表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第四章 流れ月、ハルピュイア戦役編
35/509

四章三話 『来訪者達』

ガァガァと、彼らの鳴き声が響き渡る。


3メートルほどの巨体と、それに合った大きな翼。

ギョロリとした蛇のような目。鋭い牙。逞しい鉤爪。

空の魔物の代名詞と呼ばれる怪鳥、ハルピュイア。


その群れから湧きあがる鳴き声、大合唱は、立ち向かう者達の勇気を削り取っていく。

まだ遥か遠くに群れの影を確認できる程度であるのに、その鳴き声だけで震え、顔を伏せる者もいた。


高らかに鳴ったのは角笛だ。

続いてドラム。低音と高温の弦楽器も追従した。

緊張が支配する戦場に、音楽が響き渡る。


「なんだぁ、戦場に楽器なんか持ち込んだバカ共は!!」


最前線のツワブキは呆れた口調ながらも、顔を綻ばせる。


「軍楽隊の真似ごとかぁ?いい仕事しやがって………」


そう呟くツワブキの頭上で、光と轟音。

見れば空色の光の筋が二本、魔物の群れへと伸び―――そして爆音、肉片が散る。


「今度はなんだあ!?」


「悪いなツワブキ殿。射程範囲レンジに入ったので一番槍を務めさせてもらった」


毅然とした声が北側から響く。【蒼剣】のグラジオラスだ。

彼女たち魔道士が動かす魔道砲門マナ・バリスタの初撃だった。

呆気にとられるツワブキに暇を与えず、今度は東側からバヒュンと音がする。

未だ遠く、形をはっきりと認識できないような距離でありながら、放たれた矢は放物線を描いて群れの一匹に着弾した。


「お、おお………!?」


【黒騎士】ライラックの横で、既にその男は二発目の矢を構えていた。

目深に被ったワッチキャップは目を隠すほどだったが、彼は確かに南の空の群れを見据え、二発目を放つ。

構えるのは人の背丈ほどもある長弓。そして二発目も的中だ。


【鷹の目】のジンダイと呼ばれる彼は、【黒騎士】ライラックの戦友だ。

ライラックの黒砦での戦いには、死なず、共に長くを戦い抜いた二人の戦友がいた。

彼、ジンダイがその内の一人………激戦区の経験者、彼もまた歴戦の英雄だ。


銀の団で弓の一番手は誰かと言われれば、それは【月落し】のエミリアか【鷹の目】のジンダイか、という話になる。

強み弱み、どちらが上かは単純にはまとまらないが。

少なくとも迎撃領域(レンジ)という点では、一番手はジンダイだ。


「こちらも領域(レンジ)に入ったので攻撃開始を指示した。勝手ですまないな、大将」


ライラックが不敵に笑う。


「なんだなんだぁ、せっかちちゃん共が、勇猛で何よりだ!

 おう、他の奴らも気合い入れろよ!初めての戦、初めての魔物かもしれねぇ。

 だが戦うためにお前らはここに来たんだ。

 無理をしろとはいわねぇ。危なくなったら四階に引っ込め。

 やばくなったら近くの奴を頼れ。俺が何とかしてやる!!!」


ツワブキの叫び声。

ジンダイと、そして西側にいたエミリアも矢を放ち、魔物を落としていく。


「いいか、生き延びろよてめぇら!!!矢ぁ構えろ!!」


仲間の墜落にハルピュイアが叫ぶ。

ツワブキの演説に男達が吠え、そして矢を構えた。


「撃てぇ!!」


怒号に近いその声を皮切りに、屋上から大量の矢が放たれる。

地に落ちるもの、群れのはるか上を行くもの、その中で魔物に的中するもの。

何匹かの魔物が地に落ちた。

再び、轟音と空色の光。魔道砲門マナ・バリスタの二発目だ。


もはや敵は姿を視認できる距離まで来ていた。

200メートルを切ったぐらいか。声だけで怯える者もいたほどだ、

その禍々しい姿を見れば、臆する者は更に増える。


「矢、撃ち続けろ!!焦らなくていい!!丁寧にだ!!」


一斉射撃にはこだわらない。練度に差があり敵は多い。矢数が第一だ。


「…………十数匹、矢も当たってないのに下に降りたみたいですが」


矢を撃つ動作を続けながら、カシューは隣のタマモに訊ねる。


「牛舎の牛とかを見つけたんだろう。あいつらは生き物に反応するからな。

 なんにせよ、同時に相手する頭数が減るんならありがてぇ」


矢を放ち、ハルピュイアの一匹に当たるのを見届けてタマモが呟く。


「撃墜、4」


「撃墜、9」と、【鷹の目】のジンダイ。


「撃墜、8」と、【月落し】のエミリア。


「げ、撃墜5!!」村娘といった風貌の少女が、慌てた様子で叫んだ。


屋上の者たちが一本でも多く矢を射ようと必死な中、ローレンティアは射線を遮らないよう屈んで移動し、そして屋上中央に取り付けられた大鐘の上に昇った。


「おい、何やっているんだお姫さん!!」


ローレンティアの姿を見つけたツワブキが声をかける。


「ツワブキさん。私はここにいようと思います」


「馬鹿いえ、そこぁ一番高くて目立つ。集中的に狙われるぜ!」


「だから、です」


毅然と答えるローレンティア。その意図を理解したツワブキは一旦、言葉を止める。


「…………ディル。最初の間だけあの周りを頼む。流れを作ってくれ」


側のディルに囁くように指示を出した。


「了解」


「全員、撃ち方やめ!!武器を手に取れ!!来るぞ!!」


矢の射出が止まる。

最後、三度目の魔道砲門マナ・バリスタの砲撃が、もはや30メートル程まで近づいたハルピュイアの群れを貫いた。

男達は弓を床に捨て、そして思い思いの武器を持つ。

ツワブキも背の両手斧を手に取り、「俺に続け!!」と叫ぶ。

魔物の群れは、屋上へ到着し。



乱戦が、始まった。








「本当に屋上に参加しなくていいのか?そりゃ俺としちゃありがたいけどさ。

 ハルピュイアなんか太刀打ちできねぇし」


探検家アシタバ、大泥棒ラカンカ、元暗殺家キリの三人は魔王城の階段を下りていく。

ラカンカはこの状況下で呑気な声だ。


「でもアシタバはお前、対魔物の専門家だろ?鬼蜻蛉ドラゴンフライ相手にも対応してたし。

 キリの投げナイフだって飛ぶ相手にゃ有効だぜ」


「そうだな。俺も正直、正解かどうかは分からない。

 屋上にいて戦闘に加わった方がいいかもしれない。

 でも見過ごせない可能性があったんだ………ラカンカ、頼んでいた仕事は?」


「俺を誰だと思っているんだ?任されりゃ完璧にこなすぜ、仕事は」


「キリ、アサツキには無事会えたか?」


「ええ、頼まれたこと、伝えておいたけど………」


「じゃあいい。後は何も起こらないことを願うだけだ」


彼らは一階へ着く。大鍋の間を通り抜け、そして三人は、地下一階へと続く大階段の前で立ち止まった。


「アシタバ、お前はさ、口数が少ねぇんだよなぁ。

 もっと喋れよ。情報をくれ。その可能性ってのはなんなんだよ」


大階段の先をじっと見据えるアシタバに、ラカンカは突っかかる。


「………口に出すのに躊躇いがあったんだ。

 みんなハルピュイアの迎撃で頭がいっぱいで必死だった。

 俺の心配っていうのはそうかもしれないって可能性だけの話で、何も起きないことも十分あり得る。

 余計な心配ごとを増やしたくはなかったんだ」


「だから、何を?」


「………四階に行った時、床や柱に戦いの傷があった。

 あの時からずっと引っかかっていた。二階より上は人類未踏って話だ。

 名もなき魔王城への挑戦者が、誰にも知られないところであそこで戦った?

 それもありえる。でも、人と魔物の戦いの傷じゃないとしたら?」


キリは黙ってアシタバの話を聞く。


「魔物の間にも生存競争がある。普通に争いは起こるんだ。

 フロアの主だったゴブリンとハルピュイアの戦いの跡か?

 いやゴブリン達はむしろ、ハルピュイアを空飛ぶ騎馬のように使う。

 戦う相手じゃない。しかも傷跡は、突発的な一度の戦闘でついたものじゃなく、何年かに渡って継続的につけられた傷だった。慣習的な戦いなんだ。


 相手を考えるのは一旦止め、戦いの意味という点で思考を進めた。

 どうして戦いが起こるのか。

 戦いの片方がハルピュイアだとしたら、戦いは彼らが夏、魔王城に避暑しにやってきた時に行われる。

 とすると、可能性があるのはハルピュイアの産卵期だ。

 彼らは卵を産みに魔王城にやってきて、そこを狙う捕食者と戦闘になっている」


地鳴りのような屋上の喧騒が一階まで響く中で、アシタバはその可能性を淡々と述べる。


「相手はどんな魔物か?

 そいつとの戦闘を恐れてハルピュイアが巣を移さない以上、彼らの成体よりは弱い。

 が、捕食者側も襲撃を止めないところを見ると、やられっぱなしというわけじゃない。

 恐らく複数匹で立ち向かって、互角に戦える魔物。

 彼らは徒党を組む。そして卵か雛を捕食する。肉食だ」


キリが、ラカンカが、ようやくその違和感に気付いた。

屋上からと思っていた地鳴りが、下からも聞こえる。

下、地下一階、いや、その更に下から…………。


「これまでの仮定が全部合っていたとしても、彼らの襲撃のタイミングは分からない。

 ハルピュイアが産卵を行うもう少し後の時期かもしれない。

 もしくはそれに備えて、今の時点から二階三階に陣取るか。

 色んな可能性の中で、後者の可能性だけが最悪だった」


耳を澄ます。折り重なる無数の足音と、荒い息。唸り声。


「銀の団が屋上でハルピュイアの迎撃に注力する中、地下一階、背後から完全な奇襲を受けることになる。

 少なくともハルピュイアと互角に戦える群れだ。

 3階にいる女子供が初めて出会うわけだから、想像を絶する惨劇になっていた」


「おいアシタバ……この音、この足音…………。

 お前の可能性とやらが当たってたんじゃねぇの」


ラカンカは流石に青ざめて、その地下からの来襲者に備える。


「そうみたいだな。決して高い可能性じゃなかった。

 でも、もしそうだった時の被害を見過ごせなかったんだ。

 捕食者が何の魔物か。俺は心当たりがある。何せ俺は、初日に彼らと会ったんだから」


キリも腰元のナイフを取り出し、構える。

黙った三人が見下ろす、階段の先――――。





魔王城、地下一階。


樹人トレント達の迷いの森を、彼らは駆け抜ける。根やツルを器用に交わし。

そして整備された農業試験用のスペースに飛び出ると、地上へ続く大階段を目指し、駆け上がっていく。


黒い体毛。四足歩行で、鋭い牙と爪。

宝石か真珠のような、艶のある楕円形の眼。


ウォーウルフの群れが、銀の団に迫っていた。




四章三話 『来訪者達』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ