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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第六章 照り月、消失迷宮編
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六章十話 『仕切り直し』

「それでは、賛成一、反対十一をもちまして、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー飼育の案を棄却とさせていただきます」


円卓会議では、ローレンティアの案が全員の反対を受けていた。


「ツワブキ殿の仰ることがもっともじゃ。

 迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーは飼うにはリスクが高すぎる」


月の国(マーテルワイト)ブーゲンビレアが口火を切った。


「それほどの危険を冒して、得られるのが糸だなんて……。

 わ、割に合わないんじゃないかな」


河の国(マンチェスター)ワトソニアも続き。


「仮に性能が良くても、きっと商人達は倦厭しちゃうわよ~」


森の国(スレイアード)ベルガモットも同意する。


「あんたさぁ」


砂の国(ランサイズ)シャルルアルバネルが嘲笑うような、見下す笑みを浮かべる。


「何になりたいの?魔物の王にでもなるつもり?」


「……………………」


もはや、ローレンティアに味方する者はいない。


根回しはしようと励んだ。だが、足りなかったのだ。

ツワブキ以外を訪ねても賛同は得られなかった。

ローレンティアが円卓会議で初めて経験する、敗北だ。

黙りこくる様子を見かねて、ツワブキが話を進める。


「まぁ、こんなもんだろ。とにかく資料にある通り、戦闘部隊の探索は一旦ストップ、母蜘蛛が喰われるかどうか待ってみることにする。以上だ」


「………議題は、このくらいですかな」


橋の国(ベルサール)アサツキもその締めに手を貸す。


「はい、そうですね………ただ報告と言いますか………。

 耳に入れて頂きたいことが一件」


悩んだようなユズリハを、円卓会議の一同が見た。


「先月の、ハルピュイア迎撃戦の報告の返信で、銀の団を視察したいと何国かが仰っています。

 私としては準備と調節も考えて、銀の団が魔王城に来てから半年後の再来月、同時に来て頂くのが理想的かと思いますが……」


「まぁ時期に関してはあんたに一任するぜ。

 各国の予定を合わせつつ、うまいこと組んでくれよ」と、ツワブキ。


「………ちなみに視察を希望している国というのは?」


橋の国(ベルサール)アサツキの質問に、秘書ユズリハが答える。


「はい、今のところ四国から要望を頂いております。

 一番に仰ったのは、河の国(マンチェスター)のモントリオ卿」


一同が、今度は同国の河の国(マンチェスター)貴族ワトソニアを見る。


「………ワトソニア、知っている者か?」


鉄の国(カノン)グリーンピースの問いを、ワトソニアは慌てて否定する。


「い、いやいや、名前ぐらいしか知らないし会ったこともないよ!」


「私からも、少々意外な人物からの申し出だったことは補足しておきます。

 人材面でも物資面でも、モントリオ卿の領と銀の団は繋がりがありません」


「なんだそりゃ。何で来たがってんだ」


「商機でも嗅ぎとったんちゃうか?」


ツワブキとエゴノキの雑談。


「ふむ…………ま、門を閉ざす権利は我らにはないしのう。

 出資者スポンサーになる可能性あり、というのならいいのではないか?」


月の国(マーテルワイト)ブーゲンビレアは肯定的だ。


「僕から言っておくと、モントリオ卿は河の国(マンチェスター)でも有数の、名門貴族の方だ。

 助力が受けられるなら恩恵は大きいと言っておく。ただ………」


「ただ?」


言い淀む河の国(マンチェスター)ワトソニアに、日の国(ラグド)ゼブラグラスが追及する。


「由緒ある家柄の方だ。つまり保守的で………あー、つまり………」


「銀の団に否定的な方なのか?」


橋の国(ベルサール)アサツキの指摘に、ワトソニアは様になっていない自嘲の笑みを浮かべた。


「この席の押しつけに熱心だった方の一人だ」


一同は黙る。ならどうして来たがっている。

答えのない疑問を、全員がひとまず放っておくことに決める。


「次は?」と、ローレンティアが続きを促した。


月の国(マーテルワイト)王家より一件」


「ああ、それなら聞いておる」


ユズリハの代わりに月の国(マーテルワイト)ブーゲンビレアが答える。


「我が国から、セレスティアル第一王女並びにメローネ宰相が視察を望んでおられるとのことじゃ。

 セレスティアル様の勉強と教育が主な目的と聞いている。

 どうかその折には、みなの協力をお願いしたい」


「王女自らか……!」


ブーゲンビレアと同じ月の国(マーテルワイト)出身、農耕部隊隊長クレソンが驚きの声を上げる。

彼だけではない。

勇者に同行した、魔王討伐の英雄の一人である大魔道士メローネ。

彼女の名前に、何人かが身震いををした。


「続きまして、鉄の国(カノン)王家より一件」


と、ユズリハの続きを今度はグリーンピースが請け負った。


「こちらも書簡で聞いている。

 鉄の国(カノン)第三王子、レッドモラード様が視察に意欲を示している。

 ………少々何をするか読めない方だ。調整をするなら慎重に頼む」


珍しく冷や汗の見えるグリーンピースに、ユズリハが頷く。


「分かりました。最後は橋の国(ベルサール)の王家から」


「ふぇ!?」


思わずローレンティアは声を上げてしまった。


「他国の視察に合わせて、王族から一名視察役がいらっしゃるとのことです。

 まだどなたかは決まっていないようですが……」


「…………え、ええ、私も聞いているわ。その折はご協力お願いします」


嘘だった。聞いてなどいない。

橋の国(ベルサール)から?王族?兄弟の誰かがやってくる?

みるみる顔が青ざめていくローレンティアを、両脇のツワブキと橋の国(ベルサール)アサツキはやや苦い顔で見守る。


これは体面だろうな、と会議の大半は納得していた。

団長職へ王族を送り出した国として、他国が視察をするならば自分達もしないわけにはいかないというプライドのような問題だ。だから人選も進んでいない。


ともあれ、照り月の円卓会議の最後にそれは共有された。

二ヶ月後、舞い月。


河の国(マンチェスター)貴族、モントリオ卿。

月の国(マーテルワイト)王族、セレスティアル第一王女及び、メローネ宰相。

鉄の国(カノン)王族、レッドモラード第三王子。

そして、橋の国(ベルサール)より王族が一人。


銀の団は初めて、客人を迎えることになる。


「そーかそーか、なるほどねぇ」


ツワブキはニヤニヤしながら顎を撫でていた。


「ツワブキさん、何か………?」


「いやーお姫さんよ、俺からちょっと提案させてもらうぜ。

 客人が来ると。目的が色々あるだろうが、俺達としちゃ団をあげてもてなさなきゃならねぇ」


「まぁ、そうなるな」


珍しく、鉄の国(カノン)グリーンピースが賛同する。


「そこでだ。いい機会だ。お姫さんよ、ここらで1つ祭りをしねぇか」







円卓会議の数日後。

銀の団はにわかに湧き立つこととなる。


再来月、舞い月に銀の団は四国からの視察を受け、団を上げてのお祭りを開催しこれをもてなす。

その報せが団の全員に伝えられた。


澄み月、樹人トレントの件以来の大々的な宴だ。

戦闘部隊と農耕部隊の者達は歓声を上げ。

しかし工匠部隊の者達は、その告知の最後の一文に神妙な顔をする。


「なおこの祭り中、銀の団団員と視察の方達へ向けて、出店を開くことを特別に許可する」


つまりその一文は、技を高めるため魔王城にやってきた職人達にこう告げていた。

お前達の成果を視察の方達に見せてもいい。

それは、王族や貴族に自分の腕を見てもらえる希少な機会だ。

見せてもいいということは、見せなくては職人の名が廃る。

つまり、来る再来月、舞い月。


工匠部隊の職人達の、第一回目―――事実上の成果報告会が取り行われることとなる。





「白銀祭、と呼ぶことにしたの」


円卓会議の数日後。

ローレンティアとアシタバは、張りだされたその告知書を眺めていた。


「お祭りか、確かにツワブキの発想らしいな。

 でも言われれば、集団生活にはつきものだ」


「ええ、また樹人トレントの後みたいにみんなで楽しめたらいいのかなって思う。

 工匠部隊の方達は、こう、殺気立っているみたいだけど」


「はは、まぁ一番の力の入れどころだなぁ」


アシタバは久しぶりに受験勉強なる単語を思い出していた。


「………アシタバ、ごめんなさい。

 迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの食事まで調べてもらったのに、結局彼らは根絶という決定になってしまって」


少し悲しそうに話を切りだすローレンティアを、アシタバは神妙な面持ちで迎えた。


「気にしなくていい。俺だってツワブキを説得しにいったけど、逆に説得されたし。

今回は………今回は無理だった。ツワブキには怒られもしたよ。

 人魂ウィルオ・ウィスプの件の、ティアの発案はお前に感化されたんじゃないかって」


ローレンティアは答えなかった。

それは屋台に隠れて聞いたアシタバの告白に影響されていることは、彼女も自覚していた。


「…………ティア。これから俺がいうことに関して何か気に障ったり、見当違いを言っていたら怒ってくれて構わない。ただ…………。

 人魂ウィルオ・ウィスプや、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーを産業に取り入れようとティアが提案したのは、自分を彼らに重ねていたからじゃないのか?


 魔王亡き時代に取り残され、必要とされず、要らないと切り捨てられて消えていく魔物達………。

 それが魔王城行きを命じられた自分と被って、見捨てられなかったんじゃないのか?」


ローレンティアは否定をしない。

屋台での、アシタバの話を聞いて彼女は気付いた。


同じなんだ。親に突き放され、要らないと切り捨てられ、追いやられたローレンティアと。

魔王軍に取り残され、必要とされず根絶される魔物達。

だから彼女は人魂ウィルオ・ウィスプを残すために鍛冶師ゴジカと協力し。

迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの件でも同様に動いた。


「……………見捨てられない、と思ったの。

 彼らが昔の私に思えてしまうの。私が見捨てるわけにはいかない」


アシタバはローレンティアの独白を、少し困ったように見守る。

間違ってはいないだろう。でもそれは駄目だとアシタバにも分かった。


「ティア。少し肩の力を抜こう」


スライムに際しては水の浄化法を見つけ。

迷いの森では樹人トレントの農業適性を掬いあげ。

ハルピュイア迎撃戦では、屋上と対ウォーウルフでそれぞれ功績を上げた。


迎撃戦の戦死者を除けば順調すぎた二人の快進撃は、ここで一先ず歩みを止めることになる。


「焦って思いつめても何も成せない。俺達は力をつける必要がある」


敗北だった。

彼らが望んだ迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの生存は、支持を得ず泡と消えた。

ローレンティアの暴走も合わせて、照り月は彼らの敗北の月となった。


「仕切り直しだ」


アシタバの言葉をローレンティアは静かに受け取る。

手の届かないことがあると知った。では、いつどうやって手を伸ばすのかということだ。

咲き月、この地で生きることを彼らは誓い。

そして今、銀の団の中で。


事を成す戦いに身を投じることを、決意する。



六章十話 『仕切り直し』

第六章 了

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― 新着の感想 ―
アシタバとティアの考えもすごくわかるからこそ読者としては心が痛い……。 今後の二人の成長に期待!
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