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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第五章 照り月序、魔女のお茶会編
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五章七話 『この世は泡沫、刹那を生きる(後)』

「あのですねーモロコシさん!!

 例の出るって噂の解体少女スプラッタガール、アセロラちゃんのことって本当ですか!!」


酒場『サマーキャンドル』で、顔を真っ赤にしたオオバコが笑い転げるモロコシに喰ってかかる。


「だ、だってオオバコ君予想外に怖がっちゃって!面白かったんだもん!!」


「なーんでアシタバの妹を怖がらなきゃいけないんですか!!

 おかげでこの前、見張りで会った時に滅茶苦茶叫んじゃったじゃないですか!!」


「叫んだの?はーっはっは、傑作!!」


「あんたねぇ!!」


「………なんだ、オオバコはもうアセロラと会ってんのか?」


モロコシの首をしめようとするオオバコから少し離れ、カウンターのタマモが訊ねる


「そりゃ、隣部屋っすからね。

 アセロラちゃん、夜行性みたいなんで頻度は少ないすけど、一緒に飯食ったこともあります。

 あの子、愛嬌があるというか、親しみやすいというか……」


「人受けっつーか天性の美貌だろ、美貌。

 探検家アシタバにゃ探検家の相棒はいなかったが、持ち帰った魔物を捌くコンビの職人がいた。

 【解体少女スプラッタガール】、アセロラ。探検家界の花なんだぜ、あの子は。

 魔物にノコギリを振りおろす様がたまらねぇって変態もいる」


「………分かるような、分からないような」


「ちなみにアシタバの【魔物ゲテモノ喰い】ってーのも、あんな美少女がいるのになんで手を出さねーんだ、B専じゃねーのかって由縁もあるんだぜ。

 こりゃツワブキが、アシタバの悪評をちょっとでもギャグ寄りにしようと頑張って広めたんだが」


タマモはくく、と面白そうに笑う。


「ま、アシタバと似て天然なところがあるからなぁ。騒ぎを起こすのも納得だぜ」






「い、妹…………?」


「どうも初めまして!いつもお兄が御世話になっています」


その血まみれの少女が丁寧に頭を下げるので、思わずローレンティアとマリーゴールドも応じてしまう。

返り血に染められているが、ローレンティアより少し歳下の少女だ。

チェックの赤いシャツと青いオーバーオール、完全な作業向きの服装でありながらスタイルの良さが透けて見える。

愛嬌のある(恐らく団で一番美形ではないかと思われる)整った顔立ち。

金色の長い髪は、おさげとして2つの尾にまとめられていた。


「お兄の妹、アセロラです!工匠部隊所属、魔物解体家やってます!」


ビシ、と敬礼をするので、思わず二人は面喰う。


「ま、魔物解体家………?」


そう言いながら彼女、アセロラの担いでいるノコギリを見る。

よく見れば手に持っているのは魔物の肉だ。腐っている……ハルピュイアの肉。


「前回のハルピュイア迎撃戦から、山積みになった魔物の死骸の山を俺とアセロラとキリの三人で片づけていたんだ。

 まとめて燃やせばいいんだが、ツワブキに頼んで処理を待ってもらっている。

 ハルピュイアからはいい羽が取れるからな。

 冬に備えて、織り子班に頼んで団員用の羽毛布団を作ってもらおうと思っているんだ」


そう言えばウォーウルフの牙も回収していたな、とローレンティアは思い出した。


「………キリは知ってたの?」


その声に呼応して近くの木から飛び立ち、キリがローレンティアの側に降り立つ。


「アセロラですか?はい。一か月前から共に作業を」


もしゃもしゃと未だにお茶会のクッキーを齧っていたが、ローレンティアは突っ込むのを我慢する。


「今までどこにいたの」


「距離を置いて、あなたの護衛を」


お前は密偵かと突っ込むのも、知っていたなら言ってくれと突っ込むのも何とか我慢した。


「も、もしかして入院中のアシタバさんにお見舞いに来てらしたのは……」


「ああ、あたしよく行ってましたよ!」


マリーゴールドの問いかけに元気よくアセロラが応える。

腐りかけの肉の悪臭と返り血の中で天真爛漫なその振る舞いは、これがプロなのかと二人に戸惑いを与えていた。


「お前はもうちょっと見てくれに気を使えよ。戦闘部隊で噂になっているらしいぞ」


「だからー、時間帯を調節して目立たないように頑張ってるんだよ。

 骨抜き係のあたしの仕事は、羽毟るだけのお兄達とは違うんだからね!」


「仕事の終わった後の服装とかを考えろって言っているんだ」


「やだよー。プロが服を気にして良い仕事なんかできないもん」


しばらく、ローレンティアとマリーゴールドはぽかんと居座るだけだった。


「…………おいアシタバ。俺ぁもう帰るぞ」


面倒くさそうを隠さずに勇者リンゴが割って入る。

頭を掻きながら、魔王城の、彼の個室へと帰っていく。


「あたしも作業に戻らなきゃ。

 もー肉腐っているしとっとと片づけてかなきゃやばいよー!

 デンセンビョーとかの方が心配じゃない?

 ああローレンティア王女様、あと金髪ドリル様、使用人様、失礼します!」


丁寧に頭を下げるとアセロラは、いそいそと肉を引きずっていく。

焼却場かどこかへ持っていくのだろうか。


「き、金髪ドリル様………?」


「……アシタバ、私はこのままアセロラを手伝おうと思う。

 三人を送ってくれない?」


キリが抑揚のない声でアシタバに提案し。

しかしその目は鋭くマリーゴールドに向けられていた。


「ん?そうか、じゃあ――――」


「いーえ!それには及びませんわ!」


言いかけるアシタバをマリーゴールドが制する。


「わたくし、魔物の解体というものに興味が湧きました。

 しばらくアセロラさんとキリさんの作業を見学させて頂きますわ。

 帰り道はキリさん、護衛をお願いできるかしら」


「ええ、構わないわ。それじゃあアシタバ、ローレンティアとエリスをお願い」


とんとんと、話を進めていくキリとマリーゴールド。


「そうか?魔物の解体に興味があるなんて、探検家でも嫌がる奴が多いのに立派だな。

 分かった、ローレンティアは送っていくよ」


「エリス、ローレンティアをお願い」


じと、とこちらを見てくるキリに、エリスはため息で答える。






貴族区への帰り道。

静かな夜の中、黙って付き従うエリスより数歩前、ローレンティアとアシタバが歩いていく。


夜の魔王城を一緒に歩くと、魔王城に初めて来た日を思い出す。

ローレンティアは前を歩くアシタバの見て、次にはお茶会での話を思い出し、少し頬を赤らめた。

結局彼女にはそれが分からない。

とにかく夜の空気を吸い込んで、その照れを消さんとばかりにアシタバに話を切り出した。


「妹がいたのね。ちょっと意外だった」


「ああ、言ってなかったっけか。一人っ子に見えたか?」


「何となく。アサツキさんみたいな弟子仲間じゃなくて?」


「違う。まぁ血は繋がっていないけどな。拾ったんだ」


「拾った」


アシタバはそれ以上答えず、ローレンティアもそれ以上追及しなかった。

あの戦争時代だ。どこにでもある珍しくもない話。

ローレンティアの心にあったよく分からないざわめきは、いつの間にかどこかへ行っていた。

魔物解体家、アセロラ。

彼女がお茶会で話題になった謎の少女。その正体は、アシタバの妹だったのだ。


「でも素敵な妹さんね。正直、返り血とかで分かりにくかったけど……。

 天真爛漫って感じで、人として魅力的っていうか」


「………魅力的。そう思ったか?」


アシタバが表情を隠すように言った。


「え?………うん。そう思った」


「そうか…………」


ローレンティアの視点からは髪で目が隠れ、アシタバの表情はよく分からない。

ただ彼は目線を上げて、月を見上げていた。







ローレンティアとアセロラが出会って、更に数日後。

魔王城正面玄関前の広場に、戦士達が集まっていた。

【刻剣】のトウガ。【黒騎士】ライラック。【迷い家】ディフェンバキア。

名だたる豪傑も顔を見せる。

戦闘部隊所属、55名から8名減った47人。その全員が勢揃いだ。


「荒くれ共、よく集まってくれた!迎撃戦の傷は癒えたかぁ?

 今日集まってもらったのは他でもねぇ!戦闘部隊の今後についてだ!」


適当に置かれた木材の上に立ち、戦闘部隊隊長ツワブキは声を張る。


「地下一階までは俺が選抜メンバーを選んでダンジョン攻略に臨んでいたが………。

 これからはやり方を変えようと思う!

 具体的には、戦闘部隊内の構造を整理。

 大隊ではなく、小分けした班ごとで動いてもらう!理由は3つ!」


ツワブキが三本指を掲げる。


「1つ、俺一人じゃ大勢を見きれねぇ!

 戦闘指南も魔物対策も、このままじゃ教えきれん。

 2つ、そもそもダンジョン攻略は少数で行うもんだ!

 大人数でぞろぞろ行っても目立つだけだ。

 3つ、チームワークの熟成!

 共に潜る者同士の関係性ってのが探検家には重要だ。

 小分けした班の方が手っ取り早い」


「まぁ遅すぎたぐらいだわな」


アシタバの隣で【狐目】のタマモが呟く。


「班の組み分け自体はお前らに任せるが、俺からの要望がこれまた3つ。

 1つ、班の特色をはっきりして欲しい。

 どのレベルのどういう仕事に当たるチームなのか。

 2つ、魔道士を組み込んでやって欲しい。

 いて困らねぇ奴らだ。だが二人いてもな。チームに一人が理想だ。

 3つ、これは探検家の奴らへだが……お前ら、固まるなよ。

 コンビの奴らはまぁいいが、できるだけ分散しろ。


 それからこれは俺じゃなく、ライラックから要望が1つ」


そう言うと、【黒騎士】ライラックもその壇上に上がる。


「ツワブキには話したんだが………。

 俺はダンジョン攻略とは別に、戦闘小隊を設立したいんだ。

 目的は、魔王城外部からの侵攻への対策。

 夜盗や賊への対応、夜間の見張りも含めようと思っている。

 つまり地下へ未知へと挑むのではなく、外からの攻撃に備える衛兵というわけだ。

 これはハルピュイア迎撃戦を経た提案でもある」


「―――というわけだ。トウガ、どう思う」


「誰か背中を守る奴は必要だと思う。妥当じゃないか?」


「ディフェンバキアのおっさんは?」


「そもそもダンジョン攻略に人手をかけ過ぎてもな。

 頭数が必要な時はライラック殿の小隊に協力を要請する、という形にすればよいのではないか?」


「うむ、じゃあ俺の独断で可決にさせてもらうぜ。

 ライラックの名を使えば諸国も納得するだろ。

 っつーわけで衛兵志望の奴はライラックのとこに集まれ。

 それ以外はダンジョン攻略組だ。そうだな、四人で一組ってとこだ。

 メンバーが決まったら俺のとこに申請にこい。期限は今日の夕方まで。

 それじゃあお前ら………四人組作れぃ!!」


その号令と共に、戦闘部隊の者達は一斉に動き始める。




五章七話 『この世は泡沫、刹那を生きる(後)』

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