六章一話 『傭兵ヨウマとヤクモ』
トウガ傭兵団。
暗黒時代の五英雄が一人、【刻剣】のトウガが率いた最強の傭兵団だ。
彼らは魔王軍との戦争において日の国に雇われ、その戦線を請け負うことになる。
【黒騎士】ライラック、【豪鬼】バルカロールを含める全ての対魔王軍の戦線において、彼らの戦線だけは少し特殊だった。
平原に防衛線を敷いたのだ。
他の戦線は山、崖、大河などの自然や、砦、城壁などの施設を利用して展開されたが、彼らトウガ傭兵団は盾も何もない平原に戦線を敷き、総力戦の長期戦に打って出た。
戦線は苛烈を極める。トウガの名のもとに傭兵が集まっては散っていく。
彼の大剣には日に日に傷が増えていき、戦死者ばかりが積っていった。
魔王城、東側。
再び、木刀と木槌のぶつかり合いが響く。アシタバとオオバコの訓練だ。
アシタバの切りつけを器用に柄で受け流すオオバコは、やがて隙を見つけ、大きく木槌を振り被る。
「ここだぁ!!!」
「と、いう見せかけだ」
あったような隙は霧散し、オオバコの大振りを避けたアシタバが頭を軽く小突く。
「のわぁ!!」
地面に転げるオオバコは、既に息が上がっていた。
「オオバコ、もう体はいいみたいだな」
「だなーでも勝てねぇー!!」
「だが守って隙を見つけて重い一撃を、ってスタイルは身についてきた」
「うーん………そもそも最後の、隙を見せかけるなんて対魔物特訓の範疇かぁ?」
「あるぞー死んだふりする生き物もいるんだし。
騙し合いは生き物の世界じゃ日常茶飯事だ」
寝そべるオオバコと立ったままのアシタバの会話を、少し離れてキリとローレンティアが見守る。
「オオバコ、まだまだ脇が甘い。
反応はよくなってきたけど………私なら十三回殺せた」
「そ、その言い方はやめない………?」
戦闘部隊、アシタバ班の集まりだ。
結成日以来、彼らはこうして何度か顔を合わせていた。
「キリ!アシタバと交代してくれ!素早い相手との訓練をしてぇ!
ティア、見ていてくれよ!俺の一勝目は近いぜ!」
オオバコが吠え、キリがそれに応えて彼に近づく。
会ってからしばらく、彼はローレンティアに慣れない敬語で接し続けた。
団長で王族だ。常にあたふたもしていた。だが元は陽気で、社交性のある彼だ。
アシタバやキリ達の接し方を理解して、ローレンティアにも王族向けでない態度で接するようになっていた。
今やアシタバ班の三人ともがティア呼びだ。
「ティアの魔法の方はどうなんだ?」
キリと交代したアシタバが近づいてくる。
「ええ、何度かマリーゴールド達と会って教えてもらっている。
今は治癒魔法の習得中かな」
「ティアの今後を考えて習得をしてくれよ。チームの事情は後でいい」
「ええ、そうする」
エリスとの約束を、ローレンティアは思い出す。と、その時。
「よーよー!なんだか軽快な音が聞こえると思えばぁ?
手合わせ中かあんたら!俺も混ぜてくれ!!」
割って入る声に、オオバコとキリの手が止まる。
というか既にオオバコは地面に伏せられている。
アシタバ班の四人が見ると、少し離れて二人の男が立っていた。
跳ね気味の茶髪の髪、傷の多い体と身軽な服装。
さばさばとした、活気あふれる青年だ。
腰には刃の大きなサーベルを引っ提げている。
後ろに立つのは、比較的冷静そうな男。
深緑の降ろし気味の髪。身軽な服装と傷の多い体、刃の大きなサーベルは同じだ。
二人とも傭兵の恰好だった。
「俺ぁヤクモ!こっちのはヨウマ!
是非手合わせしてくれよ。戦い、好きなんだ俺ら」
「………野郎二人でいいか?」
「勿論だぜ!」
キリが予備の木刀を投げると、二人はそれを取って構える。
自然な流れ、随分と戦闘慣れをしている。
アシタバがオオバコの側に寄り、二人構えた。
「それではー、尋常にー………」
キリが興味ないような、間の抜けた仕切りをする。
「勝負!!」
ヤクモとヨウマ。アシタバとオオバコが、動き出す。
数分後、地面に倒れるのはアシタバとオオバコだった。
「つっよ…………」
「いやー悪いな。これであらかた同年代の奴らとはやったか」
「アシタバ、やった中ではお前が一番強かったぞ」
そりゃどうも、と苦い顔をしながらアシタバが立つ。
開始早々、すっぱりと攻略されたのはオオバコだ。
未だ大振りと隙が目立つ彼のスタイルは、彼ら熟練の攻撃を凌げはしなかった。
ヘルプに入れるほどアシタバにも余裕があったわけではない。
烈火のような剣撃に、彼も凌ぐことで精いっぱいだった。
「あの、トウガ傭兵団の奴らには流石に勝てない」
戦闘部隊内で彼らは既に有名になっていた。
アシタバの言葉に、二人は顔を綻ばせる。
「そう!俺達は強いんだぜ!トウガ傭兵団の一員だったんだから!!」
「まぁ、だから弱くはいられないんだな。
少なくとも同世代で一番は譲れなかった」
アシタバは、自分が完敗したキリのことはあえて言わない。
オオバコも立ちあがり、会話に加わる。
「二人はずっとトウガさんについていたのか?」
「おーよ!今に言うトウガ平原で、若い時から戦いの毎日だぜ!
寝てる時間より切り合ってる時間の方が長かった。
戦いの経歴だけなら負けねぇ、歴戦の傭兵だ!
トウガさんの右腕、左腕って記憶してくれて構わねぇぜ!」
「正確に言っておくと、傭兵団のナンバー2、3ってわけじゃないからな。
俺らより上の傭兵は沢山いた。皆、故郷へ帰ったか死んじまったかだ」
「ヨウマはあいっかわらず細けえなぁ!
右腕、左腕ってバーンと言った方がかっこいいだろうが!」
「情報を正確に伝えろよ。誤解生んで後で困るのは俺達だろ」
「あーあー、分かった分かった!」
喧嘩になりそうな二人をオオバコが仲裁する。
「ともかく二人はトウガ班なんだな?
また暇なときに手合わせしてくれると助かるぜ。
今、色々伸び悩んでんだ」
「強くなろうとする男は好きだぜ~。よろしくな!!」
そう言って笑うと、ヤクモとオオバコは握手をし。
残ったアシタバとヨウマも、何となく握手をした。
翌日。
魔王城三階の一室、再び九人の班長とディルが集まっていた。
ツワブキは一人立ち、班長達に講義を行う。
「まずお前らに、領域の定義を教えておきてぇ」
「領域………?」
「ダンジョン内の区分けのことだ。探検家界の専門用語でな。
危険度によって四段階に分けられる。最も危険なのは未知領域」
ふむふむ、とタチバナが熱心にメモを取る。ラカンカは興味なさそうだ。
「その名の通り、誰も踏み込んだことがない領域だ。
魔王城では地下二階以下がこれにあたる。
何があるか分からない分、そこに踏み込むにゃ万全の準備と細心の注意、熟練の探検家が必要になる。次、アシタバ説明しろ」
指名を受けてアシタバが応える。
「二段階目は危険領域。
どんな魔物がいるかは分かっているが、脅威の排除は行われていない区域を指す。
一度探索が行われ、大体の内容が調査された未知領域がこれになる。
ここもきちんと武装をした経験者じゃないと危険だ。基本立ち入り禁止の領域」
「次、タマモ」
【狐目】のタマモが面倒臭そうに頭を掻いた。
「三段階目は警戒領域だな。
ある程度の脅威が排除された危険領域がこれになる。
脅威が完全に根絶されたわけではないが、武装と注意があれば一般人でも立ち入ることができる。
現在、魔王城の地下一階……樹人のフロアがこれだぁな」
「最後、ディフェンバキアのおっさん頼むぜ」
ディフェンバキアが髭を撫でながら答える。
「四段階目が安全領域じゃな。
魔物の脅威が完全に根絶された領域……。
武装しない一般人、女子供も安全に立ち入ることができる。
魔王城の一階から上は、団員達が寝泊まりに使っておる。完全な安全領域じゃな」
「と、いうわけだな。つまり魔王城を居住区化する銀の団では、ダンジョンを全て安全領域にするのが最終目的ってわけだ。
未知領域を探索、脅威を調査して、危険領域へ。
危険領域を攻略、脅威を軽減して、警戒領域へ。
警戒領域を処理、脅威を根絶して、安全領域へ。
俺達がしていくのはそういう作業になる」
「ふぅん、つまり班ごとに携わる工程も違うということか?」
周囲を置いて、トウガが納得したように言う。
「そういうわけだ。熟練度にも差があるからな。
基本、未知領域の探索を請け負うのは俺達ツワブキ班だ。
それ用にメンバーを集めたんでな。
フロアの特性によって、他の班を連れていく時もあるだろう。
例えば、トラップが多そうならラカンカ班を連れていく」
うへぇ、とラカンカが面倒臭がる。
「危険領域の担当、これが実質のメインになるな。
調べるんじゃなく脅威に対処する工程だ。
ツワブキ班も携わるが、トウガ班、ストライガ班、ラカンカ班、アシタバ班で適性を見つつ取り組んでもらうことになる。
戦闘経験がそれなりにある、任せられる奴らだな」
「了解」「了解した」「りょーかーい」「了解」と、トウガ達が頷く。
「警戒領域を担当するのは、残りの班……。
ディフェンバキア班、タマモ班、タチバナ班だ。
ディフェンバキア班は臨機応変に、ダンジョン各所に顔を出して建築に取り組んでくれ。
タマモ、後衛の責任者はテメーだ。タチバナ班の教育も任せる」
「あいよー、ま、後方でのんびりできるなら文句ねーや」
悠長にタマモが呟いた。
「んで次の探索だが、今月末……一週間後ぐらいで考えている。
地下二階、未知領域への探索だ。未知領域は俺の班の管轄とは言ったが……。
今回はまだ班内の連携も不十分だから、4つの班を選抜して共同で初調査に取り掛かろうと思っている」
4つの班、と班長達は互いに顔を見合わせる。
「1つ目は勿論ツワブキ班。2つ目、ラカンカ班!」
「お、おう………」
「やっぱ新しいところはトラップが怖えぇ。
エミリアの矢も欲しいところだ。基本後衛気味でついてきてくれ」
「あいよ……」
【月夜】のラカンカは面倒臭そうだ。
「3つ目、トウガ班」
「おぉ」
傭兵【刻剣】のトウガは意外そうな声を上げる。
「戦力が欲しい。サポートしてくれ。正直ストライガ班と迷ったが……。
素人のあんたに早いうち、俺が見れるところで学んでもらった方がいいと思ってな。
自分がダンジョンの素人ってことを忘れずに、その戦いの腕で俺達を助けてくれ」
「なるほど、了解した」
「んで、4つ目はアシタバ班だ」
「………はい」
「探検家の班長が欲しかったのと、お前らのチームの出来を確認しときてぇ。来い」
「了解」
アシタバは事務的に了承する。
「他の、出番を望んでいた奴は申し訳ねぇな。
ただ4班で16人、これでも多すぎるぐらいだ。
未知領域を攻略していきゃお前らの仕事も増えていく。
準備はしといてくれよな。それじゃあ、解散!!」
勇者が魔王を倒して、一年半が経った時のこと。今からは半年ほど前。
魔王軍の残党は魔王亡き後も抵抗を続け……。
ようやくその脅威もなくなり、平原が解放されたある日。
トウガはトウガ傭兵団の解散を宣言する。
故郷に帰る者は故郷へ。
そうでない者は、トウガができる限りの伝手を使って王国軍や、貴族騎士や別の傭兵団へと斡旋していった。
そんな動きの中で、ヨウマとヤクモは決めかねていた。
「ヤクモ、お前はどうするんだよ?」
「うーん、縁のある村に移住するのも悪かねぇと思っちゃいるんだ。
魔物は減っているけど、国はどこも貧しくて賊も増えているって話だ。
人間の簒奪行為から村を守る用心棒っていうのもありだ」
「だけど?」
「俺は、トウガさんについていこうかと思っている。
本人はそれ許していないみたいだけど、無理やりにでも」
「………どうしてだ?」
「なんていうのかな。トウガさん、奥さんいるのにこういうのも変かもしれないけど……。
独りにしちゃいけないって思うんだよ。何となくなんだけどさ。
あの傷を一緒に背負う奴が必要なんだ。多分。俺にできるか分からないけど。
トウガさん優しいから、あんまり語らないけど……」
トウガの大剣の、仲間が一人死ぬたびに増える傷を思い出す。
「俺は魔王城へ行こうと思うんだ」
「………俺もそうしようと思っていたところだ」
にやり、と二人は笑い合う。
それがトウガ傭兵団、ヨウマとヤクモが魔王城に来た理由だ。
一週間後、魔王城地下一階。
今や、大階段から真っ直ぐ伸びるように開拓された道の先に、それはある。
下へ潜る洞窟。地下二階への入り口だ。
そこに集まった十六人。
ツワブキ班。トウガ班。ラカンカ班。アシタバ班。
以上四班、十六名が、未知の領域へと踏み込んでいく。
六章一話 『傭兵ヨウマとヤクモ』




