第十七話・エルフ姉妹との雑談
「なるほどね。君が魔物の群れを倒していたって訳か。通りでボク達が何か所周っても、魔物がいないわけだ。それにしても三日で五百匹なんて、本当にとんでもないね」
「正気の沙汰とは思えない」
「俺も最初は無理だと思ったけど、まあやってみると何とかなるものだよ」
一通り説明をした後に、俺たちは談笑しながらデパールの街に向かっていた。
ソルもルナも特に怒る事もなく、寧ろ冒険者として獲物を狩るのは早い者勝ちだから謝る必要がないと言ってくれた。
結局、ハイオーガの解体を手伝ってもらい、魔石以外にも素材として高く売れそうな角や皮も短時間で手に入れる事が出来た。
「いやー、君は大物になるだろうだねぇ。冒険者登録をして五日でEランクに昇格だなんて、歴代最速記録じゃないかな? ボク達もランクアップはかなり早い方で騒がれたりしたけど、それでもEランクまで一ヶ月はかかったからね。本来は一年以内でもかなり優秀だなんて言われるからね」
「ユートさんは大物ルーキー」
エルフの美少女二人に手放しに賞賛されて、嬉しいけどどうにも気恥ずかしい。
「そ、そんなに褒められると調子が狂うからやめてくれ。それよりも本当に謝礼はいらないのか? 二人がいなかったら素材を回収できなかっただろうし、半分くらいは分け前として譲りたいけど」
今回のハイオークの素材もそうだが、高ランクの魔物になると解体方法が特殊なケースが多くなる。
単純に皮を剥ぐだけでも、ナイフを入れる方向や深さを間違えると綺麗に剥がれなかったり、効果が薄れない様に特殊な薬品に着けたりなど、とにかく魔物に応じて千差万別だ。
多少は聞きかじったりもしたけど、流石に細かく覚えることなど不可能で、二人がいなければ魔石以外の素材は手に入れる事は出来なかっただろう。
だからこそ、お礼として分け前はしっかりと受け取ってほしい。
「気持ちは嬉しいけど、ボク達はそこまでお金に困っている訳じゃ無いからね。ま、解体については先輩冒険者からの新人冒険者へのご褒美ってことで。ハイオーガなんて大物を倒した事を考えると、逆に足りないくらいだよ」
「先輩が後輩を助けるのは当然」
「まあそこまで言うなら、ありがたく頂戴するよ。そのかわりと言ってはなんだけど、新人の俺で力になれる事があれば遠慮なく言ってくれ」
あんまりしつこくしても、逆に相手に失礼だ。
せっかくの好意は受け取っておこう。
「それにしても、二人とも魔力は大丈夫なのか? 走り出してから結構経つけど」
俺たち三人は、それぞれ身体強化魔法を使って移動をしている。
既に三十分近く走り続けているが、ルナもソルも平気な顔だ。
魔法使いタイプのように魔力に長けているならおかしくはないが、大抵は筋力や体力が足りなくて魔力がなくなる前に限界が来る。
逆に戦士タイプの人間は元々の魔力が少ない人が多いので、体力や筋力、技を重点的に鍛えてカバーする。
どちらも兼ね備えたタイプはかなり少ない、というか両方を鍛えるのは時間がかかりすぎて難しいと言った方が正解だ。
例えるならプロ野球選手やサッカー選手になった上、弁護士とか医者とかになるようなものだ。
「うーん、ボクとしてはその言葉をそっくりそのまま返したいけどね。ボクもお姉ちゃんもエルフ族だから、生まれながらに魔力の量が多いからね。それに魔力制御にも長けている種族だから、鍛えればこれくらいは何とかなるさ。君は見たところ人族だろう? それでボク達と一緒に動き回れる方が異常だと思った方がいいよ。
「奇想天外、摩訶不思議」
そういえば人族は器用貧乏というか、種族の特性として魔力はそこまで多くないし、鍛えても伸びにくいと言われていたのを忘れていた。
エルフ族は魔力に長けていて、獣人は筋力や体力に長けている事が多い。
獣人は種族によって更に細かくなり、ミミみたいな猫人族は敏捷性に特化していたりして、シアンのような犬人族は筋力に特化する傾向があったはずだ。
確かにここでおかしいのは、人族なのに魔力の多い俺の方だ。
ちなみに魔族は大抵が魔力も筋力も高い、その上魔眼まであるチート種族だ。
「あー、俺は生まれながらに魔力が多いみたいでね。それに優秀な先生が何人もついていたから、それで……かな」
本当は勇者の光の加護と、魔眼での魔力増幅のおかげです。
ついでに優秀な先生は、宮廷魔導師や騎士団長、それと元がつくけど魔王とかです。
「ふーん、まあ冒険者のマナーとして素性を詮索するのはマナー違反だからね。あまり詳しく聞かないでおいてあげるよ。ただ、あんまり目立つような真似をすると目をつけられたりするから気を付けて……って、もう遅いか。五日でEランク、更にハイオーガまで討伐したら、暫くは君の話題で持ちきりだね」
「注目の的」
既にシアンとの決闘騒ぎのせいで十分目立っているし、もう目立たず生きるのは諦めている。
どうせなら余計なちょっかいをかけられない様に、ランクを上げてプレートを更新した方が良い。
この二人の様に、Cランクでゴールドプレート持ちになれば舐められるような事もなくなるだろう。
「あんまり目立つのは好きじゃないけど、まあ仕方がないさ。」
「きっと君はそういう星の下に生まれてきたんだろうね。否が応でも、人に注目される人はどこにでもいるものだよ。勿論、その逆もあるけどさ」
「天啓、天運、運命」
言われてみれば、日本に居た時から悪い意味で注目はされていた。
異世界では勇者として、そして今は冒険者として、俺の人生を振り返ってみると常に目立っているように思える。
ただし、良い意味でも悪い意味でもなんだけど。
それとソルとルナの言葉数の差がすごい。
ソルは無口なのか、殆ど単語か二言三言しか喋らない。
ルナが良く喋るから二人合わせたらバランスは取れているけど、双子ってこんなに似ないものなのか。
「天啓……か、確かにそうかもしれないな」
勇者に与えられる光の加護は、その名の通り光の神様に与えられると言われている物だ。
そうなると勇者である俺の人生は、神が導いているのかもしれない。
ソルに言われた天啓という言葉に、柄にもなく考え込んでしまった。
「おや、そろそろ街の門が見えてきたね。ボク達は少し用事があるから、先に行くとするよ。またギルドで会おうユート君」
「またね」
そう言ってルナとソルはスピードを上げて、走り去っていった。
「二人とも本気じゃなかったのか」
俺も加減をしていたので人の事は言えないが、向こうも余力を残していたらしい。
それと関係ないが、別れ際にソルが少し微笑んで小さく手を振っていたのが少し可愛かった。
「いやいや、俺にはミミがいるじゃないか。浮気はダメ、絶対」
別にはっきりとミミと付き合うとか言ったわけでもなければ、そもそもハーレムを作る気で旅に出たのだが、なんとなく悪い事をしている気になってしまう。
陽が傾く中、俺は入門の手続きを終えて少し早足でギルドに向かう。
ミミと過ごした時間はたったの二日なのに、三日会わなかっただけで早く顔が見たくなってしまう。
しっかりと魔石を集めることができたし、ランクの昇格と共にお金も結構入るはずだ。
「ミミ……喜んでくれるかな」
思わずそう呟いてしまうのも無理はないだろう。
更にスピードを上げて、俺は赤く染まる街中を駆けていく。




