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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第十一章 枯れ月、ウォーウルフ論争編
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十一章九話 『ローレンティアとシャルルアルバネル』

貴族区。


九つの館が立ち並ぶ中を、ローレンティアは歩く。

隣にはエリスがついていた。


「うーん……………」


エリスが静かに見守る中、ローレンティアはうんうんと唸っていた。


ウォーウルフとの共存を円卓会議で勝ち取ると、アシタバと約束をした。

つまりは味方を六人集める必要がある。


「うーん…………」


ツワブキのことはアシタバが説得をするとして。

ツワブキがウォーウルフとの共存を支持すれば、農耕部隊隊長クレソン、工匠部隊隊長エゴノキ、橋の国(ベルサール)アサツキ、月の国(マーテルワイト)ブーゲンビレアは賛成するだろう。


残る六人から、あと一人。味方を作る必要がある。


まず無理だろうと感じるのは二人。


日の国(ラグド)ゼブラグラスと、鉄の国(カノン)グリーンピース。

二人とも魔物への嫌悪感が強く、幾らシナリオを組み立てても入り口から拒絶するだろう。


味方として計算できないのは二人。


河の国(マンチェスター)ワトソニアと、森の国(スレイアード)ベルガモット。

ワトソニアは付和雷同的で、グリーンピース寄り。

ベルガモットは議論にあまりやる気を見せず、事前に根を回してもその場で意見を変えられる可能性がある。


だから、ローレンティアが思う選択肢は二つ。

理性的に話が出来そうで、かつ、約束を守りうる……。


波の国(セージュ)ウォーターコイン。そして、砂の国(ランサイズ)シャルルアルバネル。



「………………………」











あぁあん、あぁん、と嬌声が響くものだから、ローレンティアは思わず赤面し、縮こまってしまう。


「――――うぶなのね。まぁ驚くでしょう。

 隣が森の国(スレイアード)代表の、ベルガモットの館なのよ」


と、シャルルアルバネルは言った。


彼女の館の応接室。壁は大きな硝子張りで、魔王城の全貌が見えた。

褐色肌、気だるそうな顔は円卓会議で会ういつもの彼女だ。


「べ、ベルガモットさんは何を………」


「何をって、盛ってる(・・・・)以外にないでしょう。

 ここに来てからずっとそうよ。

 色情狂ニンフォマニアなの。それで国を追い出された。

 連れてきた使用人二人も、それ用の若い男。ま、すぐ慣れるわ」

 

彼女の使用人がローレンティアをソファへと導く。

白髪と皺が目立ちながらも、執事としての重量感がある男性だ。

振る舞いから、きっとシャルルアルバネルが幼い時から仕えてきたのだろう、と想像できた。


座るローレンティアの隣にエリスが立ち、対面に座るシャルルアルバネルの隣には、その男性が立つ。


「ありがとう、ラングワート。さて、用件は分かっているわ。

 ウォーウルフの件ね。耳にしてる」


「来ると思っていましたか」


「ええ。アシタバって人?よく名前聞くけど……。

 今回ウォーウルフを生かしたいって言っている人でしょう。

 だったらあなたも呼応すると思ってたわ。

 戦闘部隊で同じ班で、迷宮蜘蛛ダンジョンスパイダーの時にあなたも同じようなことを言っていたしね」


白の髪をくるくると弄ぶ。彼女はいつも、つまらなそうだ。


「私かウォーターコインでしょ?あなたの選択肢は。

 ただあいつは多分、国に思い入れが薄いのよね。

 私があいつだったら、波の国(セージュ)に出現が多いっていうハルピュイアや海怪鳥セイレーンが現れた時にもっと熱心に情報収集するもの。

 私は比較的、分かりやすかったんでしょう?」


全て見透かされる。その通りだ。

シャルルアルバネルならば、彼女の国に利益があることを提示すれば味方になってくれるのではないか、という期待があった。


趣味が一緒とは言い難い。

けれどシャルルアルバネルは、理屈が通る。


「私は嫌よ」


その期待は、早速打ち砕かれることとなった。


「どうしてです?」


だが、ローレンティアの期待は元から高いものではない。

彼女は説得をしに来た。だから切り返しも早い。


「説明をする義務もよしみもないわね。ただ…………。

 答えて欲しいのなら、先に私の質問に答えて。

 あなた………ここで、どういう団長になりたいの?」


「どういう?」


自分のことを聞かれるとは予想していなかった。

ローレンティアは少し詰まり。


「――――強きも弱きも守る者に。

 自分の正しいと思う未来を、実現できる者に」


自分が思う、正しい王の定義を述べる。


「ふぅん………そう、じゃああなたは、どこまでを守る気なの?」


「どこまでを?」


目線が泳ぎかけるのを、ローレンティアはぐっと堪えた。


「私が正しいと思うものを」


「…………………ふぅん」


その答えを受け取って、シャルルアルバネルは少し思案する。

口に人差し指を当て、眼はそのままローレンティアを観察する。


「信用できない」


「ど、どこが!」


お硬く交渉をしにきたのに、ローレンティアは既にペースを崩されていた。

それ程に、シャルルアルバネルは揺れない。

必ず彼女のペースを守り、そして強かにそれを場に波及させる。


「信用できないっていうのは、あなたの理想じゃなくてね。

 あなた………変わるでしょう。

 傍目で見ていても分かるわ。咲き月とは全然違う。

 これから先、あなたが正しいと思うことがずっと同じだって、私は信用できない。そう言ってるの」


ローレンティアは言葉に詰まる。

内容に間違いはない。言い返せない。


「あなた、計算できないのよ」


ローレンティアは口を噤んだ。自分に不合格の判が押された。


けれど。


それはシャルルアルバネルが、ローレンティアを計算しようとしたということだ。

これから先のことを考えたということだ。


シャルルアルバネルの頭の中に、ローレンティアと組むという選択肢が存在している。


ローレンティアの目が、冴えた眼へと沈み落ち着く。

シャルルアルバネルはその様子を静かに観察し。

その目をローレンティアは認識し、受け止めた。


だから彼女は、自分の理想を聞いたのだ。

ローレンティアという人物の、方向性を知りたがった。



今、自分は測られている。



「……………私は。

 あなたが味方なら頼もしいと思います」


「奇遇ね。私もあなたが味方だと楽だわ。

 ―――――帳尻が合うのなら」



牽制し合うような、緊張した沈黙が流れる。



「私から、最後の質問。あなたは今回の件、どこまでを見ているの?」


「どこまでを」


「共存か殲滅か。その決定による、影響の範囲」


「………私達と魔物の、大きな分かれ目だと思っています。

 どちらになるにせよ、今後の魔物の接し方に大きく影響する。

 アシタバがどんなメリットを見極め、主張するか次第ですが、魔物全体との付き合い方を含めて考えるべきだと思っています」


真剣な顔で主張するローレンティアを、シャルルアルバネルは口に人差し指を当てて観察し。


「駄目ね」と、一刀両断する。


「……………理由を」と、ローレンティアは懇願し。


シャルルアルバネルは気だるそうに、手を首筋に添えた。


「まず、アシタバって奴が何を主張するか次第、なんて言っている時点で駄目よ。

 小粒のメリットは色々あるかもしれないけど、この状況下、彼がメインで主張できるシナリオなんて1つしかない。

 決まりきっているの。後は、彼がそれをするかしないかだけ」


ローレンティアには理解が追い付かない。決まりきっている?

必死に頭を回すローレンティアを見て、はぁ、とシャルルアルバネルは溜息をつく。


「最初の質問に答えるわ。

 私がウォーウルフとの共存に反対なのは、私の故郷が砂漠の国で、傭兵国家だから。

 でも、銀の団は共存をするべきだとは思ってる。


 私の思うメリットをちゃんと見据えて、私の思う懸念をちゃんと潰してくれる人が手綱を取れるのなら、私は今回、共存派を支持してもいいの」 



つまり、団長であるローレンティアが、そこを理解できるのかどうか。


お腹に鉛を入れられた気分だ。


ローレンティアには、シャルルアルバネルの見ている景色が見えない。

見えないから、協力を得られない。見捨てられようとしている。


距離を取り、じっとローレンティアを観察するシャルルアルバネル。

その姿が、遠い。


「………………円卓会議まで待ってあげるわ。

 別にアシタバって奴に事前に聞いてもいい。

 本当の問題は、そのシナリオに触れた時にあなたがどう動けるか」


思わず呆ける。意外にも、シャルルアルバネルは猶予をくれた。

まだ切られてはいない。


「それまで、精々思考を巡らせなさい」










「うーん……………」


帰り道。

行きと変わらぬ様子でうんうん唸るローレンティアを、エリスは心配そうに見守った。


「…………しかし口調はいつも通りでしたが、以前に比べれば今回は協力的に見えましたね。

 近づくことなど認めない、といった風貌でしたが」


「……………そうだね。待ってくれるとも言ったし。

 心の扉は閉じっぱなしだけど、門は開いた感じだ」


ローレンティアは少し、悩むのを止めた。空へと視線を放る。


「シャルルアルバネルは、よく見てる。

 白銀祭の鉄の国(カノン)の暴走と、その後、国家間のバランスが揺らぐことを見据えて仲間作りに動き始めたんだろうね」


ローレンティアもよく見るようになった、とエリスは思ったが、口には出さない。

それはもっと研磨されるべきだ。今に満足されては困る。


「あの視野は羨ましいな。


 …………うん。

 やっぱりシャルルアルバネルは、私の味方に要る」




思う未来を現実にできるのが良き王なら。


確かにローレンティアは、シャルルアルバネルを味方にする未来を描いた。




十一章九話 『ローレンティアとシャルルアルバネル』

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