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第八話・冒険者ギルド

 それから魔物に遭遇する事もなく、無事にデパールの街についた俺たちは、冒険者ギルドに向かっていた。

 どうやら薬草を集めていた川沿いは、本来ならあまり魔物が出ない場所らしい。ゴブリンが五匹も出たのは珍しい事のようだ。


「ここがデパールの街か……辺境にある街なのに結構栄えているな」


 街の中心である大通りを歩いていると、様々な商店や露天商の姿が目に付いた。

 多くの人々が行き交っており、客引きをする声が通りに響く。よく言えば活気があり、悪く言えば騒がしい街だ。


「私もそんなに詳しくはないですが、この街を治めている領主様が税を安くして、商業ギルドに申請しなくても市場で商売が出来るようにしたおかげで、商売をする人が集まってきているみたいですよ」


 商業ギルドを通さない事で、仲介料や登録料もかけずに店をだせるのか。その上税金も安いと来れば、自然と商人が集まり流通も盛んになるだろう。


「なるほど、ここの領主はそうとうなやり手みたいだね。これだけの人が集まっているのは凄いと思うよ」


 物が集まれば、次は人も集まる。通りを行き交う人々は多種多様で、ミミのような獣人以外にも、おそらくだがエルフやドワーフの姿まである。耳が長かったり、背が小さかったりしているので間違いないだろう。

 

「その代り、街道に盗賊が現れるようになっちゃったみたいですけどね」


 乾いた笑いをあげながら、ミミが答える。人が集まれば金も集まる、金が集まればそれを狙う盗賊も増える訳だ。

 世の中とはままならないものである。


「あっ、あれが冒険者ギルドです」


 デパールの街について話をしていると、いつの間にか冒険者ギルドに到着していた。

 年季の入った木造の建物、三階建ての二階部分にあたる壁の中央には大きな看板が居場所を主張しており、その役目をしっかりと果たしている。

冒険者ギルドと書かれた文字の左右には、交差した斧と杯が描かれており、文字が読めない人間にもどのような建物かわかるようにしているのだろう。


「ここが……冒険者ギルド」


 俺はゴクリと喉を鳴らしながら、ギルドの扉を開き中へ入る。

 腰の高さから目線の高さほどの両開きの扉が開く音は、建物の中の喧騒にかき消されていく。

 左奥にある酒場の様なスペースには、いかにも荒事に慣れていそうな人間がジョッキを掲げて談笑しており、ウェイトレス達が忙しそうに動き回っている。


「想像通りの、いかにも冒険者ギルドって感じだな」


 何度も妄想した、ギルドの姿そのものだ。俺は少し気が高ぶるのを抑えながら、ミミと一緒に正面の受付のようなスペースに歩を進め、冒険者たちが並ぶ列の最後尾についた。

 列は三列ほどで、受付の中を見ると、ギルドの従業員たちが右へ左へと忙しそうにしているのが目に入る。


「かなり混んでいるな」


「夕方は一番込み合いますからね。ほとんどの冒険者の方は昼間に活動して、夕方に精算しに来ますから」


 どうやらタイミングが悪かったらしい。


「そして、そのお金を併設している酒場で使うのか、ギルドもなかなかうまい商売を考えるな」


 俺にはその良さがわからないが、労働の後の一杯はさぞ美味いのだろう。

 そういえばここは異世界なのだから、俺も成人扱いされるはずだ。機会があれば飲んでみようと思う。


「そう……ですね」


「ん? どうかしたのか?」


「……いえ、なんでもありません」


ミミが少し落ち込んでいるように見える。

何かあったのか踏み込むべきか、それともあまり深入りしない方がいいのか。

少し悩んで、ミミに声をかけようとしたら、受付の方から声がかかった。


「お次の方どうぞー」


「あ、私たちの順番です、行きましょう」


ミミが少し早足で受付に向かうので、俺も慌ててついていく。


「あら、ミミちゃん、無事に帰ってこられたのね。帰りが遅いから心配していたのよ」


「あう、ごめんなさい。ちょっと色々とあって。あ、これが依頼のあった薬草です」


「ふふふ、無事ならそれでいいわよ。……ところで、そちらの方はお知り合いかな?」


 ミミと顔見知りらしい受付のお姉さんが、俺の姿を確認して聞いてくる。

 やはりギルドの顔ともいえる受付嬢は、とても美しい。

 俺は思わず見惚れてしまいそうになる。年上の美人のお姉さんに弱いのだ。


「こちらの方はユートさんです! 冒険者登録しにきた方で、とっても強いですよ」


「どうも、ユートです。とりあえず冒険者登録と、魔石の買取りをおねがいします」


 ミミが少し興奮した様子で俺を紹介する。

 魔法の事は約束通り、内緒にしていてくれるようだが、変な期待を持たれるような紹介は少し恥ずかしい。

 俺は少し澄ました顔で魔石を受付に置くことにした。第一印象は大事だ。

 もしかしたら、ギルドの受付嬢と仲良くなる展開があるかもしれない。


「冒険者登録ね……じゃあこの用紙に必要事項を記入して頂戴。魔石の査定はその間に行っておくわ。読み書きができないなら代読と代筆も出来るけど、その場合は手数料で銅貨十枚になるわよ」


「読み書きは出来るので大丈夫です」


「へぇ、見かけによらずしっかりしているわね。お姉さん感心しちゃった」


 この世界の識字率はあまりよろしくない。俺は王城にいた頃に必要な知識は一通り教わったし、文字に至ってはアルファベットに近いので簡単に覚えられた。

 言葉は初めから通じていたが、勇者とはそういうものらしいで片づけられたので理由はわからない。前回が五百年も昔の事だし、仕方ないと言えば仕方ないか。


「見かけによらず……は余計ですよ、それじゃあ査定はお願いします」


 日本にいた時からもそうだが、どうにも容姿で侮られやすいようだ。

 これでも訓練して筋肉とか付いたと思うのだが、ギルドにいる冒険者と比べると見劣りしてしまう程度だし仕方がないか。

 もっと男らしい見た目になりたい。


「あらあら、ごめんなさい。……ところでユート君はミミちゃんとパーティを組むのかしら」


 受付のお姉さんが魔石を確認しながら聞いてきた。


「パーティ? それって一緒に依頼を受けたりする仲間みたいなものですか」


 ゲームとかでもよくあるし、間違ってはいないだろう。俺は用紙に記入しながらお姉さんに確認をする。


「そうそう、実力が近い冒険者同士が組んで依頼を受けたりするの。魔物の討伐はかなり危険だし、何人かで組んだ方が安全よ。それにミミちゃんも冒険者になったばかりの新人で一人だと心配でね。二人は知り合いみたいだし、パーティを組んでみたらどうかしら。お互い新人同士でちょうどいいと思うけど」


 やはりミミは新人だったのか、ゴブリン相手に固まるわけだ。

 この提案は悪くない、いや、むしろ良い。ミミは誰が見ても美少女で、しかも俺が好きな猫耳だ。

 一緒に冒険をするうちに自然と仲が良くなって……なんてこともあり得る。いやむしろならない方がおかしい。

 吊り橋効果のように、共に危険を掻い潜ればそれだけ距離も縮まりやすい。

 受付のお姉さんナイスです


「にゃ! にゃにゃ! 私なんてユートさんと釣り合わないですよ。ユートさんは新人ですけど、とってもとっても強くて凄くて! 私だと足を引っ張っちゃいます」


 ミミは先程よりも興奮した様子で、また言葉が変になっている。

 今度は周りにも聞こえてしまったようで、冒険者たちの視線が集まってくる。


「おいおい、こんなひょろいヤローが強いだなんて、冗談も休み休み言えよ、ミミ」


 背後から嘲笑するような声が飛んでくる。このパターンはあれだ、主人公がガラの悪い冒険者に絡まれるやつだ。

 俺は呑気にもそんな事を考えていた。多分、穏便には済まないだろうなぁ。



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