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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第五章 照り月序、魔女のお茶会編
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五章六話 『この世は泡沫、刹那を生きる(前)』

マリーゴールドはローレンティアの手を引くように、魔王城の周囲を巡った。

その後ろ、数歩距離を取ってエリスがついていく。

食堂。大浴場。工匠街。地下一階。日が暮れ、夜が訪れる。

けれども件の女の子らしき人物は見当たらなかった。


「も、もういいですよマリーゴールドさん!私なら大丈夫ですから」


困ったようにローレンティアが訴えかける。


「大丈夫じゃないでしょう。せめて貴女は1つ、区切りをつけるべきですわ」


エリスの目の前で、金の髪のマリーゴールドと銀の髪のローレンティアが向き合う。


「………わたくしは、あなたの演説を聞いたのです。

 初日の、穴から引き上げられた時の。

 わたくしは、その前からあなたのことを耳にしておりました。

 王族に生まれた“呪われた王女”。

 わたくしは………勝手に、想像していたのです。

 その方はもしかしたら、孤独を感じているのではないかと」


「孤独」


「わたくしの家族は、持って生まれた異質を受け入れてくれましたが……。

 そうでない人の方が多いと分かっていました。

 噂では、あなたは辺境の城に追いやられていたとのことだったので、心配していたのです。

 お会いしたいと、かねてより思っていました」


知らなかった。エリスは思う。

あの古城に閉じ込められていたローレンティアを、そう思っていた人がいたなんて。


「ですがそんなわたくしの想像は、初めてあなたの姿を目にして吹き飛びました。

 大勢の男たちを前に、しっかりと立って胸を張る。

 わたくしの想像よりずっとずっと……素敵な方だった。

 わたくしは、自分の勝手な決め付けを恥じました」


「そ、そんな…………」


「わたくしが自らの家族と輪廻の教え以外に信じている真理は、胸を張れということです。

 ローレンティア王女……いいえ、ローレンティア。

 貴女は胸を張りなさい。この世界は巡り合うべきものが巡り合う。


 かつて魔道士達は、治癒魔法と共に魔物との戦線に参加しました。

 ずっと日陰にいた者たちが、初めて自分という存在を掲げたのです。

 存在も想いも、叫ばなければ気付かれません。気付かなければいないのも同じ。

 この世界に立つのならわたくし達は、自分という存在を掲げなければならないのです」


ハルピュイア戦役を経て、ローレンティアも少し変化をし始める。

巡り合うべきものは巡り合う。

そのマリーゴールドの言葉も彼女の中に蓄積されていく。

エリスはその変化を、どこまでも淡白に見守っていた。


「ですから今回の件には切りをつけましょう。明日あなたが胸を張るために」


「………分かった」


ローレンティアはマリーゴールドの目線に応え、歩き出した。

エリスはやはり距離を置いて、二人の後を追う。






幼いローレンティアは、ひどく内向的な少女だった。


銀の髪は好奇と嫌悪の視線を集め、自分という存在が両親に不和をもたらした。

兄弟たちは見て見ぬふりで、エリス以外の使用人達は彼女と関わろうともしない。


始め、エリスは積極的にローレンティアに話しかける。

好きな食べ物、好きなお伽噺、好きな服、好きな季節………。

関わろうとした。それでもローレンティアは暗い、怯えた眼を返すばかりで。

穏やかな貴族の家に配属された同級生達は、彼女を嘲笑い。

唯一の主は、彼女に何も返しはしない。

良い成績を取れば勝ち取れると信じていた未来は、その王女によって塗りつぶされた。


やがてローレンティアの母親が刃を向け、彼女の呪いが国の貴族界に伝わることとなる。

ローレンティアと彼女の従者たちは王都を追われ、辺境の古城での生活を余儀なくされた。

その過程でエリスは、何かを諦めていく。今の淡白な、無感動な表情になっていく。


同情は、する。可哀そうだとも思った。

生まれという自分にはどうにもならない問題で周りから疎まれ、奇異の目を向けられてきたのだ。

でもそれが。


エリスが捧げてきた努力を台無しにされて、彼女の人生が道連れにされることに納得する理由には、ならない。






貴族ルート、食堂、酒場『サマーキャンドル』に続く、銀の団4つ目の食事処が開店したことはあまり知られていない。


それは『鳴門屋』と看板が下げられた、移動式の屋台だ。

蛸のような禿頭の無口な店主が切り盛りするこの店は、日によって開店場所を変える。

だが日が沈んでしばらく経ったこの時間は必ずこの南方地帯にやってくる。

勇者リンゴの要望だった。


「ここの大将のラーメンが美味いんだよ。ほらお前も食え。俺のおごりだ」


南の方からリンゴが歩いてくると、その屋台の席へどっかりと座りこむ。

その後ろ、面倒臭そうについてきて隣の席につくのはアシタバだ。

数日前の対面以来、アシタバは妙にリンゴに気に入られることになった。

彼も銀の団で気を許せる相手がいなかったのか、こうして夕食の折連れ回される。


「………あいよ」


大将が丼を2つ出してくると、間髪いれずリンゴが箸を持ち、麺を啜り始めた。


「おら、今日も話してもらうぞ。

 樹人トレントの件はその後どう進んでいるんだ。

 ハルピュイア迎撃戦の後始末は?」


リンゴは、アシタバを使って銀の団の内情を探ろうとしているようだった。

別に、普通の団員でも知っている情報だ。

アシタバも食事を取りつつ、近況を説明していった。




「―――なんであんた、団員と距離を取っているんだ」


丼が空になり、屋台の店主が片づけをする前で、アシタバはリンゴに問いかける。


「ああ?」


「戦闘に参加しないって名目でも、もうちょっと立ち位置ってもんがあっただろう。

 なんでこんなに距離を置いている?」


「そりゃあ、面倒だと思ったからだよ」


「面倒?」


「考え方の違う奴らと同じ所で暮らすのは。お前は違うのかよ」


爪楊枝を咥えるリンゴは、珍しい真剣な顔でアシタバに向き直った。


「………俺、が?」


樹人トレントの件………下側の魔物、根樹人トレントルートは残すことにしたが、幹樹人トレントウッドは根絶したんだろ?

 お前、その時何も思わなかったのか?そんなわけねーよな?」


アシタバも真面目な顔つきになり、押し黙ってしまう。


「お前はさ、命ってもんに敬意を払っている。払い過ぎているほどだ。

 その結果お前の目には、魔物も人間も同じように映っているんだろう。

 ハルピュイア戦役で戦闘部隊から死人が出た時と、ハルピュイアの死骸の山を見た時。

 お前の感情に、差あったのか?」


「……………」


「他の奴らはそうは思ってねぇよ。

 幹樹人トレントウッドもハルピュイアも、人間に害をもたらす魔物だ。

 自分達の安全のために根絶して当然。

 お前との考えには違いがある。お前、辛くねぇのかよ」


「……正しい、とは思っている。

 幹樹人トレントウッドを残しておけば、いずれ農耕部隊で被害を受ける者がでるだろう。

 ハルピュイアを根絶しなければ、奴らがまた別の地で村を襲撃していたかもしれない。

 判断は正しい。でも……」


アシタバの目が沈む。


「考えてしまうんだ。どうにかあいつらを残しておく手立てはなかったのかって。

 保護とは少し違う。ちゃんとした意味を持って、需要があって利害関係があって。

 魔王軍から置き去りにされたあいつらが、魔王のいなくなった新たな時代に創られる、生命の輪に入るための手立てを、考えてしまうんだ。

 辛いかと言われれば、きっと辛いんだろう。

 でも俺は銀の団の中で向き合って、考えたいんだ。

 あいつらが生きてもいい意味を、理由を。


 カシューの死も悲しかった。

 でも幹樹人トレントウッドも、ハルピュイアも俺は救えなかった。

 ………救えなかったんだ」


呟く。そのアシタバの肩を、リンゴは叩き。

二人は立ちあがって、魔王城の方へと向かう。


照り月の夜にあっても、魔王城は涼しい風と静けさだけがあった。





「………盗み聞きを許すのぁこれで最後だぞ。嬢ちゃんたち」


屋台の店主が呟くように言う。

その膝下、屋台の影に隠れるように屈んでいたのは、ローレンティアとマリーゴールド、エリスだ。


「ぬ、盗み聞きとは人聞きが悪いですわ!

 たまたま出くわしそうになったから身を隠しただけで、話を聞こうなんて思っていなかったのです!!

 成り行き!これは成り行き上仕方なかったのです!!」


マリーゴールドが慌てて身の潔白を主張する。


「だーから、察して黙っておいたろうが」


面倒臭そうに店主は店じまいの準備をし始める。

ローレンティアとエリスがお辞儀をすると、三人はアシタバ達から距離を取るのを意識して魔王城へと向かう。

もはやとっぷりと日は沈み、松明の明かりの中、石畳を歩いていく。


「複雑ですのね。色々と」


アシタバの独白を聞いたマリーゴールドは困った声を出す。

堅い果実をどこから切ったものか、という様子だ。

ローレンティアも押し黙っている。


どうやって輪に入ろうと悩み苦しむ者もいれば、どうやって手を差し伸べようと苦しむ者もいる。

世界はいつだって双方向だ。

相手のことを考える、ということが欠けていた………のかもしれない。


「あんなことを言った手前、撤回しにくいのですが、今日は一時退却といたしましょう。

 後日、また情報を集めて………えぇい!なんですの、この音は!」


「え?」


ローレンティアも耳を澄ましてみる。

ズル、ズル、というような、何かを引きずる音。


「………本当になんですの?」


面倒臭そうに佇むエリスを置いて、二人は顔を振り、音を探り。

音の鳴る方へ目を凝らす。


少女の影。


それだけではない。

後ろに何か、引きずっている。死骸だ。生き物の、死骸。

片手には巨大なノコギリ。そしてその少女は、返り血に塗れていた。


「う、わ、あ、あああ!!」


蒼白な顔で、抱き合うローレンティアとマリーゴールド。


きゃあああああああああああああああ、という悲鳴が、魔王城に響いた。







「なんだ!どうした!!!」


腰を抜かし地面にへたり込む二人の元に、剣を抜いたアシタバとリンゴが駆け付ける。


「あ、アシタバ!!あれ!あれ!!」


口をぱくぱくさせながら、ローレンティアは血まみれの少女を指す。

その姿を見たアシタバは事態を察したのか、少し重いため息をついた。


「………あぁ」


「血まみれで!!ノコギリ持って!!」


「………あぁ」


「じ、人肉が……!」


アシタバが、面倒臭そうに頭を掻く。


「……アセロラ。お前、作業中の見てくれを考えろって言ったろうが」


「いやー、この時間帯なら目立たないと思ったんだけど……ごめん、お兄」


「お、お兄……?」


ぽかんとする二人に、アシタバは向き直る。


「ローレンティアにはまだ紹介してなかったな。

 工匠部隊所属、アセロラ。俺の妹だ」


紹介された血まみれの少女がにひ、と笑う。




五章六話 『この世は泡沫、刹那を生きる(前)』

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― 新着の感想 ―
[一言] これはエリスとローランティアで一悶着ありそうですね…恐らく…エリスの母はもう死んでるよね。そこまでで色々と諦めてしまったエリスの目に色々と得て成長していくローランティアがどう映るか…
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