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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第六章 照り月、消失迷宮編
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六章三話 『迷宮の正体』

六人の隊員の消失。帰路を示すロープの切断。

這い寄る脅威に一同はざわつく。


「ディル、アシタバ!簡略会議セッションやるぞ!

 俺が質問者クエリ、ディルが回答者アンサー、アシタバが評価者ジャッジだ!」


ツワブキが座る。正三角形を作るようにディルとアシタバも座った。


「一、相手は何か?」ツワブキが問う。


「解、待ち狩りの魔物の可能性が高い。フロアに生き物の気配がない。

 先ほどから耳を澄ましているが、何もなしだ」ディルが答える。


ヤー、少なくともヨウマとグラジオラス、キリは単純な強さじゃ簡単にはやられない。

 待ち狩りの魔物の間合いに入ったが故の呆気なさだろう」


と、アシタバが二人に続く。



「二、既知の魔物か?」また、ツワブキの問い。


「解、そうではなく新種と考える。探検家組合ギルドに似た報告はない」


ヤー、俺達三人が思いつかない既知の魔物は考えにくい。

 ここは新種領域ホワイトだ」


ディルが答え、アシタバが意見を添える、という流れを繰り返す。



「…………ホワイト?」


頭を寄せ合う三人から少し離れ、オオバコが呟いた。

それにはラカンカが答える。


新種領域ホワイト、アシタバから教えてもらったぜ。

 場所が未知であるという未知領域ブラックとは違い、生息する魔物が新種であるエリアのことを指す。

 大抵、未知領域ブラックよりヤバいんだとさ」


とにかくヤバいということが伝わったのか、オオバコは身震いする。


「三、いなくなった奴らはどうなった?」


「解、捕食用に捕えられている。が、まだ食べられてはいない。

 液で溶かされているとかなら分からないが、少なくとも咀嚼音はしていない」


ヤー、敵勢力がまだ残っているのに食事を始めるバカな生物はいない」


「四、俺らの行動指針は?」


「解、捕食が始まる前にいなくなった六人を探し出すべきだ。

 そのためには魔物の正体を掴む必要がある」


ノップ、一旦帰って体勢を立て直すべきだ」


アシタバの発言に、ヤクモやオオバコは眉をひそめる。


「…………そりゃあキリ達を見捨てるってことか?」


三人に割って入るオオバコには僅かに怒りが見えた。


「事態はそれほど深刻だ、と判断する。全滅の可能性も十分にある」


「お前なぁ………」


「オオバコ、悪りぃがアシタバは間違ってねぇ。

 簡略会議セッションで与えられた役割を務めているだけだ。

 だがアシタバよ、俺は反対するぜ。

 個の感情を抜きにしても、いなくなった奴らは見捨てるには惜しい。

 全滅の危機と天秤にかけても、救い出す価値があると考える」


「………反対はしない」


「OK、五、具体的に俺達がこれからする行動は?」


「解、消えた者達が最後にいた場所を調べる。

 まだ見ぬ魔物の手掛かりを掴む」


ヤー、今は少しでも推測の材料が欲しい」


「六、他に意見や考察すべき点は?」


「解、なし」


ヤー


「あるぜ。質問が一つ」


ツワブキ達三人の簡略会議セッションに割って入ったのは、大泥棒【月夜】のラカンカだ。三人の傍に屈みこむ。


「ラカンカか、なんだ?」


「待ち狩りの魔物ってのは、会話の内容に反応して襲いかかってきたりするのか?」


「敵は新種って話だが、その可能性は低いな。

 ゴブリン、オーク、人魚マーメイド首なし騎士(デュラハン)………。

 過去、人語を理解し操る魔物がいなかったわけじゃねえが、例外なく奴らは人型の知性魔物だ。

 今回の敵の正体が人型っていうのは考えにくい」


「ただ会話の緩急や表情を読んで襲いかかってくるものは多い。

 樹人トレントのように刺激に単調に反応するものもいれば、相手をよく観察するものもいる。

今回は後者だろうな」


ツワブキとディルの説明に納得したようなラカンカ。


「じゃあ、全員平静を装ったまま話を聞いてくれ。視線もそのままだ。

 俺は今回ダンジョンに入る前、ピコティにも紐を括りつけといたんだ。

 っつっても細い、よく見なきゃ見えないやつさ」


「何でそんなことを?」【刻剣】のトウガが訊ねる。


「危なっかしかったからな。どっかいかねぇようにだ」


犬のリードかよ、と何人かが心の中で思った。


「んで、あいつがいなくなった時、当然俺は紐を辿ったわけだな」


「…………どこに続いてたんだ?」と、アシタバ。


「引っ張っちゃいなかったから、相手には気付かれなかった。

 …………と、思う。紐の先は、壁の下敷きにされていた」



間。



しばらく、その意味を理解する時間があった。


「……それは、つまり―――」


「壁が動いているんだ。全員、目線を動かすなよ。

 壁が魔物なんだ、ツワブキ」



再び、間。


それは、どう動けばよいのかという。


「どの壁が、だ………?」


流石に冷や汗をたらすツワブキ。


「知らねぇよ。それが分かってから壁を観察していたが、違いは見つけられなかった。

 それに傾倒しすぎてエミリアを消されちまったのは、まあ言いわけだが」


「……………はぁ、参ったな~」


頭を掻きながらツワブキが立ち上がる。グルグルと集まる面々を見る。

いや、焦点は後ろの壁に当てられていた。


「なんか俺適当に喋っているから、聞いている風を続けてくれ。

 壁に擬態する魔物?思いつかねぇ。やっぱ新種か。

 全員、くれぐれも平静を装ってくれ。大きな声なんかださねぇように―――」


「うわあああああああああああ!!!!!」


全員が、突然の叫び声の方を向く。

ツワブキの言葉を無視して声を上げたのは、気絶から目覚めたレネゲードだった。

顔面蒼白、顔が驚愕の色で染められている。


「お、おいレネゲードさん、落ち着いて――」


傍にいたオオバコが慌てる。


「な、なんでこんなところにいるんだ!!どうして入り込んだ!!」


と、叫ぶレネゲード。


「こんなところって、地下二階に―――」


「どうして、どうして気付かなかった!!囲まれているじゃないか!!!」


「………あー?」


その意味をツワブキが、全員が理解する前にレネゲードが叫ぶ。


「全部魔物だ!!」



その声に呼応して、四方八方の壁が全て動き出す。

壁が傾き。その背後から、畳まれていた黒く長い脚が八本、伸びる。


大蜘蛛ビッグスパイダーだ!!」


驚愕し、背を向け合い、輪になって外側に剣を構えるツワブキ達を囲むように。

地下二階、全ての壁が動き、その姿を現した。



そう、彼らは。


大蜘蛛ビッグスパイダーの巣に、自ら入り込んでいたのだ。










傭兵ヤクモの、昔の話をしよう。


彼の故郷は魔王軍の侵攻を受け、滅ぼされた。

同郷で生き残った者は少なく、その一人であるヨウマと彼は傭兵をすることになる。

数年後、彼らはトウガ傭兵団入りし、やがてトウガ平原と呼ばれる魔王軍との戦線へ配属された。


「…………なんでこんな、何の障害物もない平原に戦線を置いたんですか」


ヤクモが先輩の傭兵に呟く。

長期的に続く魔王軍との戦線は、昼勤と夜勤に分かれ傭兵達が支えていた。

彼らは今、休憩中だ。


「馬鹿でも分かりますよ。

 人間より強えぇ魔物もいるんだから、俺らは頭を使ってその差を埋められる地形を選ぶべきなんだ。

 こんなの、激しい消耗戦を続けるだけだ」


「はは、そう思うか?ウチの団長が無能だって?」


当初、ヤクモの団長トウガに対する評価はよくなかった。

この戦場で呑気にへらへらと笑う男。馬鹿な作戦指揮で部下を無駄に死なせる男。

実際、戦死者も少なくない。


「まぁお前の意見は正しい。

 が、団長も正当な理由があってここを戦場に選んだ」


その、熟練の傭兵はニヤリと笑う。


「この戦線の後ろにデッケー湖があるだろう。日の国(ラグド)一の湖とも呼ばれている」


「ええ」


日の国(ラグド)もそうだが、その湖から流れる水は月の国(マーテルワイト)を通る。

 橋の多い橋の国(ベルサール)の河もその湖の下流。

 国中を河が流れる河の国(マンチェスター)も同じく。そして波の国(セージュ)へ流れ着く」


「………………」


「戦線を下げて、湖の対岸へ防衛線を張りゃもっと楽に戦えただろう。

 でも魔王軍に明け渡した湖から、下流へと水棲の魔物が侵攻していく。

 橋の国(ベルサール)河の国(マンチェスター)は、国中を河が流れる。

 魔王軍との戦線なんか関係なく、間違いなく内部から食い荒らされる。

 分かるか?この戦線は下げれない。下げた瞬間2つの国を滅ぼすことになる。

 日の国(ラグド)だけでなく、月の国(マーテルワイト)波の国(セージュ)も被害を被る。

 キツくて、激しくて、無理な戦いだ。

 だが責めるとすりゃ、無責任にここまで戦線を下げた前の時代の奴ら。

 ここの重要性に気付かずに撤退していった周りの戦線の奴ら。

 日の国(ラグド)の王国軍なんか、湖を明け渡したとして自国への被害は少ないっつって手も貸しやしねぇ。

 

 …………誰かがやらなきゃいけなかった。

 このクソみたいな戦場を、それでも守らなきゃいけなかった。

 トウガはそれを請け負ったんだ。だから俺も力になりたいのさ」


トウガより年上、長く彼と戦ったその男は、歴戦を漂わせる笑みをヤクモに見せる。




その三ヶ月後、その男は戦場で死を遂げる。

戦場が日常の傭兵にとって、死は唐突だ。ヤクモはその亡骸を呆然と見ていた。


魔王軍が特に力を入れた侵攻だった。

トウガ平原の魔王軍側の将、朱紋付き(タトゥー)、悪魔卿デーモンは巨人トロールの兵団を戦線へと投じた。


熟練の傭兵の多くが命を落とした。長く、トウガと共に戦ってきた者達だ。

彼らは、トウガ傭兵団が守ってきた湖の湖畔に埋葬される。


埋葬したその日は、トウガは一度も笑わなかった。








迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー


2メートル程も全長がある大蜘蛛ビッグスパイダーの亜種として、後日ツワブキにそう命名される。新種の魔物だ。

黒い毛に覆われた巨大な蜘蛛の姿をベースに、レンガ模様の石壁を背負うような格好をしている。

八本ある足の腿と脛にあたる部分にも、防具プロテクターのように石壁がついていた。

生物的には、亀と蜘蛛を合わせたようなものになるのだろうか。


彼らが足を折り畳み、縦向きに居座るとレンガ模様の石壁と区別がつかなくなる。

そう、彼らは石壁に擬態する待ち狩りの魔物だった。

彼らの群れは迷宮そのものに擬態し、侵入者を音もなく狩っていく。




「戦闘態勢ぇ!!」


怒鳴るツワブキ。

もはや地下二階は迷宮などではなく、柱を残しただけの吹きさらしとなっていた。

あるのは、石壁を背負った大蜘蛛ビッグスパイダー達。

それがうじゃうじゃと大群をなしてツワブキ達を囲んでいた。

魔物の正体にも気付かず、呑気に彼らの縄張りへと踏み込んだ、これは【凱旋】のツワブキの探検家史上、最大の失態――――。


では、ない。


「糸の塊が何個か見えるな!恐らく消えた奴らだ!

 一つずつ回収していくぞ!ついてこい!!」


斧を振るい、蜘蛛をかき分けていくツワブキ。

ディルがそのサポートにつき、トウガや他の者達が続く。

アシタバはオオバコにレネゲードの補助を指示し、殿しんがりを務めた。


魔物ひしめくダンジョンに潜り、彼らの縄張りに踏み入っていく探検家にとって、不意打ちや奇襲はいつものことだ。

今回は新種、初見殺しの待ち狩りの魔物の群れという最悪の部類の相手だったが、それでもツワブキ達探検家の対応は素早い。

やらかさないこと以上に、窮地に陥った後冷静に動けること。

後の先を取ること。それが探検家として重要だった。


「それがピコティだ!!」


手の紐を引っ張りながらラカンカが叫ぶ。その先は糸の塊の1つに続いている。

トウガが前に立つ迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーに重い一撃を喰らわせると、ヤクモが素早くその背中の石壁を足場に飛び、糸の塊の傍に降り立った。

ナイフを片手に、糸を剥いでいく。


「えほ、げほ!!」


裂かれた縫い目からせき込む声。涙目のピコティが糸の塊から引っ張り出される。


「ヤクモ、ヤクモぉ!!怖かったぁ!!!」


「あいよ、感動の再会は後だ。どんどん次いかねぇと!」


「あぁ、埒が明かねぇ!ディル!トウガ!アシタバ!ヤクモとオオバコ!

 1つずつ糸の塊とってこい!!俺も行く!!

 後の奴らはお姫さんの傍に固まってろ!!」


ツワブキの叫びに、呼ばれた者達は弾けるように走りだした。

オオバコが迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー相手に斧を振るう。

が、背中の石壁に阻まれた。


「かってぇ!!」


「オオバコ、こいつら石壁背負っている分おせぇぞ!

 戦うより駆け抜けた方が早えぇ!」


ヤクモが叫び、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダー達を飛び越えていく。

アシタバ達も同様に糸の塊を目指す。




死に直面してこそ冴えるローレンティアの周りには、黒い呪いの防壁が展開されていた。

足を掲げ彼女達に襲いかかる迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーを、呪いの黒い手が押し返す。


「ひぃぃぃいいいい!!」


情けない悲鳴を上げるのはマリーゴールドとピコティだ。

前足を持ち上げ、威嚇の姿勢を取る迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーは、石壁の下の巨大な蜘蛛の姿、毛深い脚と生々しい口を露わにする。

多くの者がその気持ち悪さに卒倒するだろう。


「駄目だ、駄目だ、もうおしまいだぁ………」


ローレンティアの呪いの防壁内にいながら、先ほど大声を上げた騎士レネゲードは頭を抱えて蹲っていた。


「おいおっさん!もう最悪の事態まで来ちまったんだ!

 腹括って立ち向かうしかねぇだろうが!!」


万一に備えナイフを構えるラカンカが怒鳴る。


「最悪?これが最悪だって!?どうして君達は分からないんだ!!」


「………あぁ?」


「下の奴が動き始めた時が最悪だろう!!」


ラカンカは足元を、その石畳を、見た。






蚤の夫婦、という言葉を知っているだろうか。


これはノミという生物のメスが、オスに比べて大きな体を持つことから生まれた言葉だ。

このノミより更に雌雄間での体格差が広がった場合、それは生物学上、矮雄と呼ばれる。

深海魚、チョウチンアンコウなどが有名な例の一つだ。


もう一つ例を上げるならば、ジョロウグモ。

そう、蜘蛛の中には。


雄と比べて、桁違いに巨大な体を雌が持つ種がある。





グラリ、と地下二階が傾いた。


突然の事態に、流石の英雄トウガやツワブキを含めた全員が、理解できなかった。

傾きは続く。地下二階はもはや平行ではなくなる。

フロア自体が下へ沈み、沈み………。


「全部魔物だ?」


ツワブキは、レネゲードが発した言葉を思い返す。

フロアの遥か向こうはもはや、迷宮の壁などではなく苔に覆われた岩肌が見える。

次の瞬間、フロアの地平線から黒い、巨大な柱が現れた。


否、それは脚だ。おそろしく巨大な、蜘蛛の脚。


「………そういうことかよ」


今、ツワブキ達が立つ地面。巨大な岩盤。

それを背負う、巨大な、巨大な迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの母蜘蛛が、動き始めた。




六章三話 『迷宮の正体』

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― 新着の感想 ―
この簡易会議の形、普通に有用だし、これをみるだけで今の状況と方向性が整理されて読みやすいんだよなぁ。
[一言] ……やばすぎぃ…
[良い点] ええええええええ ダンジョンの生物えぐ! めっちゃ面白いです!
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