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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第五章 照り月序、魔女のお茶会編
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五章一話 『この世は輪廻、巡りて廻る(前)』

魔王城は、一年で最も暑い照り月を迎えた。


銀の団はしばらく、ハルピュイア迎撃戦の後始末に追われることとなる。

魔王城の東、大工班達が汗水をたらし建てた宿舎は、ハルピュイアの襲撃によって無残にも倒壊させられていた。

それを目の当たりにしたシラヒゲ達大工班は、感情の喪失した顔でしばらく呆然としていたという。


銀の団はひとまず、ハルピュイア迎撃用に改装した魔王城二階、三階を宿舎の代わりに運用。

それに伴い、食堂も一階に移設する。

魔王城内で暮らすことに抵抗もある者も多かったが、石造りの魔王城で暮らす夏の快適さがその声を抑えていた。


もう一つ語らなければならないのは、王女ローレンティアだ。

スライムの件を始めとする様々な功績を立て続けに成し遂げた、彼女に対する好評は陰りを見せる。

ハルピュイア迎撃戦、屋上の鐘の上で、彼女が見せた呪いの姿だ。

世界は未だ、呪いというものに寛容ではない。

少なくない者達が彼女の行為を、呪いを晒してなお最前線を担うという彼女の覚悟を認め、以前より強い信頼を寄せることになるが。


その禍々しい姿に距離を置く者もいた。

伝聞は、戦場にいなかった者達へと伝い。

ローレンティアに対する、言いようのない近寄りがたさが残ることとなった。





竈の上に、鍋が置かれている。

慎重に加減を調節された火の上で、湧き立つ湯。

王女ローレンティアの使用人、エリスがその傍に立っていた。

彼女は橋の国(ベルサール)から送られてきた茶葉を数種類取ると、スプーンで量を計りながら小皿に乗せ、混ぜる。

ブレンドされたそれをティーポットに入れると、鍋のお湯を注いで蓋をする。

蒸らしている間にてきぱきと後片付けと火の始末をし、一定時間の後にティーポッドの紅茶をカップに注いで盆に載せ、台所を後にする。


北側の貴族区でもいっそう意匠が凝らされたローレンティアの館の廊下を、エリスはいつもの無表情で歩いていた。

彼女はあまり感情の表現というものをしない。いつ欠けてしまったのか。

ともかく彼女は館の二階にある、ローレンティアの執務室をノックした。


「ローレンティア様、紅茶をお持ちしました」


「はーい、はい」


エリスが執務室に入ると、部屋の奥の机には書類が山積みになっている。

その中、汗だくで、虚ろな目をしながら机に向かうローレンティアがいた。

迎撃戦の子細の報告。用いた物資の報告と、再補充の要請。

ハルピュイア迎撃戦を終え、団長としての仕事は少しパンク気味だ。

ユズリハができる限りの仕事は持っていったが、それでも彼女に残された書類は多かった。


「少しお疲れなのでは?今日は蒸します、どうか休憩を……」


「そ、そうね………少し休むわ」


伸びをしながら背もたれに寄りかかるローレンティアは、一息ついてカップを口に運ぶ。


「今朝ユズリハから伝令がありました。

 先月分の円卓会議を五日後執り行うそうです。後ほど資料を持って参りますね」


「代表者の皆さんも国に帰ってきたものね。

 ああ、混ざっちゃうといけないから寝室に置いてくれない?」


「分かりました。そのように」


少しも顔を動かさず、エリスはお辞儀をする。

変わった。と、彼女は思った。


少し肩の力を抜いて紅茶を楽しむローレンティアを観察する。

長年彼女に仕えてきたエリスは、その差異を繊細に感じ取っていた。

元より、ここ魔王城に来てから彼女は大きく変わったが。

ハルピュイア迎撃戦を経て、またどこか変化があった。


「……………………」


それが良い変化なのか。悪い変化なのか。エリスは量りかねていた。

だから彼女の中でどこまでも不安が渦巻く。


部屋にノックが響いたのはその時だ。

だが執務室の扉ではない。ローレンティアの背後、窓からだった。


「………キリさん」


顔をしかめながらエリスは素早く移動し、窓を開ける。

館の二階、その外壁に張り付いて、窓からキリが顔を覗かせた。


「あのですね、先日も申し上げましたが、窓から突然姿を現すのは控えていただけますと……」


「だからノックをした」


興味がないような顔つき。

ローレンティアの護衛を務めている戦闘部隊のキリだ。

彼女は暇を見つけては、ローレンティアの近隣を陣取り護衛を務めていた。

ローレンティアの館の、屋根の上はもはや彼女の休憩所と化している。

どこからともなく姿を現すので、エリスは驚かされっぱなしだ。


「客人が来ていたみたいだから。緊急」


「客人?」


とローレンティアが席を立ち、窓から顔を出す。

地上、三人の少女が、柵の向こうから二階のローレンティア達を見上げていた。


右には【蒼剣】のグラジオラス。

肩ほどで切りそろえられた金髪の、騎士のような少女。

ハルピュイア迎撃戦でも豪傑達に劣らない撃墜数を上げた、数少ない武闘派の魔道士、当代唯一の魔法剣の使い手。


左にはユーフォルビア。

ローレンティアは知らないが、診療所でアシタバの治療を行っていた魔道士の少女だ。

水色のショートボブに、傭兵の恰好。


そして真ん中に堂々と、三人目の少女が立つ。

その振る舞いは己への自信に満ち溢れており、金色の髪はドリルのようなロールになって顔の両側から下がっている。

いかにも魔道士らしい臙脂のローブを纏っているが、その下は高級そうな凝った細工の服を着ており、その出自が貴族であるということを物語っていた。


「初めまして、わたくし河の国(マンチェスター)より参りました輪廻の魔道士、マリーゴールドと申しますの。以後、お見知りおきを」


スカートをつまんで軽く会釈する。

いかにも河の国(マンチェスター)の公女らしい振る舞いだ。


「わたくし達、貴女をお茶会にご招待したく参りましたの」


「…………お茶会?」


「ええ。銀の団の魔道士達による………魔女のお茶会に」


それが、ローレンティアの分岐点の1つとなった。

と言っても、過言ではないだろう。

ともかく彼女は人生で初めて、出会うことになる。


理を学び、魔法を操る。魔道士と呼ばれる者達に。






魔王城、東側。

宿舎が潰れ人通りも少なくなったここで、何か、木片同士がぶつかる音が絶え間なく響いていた。

アシタバとオオバコだ。

手に木槌を、木刀を持つ彼らは、本番の戦闘さながら切り合いに励んでいた。


「振りの後が甘い!!力で何とかしようとしすぎだ!

 素早い魔物相手だと隙を突かれてやられるぞ!」


「んん、了解!!」


未だ万全とは言い難いオオバコのリハビリ。兼、修行だった。


「―――ここらで終わりにしておこう。これ以上はナツメさんに怒られる」


その声にオオバコは肩を上下させ、地面へと倒れこんだ。

未だ診療所通いの彼に対して、アシタバは余裕がある様子だ。


「アシタバ、どうなんだ俺は実際。経験少ねぇからいまいち分かんねぇや」


「やっぱり隙は目立つな。攻撃も大振りばかりだ。でも一撃の重さは怖い。パワーが凄い」


褒め言葉にオオバコは笑顔を引っ張りだし、ガッツポーズを見せた。


「へへ、そうか…………」


「診療所へ帰るか?送っていくよ」


「あー、いや、その前に少し寄りてぇところがあるんだ」


「寄りたいところ?」


「勇者リンゴに会いにいきてぇ」




五章一話 『この世は輪廻、巡りて廻る(前)』

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