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第十一話・ユートの作戦

 俺がギルドの訓練場にたどり着いた時、場は異様な雰囲気で包まれていた。

 期待の新人と登録したての新人が女を取り合って決闘をする、そんな話が広まったのか、物凄い数のギャラリーが詰めかけているのだ。

 中にはどちらが勝つか賭けを行う人物までいる始末だ。


「完全に見世物扱いだな」


 俺がそうぼやいてしまったのも仕方がないだろう。こっちは命がけの決闘に挑まないといけないのに、野次馬達はお気楽なものだから。


「ユートさん、頑張ってくださいね! 私も頑張って応援しますにゃ」


「ありがとう。俺には勝利の女神さまが付いているから、必ず勝ってくるよ」


 既に少し興奮気味のミミは、語尾がおかしくなっている。でもこの子に応援されるなら、なんだか勝てるような気がしてくる。


「おうおうおう! 随分と呑気なモンだな。誰が誰に勝つのか教えて貰おうじゃねーか」


 声の主は勿論シアンだ。随分と殺気立っているようで、俺の姿を確認するやいなや、こうして挑発をしかけてくる。


「誰がって勿論俺に決まっているだろ? こっちにはこんなに可愛い女神様がついているからな」


「わっ! わわっ! にゃんですか? にゃんにゃんですか」


 俺はミミの肩を抱き寄せて、得意げにシアンの方を見る。

 作戦その一、相手を怒らせて冷静さをなくす。


「テメェ……いい度胸してやがるじゃねーか。生きて帰れると思うなよ、コラァ」


 成功だ。俺の予想通り、シアンはミミに惚れている。こうすれば挑発になると思ったが、効果は覿面のようだ。


「御託はいいから早く始めようぜ。俺はこの後ミミと二人で依頼を受ける予定で、お前に構っている暇はないからな。さっさとケリを着けてやるよ」


「それはこっちのセリフだ、このクソチビ眼帯ヤロー! さっさと始めようじゃねーか」


 相手が冷静さを取り戻さない様に追い打ちをかけて、さっさと決闘に入る。

 周りのギャラリーたちが盛り上がる中、俺とシアンは訓練場の真ん中で武器を構えて対峙する。


「それでは、ユートとシアンによる決闘を開始する。どちらかが負けを認めるか、戦闘不能になったらそこで終了だ。勝者はミミさんを自分のパーティに入れる事とする。それでは開始!」


 決闘の立会人であるギルドの職員が開始の合図をかける、と同時にシアンの鋭い突きが俺に襲いかかる。


「っち、避けるのだけは上手いみたいだな。人族の割には素早いじゃねーか」


 危なかった。油断しているつもりはなかったが、予想以上にシアンの攻撃が鋭くて、躱すのもギリギリだ。

 このまま距離を取ってしまうと槍の餌食になってしまう。俺はダガーを右手に構え、シアンの懐に跳びこんでいく。

 シアンは俺を近づけさせまいと槍を突き、振るい、時には柄の部分で攻撃を仕掛けてくる。

 フェイントを入れつつも、右に左に素早く移動しながら、徐々に距離を詰めていく事十数分。ようやく勝機が訪れる。


「もらった!」


 シアンの振るった槍をダガーで弾き、そのまま懐へ入り込む。後はこのまま喉元に切っ先を向けて、負けを認めさせるだけ。

 そう考えた俺の眼に映ったのは、シアンの勝ち誇る顔だった。


「ぐはっ!」


 槍を弾いたと思ったが、わざと弾かせただけだったと気づいた時には既に遅かった。自ら槍を手放して、俺を捕まえる事が目的だったのか。

 シアンが俺の右腕を獣人の握力で捻り上げると、あまりの激痛にうめき声をあげてしまう。

 そうして俺の手からダガーが落ちると、今度は思いっきり蹴り飛ばされてしまう。

 何かが折れるような鈍い音が、俺の体の中から聞こえてくる。


「はぁ、はぁ、狙い通りいかなくて……残念だったな。俺の動きについてこられたのは驚いたが、あんな見え見えの誘いに乗ってくるとは思わなかったぜ」


 そう、俺は人族でありながら獣人のシアンの動きについていけていたのだ。

 作戦その二、こっそり身体強化魔法を使う。

 これは完全にズルだ。ギルドに来る前に身体強化の魔法をかけておくだけ。

 そもそも身体強化の魔法は維持をする魔力の消耗がかなり激しく、普通はここぞというタイミングで詠唱して使うものだ。

 王国騎士団長のグレイでさえ、連続して使えるのは五分程度だった。

 それをミミの家を出る前から今に至るまで、三十分以上も維持し続けていた俺を褒めてほしい。


「あ、あ……ああ」


 一つ誤算があるとすれば、シアンの身体能力がとんでもなく高いことだけだ。

 冷静さを失ったシアン相手に素早さで圧倒し、あっさり勝ちを拾うはずが、ここまで長引いてしまっていた。

 そんな中、相手の隙を見つけて……いや隙があるように見せられて、焦って飛び込んでしまったのは俺のミスだ。


「さて、テメーの武器は俺の足元に転がっている。そして……俺の武器はこうして手元にある。見たところ体力の限界も近そうだが、まさかもう負けを認めるなんて言わないよな?」


 シアンが俺のダガーを遠くに蹴飛ばして、自身の槍を拾うとそのまま俺の方へ近づいてくる。

 体力もそうだが魔力もほぼ尽きかけている。そもそも身体強化魔法がばれない様に、魔力の隠蔽魔法まで併用して使っていた。

 そこまでしても三十分以上持ったのは、勇者と魔王の力によるものだけれど、それだけの力を持っていても苦戦どころか敗色濃厚だなんて、俺の憧れた異世界生活ってこんなものだったのか。

 右腕はシアンに捻られて骨折しているのか、物凄く痛む。蹴飛ばされた時に肋骨も折れたみたいだ。


「オイオイ、喋る元気もねーっていうのか。っけ、こんな根性無しヤローを選んでいたとはミミもヤキがまわったな。まぁこれで晴れてミミはウチのパーティってわけだ」


 完全に俺を見下ろしながら、勝った気でいる。

 確かにこんな状態で逆転なんて出来る気がしない。武器があっても折れた右腕じゃ満足に戦う事も出来ないだろう。

 そういえばミミどうしているのかな……ミミはどこにいる……。


「ユートさん……」


 大勢いる野次馬の中にミミの姿を見つける。

 空耳かもしれないが、野次が飛び交う訓練所の中でミミの声が聞こえたような気がした。


「……だ」


「あん? 何か言ったかオイ」


 そうだ、俺の目的を思い出せ。俺は何をするために旅に出た。


「ま……だ……だ」


「アァ? 聞こえねーゾ」


 可愛い女の子と出会ってハーレムを作る、勇者と魔王の力で無双する。

 確かにそれもある。でも違う、本当の理由はそんなんじゃない。本当は……本当は。


「ユートさん! 立って! 立ってください!私はユートさんとパーティが組みたいです! シアン君になんか負けないでください!」


 ミミはアン王女とは違う。俺の為に涙を流して応援してくれている。

 荷物持ちとはいえ、シアンのパーティに入る事も出来たはずだ。将来有望なパーティならば、お金を稼ぐには最適だろう。

 薬屋をせずに危険な冒険者をしているという事は、お金に困っての事だと思う。

 でもミミは、会ったばかりの俺とパーティを組むと言ってくれた。シアンではなく俺を選んでくれた。

 あの時みたいに俺を切り捨てずに、選んでくれた。


「まだだぁあああああああああ!」


 俺を選んでくれる女の子を見つけて、その子と共に過ごす。男らしく好きな女の子を守り抜く。それが俺の本当に求めていたものだ。

 その為なら、俺は何度だって立ち上がってみせる。姫様と呼ばれていた頃の情けない俺とは違うのだから。



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