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第十二話・決着

 気合で立ち上がったものの、実際は満身創痍だ。身体が悲鳴を上げている。痛みで頭が働かない。

 それでもコイツに勝つ。必ず勝つ。ミミの為に。


「いいねぇいいねぇ、そう来なくちゃ面白くねー。簡単にくたばってもらっちゃ、俺の憂さが晴れないからなぁ!」


 シアンが俺と距離をとり、槍を構えて突きを放ってくる。

 不思議な感覚だ。すでに身体強化魔法はかかっていない。俺の肉体は素の力しか出せないはずだ。


「なっ? その体で避けるだと!」


 だけど見える、解かる、避けられる。

 次は俺の死角になる左からの薙ぎ払い、その次は上段からの降りおろし。

 槍の持ち手の位置が少し変わる、知っているその動きは柄も使った連続攻撃だ。


「クソ! なぜだ、なぜ当たらねェ! こんな……こんなボロボロの状態でどうやって……」


 まるで未来を視ている気分だ。シアンの呼吸、視線の動き、力の入り方、全ての情報から相手の動きを予想できる。

 最小限の動作で攻撃をかわし続ける。ほとんどミリ単位で躱しているのが自分でも解かる。

 ……このタイミングなら、カウンターを入れられそうだな。


「ガっ!」


 左手で放った掌底が、シアンの鳩尾にめり込む。シアンの体が前のめり、足元がふらついている。


「うおおおおおお!」


 そのまま膝を高く抱え込み、シアンの顎目掛けて上段回し蹴りを放つ。

 自分でも怖いくらい綺麗に決まったのか、シアンの体は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。


「し、シアンが意識を失い戦闘不能となったため、この決闘、ユートの勝ち!」


 立会人がシアンの様子を確認し、俺の勝利を宣言する。


「ユートさああああん! ユートさん! ユートさん! ユートさん!良かったですにゃユートさん。うわああああん」


 決着と同時にミミが泣き叫びながら飛びついてくる。

 本来ならうれしい展開だけど、今はマズイ。ダメだ……意識が……。


「あれ? ユートさんしっかりしてください。 にゃああああああ!」


 ミミの絶叫を聞きながら、初めての勝利の余韻を感じる事もなく俺の意識は沈んでいった。




「今度こそ知らない、天井だ」


 目が覚めると、ベッドの上で寝かされていた。おそらくはギルドの医務室か何かだろう。

 辺りを見渡すと、ミミがベッドにもたれ掛りながら眠っていた。その顔はとても幸せそうだ。


「勝った……勝てた、って痛い、いたたたた!」


 体を起こすと同時に、痛みが全身を駆け巡る。

 オーガの時もそうだけど、もう少しスマートに戦えないものだろうか。

 でも以前と違うのは、今回は勝てたってことだ。


「あら、ようやくお目覚めのようね、寝坊助さん」


 仕切り代わりの布が払われて、受付のお姉さんが入ってくる。


「寝坊助は酷いですね。そんなに長い事寝ていましたか?」


「うーん、あれから十二時間くらいかしら? まあそれだけボロボロなら仕方がないかもしれないけど。ミミちゃんは……泣き疲れて眠っちゃったみたいね」


 すっかり夜になっていたようだ。そしてミミには心配をかけてしまって申し訳ない。


「ミミがいてくれたおかげで、ボロボロでもなんとか勝てましたけどね。」


 俺はミミの頭を撫でながら、そう答えた。何故そうなったかは解らないが、あの時はミミの事を考えたら力が湧いてきた。魔力も体力も尽きていたのに、どうしてなのか。


「あらあら、愛の力って訳ね。お熱いわね、ひゅーひゅー」


 ひゅーひゅって、このお姉さん歳いくつだよ。そう頭によぎった瞬間、背筋に悪寒が走る。ダメだ、このことは考えてはいけない。


「愛の力……そんな大それたものじゃないですけどね。きっと」


 口ではそう言いながらも、意外とそれもアリだと思ってしまった。愛する人の為に立ち上がるなんて、結構ロマンチックだしな。

 ミミとは出会ったばかりで愛しているとは言い難い。でも少なくとも惹かれているのは間違いない。多分これからもっと好きになっていく気がする。

 相変わらず惚れっぽいと我ながら思う。でも人を好きになるのなんてこういうものだと思う。


「とにかくこれでユート君とミミちゃんはパーティを組めるって訳ね。今日はもう遅いし、ここに泊まっていっても大丈夫よ。……でもミミちゃんと一緒だからってエッチな事をしたらダメだからね?」


「しませんよ、そんなこと!常識くらい弁えています」


「あら? つまり場所が違ったらしちゃうのかな?」


 ニヤニヤしながらからかってくるお姉さんに反論するも、あまり効果はなさそうだ。

 大体ミミはまだ十三歳だ。そんな事をするには早すぎる。いや、決してミミに魅力がないとかそういう意味ではなくて、って俺は誰に言い訳しているのか。


「し! ま! せ! ん! あ、あと様子を見る為にこんな遅い時間までありがとうございます」


 こういう時は話題を変えるのに限る。お姉さんの勤務時間は知らないけど、朝から仕事していたことを考えると、わざわざ残ってくれていたのだろう。


「あら、若いのに殊勝なことね。やっぱり君って貴族様じゃないの? その年で随分としっかりしているから、普通ではないわよね」


「何度もいいますが、貴族ではないですよ。ただ……俺を育ててくれた人がしっかり者だっただけです」


 俺の両親は誰が見ても平凡だったと思うけど、礼儀作法というかそういう面だけは厳しかった。

 お礼や謝罪はきちんとするようにと、しつけられてきた賜物だろう。


「ま、あまり詮索はしないけどね。その様子だと隠蔽魔法や身体強化魔法を長時間使える理由も内緒かな? それだけの魔力を有しているなんて、普通じゃないわよね」


「なっ! なぜ」


 何故それを知っている。俺の魔法は王城の宮廷魔導師や、魔王であるベアト直伝だ。

 そうとうな使い手でもばれない様に、隠蔽魔法にはかなりの魔力を使っていたから、そう簡単には看破されないはずなのに。


「さて、それはどうしてでしょう。あ、別に誰かに話したりしないから安心して頂戴。ミミちゃんの為にもユート君には勝ってもらいたいと思っていたし、シアン君は少し天狗になっていて問題行動が目立ち始めていたから、ちょうど良かったからね」


 そう言って笑みを浮かべるお姉さんだったが、その笑みをそのまま受け止める事はできない。


「あなたは……何者なんですか? 普通じゃない」


「んー、内緒。普通じゃないのはユート君も同じでしょ? それともその左眼とか右手の事を詳しく教えてくれるのかな?」


 この人はどこまで知っている。俺は得体のしれない恐怖を感じ、思わず身構えてしまう。


「あー、ゴメンゴメン。別に脅かすつもりはないのよ。ただ、秘密はお互い様だしそこは干渉しないでねって言いたいだけ。私としても、有望な新人がギルドに入ってくれるならありがたいからね。こっそり割の良い依頼も教えてあげるから、許して? ね?」


 お姉さんはウインクしながら、可愛らしくごめんねポーズを決めている。

 まぁ相手に害がない上、依頼も融通してくれるなら悪い事ではない。警戒し過ぎても仕方がないだろう。


「わかりましたよ。お互い変に詮索しないという事で。あと、出来ればミミにも内緒にしておいてください。いつか自分から話しますから」


「勿論わかっているわよ。それじゃあこれからよろしくね、新人君」


「こちらこそ宜しくお願いします」


 お姉さんの差し出された左手に、こちらも手を差し出し握手を交わす。

 正直わからない事だらけだが、気にしたら負けだ。


「それじゃあ私はそろそろ帰るわね。明日からよろしくね、期待の新人君」


 部屋から出て行くお姉さんの姿を確認し、俺はすぐさま自分の体に治癒魔法をかけることにした。


「全ての生命の源たる光の精霊よ、癒しの力を与えたまえ。ハイヒール! ……ふう、これで落ち着いて寝られるよ」


 体の痛みから解放されて一息つく。怪我も治ったし、明日からはようやく依頼を受けたり魔物を討伐したりできるだろう。

 ちらりとミミの方に顔を向けると、まだ幸せそうに眠っている。この体勢のまま寝かせておくのも可哀想なので、ベッドに寝かせてあげるか。

 もちろん、俺は違うベッドで寝る。


「よいしょ……と、随分軽いな」


 ミミの体を持ち上げると、その軽さに驚いてしまう。

 この小さな体で危険な冒険者に…そう思うと少し胸が締め付けられるような気がしてきた。


「あれ? ユートさん?」


 どうやら起こしてしまったらしい。可愛らしく目をこすりながらこちらを見つめてくる。


「おはよう、ミミ。ミミが応援してくれたおかげで勝つことが」


「ユートさん、ユートしゃん、ユートにゃん!にゃんにゃにゃにゃにゃー!」

 ミミに抱きつかれ、そのままベッドに倒れこんでしまう。

 物凄い力で締め付けてくるのは流石獣人と言うべきか、怪我を治していなかったら、また気絶するところだった。


「わ、ちょ、ちょっとミミ、落ち着いて、俺は大丈夫だから、ね」


 なんか良い匂いもするし、どこがとは言わないが柔らかい感触もして正直色々とマズイ。

 しかも場所はベッドの上で、俺がミミに覆いかぶさる様な状態だ。

 離れようにもがっしりと抱きつかれていて、ミミを落ち着かせない事にはどうする事もできない。

 せっかくだしこのまま……待つんだ俺、相手は十三歳だぞ、流石にダメだろ。

 いやでもこの国の成人は十三歳からのはず、ならいいのか。


「良かったです、良かったですにゃ。お医者さんは直に目を覚ますって言っていたけど、なかなか起きにゃいから心配したですにゃ。もう……もうこのまま目を開けにゃいんじゃないかって。お父さんとお母さんみたいに、死んじゃうかと思って……」


 ミミのお父さんとお母さん、やはり亡くなっていたのか。

 なんとなくそんな気はしていた、きっとミミは両親と三人であの薬屋を営んでいたのだろう。

 でも何かの拍子で死に別れてしまい、薬屋を続けられなくなって冒険者になったのか。


「大丈夫、大丈夫だよミミ。俺はどこにも行かないから。ミミを置いて行かないから」


 ミミの頭を撫でながら、俺はなるべく優しく声をかける。

 両親との別れがトラウマになっていて、誰かの死に対して敏感になっているのだろう。

 初めて俺を助けてくれた時も、シアンを殺さない様に言ってきたのも、死に触れるのが辛いから……そう思えてくる。


 こうして俺はミミと抱き合いながら一晩中過ごす事になった。

 少し気恥ずかしいが、これで落ち着いてくれるなら安いものだ。

 でも緊張してしまう事には変わりがなく、また長い時間気を失ったせいもあって、結局一睡もできなかったのは内緒だ。


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