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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第六章 照り月、消失迷宮編
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六章四話 『活路』

迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー


後日、探検家組合ギルドに報告されたその新種の魔物に、ほぼ全ての探検家が慄き頭を抱えたという。


まず、そもそも大蜘蛛ビッグスパイダーは探検家界で出くわしたくない魔物上位に数えられる。

見た目がキモい、馬以上に素早い種もあり、万一しくじって捕まれば糸でぐるぐる巻きにされた後、生きたまま数日をかけて小さな口で噛み千切られていくのだ。

探検家の死因の中で、最も惨いものといっていい。


だからこそ、大蜘蛛ビッグスパイダーのいるダンジョンはあまり攻略されず、彼らの生態も謎が多かった。

そんな種が待ち狩りの魔物として進化を遂げ、群生をして集団で狩りをし、更に雌が規格外の大きさとなれば。

それはもう、やばすぎるぐらいやばい魔物の誕生だ。





「やっべええええええええええ!!」


ツワブキが傾く地面に揺られながら叫ぶ。

流石に、トウガもアシタバもローレンティアも呆然としていた。

自分達が陥ってしまった、この事態の深刻さに。

巨大な蜘蛛の上に立ってしまっているという状況に。

その子蜘蛛達に囲われているという危機に。


「くっそ、くっそ!!全員、とにかくここから降りるぞ!!

 いや降りれんのか?どうなんだ?お姫さん使えば大丈夫?」


海のような迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの群れを前に、糸の塊の1つを抱えながらのツワブキの指示も、混乱のあまりぐちゃぐちゃになっている。


「――――ユーがいれば大丈夫だ」


トウガが静かに意見を通す。

肩に担がれた糸の塊の先端は既に解かれ、糸くずに塗れたユーフォルビアが眠たそうな顔を向ける。


「飛び降りた後のことはユーが何とかする。

 ツワブキ、殿しんがりを頼めるか?俺が先陣を切る」


「マジか!頼む!もう何にでも頼っちゃうぜ!」


ツワブキの了承を確認すると、トウガは声を張り上げる。


「全員、俺を信じてくれるか!

 ここにいても囲まれるだけだ、飛び降りるぞ!ついてきてくれ!!」


そう言い、駆け出し、蜘蛛達の迎撃の合間を縫って、彼らの立つ岩盤の端を目指す。


「ま、蜘蛛に食われるよりは落下死の方がいいかもなぁ」


冗談なのか本気なのか分からないラカンカの呟き。

固まっていたローレンティア達も走り出す。

糸の塊を回収するため散っていたアシタバ達も合流し、その迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの波を掻い潜っていく。




蜘蛛という生物は大きく2つに分けることができる。


一般に蜘蛛の巣と呼ばれる網を作り、獲物がかかるのを待つ造網性と、巣を作らず待ち伏せや飛びかかりで獲物を捕える狩猟性である。

網を作らず、ダンジョンに擬態して待ち伏せする迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーは後者であった。


意外と遅いな、とアシタバは思う。

狩猟性の蜘蛛は瞬発力が高く俊敏であるイメージだが、目の前の蜘蛛達は前脚の攻撃を躱せないほどではない。

うじゃうじゃと襲いかかる蜘蛛達の追撃を避け、避け。


「っと!」


端につくとアシタバはそのまま空中へ飛び出した。

下を見れば躊躇すると分かっていたからだ。


先行するトウガとユーフォルビア。

まとまっていたローレンティア組……ラカンカ、マリーゴールド、ピコティ、レネゲード。

糸の塊を回収したヤクモとオオバコ、ディル。

そして最後に糸の塊を抱えたツワブキが落ちてくる。


高さは20メートルほどだろうか、それはそのまま巨大な雌の迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの大きさとなる。

背後の巨大な存在感を感じながら、アシタバは先行するトウガ達を見ていた。


「ユー!!」


「ええ―――“海底浮月ウミヅキ”。速度低下(セカンド)


光を帯びるユーフォルビアの体から、幾つもの泡が浮き上がった。

それは落下するアシタバ達を包み、アシタバの速度がゆっくりと遅くなる。

ふわふわと。浮くように。


「うぉ…………」


落下の勢いは消え、ふわりとした着地になった。


「お、おおおおおお!!」


初めて触れる治癒以外の魔法に、感動の声を上げるオオバコ。

全員がその、本当の地下二階に降り立つ。藻と草の茂る草原のようなフロアだった。

巨大な蜘蛛の頭上を中心に釣鐘状の形を成しており、その横壁は藻のような植物で覆われた岩肌になっている。

ところどころ迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの模様と同じ岩壁が露出しており、釣鐘状のその頂点に、アシタバ達が降りてきた階段部分だけが取り残されていた。


「な、なんとか脱出………」


「いーや、全然まだだぜ」


願うようなヤクモの呟きを、ツワブキが即座に否定する。

巨大な蜘蛛の背中から迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達が飛び降りてくる。

お尻から糸を出しながらの落下は、バンジージャンプのようだ。


「このフロアにいる限り安全ってことはねえ。

 …………あぁくそ、考える時間が欲しいな」


斧を構えながら、ツワブキが頭をガシガシと掻いた。


「それでしたらお任せ下さい」


激動の状況を超えて少し落ち着いたのか、マリーゴールドが杖を構える。

首元からネックレスのような親指大の宝石を取りだすと、それを砕き。


「存在消失(フィフス)――――“黙して潜む消失陣”(カゲロウ)


瞬間、まばゆい光が全員を包む。

いや、その光はアシタバ達にしか見えないものだった。

巨大蜘蛛の背から飛び降り、草原に降り立った迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達は、アシタバ達のいた場所へと素早く這い寄り。


そして、彼らを見失った。

戸惑いなのか、動きを止めつつ辺りに目を向け、そして当てもなくうろうろし始める。





「…………………なんじゃあこりゃあ」


その、薄く発光する陣内でツワブキは唖然とする。

彼らは依然として草原のフロアに立っていた。

うろつく迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達と5メートルといったところか。


「バレねぇの、これ?」


「輪廻の存在消失魔法、その最上位、黙して潜む消失陣(カゲロウ)ですわ。

 これより半刻、わたくし達はこの陣の外にいるいかなる存在にも気取られることはありません。

 わたくし達がいかに大声を出そうとも、相手がいかに臭いをかぎ取り、魔法的に探索を試みようとも。

 ここは世界から隔絶されております」


高位の魔法を放った魔道士特有の、超然とした雰囲気をまとってマリーゴールドが説明する。


「存在消失(フィフス)?これがあなたの究極魔法アルテマ?」と、ユーフォルビア。


「ええ、ダンジョン攻略に必要だろうと頑張って習得して参りましたの」


「何カ月分のマナ?」


「2か月、ですわ!」


ユーフォルビアとマリーゴールドの、魔道士同士のよく分からない会話。

事態を飲みこめないツワブキ達を置いて、床に置かれた4つの糸の塊のうち2つが内側から切り裂かれた。キリとグラジオラスだ。


「…………油断、した」


「面目ない!今、どうなっている?」


がきんと肩を入れなおすキリを見ながら、アシタバはやっぱ肩外す訓練とかするんだな、と呑気に思い。


「やっべ、忘れてた!ユー!回復頼む!!」


「おお、俺もだったな」


と、ヤクモとディルが残る2つの糸の塊を裂いていく。

土色の顔をするヨウマとエミリアが出てくると、ユーフォルビアが駆け寄り、治癒魔法をかけていく。


「……………なんだ、まぁ、とにかくしばらくは見つからねぇってことでいいんだな?」


慌ただしい陣内、ツワブキの問いにマリーゴールドが頷く。


「なら野郎ども、作戦会議といこう」


ヨウマ達捕まっていた組の回復を待ちつつ一同は輪のようになって座り、これから先どうするかを語り始めた。






改めて、引きの画でその巨大な蜘蛛を見て、一同は言葉を失うことになる。


縦横80メートルほど、大きめの館ぐらいの大きさがあるその怪物が、地響きを伴う重い足踏みをしながらゆっくりとその場で旋回をしている。

アシタバ達を探しているのだ。

黒く太い八本の脚は、山折の形になって沈んだ胴体部分を支えている。

その胴体の上には巨大な岩盤。先ほどまでアシタバ達がいた迷宮の床だった部分だ。

今や平らになったそこには迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達が犇めき、そして半分ほどが下、草原のフロアに降り立ってアシタバ達を探しまわっている。


「………万一、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーがこの結界にぶつかった時、ばれはしないのか?」


薄く発光する魔法陣のすぐそばを通る迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーを見ながら、トウガが心配そうに訊ねた。


「心配は無用です。この陣は相手を無意識に退けるんですの。

 どんな高位魔法生物であろうと、触れはしません」


自信満々のマリーゴールド。

トウガは納得というよりは信じるしかない、と思ったようだ。

ツワブキは1つ、重いため息をついた。


「マジでまいったぜ。新種の待ち狩りの魔物なんざ一番相手にしたくねぇ部類だ。

 まだドラゴンの方が可愛げがある。

 しかもドラゴンを超えるあの巨体ときたもんだ……」


「あのデカいのは母蜘蛛だろうな。普通のサイズの方は数からいって子蜘蛛か。

 アシタバ、何か意見はあるか?」


ディルがアシタバに意見を振る。

彼も、それなりにアシタバに一目置いているという表れだった。


「あれは多分シリキレグモだ」


「シリキレグモ?」


「魔物じゃない、普通のクモにもあれと似た進化をした種がいる。

 トタテグモ、戸を立てるクモの一種だ。

 彼らは狩猟性のクモ、地中に垂直に、あるいは斜めに穴を掘ってその中に潜み、獲物が近付くのを待つ。

 特徴的なのは、カモフラージュのためその穴に被せる蓋を作るんだ。

 自分達の糸を使って円状のものを作るんだが、表側は泥や葉をつけて周りと同じようにする。

 これも一種の擬態、と言えるのかな」


探検家の中で学者肌、と言われるアシタバの本領だ。

一同、特にツワブキとディルは、そのどこから仕入れてきたのか分からない(本人も決して語らない)アシタバの知識を、説明を熱心に聞く。


「シリキレグモはそれに加えてもう1つ、特徴を持つ。

 お尻の部分が半分のところでバッツリと切られたようになっているんだ。

 尻切れなわけだな。その断面は紋章のようになっているが、重要なのはその堅さだ。

 人がナイフを使っても苦労するぐらいらしい。

 この切断面は擬態ではなく防御で使うんだ。

 シリキレグモの天敵がやってきた時、彼らは頭から自分達の穴に入る。

 そうすると、その切お尻が穴の蓋になるわけだな。

 堅い堅いその蓋に、天敵達はまぁ諦めたりもするわけだ」


「頭隠して尻隠さず、だけど俺の尻は滅茶苦茶かてーぞ、ってこったな」


意味不明なツワブキの相槌をアシタバは無視した。


「地面に擬態するというトタテグモの習性。シリキレグモの持つ堅さ。

 それを迷宮に擬態するという方向性で研磨したのが、あの魔物だと俺は考える」


一同は草原を歩き回る、その蜘蛛達に目線を送る。


「実際、あの体についている岩壁は厄介だぜ。

 擬態と防御、2つの役割をこなしてやがる」


ヤクモがうんざり、という顔で言った。


「俺の斧も通りませんでした。蜘蛛が鎧着ているようなもんです。

 一筋縄じゃいかないですよ、奴ら」


同じく迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーと一戦交えたオオバコも意見する。


「そりゃあお前達の戦い方が悪いんだ。

 重歩兵相手にゃ鎧の隙間を突くのがセオリーだろうが。

 岩壁に斧ぶち当ててどうする。狙うのは関節だぜ、関節」と、歴戦のツワブキ。


「新種、っての探検家には脅威かもしれないが……。

 確かにダンジョンに擬態していたと分かった時は度肝抜かれたが、戦ってみたらそうでもなかったな」


同じく歴戦のトウガも、顎の髭を触りながら意見をする。


「あいつら、ひどく………バランスが悪い」


「バランスですか?」


ヤクモの質問には、ツワブキが答えた。


「狩猟性の大蜘蛛ビッグスパイダーってのは普通のクモと同じで俊敏、素早い魔物なんだが……。

 迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーは鈍重だ。

 当然だな。大蜘蛛ビッグスパイダーの細めの脚であんな石壁背負ってりゃそうなる」



それは、通常の生物より遥かに進化スピードの早い魔物だからこそ起こる。


進化は展開だ。

進化は新たな可能性を生むことであり、元の生物から枝分かれをすることである。

飛べなくなった鶏、目の弱いモグラ、全ての進化が上位互換へと変化することを指すのではない。

つまり試行回数の多い彼ら、魔物は、無駄な進化、マイナスを含む進化を遂げ易い。


この現象は、この世界では進化迷子と呼ばれる。



「要は迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーは、一長一短の進化をした魔物と言える。

 擬態能力と防御力の代わりに、スピードとバランスを失った。

 あの規格外のデカブツを除けば、戦闘能力自体は恐れるほどじゃない」


アシタバの冷静な補足。

ツワブキがまた息を吐くと、話を本題へと移し始める。


「とにかくこれからどうするかだな。まずは目標の決定だ。

 そもそも、あいつらと戦って倒していくべきだって馬鹿はいねぇよな?」


その問いに答える者はいない。


「目的は脱出だ。未知領域ブラックに対する初回の探索の目的、脅威の偵察はもう果たした。

 もうここは危険領域レッドで、フロア自体の攻略は次回以降行う。

 今回は全員無事に地上へ帰還する。それだけ考えりゃいい」


「でも、帰るたってどうするんだよ」


大泥棒ラカンカが、自嘲気味に頭上を見上げた。

釣鐘状の地下二階、その頂上には、迷宮前に彼らが下った階段が取り残されている。


「帰り道はあそこだぜ。もう一回あのバカでかい蜘蛛に乗って、ついでに背伸びでもしてもらいや、あの階段のところまで戻れるかもな。

 何せあいつら、親切な蜘蛛だし」


そう、それが現時点での一番の問題だった。アシタバ達は帰り道を喪失したのだ。


巨大蜘蛛が動き始めた時、迷宮は下へ、下へと下がった。

あれはつまり、巨大な蜘蛛が伸ばしていた脚を畳んだのだ。

それが証拠に今、巨大蜘蛛の胴体は膝より下に来ている。

胴体部と階段までは40メートル弱、かなり開きがあった。


「あの母蜘蛛が脚を伸ばして背中の岩盤と階段をくっつける。

 そうしてできた偽物のフロア上で、子蜘蛛達が壁に擬態してあの迷宮を、狩り場を作りだすんだろう。

 騙しが終わった今、偽物のフロアを作っておく必要はなくなった。

 つまりもう背伸びなんかしない」


【隻眼】ディルが冷静に分析する。


「背中に乗って鉤爪付きのロープでもぶん投げてみるか?

 上手くいくと、この地獄に救いの糸が垂れるぜ」


ラカンカの言葉に、アシタバはまさしくこの階にお似合いの、蜘蛛の糸なる小説を思い出した。


「そりゃ、まず母蜘蛛に昇るためにロープを投げねぇとな。

 その間中、子蜘蛛が俺達を襲わないことを願うばかりだ。

 もちろん階段にも上手く引っかかるようお祈りしねぇと」


無理、を遠回しに言うツワブキ。


「無知ですまないが、魔法で飛べたりはしないのだろうか?」


正座をしつつ狩人エミリアがユーフォルビアに訊ね。


「そんな魔法はない。跳躍強化はあるけど、母蜘蛛を昇るのにも無理」


「う、上の方達がロープを降ろして下さるのを待つ、とか……」


「そりゃお姫さんがウォーウルフの巣に落ちた時のことか?

 大蜘蛛ビッグスパイダーはウォーウルフほど賢くはねぇ。

 俺達が逃げ出しそうな雰囲気を出せば妨害してくるだろう。

 第一このフロアで、上の救援がくるまでどうやって凌ぐんだ」


ツワブキの否定に、ローレンティアは少ししょげる。

手詰まり。重たい沈黙が一同を包む。




「地下一階へのルートなら、あるぞ」


沈黙を破ったのはアシタバだった。


「…………本当か、アシタバ」


「ある、はずだ」


中途半端な物言いだが、可能性があるだけマシだとツワブキは身を乗り出す。


「キリ、ラカンカ、お前らも見たはずだぞ」


「あぁ?何をだよ」


「ハルピュイア迎撃戦の時だよ。ウォーウルフ達が来ただろう」


その言葉に、ラカンカとキリだけでなく全員が息を止める。


簡略会議セッションやるぞ。

 俺が質問者クエリ、ラカンカが回答者アンサー、キリが評価者ジャッジだ」


お前らさっき見ていただろうとアシタバは、二人の戸惑いを無視して質問を始めた。


「一、ハルピュイア迎撃戦時、ウォーウルフ達はどこから来た」


「えぇと、あれだ、解………。

 この階に奴らの巣があるようには見えねぇなぁ……ここより下の階からだ」


ヤー、ウォーウルフ達の巣がここにあるのなら、咲き月、アシタバとローレンティアが落ちた時に何かなければおかしい」


見よう見まねで応じる二人。

アシタバが質問、ラカンカが答え、キリが意見を添える流れが続く。


「二、ハルピュイア迎撃戦の折、ウォーウルフ達はどうやって地上に来た?」


「解、ここを通った可能性は高い。

 地下一階には、地下二階に続く洞窟から大階段までのウォーウルフ達の足跡が確認されている」


ヤー、確たる証拠はないけど、特に否定材料もないわ」


「三、あいつらはどうやってここを通った?」


「解、あー、解…………。

 母蜘蛛の背中に乗っけてもらって、リフトみたくあの階段まで届けてもらった、とかぁ?」


ナップ、狼と蜘蛛が共生関係にあるというのは素人目に見ても考えにくい。

 ウォーウルフ達はハルピュイアとは敵対関係にあった」


茶化すラカンカに、キリとアシタバが冷たい視線を注ぐ。


「繰り返すぞ、三、あいつらはどうやってここを通った?」


「………解、別のルートがある。

 それはきっと、ウォーウルフ達が用意した………。

 あの蜘蛛達に関わらずに地下一階へといける、迂回路が」


ヤー。ウォーウルフは争いを避ける魔物だと聞いた。

 ハルピュイア達の卵や雛を得るために、一々蜘蛛達と戦うのは不合理。

 彼らが迂回路を作ったと考えるのは自然」


「そうだ。ウォーウルフ達についてもう1つ言うなら、あいつらは結構穴掘りが上手い。

 四、最後の質問だ。迂回路はどこにある?」


「…………………………。

 俺がこのフロアにトラップを仕掛ける魔物で、下から来るやつらが勝手に安全な道を開拓していたら………。

 討ち漏らしのことも考えてそれは、隠しておくぜ。

 解、それは、蜘蛛達によって隠されている」


ヤー。それがシリキレグモの習性なんでしょう?

 蓋や自分の体を使って穴を塞ぐ」


一同は、ようやくそれに辿りついた。

ツワブキが伸びをしながらゆっくりと立ち上がる。


「初めてにしちゃ上出来だ、お二人さん。特に班長のラカンカは覚えておけよ。

 簡略会議セッションは短い時間で意見をまとめる探検家の通例フォーマットだ。

 ………さて、俺達のやることも決まったわけだ」


一同は立ち上がり、その草に覆われたフロアに目を凝らす。


「このフロアのどこかにそれは隠されている。

 高い確率で、草か岩に擬態した子蜘蛛の体で覆われているウォーウルフ達の迂回路だ。 

 それを見つけ出すぞ」



初めてのダンジョン攻略で、初めて目にする魔物に、ここまでは完全にしてやられた。

驚愕、動揺、不安に満ちていた顔は、現状と敵の正体と目的が整理され、プロの顔へと変わっている。

化かし合いは完敗だ。


だが生存競争でまで彼らは、白旗を上げるわけにはいかなかった。




六章四話 『活路』

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