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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第五章 照り月序、魔女のお茶会編
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五章四話 『この世は涅槃、底より湧き立つ(後)』

勇者リンゴと会ってから数日の後。

アシタバとオオバコは食堂に腰かけ、昼食を取っていた。


「よーお二人さん!リハビリ後の昼食かぁ?」


【狐目】のタマモと【狸腹】のモロコシが、そう声をかけ対面に座る。


「オオバコは体の方どうなんだよ」


「まぁ日に日に回復していってる。どーも、ご心配をおかけしました」


「はは、元気そうで何よりだよ~」


「……タマモ、ツワブキからなんか聞いてないか?次、いつ動くんだよ」


「ダンジョン攻略の件か?さぁ、そろそろ片付けも一段落しつつあるが……。

 次行く前に、何かやりそうな雰囲気はあるなぁ」


「何かって?」


「さぁな。俺は確信の持てないことは言わねぇ男だ。

 秘密にした方が面白そうなことは言わねぇ男でもある」


細目のままにやにや笑うタマモをアシタバは胡散臭そうに見る。


「面白そうって言えば、二人はあの噂知っているの?」


「噂っすか?」


解体少女スプラッタ・ガールのウ・ワ・サ」


楽しそうなモロコシに、オオバコとアシタバはきょとんとした顔だ。


「前の月からさぁ……“出る”らしいんだよね。

 夜中、戦闘部隊の人達が見回りをしていると、ズルズル、ズルズルって音がするんだ。

 なんだろう?って思って、見回りが音の鳴る方へ向かうと一人の人影がある。

 女の子だ。大丈夫ですか?って見回りの人が、松明の明かりを掲げると……。 


 その女の子、血まみれなんだ。手には大きなノコギリと、人肉!!!」


「ぎゃああああああ!!!」


怪談じみたモロコシの語りに、思わずオオバコが奇声を上げた。


「暗黒時代の死者の魂が、集い形をなしたのか?

 いないと結論付けられた亡霊ゴーストが、まさかいたのか?

 正体はともかく存在は確かだよ。戦闘部隊の何人もが目撃を証言している。

 全員、怖くて逃げ出したらしいけどね~」


「見回りの意味がねーじゃねーか!!

 ちゃんと捕まえて牢にでもいれておけよ!!

 いや………そういうの、通じる相手なのか?」


頭を抱えるオオバコ。

アシタバは少し面倒臭そうに、昼食の最後の一口を頬張った。





使用人エリス。貴賜名フェデルタ、エリスロニウム。


目立たず喋らず貴族を下支えする使用人、彼女の過去のことを知っている者は少ない。

橋の国(ベルサール)貴族学園アカデミーに、騎士や使用人、調理師………。

貴族に仕える者達のための学園、王立学園が併設されている。

彼女はそこで学を修めた。卒業成績は学年で二位。

今よりは笑い、今よりは話す優秀な少女だった。

貴族、時には王族への従者を輩出する王立学園には、家柄の良い者達が集まる。

使用人としての家系に誇りを持つ者、貴族の親族にあたる者、成り上がった役人の息子………。


その中でエリスは珍しく、何の後ろ盾もない平民だった。


彼女の性格からして、そんな場では目立たないよう自分の力を隠すものだが。

彼女はそうはしなかった。

王立学園を卒業し、どこの家に就くかは卒業成績で決まる。

家によって生活の全てが決まる使用人、成績順位が一違うだけでも差は大きい。


決して平坦な道ではなかった。

教師も含めて、平民出の彼女への嫌がらせは少なくなかった。

影口や後ろ指には脇目も振らず、机にしがみついて本を読み漁る。

青春の全てを学業に注いだと言ってもいい。

ともかく成績二位を勝ち取った卒業式,

彼女の奉仕先が言い渡される。


「――――王位第八位、ローレンティア王女」





これまた、前回のお茶会から数日後。

魔道士達は再びブーゲンビレア卿の庭に集い、お茶会を開催していた。

エリスはブーゲンビレアの使用人を手伝い、洋菓子の準備をしながらテーブルの一席につくローレンティアを見守る。


「ふぬぬぬ……………!!」


ローレンティアは瓶に手を添え顔を赤らめるが、瓶の底の油はぴくりともしない。


「まぁ焦らないことね~。この修行だけはかかる時間が才能とは無縁なのよ。

 それまでにマナの通り道を広げた経験があるかどうか。

 更にローレンティアちゃんは呪いが源泉だから、私達とは少し勝手が違うのよねぇ~」


おっとり、アルストロメリアの言葉が終わると、ローレンティアもぶはっと息を吐き力を抜く。

テーブルでは魔道士達が思い思いにお菓子に手を伸ばし、自由に語らっていた。


「できるようになるまでの早さが重要なのではありませんわ」


マリーゴールドが人差し指を立てる。


「マナの可動領域を押し広げ続けること。日常的に繰り返すこと。

 長く続く魔法の道を見据えたそれこそが、この修行の最も得るべき教訓ですわ」


「要は学ぶ習慣を身につける、ということ」


傭兵、ユーフォルビアの要約。

ローレンティアは少し休憩を挟むことにし、テーブルのお菓子に手を伸ばす。

クッキーを頬張りながら、「そういえば」とかねてよりの疑問を口にした。


「自己紹介の時の、リンネとかウタカタというのは何だったのですか?」


あー!とマイペースなハイビスカスが応じる。


「そっかー!団長さんは流派とか知らないもんねぇ」


「流派?」


再び問うローレンティアに、マリーゴールドが答える。


「騎士道や剣道と同じく、魔法にも流派がありますの。

 輪廻。涅槃。悠久。夢想。虚無。泡沫。

 この世に遍く流派は6つ。しかし、世界の偉大なる真理は1つ。

 論理式自体はどの流派も差がありません。異なるのは考え方、それだけですわ」


「流派のことを考えるのはもう少し後でいいと思う。

 魔法が使えるようになってから、自分がどう世界に立ちたいのか。

 考えるのはその時だ。今は鍛錬に専念すればよい」


腕組みをしながらグラジオラスが続く。

おっとりとしたアルストロメリアも加わった。


「今の、瓶の中の宝玉が終わっても、最初に習得する魔法っていうのはお決まりよ。

 どの流派も一緒なの~」


「それは、どんな?」


その問いに、アルストロメリアだけでなく全員が返事をする。


「「「治癒魔法」」」 「……ですわ」


全員一致の意見に、ローレンティアは少し面喰う。







魔王城、地下一階。


農耕部隊の者達が樹人トレントに向き合う中、少し外れた場所にある材木の1つに、五英雄の一人【刻剣】のトウガが腰かけていた。

そこに近づく者が一人。黒い騎士甲冑、同じく五英雄の一人【黒騎士】ライラックだ。


「………何をやっているんだ?」


トウガは自らの大剣を床に置き、手にナイフを持っている。


「いや、傷を付けようと思って」


「傷?」


そう言うとトウガは、ナイフでガリガリと大剣に傷をつけていく。


「俺の儀式なんだよ。ハルピュイアの迎撃戦で八人死んじまったからなぁ。

 その分だけ傷をつけるんだ」


その、夥しい数の傷が付けられた剣をライラックが見ていた。


「……これ、全部?」


「ああ、忘れないようにな。

 騎士さんっていうのは、まぁ名簿とかあってどんな奴がいたか記録されているもんなんだろ?

 俺たち傭兵は違うんだ。一度忘れちまったら思い出せなくなる。

 だからこうして、傷と一緒に死んだ奴を頭に刻むんだ」


それが、【刻剣】と呼ばれる彼の由来。


「騎士も似たようなものさ。新兵のことなんか皆忘れる」


「でも黒砦にもこういうのあるって聞いたぞ。後ろ側に墓地があるんだって?」


「埋葬だけはな。あまり丁寧には葬れなかった」


「十分だ。野晒しにされた戦士の死体なんか沢山あった。

 俺だって置き去りにしちまった仲間もいた」


歴戦を潜り抜けてきた二人。

ディルと二人だけの戦線が多いツワブキと違い、仲間の死にも多く立ち会っていた。

二人の間に二年前の、戦争の地鳴りが漂うようだ。


「先月、死んだ奴らのことを考えているのか?」


トウガがライラックに問う。


「…………俺が一番近かったんだ。ジズっていったか。

 あの鳥が四階に落ちる前、辿り着いたのは熟練の中で俺だけだった。

 俺がなんとかしなきゃいけなかった」


ライラックの渦巻く双眸が、深く、深く沈んでく。


「何もできなかった。あの鳥の構えに隙はなかった。

 その後にカシューや他の奴らが殺された……。

 力不足や判断ミスで仲間を失うことはあった。でも慣れないんだ。

 【刻剣】のトウガ、あんたはどうしているんだ?」


そりゃあ英雄同士でしか聞けない悩みだな、とはトウガは言わなかった。


「………んー、薄情に聞こえるかもしれないが、俺は責任を負うことはしねぇよ。

 傭兵っていうのは自己完結の戦士だ。

 俺は団長だし若手のサポートにも入ったりするが、自分の命は自分の責任、死はそいつの力不足。

 だからもったいねぇとは思うし、何かできていたかもしれないとも思うが、それ以降は踏み込まない」


トウガの答えに、ライラックは納得しかねるようだった。


「騎士っていうのは、守る戦士だろ?何を守るんだ?共に戦う味方の命もか?

 俺は肩を並べて戦う奴らの手助けはするが、保護はしない。

 無礼ってもんだ。それにそのうち潰れるぞ、それは」


「……………分かっている。分かっているんだ。

 でもどうしても………どうしても、手放せない」


それが英雄ライラックの、初めて垣間見せた弱さと呼べるものだろうか。

トウガは彼を観察する。この男、幾多の戦場を潜り抜けて未だに―――。


そんなものを抱えているのか。




五章四話 『この世は涅槃、底より湧き立つ(後)』

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