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第十六話・エルフの姉妹

 俺はオーガを睨み付け、向こうも同じようにこちらの様子を伺っている。

 オーガの方は、俺の魔法を警戒しているのだろう。

 対して俺は、決して臆病風に吹かれたとかそういう訳ではなく、仕掛けるタイミングを見極めていた。

 オーガの呼吸、視線、僅かな筋肉の動きや重心、とにかくあらゆる情報から判断して、一撃で仕留める為だ。

 身体強化を施しているとはいえ、まともな打ち合いはあまりしたくない。

 俺の体は大丈夫だと思うが、ミミから借りている剣が耐えられるとは思えない。

 

「グギャアアアアアアアアア!」


 先にオーガの方が焦れたのか、棍棒を振りかぶって走り出す。


「くッ、相変わらず見かけの割に早いな」


 その巨体に似つかわしくない速さで肉薄してくると、遮るものを全て破壊し尽くさんとばかりに、棍棒を横薙ぎに振る。

 体勢を低くすることで、棍棒が頭の上を通りすぎていく。

 と同時に背後から樹を砕く音が聞こえてくる。

「少しは弱っているかと思ったけど、パワーも全く衰えてないのか」


 再びオーガの膂力で振り回される棍棒は、二度三度と木々を薙ぎ払い、吹き飛ばしていく。

 数分、たったの数分の間に、俺とオーガの周りには視界を遮るものがなくなり、足元には砕けた樹木が散らばっている。


「大空を駆け巡る風の精霊たちよ、我に力を貸したまえ。ウインドストーム!」


 魔法の詠唱で生み出された嵐が、散らばっていた木片と共にオーガに襲い掛かる。

 しかしオーガは体勢を崩すことなく、煩わしそうにしているだけだ、その強靭な皮膚には傷がつくことはない。

 警戒していた魔法でダメージがないと解かると、オーガはこちらを見てニヤリと笑みを浮かべる。


「ふん、ちょっと魔法が利かなかっただけで勝ったつもりか。この脳みそ筋肉のバカオーガが!」


 こちらの言葉が理解できるとは思えないが、何か馬鹿にされたのを感じたのか、オーガは表情を笑みから怒りに変えて、こちらに駆け出してくる。

 俺は先程まで手にしていた剣を鞘に仕舞い、代わりに腰からダガーを二本抜いてオーガの顔に投擲する。


「アーススパイク!」


 オーガが顔の前に腕を出したタイミングで、無詠唱による土の棘を出現させる。

 当然、固い皮膚を貫くことは出来ないが、俺の狙いは別にある。

 オーガの足元から飛び出した土の棘は、真っ直ぐに顎を打ち抜いた。

 人間でも魔物でも、顎は急所の一つだ。

 

「今だ! 武技・一閃!」


 鞘から剣を引き抜き、オーガの胴体を真一文字に切りつける。

 オーガの上半身と下半身は離れ、断末魔を上げながら血しぶきと共に崩れ落ちていく。


「まさかグレン団長から教わった武技を使う事になるとは。まあ、技には罪はないからな」


 武技は魔力の少ない戦士が、瞬間的に攻撃力を高める為の奥義だ。

 他にも剣自体に魔力をまとわせて斬撃を飛ばす技や、腕の身体強化を高めて高速で何度も斬りつける技とかもある。

 勿論どの武技も習得も難しければ、制御するのも大変だ。

 今回使った一閃はグレン騎士団長直伝の武技で、瞬間的に身体強化に使用する魔力を増幅させて、目にも留まらぬ速さで真一文字に斬る一撃必殺技だ。

 そのスピードと破壊力の代わりに、非常に制御が難しい諸刃の剣でもある。

 相手との間に障害物があると足を取られて失敗するし、狙った位置から動かれてしまうと簡単に外して隙を曝してしまう。


「でもこれで、リベンジ成功だ」


 既にオーガは物言わぬ肉塊となっている。

 一度は負けた相手だが、戦いの経験を積んだことで相当成長できたのか、それほど苦戦はしなかった。


「いやーお見事だね。まさかそのハイオーガを倒すなんて、名のある冒険者さんかな」


 拍手の音と共に、俺の後ろから声がかかる。

 勝利の余韻で油断をしていたのか、それとも相手の気配を消すのが上手いのか、全く気が付かなかった。


「だ、誰だ」


 俺は慌てて剣を構えて振り向くと、そこには二人の女の子が並んで立っていた。


「おっと、別に危害を加えるつもりはないよ。ボクたちはそのハイオーガを追ってきた冒険者だよ。そんな危険な魔物がうろつくと大騒ぎになるからね。ほら、これが冒険者プレートさ。ボクの名前はルナ、よろしくね」


 拍手をしていた方が、首から下げた金色のプレートを掲げている。

 ゴールドという事はCランクの冒険者だ。


「私はソル。よろしく」


 もう一人も同じように金色のプレートをこちらに掲げている。

 ルナとソル、二人の耳は尖っており、おそらくはエルフ族なのだろう。

 髪型や雰囲気は違うが、その顔立ちは二人とも非常に整っており、またそっくりでもある。


「俺はユート、見ての通り新米冒険者だ」


 俺も相手に合わせて首にかけているプレートを見せる。

 これは冒険者同士の挨拶で、互いに害がない事をアピールする意味もある。

 野盗などが冒険者の振りをして、獲物を横取りするような場合もあるので、いつしかこうした習慣が生まれたとの事だ。


「ユート君ってアイアンなのかい! それでそのハイオーガを倒すだなんて、とんでもないね!」


「凄い。とても強い」


 アイアンはFランク以下の冒険者なので、確かにオーガを倒すのはあり得ないだろう。

 それよりもハイオーガって言ったような気がするぞ。


「さっきからハイオーガって言っているけど、コイツ普通のオーガじゃなかったのか」


「えええええ! 君は何も知らずに戦っていたのかい? そいつはオーガの上位種、ハイオーガだよ。ランクは同じCだけど強さは桁違いだよ。ボク達も追いかけたのはいいけど、どうしたものかと悩んでいたくらいだからね。Cランクの中でもBに限りなく近いと言われている魔物さ」


「とても固い」


 ルナはオーバーにリアクションを取っているが、ソルの方は表情一つ変えずに言葉を返す。

 顔はそっくりなので双子の姉妹だと思うけど、性格はかなり違うようだ。


「道理で妙に強いと思ったよ。ま、なんにせよこうして無事に倒せたから良かったけどな。」


 初めて遭遇したときはボロボロにやられたからな。


「見た感じ、そんなに強くなさそうなのにねー。あ、でも眼帯をしているってことは戦場で怪我をしたとかかな? それにしてはあんまり筋肉がついてない様だけど……うーん、不思議だね。ボクにその強さの秘密を教えてくれないかい?」


 ルナがいつの間にか近くに寄ってきて、俺の体をぺたぺたと触っている。

 エルフという種族はとにかく美男美女が多い事で有名だ。

 そんな女の子に、胸や腕を遠慮なしに触られるのは緊張してしまう。


「ルナ、ユートさんが困っている」


「ありゃりゃ、お姉ちゃんに注意されちゃった。ごめんね、ユート君」


 ルナはソルに注意されると、舌を出しながら両手を合わせて謝ってくる。

 美少女がこのポーズをすると破壊力が凄い。

 そしてクールな方のソルが姉で、無邪気な方のルナが妹なのか。


「あ、ああ、別に問題ない。それよりも魔石を取って帰りたいからそろそろいいかな?」


 道中で他の魔物に遭遇しないとも限らないし、なるべく時間は余裕を持っておきたい。

 さっさと回収して、デパールの街に向かいたい。


「ん?お急ぎかい? それなら私達も解体を手伝ってあげるよ。君がハイオーガを倒してくれたおかげでやる事もないし。何故だかわからないけど、この辺りの魔物の群れも全然姿がなくてさ。ボクたちは暇で仕方がないのさ」


「情報、役に立たない」


 ソルが持っている羊皮紙の裏には、ギルドの紋章が描かれている。

 まさか、お姉さんがくれた魔物の出現場所のリストと同じものじゃ……。


「ち、ちょっと、それを見せてもらってもいいかな」


 ソルから紙を受け取って内容を確認すると、全く同じ情報がかかれていた。

 しかもご丁寧に、群れの情報の横に確認した日時まで書かれており、そのどれもが俺が討伐した後の時間が書かれている。

 ここで会ったのも偶然なんかじゃなく、デパールの街に近い場所から順番に周って、魔物の群れがいないから、自然とこの場所まで来ることになったのか。


「す、すいませんでしたー!」


 俺は二人に土下座をした。

 それはもう見事なくらいに素早く地面に頭を擦りつけた。



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