ、ちょっと!!」


ぐいぐいとくるフウリンに、ローレンティアは呑まれるばかりだ。

たまらずナズナが助け船を出す。


「フウリンさん、フウリンさん、今日はそういうつもりで来たんじゃねーぜ。

 ローレンティアさんも困っているだろー?」


「でもでもナズナちゃん、私達にとっては切実な問題なのよー?」


「でもなー、そんなグイグイこられても……」


「よいのではないですか?」


フウリンとナズナの間に割って入ったのはナナミだ。


「この際です。白銀祭に向け、お召し物について御一考されては?

 着飾ることがおもてなしとも申しますし」


「でも、私なんかが………」


「…………あのですねぇ」


呆れたようなナナミの言葉は、カランカランと来客を告げる鈴の音に阻まれた。


「フウリンさん、スズランさん、お邪魔しますわ………あら?ティア?」


来客はローレンティアのよく知る二人。魔道士、貴族、マリーゴールド。

同じく魔道士、泡沫の傭兵姉妹、姉のアルストロメリア。


「マリーとアルストロメリアさん?どうしてここに?」


「どうして?どうしてってそれは………」


魔水晶クリスタルですか」


マリーゴールド達の代わりに答えたのはナナミだった。


「クリスタル?」


「ええ、魔道士の方々が携帯する水晶体です。ご覧になったことはありませんか?」


「ああー、そう言えば………」


地下二階、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達との戦いで、マリーゴールドがペンダントの水晶を割っていたことを思い出す。


魔水晶クリスタル。採掘しやすいが脆く、宝石としての美麗さにも欠ける安価な鉱石だが魔道士には特別な意味を持つ………加工するとマナを蓄積するのさ」


スズランが説明をしながら、部屋の隅に置いてあった籠を指す。

他のアクセサリとは違い、そこには親指大の結晶が雑多にまとめられていた。


「そういえばティアには魔水晶クリスタルの説明はまだでしたわね。

 あれは一人前の魔道士が携帯して、究極魔法アルテマを使うために使用しますの」


究極魔法アルテマ


「その者が扱える限りの最上位の魔法をそう呼ぶのですわ。

 わたくしであれば“黙して潜む消失陣(カゲロウ)”。グラジオラスさんは“万里一閃(アヴァル)”。

 しかし最上の魔法というものは大抵、理論式を習得してもマナが不足するものなのです」


「そのために魔水晶クリスタルを使うわけね~。

 大抵はアクセサリにして数カ月魔力を込めておく。

 使用する際には砕いて、魔水晶クリスタルと自身のマナをありったけ使って究極魔法アルテマを放つの。

 だから究極魔法アルテマ発動後の魔道士はマナがすっからかんー。

 迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの時は、マリーゴールドちゃんやグラジオラスちゃんは結構危なかったのよ~」


マリーゴールドとアルストロメリアの説明に、ローレンティアはふんふんと頷く。


「つまり窮地までとっておく奥の手ということ?」


「そういうことね~」


「なんか、すごいじゃないっすか!!

 それを5個も6個もつけて最強装備、とかやれば無敵っすね!!」


興奮するナズナの言葉に、マリーゴールドとアルストロメリアは困ったような顔を見合わせる。


「………いいえ。魔道士は決して、二個以上の魔水晶クリスタルを持ち歩きません」


「そうなの?どうして?」


「そういう習わしなのです。理由は魔道士の心構えにも共通するものなので、ティアには少し早い話ですわ。いずれ説明致します」


「そもそも究極魔法アルテマが魔道士のハイエンドだしね~。

 ローレンティアちゃんもいつかは自分の究極魔法アルテマを考えることになるけど、まだまだ先の話よ~」


そう言いながらアルストロメリアは、籠の中から2つ魔水晶クリスタルを取りだす。


「マリーゴールドちゃんとグラジオラスちゃんの分貰っていくわね~。

 お代は戦闘部隊に請求しておいて~」


「はいはーい、毎度どうもー」


こほん、とナナミが咳払いをするので、ローレンティアは彼女に耳を傾ける。


「今後を考えるのであれば、魔道士であるローレンティア様はここにお世話になることでしょう。

 ちなみに魔水晶クリスタルを蓄積用に加工する魔拡張エンチャントは、銀の団ではアルストロメリアさんしか行えません」


「そういうことですよ~」


にこやかに手を振るフウリンとアルストロメリアに、ローレンティアはなんとなしに頭を下げる。


「つまり、フウリンさん達とはコネを持っておくことをオススメします。

 究極魔法アルテマ習得前後の魔道士の、魔水晶クリスタル使用量とその金額は馬鹿にならないと聞きますし」


「そうことですよ~」


「コ、コネと言われても………どう………」


「だからですね、ローレンティア様。

 彼女達は装飾アクセサリ職人で、あなたはこれから公の仕事がある王族です。

 あなたは彼女達に、余りある見返りを提示できる」


「…………なるほど」


理解をする。


「私が広告塔になればいいということですか?」


その言葉にフウリンは手を叩き、顔を弾ませた。


「ええ!?よろしいのですか、ローレンティア様!

 四国の王家貴族が集う視察応対にわたくし共の装飾アクセサリを身につけて頂けるなど!

 ああ、でもきっとローレンティア様ならお似合いのものが沢山ございます!!

 わたくし共もローレンティア様のご要望に何なりとお応え致しますわ!!」


いや、あなたさっきグイグイ薦めてきたじゃないの。とは言わない。



ここまで理解してなお、ローレンティアには自覚が足りなかった。


身分は、橋の国(ベルサール)の王族。

そして今や世界中の関心を集めている、魔王城攻略に従事する銀の団の団長。

その肩書きに反しての若き女性。

その上女王の美貌を受けついた端正な顔立ちと、透き通るような白い肌、銀の髪。

フウリン達を始めとする美を極める職人にとって、王女ローレンティアという人物は身分、注目度、容姿どれをとっても最上級の逸材なのだ。


祖国、貴族界の悪評でさえ彼女に注目を集めるスパイスと捉える職人にとっては、是が非でも自分の作品を身につけて欲しいことだろう。

彼女は注目を集め、格があり………そして大概を着こなせるほど素材がいい。


「相手をフウリンさん達にするかどうかはともかく、ティア、こういうことはわたくしからも薦めておきますわ」


貴族出身のマリーゴールドも意見する。


「あなたはこれから、人の目に触れる機会を何度か持つでしょう。

 魔法や戦闘部隊の仕事に重きをおくのであれば、専用のスタイリストは必須といえますわ」


「そうです、そうですよローレンティア様!!ささ、この契約書にサインを………。

 今後、公の仕事に際して私どもの装飾品アクセサリを身につけて頂ければ、魔水晶クリスタルは永久的に無償でお渡しするという内容のものです」


「………………………………。

 …………決して、フウリンさん達に不満があるというわけではありません。

 作品を拝見させて頂きましたが、どれも綺麗で美しかった。

 ただ2つ、質問をさせてください」


グイグイ来るフウリンを、ローレンティアは先ほどとは違う落ち着いた目で見つめた。


「まず、何をつければいいのか分からない時は相談に乗って頂けたりするのでしょうか?」


「むしろそれがコーディネーターの仕事です。

 あなた様の趣向と仕事内容を考慮して、相応しいものをご用意致します。

 これはローレンティア様に限らず、私達がアクセサリを強要することはございません!」


「………そう。では2つ目、あなた達は将来的には、王族や貴族相手の仕事を考えているのですか?」


フウリンは少し言葉を止め、スズランと顔を見合わせる。

取り入る際に答えが見え透いている問いというものはあるが、ローレンティアのそれは違った。

そしてナナミとマリーゴールド、アルストロメリアは気付いていた。

ローレンティアの本命はこっちだ。

数を水増しして、真意を気取られないようにするテクニック。

しかし社交場の経験が多い三人にとってはまだまだ拙い部類だ。

フウリン達はそこまで看破できてはいなかったが、ローレンティアの視線の強さは感じていた。


「……私達の夢は、貴族や王族の方々相手に商いをすることではありません。

 そもそも、それであれば銀の団入団などという悪評がつきかねない真似は致しませんから」


相手が求めている答えは何か。分からない。

だから彼女達は、自分の本音を伝えることにした。


「僕達の夢はこれまでの装飾屋業界に風穴を開けることです。

 閉鎖的なんですよ。決まった相手、決まった造り……。

 お得意さんは欲しいですが、それだけではつまらない。

 僕達の作品こどもは、身分や資産に左右されず愛されるべきです」


それはもはや傲慢に近い、自分の腕への信頼と愛。

だが工匠街ではまったく珍しいことではない。


「私達のパートナーとしての理想は、貴族界への広いコネや豊富な資産を持つ方ではなく、幅広い平民の注目を集められる方です。

 人物像を加味すればローレンティア様、私の知る限りであなたをおいて他にはおりません」


「僕達はどちらかというと、より高くというよりは裾野を広げるためここに来ました。

 価格を下げる革新を何より望んでいます。

 その点でローレンティア様、人魂ウィルオ・ウィスプの鍛治利用を提案なさったあなたと一緒に仕事ができるならば、これほど嬉しいことはないんです」


フウリンとスズランの、その真っ直ぐな答えをローレンティアは静かな目で受け取る。


「………分かりました。多分エリスの許可も必要になると思うけれど、私の方から説得しておきます」


契約書を受け取ると、躊躇いもせずに自分のサインを記していく。


「よろしくお願いします、フウリンさん、スズランさん」

 

二人は結ばれた契約に歓喜するというよりは、手にした大役の重さを改めて実感している様子だ。

王族としての務めを全く経験していないローレンティアに、それもまた必要な味方だった。

時に、社交場の騎士とさえ呼ばれる…………。


専属服飾士(スタイリスト)


ローレンティアは装飾アクセサリ職人、フウリンとスズランを、その役として迎え入れる。




七章四話 『装飾職人フウリンとスズラン』

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