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第十四話・返済計画


「ミミ、そろそろ話してくれないか」


 あれから一言も交わすことなく、ミミの家についた俺たちは、テーブルを挟んで向かい合っている。

 コーリーの発言は衝撃的だったが、いつまでも引きずっているわけにはいかない。

 まずは状況の確認するのが先決だ。


「はい、まずは黙っていてごめんなさい。コーリーさんの言っていたことは全部本当です。コーリー商会に金貨百枚の借金があって、返済まで後一週間です。」


「金貨百枚……改めて聞いても、とんでもない額だけど……どうしてそんなに借金をしているんだ?」


 十三歳の若さで金貨百枚を借りるなんて尋常じゃない。

 おそらくは両親がいないことに関係しているとは思うが、ここははっきり聞いておくべきだ。


「借金の事ですが、両親がコーリー商会から借りました。この街の領主様から特殊な薬の調合依頼があって、その材料を仕入れる為のお金です。勿論、額が額ですから最初は両親も悩んでいたのですが、領主様が調合した薬を金貨二百枚で買ってくれるとの事だったので、依頼を受けることにしたんです」


 なるほど、仮に金貨百枚の借金をしても薬が金貨二百枚になるなら物凄い利益だ。

 差し引きで金貨百枚のプラス、贅沢をしなければ十年近くは暮らせるだけの金額だ。


「そこまで高価な薬の調合が出来るってことは、ご両親は相当腕の良い薬師だったんだね」


「私が言うのも変かもしれませんが、お父さんやお母さんを超える腕前の人は見たことがいません。それで金貨を持って、材料の仕入れに王都まで向かう予定だったのですが……、その道中で盗賊に襲われてしまい、二人とも……」


 高価な薬と言うのは材料も同じく高価で、それ以上に希少な物が多く、扱える人も限られてくる。

 俺が知っている限りでも、万能薬の元になる古龍の血などはコップ一杯分で屋敷が立つほどだ。

 当然、それを使って万能薬を作れる人間など、国中どころか世界中を探しても数えるくらいしかいない。

 確か王城の宝物庫に保管されていると、宰相のシモンが言っていたな。

 古龍の血ほどでないにしろ、それなりに薬効のある物は手に入れるのに苦労するらしい。

 ミミの両親もこの辺りでは材料が手に入らない為、物や人が集まる王都に向かったのだろう。


「八年前にデパールの街に引っ越してきてから、とても幸せでした。領主様の政策で新しく商売がし易くて、うちの薬の効果を知ったお客さんがたくさん来てくれるようになって。シアン君の家の道場もお得意さんだったんです。怪我をする人が沢山いますから」


 そのころからシアンとミミは知り合いだったのか。


「でも、でも……私だけが店番をして街に残って……知らない間にお父さんもお母さんも死んじゃって……借金を何とかしようとお店の商品を頑張って売ったけど、利息分にしかならなくて、それで……それで……私……奴隷になんかなりたくないよぉ。ユートさん、うわあああああん」


 俺はミミに駆け寄って、そのまま抱きしめる。

 この世界の法では奴隷についても細かく決まっている。

 一番過酷なのが犯罪奴隷で、重い罪を犯した者が鉱山などの危険な場所で働かされる。

 一応、十年とか二十年とか罪によって年数が決められているが、殆どは過酷な環境に耐えかねて死ぬか、逃亡を試みて殺されるらしい。

 そしてミミが言っているのは借金奴隷だ。

 その名の通り、借金を返せなくなった人間がなるものでその年数や仕事内容は金額によって細かく変わるが、衣食住などは奴隷の購入者が負担する義務があるし、なんでも言う事を聞かせて良い訳ではないので、命の危険はない。

 ただ、ミミの様に高額の借金を背負った場合、女性の中では一番きつい性奴隷になるのが殆どだ。

 大抵は娼館に売られるか、金持ちの貴族や商人に買われるか、どちらにしろそういった行為をさせるために買われる。

 ミミのような少女が性奴隷になってしまえば、待っているのは変態達の慰み物としての扱いだ。


「大丈夫、俺が絶対にミミを奴隷になんかさせないよ。必ず、必ず金貨百枚を稼いでやる」


 一難去ってまた一難、俺たちは一週間で金貨百枚を稼ぐ事になる。


 しばらくミミが落ち着くのを待ってから、俺たちはギルドへ向かう準備をし始めた。


「あの……ユートさんの着替えですけど、お父さんの服でもいいですか?」


 まだ少し目の赤いミミは俺に洋服を手渡しながら聞いてきた。


「俺は構わないけど、でも本当にいいのか?お父さんの形見だろ」


「ユートさんに着てもらえるなら、きっとお父さんも喜んでくれます。実はお父さんとユートさんって、背丈も雰囲気も似ているからきっと似合うと思います」


 いや、娘が男に自分の服を着させたら怒ると思います。

 ミミのお父さんには心の中で謝っておこう、ごめんなさい。

 そしてミミはファザコンだったみたいだ、会って間もないのに色々と良くしてくれたのは、俺にお父さんの影を感じていたからなのか。


「そう言う事なら喜んで着させてもらうよ。間違えてお父さんって呼ばないでくれよ」


「もう! 私はそこまで子供じゃありません!」


 さっきまでの重苦しい空気が嘘のようだ。

 絶対にミミを泣かせる様な事にはしたくない。

 冒険者として稼ぎまくって、あのコーリーとかいう豚野郎に金貨を叩きつけてやる。


 そう決意してギルドに向かった俺たちは、受付のお姉さんにお説教とされることになった。


「二人とも何を考えているの。確かに割の良い仕事を紹介するって言ったけど、君たちは新人でGランクなのよ、Gランク。確かにシアン君を倒せる実力はあるかも知れないけど、経験0の相手に高額報酬の依頼をするような人は誰もいません。それをいきなり金貨百枚ですって? 冗談をいうのもほどほどにしないと怒るわよ。そう簡単に稼げるなら私が冒険者になっているわよ」


 いや、すでに物凄く怒っていますよね。

 それにお姉さんなら冒険者より強そうだ。


「ユート君、なにか言いたいことでもあるの?」


「い、いえ、ナンデモナイデスヨ」


「ミミちゃんは何かある?」


「にゃ! にゃにもにゃいです!」


 怖い。


「とにかく新人の君たちは信用がありません。指名依頼でもあれば報酬が高額になりやすいけど、そんなのはDランク以上になってからの話ね。まずは地道にコツコツ依頼をこなすのが一番の近道よ」


「それでも、それでも何とかなりませんか? どうしても後一週間で、金貨百枚を稼がないといけないんです。例えばオーガの目撃情報とか、依頼じゃなくても魔物を倒せば魔石は買い取ってくれますよね?」


 ここで引くわけにはいかない。

 Cランクのオーガは前に負けた相手だけど、ミミの為なら倒してみせる。

 オーガクラスの魔石なら、それなりに高価なはずだ。


「オーガって、確かに君の実力なら倒せるかもしれないけど、そもそもCランク以上の魔物なんてこのデパール周辺には滅多に出ないわよ。目撃情報が出たりしたら大騒ぎになるくらい珍しいわ。冒険者もCランクは数パーティしか、この街に常駐してないのよ」


 そういえばオーガ単体でも小さな村を滅ぼせるくらいだった。

 それを倒すだけの実力を持った冒険者は、自然と強力な魔物が多い地域に流れていくのだろう。

 魔王城には魔物がごろごろいるからすっかり忘れていた。

 旅を初めてすぐにオーガに出会った俺は、そうとう運が悪かったのか。


「それでも何とか、何とかならないですか」


「うーん、今のランクじゃ無理だけど、三日後までにEランク以上になれば受けられる依頼が一つだけあるけれど」


「それを早く言ってくださいよ。そんな依頼があるなら、そこら中の魔物を倒してランク上げますって」


 その為なら不眠不休でも何でもどんとこいだ。


「このデパール周辺に現れる、盗賊団の殲滅ね。三日後にEランク以上の冒険者が共同で行うのよ。かなり凶悪な盗賊団で、頭領には金貨五十枚、幹部二人にもそれぞれ三十枚の懸賞金がかかっているわ。被害を重く見た商業ギルドからの依頼だから、危険な分だけリターンも大きいわね」


「あ、あの! その盗賊団の名前ってもしかして……」


 盗賊と聞いてミミが反応する。

 確かミミの両親が亡くなった理由は……


「ブリガン盗賊団よ、元Cランクの冒険者ブリガンとそのパーティメンバーが中心となって立ち上げたのよ。」


「ブリガン盗賊団……、ユートさん、この盗賊団が私のお父さんとお母さんを襲った犯人です」


 これはますます受け無い訳にはいかなくなった。

 ミミの両親の仇も討てて、懸賞金で借金を大きく減らすチャンスだ。


「お姉さん、その盗賊団の討伐依頼を受ける為に、俺たちは三日でEランクにあがります。その為に力を貸してください」


 ランク昇格までのポイントの詳細はギルド内の機密になっている。

 でも、どのくらいのペースで依頼を達成して魔石を納品すればいいかのアドバイスくらいは貰えるはずだ。

 受付嬢は、冒険者のアドバイザーとしての役割もあるのだから。


「まあ……そこまでいうなら少しは強力をしてあげてもいいけど、尋常じゃないくらいキツイのは覚悟してね。本来は年単位の時間をかけてEランクになるんだから、それを三日でなんて普通はあり得ない事なのよ」


 どんなにキツイ内容でも、ミミが奴隷になるよりは何百倍もマシだ。

 魔物の百匹や二百匹狩れと言われても、やってやる。


「勿論覚悟の上です。どんな無茶なでも平気です」


「わ、私も平気です。絶対にやり通します」


「そう……じゃあまずは今日中にこなして貰う依頼だけど……これ全部ね」


 お姉さんが机の下から、大量の依頼書を出してくる。

 何枚か手に取って目を通すと、犬の散歩とか、赤ちゃんの世話とか、荷物運びとか、写本とか、とにかく雑用ばかりだ。


「結構あるけど……まあ二人で力を合わせれば何とかなるさ」


「そ、そうですね、ユートさん一緒に頑張りましょう」


 これだけの依頼をこなすのは骨が折れるが、ミミを一緒なら頑張れる気がする。

 俺たちは顔を合せて互いに頷く。


「あー、それは全部ミミちゃん一人で受けてね。ユート君はこれから三日間、魔物の討伐だけに専念してもらうわよ。はい、これが魔物の目撃情報と出現予想場所のリストね。全部倒して来て頂戴」


 俺は耳を疑った。

 この人は何を言っている。


「あのーお姉さん、このリストに載っている魔物の情報ってものすごい量ですけど。それにさっきの依頼をミミが一人でやるなんて冗談ですよね?」


「何言っているのよ。Eランクに上がるのだからこれくらい当たり前じゃない。ミミちゃんが依頼を今日中に全部成功させればFランクに上がるから、明日からはFランクの依頼を受けてポイントを増やす。ユート君は初めからFランク以上の魔物を狩って、魔石を納品してポイントを増やす。ね? 適材適所でしょ?」


 確かに魔物を倒すのは俺が適任だ。

 魔法も使えるし、FランクやEランク程度なら何とでもなると思う。

 ミミと二人で魔物を討伐したら、逆に時間がかかるだろうし、雑用などはこの街の事を殆ど知らない俺は足を引っ張ってしまうだろう。

 それならば始めから二手に別れてこなした方が効率的だ。


「た、確かにそうですけど……。ミミ、大変だと思うけどお互いに頑張ろう」


「そ、そうですね、私も死ぬ気で頑張ります」


 もう一度お互いに顔を合せて頷き合う。


「あー、それとユート君、魔物は最低でも五百匹は倒してね。勿論魔石を回収しないと意味がないからね」


 俺は三日後にミミと顔を合せることが出来るのだろうか。

 こうして俺の地獄の日々が幕を開けた。





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