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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第五章 照り月序、魔女のお茶会編
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五章十三話 『王たる者よ』

「アシタバ。お前に聞きたい。

 お前、あの子にどんな王になって欲しい?」


開口一番、ツワブキはそう切り出した。

思わぬ角度からの切り出しに、アシタバは少し戸惑う。


「王?ここは国じゃないだろ。それにティアは女だぞ?」


「おめーは細かいことを気にするなー。どうでもいいんだその辺は。

 人の上に立つ者を王と呼ぶなら、お前はあの子に、どんな王になって欲しいんだ」


しばらくアシタバは考える。


「………視野の広い王に。弱きを見逃さず、手を差し伸べられる王に」


「それがおめえの理想の王か?」


「ああ」


ふむ、とツワブキは顎に手を当てる。


「俺ぁ樹人トレントの件でお姫さんに手柄をやった。

 いい団長になって欲しいと思ったんだ。

 団員に認められて、あいつの下でよく銀の団が回るような……そんな団長に。

 でもな、ハルピュイア迎撃戦を経て考えが変わった」


「迎撃戦?」


「鐘の上に立って、お姫さんが最前線を引き受けたやつだ。

 地下一階でお姫さんの呪いを俺は見ていたがよ、あれでお姫さんは倦厭されていたんだなって分かったよ。

 どこか卑屈なところもあの呪いに起因しているんだろう。

 でもあいつは、それを衆目に晒してでも最前線を担った。

 そのせいで団内の彼女の評価は勢いを潜めたな?距離を置く奴も少なくない。

 でも結果から見りゃ、あの手はあの戦場において最善だ。

 熟練の奴らがいない空洞だった中央を、あのお姫さんの決断が埋めたんだ」


言葉に熱が入る。よっぽど喜んでいる時のツワブキだ。


「やるべきことを理解して、直接的な感情に左右されず、その場の最善手を選びとった。

 躊躇いや恐怖はなかったように見えた。

 アシタバ、俺はよぉ、最前線に立つお姫さんの姿に武王の未来を見たぜ」


「武王………?」


「絶望的な状況でこそ理性的で聡明だ。その姿は同じ戦場の者達に勇気を与える。

 今はまだ下地ができちゃいねぇがな。

 でもそういったことがあいつへの信頼を積み重ねていく。

 しかも呪いのおかげで、護衛も少なくていいときている。

 アシタバ、あいつは戦場でこそ叩き上げられるべき王だ」


「……でもティアは王族の、女の子なんだぞ?」


「だからどうした!貴族の公子が、生涯に渡って社交の場で使うための武勇伝を求めて戦場入りするなんて珍しい話じゃねぇ。

 言っちゃ悪いが、あいつは呪われし王女なんだぜ。

 王道を行っちゃ取り返せない悪評が広まり過ぎている。

 だったらあいつの王への道は、邪道であるべきだ。

 魔王城でのダンジョン攻略。その最前線。そこで奮戦した“呪われし王女”。

 そこまで看板が伸びりゃ、距離を置くだけじゃなくあいつに興味を持つ奴らが出てくる。

 武勇持ちの王族美少女ってのもセンセーショナルだ。貴族界であいつに味方ができる」


「……………………」


「少し常識を取っ払え、アシタバ。


 ―――戦闘部隊であいつはお荷物か?

 いいや絶対防御の呪いがあるんだ。守らなくていいし有用な盾になる。

 地下一階で俺を助けてくれたしな。

 

 ―――団長の仕事は?

 正直、元々お飾りで送られた団長だ。書類仕事より武勇を積む方が先だと俺は考える。

 仕事自体はユズリハが頑張ってくれるだろうし、俺も帳尻合わせをする。

 

 ―――貴族界がよく思わないか?

 既に彼女は良く思われていない。

 だったらもっと深くに潜って、武勇伝を身につけて貴族界入りするべきだ。

 まともじゃいられねぇなら振りきれろ。その方が派手で面白くて、分かりやすい。


 ―――お姫さんの気持ちは?

 戦闘部隊入りは彼女から志願した。


 以上、どうだ、何か問題はあるか?」



これが。

これが歴史上の探検家の中でも、最も政治的手腕に長けると言われる【凱旋】のツワブキの視点。


「………つまりあんたは、ティアを良い王にするために戦闘部隊に?」


「そういうことだ。ダンジョン攻略への参加は、貴族界でのあいつの良い鎧になる。

 俺は、お姫さんのことは団の中でしか考えなかったんだ。

 だから樹人トレントの武勲をやって、団の皆に認められました、OK、いい団長になりましょうねって具合だった。

 

 でも、そうじゃねぇなと思ったんだよな。

 俺は王に傀儡になって欲しいわけじゃねぇ。

 あいつはもう少し上の器になれる。

 どうも俺は、あいつがどう貴族界に入っていけるかを……。

 各国とどう渡り合えるか。対外的な部分まで期待するようになっちまった」


柄にもない、ツワブキの真剣な眼差し。


「………そりゃツワブキ、あんたはもう惚れているんだよ。

 立場上団内でしか接しないティアの、貴族界の立ち位置まで気にするのは戦闘部隊隊長の仕事じゃない…………王に仕える副官の仕事だ」


「ははっ、そうかもしれねぇなぁ」


楽しそうにツワブキは酒を口に運ぶ。

彼の老後に、大きな大きな楽しみが1つ追加されたのかもしれない。


「お姫さんが円卓会議で俺に牙を向いた形になったこと。

 俺は全然気にしちゃいねぇんだ。議論ってのはそうあるべきなんだよ。

 見方、考え方、立場、違う奴らが寄り合って、お互いの意見をぶつけ合うからいいモンが生まれる。

 そういう意味じゃ俺ぁ、グリーンピースの奴も嫌いじゃないんだぜ?


 戦闘部隊の班長達もなかなか面白い具合になった。

 傭兵のプロに騎士のプロ……建築家に、泥棒に、軍略家。

 俺と正反対の安全絶対主義の奴もいりゃ、魔物を全く知らない素人もいる。

 そんで学者肌のお前だ。

 あの中でお互いがきっちり意見をぶつけあえば、きっといいモノが仕上がる。

 俺の求める、理想的な団体像の1つだな」


目を瞑る。彼の瞼の裏には、遠い未来の銀の団の姿があるのかもしれない。


「お姫さん、どんな王になって欲しいか。

 俺ぁそういう多様さを全て飲みこんで上に立ち、へらへらと笑う。

 そういう王になって欲しいのさ。お姫さんは少数派の視点を知っている。

 無関心な多勢の暴力を知っているから、繊細にもなれる。

 それでいて、窮地でこそ聡明な性格は武王の才覚だ」


ツワブキが上機嫌に、アシタバのグラスに酒を注ぐ。


「これだけ買ってるお姫さんを、てめぇだから預けるんだぜ」


どういう顔をしたらいいのか、困った顔でアシタバはグラスを持ち上げ。

深い夜、二人は静かに、グラスをぶつけ合う。






ツワブキ達の乾杯と時を同じくして、ローレンティアは執務室で背伸びをした。

ようやく書類も片付きつつある。

一日分の仕事を終えた彼女にエリスが紅茶を差し出した。


「………やはり私は、賛成しかねます」


目を伏せ暗い顔ながらも、エリスはローレンティアに訴えかける。

戦闘部隊への参加の件だ。


「ローレンティア様のなされたいことは分かります。

 ですがやはり、危険な地に赴くことに賛成はできません」


その静かな呟きをローレンティアは見守る。言葉を切るエリス。しばらくの沈黙。


「………私はね、目標があるの」


「目標、ですか?」


「ええ。私はね、私の下について働いてくれる人に誇りを与えられる人物になりたいの。

 私に仕えたことに胸を張れるような……。何十年後になるかわからないけど……。

 傲慢で大言壮語かもしれないけど……。

 そういうのを一旦捨てて、もがいてみようと思ったんだ」


「そうなれば、死にゆく者達へ与えることができるから?」


「うん、それにエリスにも」


少し驚くエリスに、ローレンティアが笑みを返す。


「本当に、私が言える立場じゃないと思うけれど……。

 私に仕えたって、エリスが胸を張れたらいいって思うんだ。

 せっかく学年二位の成績を修めたのに、エリスには肩身の狭い思いばかりさせて……」


「わ、私の学生時代をご存じだったのですか!?」


「そりゃあ調べるよ。ずっと一緒にいてくれたんだもの。

 でもそんな立派な人が、私のところへ閉じ込められたみたいで……。

 申し訳なくてずっと言えなかった……………怖かった」


ああ、この子は。周囲の奇異を見る目だけでなく。

私への自責の念にも怯え続けていたのか。


「マリーゴールド達の話を聞いて、少し前向きに吹っ切れたのかも。

 私の呪いと同じようなものを持つ人たちがいて。

 私の怖がっていたものは、魔法っていう体系化されたものの一部だった。

 過去の魔道士達は勇気を出して戦線に、人の輪に入っていった。

 私も立ちたいと思ったんだ。胸を張って、この世界に」


それは八年間一緒にいても知ることのなかった、ローレンティアという人物だ。

エリスは認めざるを得なかった。同級生達が配属されていった、どの家の貴族より―――。


彼女は正しい主君として、目覚めようとしている。


「………ローレンティア様、一つ質問をお許しください。

 ローレンティア様にとって、王とはなんですか?」 


その質問にローレンティアは一瞬黙る。だがすぐに答えを引っ張りだしてきた。

彼女の腹の底に、ちゃんとあったものだ。


「弱きも強きも、守るもの」


真っ直ぐ見つめるローレンティアに、エリスも正面から答える。


「………そうですか。それならばどうか1つ、私と約束して下さい。

 その守るものに、今後はご自分もお加え下さいい」


「自分を?」


「私が心配しているのは、ローレンティア様が自己犠牲に走ってしまうのではないか、ということです。

 貴女は人との関わりが薄かった。必要とされ、褒められるのが初めての経験で。

 長らく………王都から離れ生きてきたご自分より、周囲を優先してしまうのではないかと私は思っているのです」


ハルピュイア迎撃戦で最前線を請け負ったローレンティアを、エリスはそう見ていた。

自分はどうなってもいいから皆を。騎士の自己犠牲は美徳とされる。

だがエリスの持論でいえば、王たる者はそうではない。


「下につく者の評価は上の者に左右されます。

 自分に仕える者に何かを与えたいと思うのなら、立派な人物を目指すと思うのなら、どうかご自分を大切になさって下さい。

 負傷や死など論外、それは無責任と呼ばれるものです。

 貴女がそうでなければ私は――――私は、胸を張れません。

 貴女を主君として認めるのも、もう少し先の話になります」


にやりと、不敵に笑う。

今まで使用人としての皮を被っていたエリスの、素顔がまた出る。


「………肝に銘じるわ。それに、エリスに認めてもらえるよう頑張る」


ローレンティアもまた不敵な笑みを見せる。

八年間歩み寄ることのなかった二人の、これも一つの始まりだった。

ローレンティアが紅茶を口に運ぶ。


「お茶会で、ブーゲンビレアさんの使用人の方のお茶も貰ったけれど………。

 不思議ね、ずっと飲んできたからかなぁ。エリスの紅茶が一番美味しい」


少女らしい、朗らかな笑み。




ああ、私は。


ずっとこれを望んでいたのだ、とエリスは思った。




五章十三話 『王たる者よ』

第五章 了

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