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第十話・秘密

 ギルドで登録と精算を終えた俺とミミは、二人で街中を歩いていた。


「冒険者プレートって案外地味だな」


 先程ギルドで貰った冒険者プレートはアイアン製で、名前とランク、登録番号が記載されているだけだ。

 パッと見、ただのドッグタグだ。


「確かに一番下のランクだとアイアン製で地味ですよね。でもランクが上がればブロンズとかシルバーとかどんどん派手になりますよ」


 ぼやいた俺にミミが律儀に反応する。

 G、Fまではアイアンで、そこからランクが一つ上がるごとにプレートの素材が変わる。

 冒険者たちはこれを首にかける事で、互いの実力がある程度わかる仕組みだ。


「明日の決闘が終わったら、舐められないためにもしばらくはランク上げかな。」


 ランクが高ければ余計なトラブルも減るだろう。

 それに高額な依頼も受けることが出来る。お金がなければ生活もままならない。


「決闘……そういえば、ユートさんはどうして私とパーティを組もうと言ってくれたのですか。ゴブリン相手にもまともに戦えない……役立たずなんですよ」


「役立たずなんかじゃない。ミミは見ず知らずの俺を助けてくれる優しい子だ。魔物の解体も出来て、薬草や街の政策についても知っているくらい博学だ。俺なんかちょっと戦えるだけの、世間知らずだ。ミミがいなかったら、街に入る事も出来なくて路頭に迷っていたよ。」


 本当にミミがいてくれて助かっている。


「俺とミミは出会ってまだ一日も経ってないけど、ミミの良いところはこんなに見つけられたよ。きっと俺の知らない面がまだまだ沢山あると思う。だから俺はミミとパーティを組みたいと思ったよ。戦いは俺が出来るから、ミミには俺に出来ない事を担当してほしい。それがパーティってもんだろ? 」


 俺は勇者で人並み以上に戦う力はある……と思う。

 それならミミには知らない事をカバーしてほしい。

 俺が知っているのはこの二か月の間で詰め込んだ事くらいで、生活していて自然と身に付く常識が欠けている。

 今回の決闘も、獣人の事を知らないが故に軽い気持ちで受けてしまったのだから。


「ユートさん……あ、ありがとうございます。そう言ってもらえて凄く嬉しいです。もし……迷惑じゃなければ、パーティを組んで下さいにゃ」


「ぷっ、くくく、了解ですにゃ」


 思わず笑ってしまった。真面目な話をしている時にその語尾は卑怯だ。


「あー! もう笑うなんてひどいですにゃ! ユートさんのいじわる」


「ごめんごめん、あまりに可愛かったからさ。許してよ」


 尻尾をパタパタと振りながら、ミミは頬を膨らませている。

 こういう姿を見ると、可愛らしくてからかいたくなってしまう。


「そうやってまた可愛いって……ずるいですよ、もう」


 尻尾をピンと立てながら、ミミは満更でもない様子だ。


「とにかく、これで明日の決闘は余計に負けられなくなったわけだ。ミミとパーティを組むことも決まったし、頑張らないといけないな」


 勢いで決まった決闘だが、女の子の為ならばやる気が俄然出てくる。


「そういえば……ユートさん決闘で使う武器はどうします? ダガーはそのままお貸ししますけど、確かシアン君は槍の使い手なので、かなり不利だと思いますよ」


 そう、オーガとの戦いで使ったロングソードは川に落ちた時に、他の荷物と一緒に無くしていたのだ。

 今持っているダガーもミミからの借り物になる。


「あー、そういえばどうするかな。ちなみに銀貨一枚と銅貨五十枚で剣って買えるかな」


 何気なくそう聞いたら、ミミがジトっとした目つきでこちらを見ている。

 ちなみに入門税の銀貨一枚は返却済みだ。


「ユートさん、物凄く質の悪いなまくらの剣でも銀貨十枚はしますよ。ダガーだって最低銀貨一枚以上はしますし」


 なまくらでゴブリン二十体分か。ゴブリンの価値って低すぎ!

 それとも剣が高いのか、こういう物価については実際に生活してないとわからない事だ。


「ま、まあそれならそれで魔法を使えば何とでもなるから大丈夫。俺の魔法の力はミミも知っているだろ? この際、多少実力がばれたとしても、ミミの為なら全力を尽くすよ」


 決まった。これはミミさんも惚れますわ。

 ヒロインの為に隠された力を開放する主人公。完璧ですわ。

 そう邪な事を考えていると、ミミは余計にジト目になっていた。


「獣人の決闘は、己の肉体の力を誇示するための決闘ですよ。魔法は使えません。互いに武器一つで戦うのが掟です」


 あれ、もしかして詰んでないか。

 獣人族は種族の特性として筋力に優れている事が多いはずだ。

 身体強化魔法もなしでの戦いなら純粋な力は間違いなく向こうが上、しかも俺の武器はダガーで相手は槍でリーチも不利。


「そ、そうか。まあ何とかなるよ。力で勝る相手との戦いは慣れているからな。ダイジョーブ、ヘイキダヨー」


 ミノさん、俺に力を貸してくれ。


「なんだか……ユートさんって頼りになるのかならないのか分からなくなってきました」


 ミミの好感度が下がった気がした。


「そ、それよりも早く宿に向かおう。お腹も空いてきたからな」


「ユートさん、宿に素泊まりでも銀貨数枚はかかりますよ」


 ミミの好感度が更に下がった気がした。


 宿に泊まる事も出来ない俺は、結局ミミの家にお世話になる事となった。

 見たところ小さな薬屋を営んでいるようだが、お店の棚には殆ど商品が残っていない。

 それにミミ以外の家族の姿もなく、俺はミミが夕食を作っている間、案内された部屋で過ごしていた。


「あんまり……立ち入らない方がいいよな」


 十二、三歳の女の子が一人暮らし。

 しかも小さいながらもお店を持っているにも関わらず、危険な冒険者になっている。

 どう考えても訳ありだろう。


「ミミが話してくれるのを待った方がよさそうだな」


 デリケートな話題に土足で踏み込む訳にはいかない。

 出会って一日で、こうして泊めてくれるだけでもありがたい事なのだから。


「ユートさーん。ごはんできましたよー」


 ミミが俺を呼ぶ声が聞こえたので、さっそくリビングに向かうと、料理がテーブルの上に並んでいた。


「これは凄い、見ただけでも美味しそうなのがわかるよ」


「えへへ、ありがとうごうございます。冷めないうちにさっそく食べましょう、光の神様に感謝を」


「光の神様に感謝を」


 こちらの世界では「いただきます」の代わりに、光の神様への感謝を捧げてから食事をする。

 勇者の持つ光の加護を授けた神様と言われていて、その神様を信仰しているのが光神教という宗教だ。

 本当は「我らが生きとし生ける全ての~」と始まるやたら長ったらしい言葉なのだが、食事の度に一々言っていられないので、普通は省略される。

 

「これは……うまい、うまいよ、ミミ。こんなに美味しい料理なら毎日食べたいくらいだ」


 決して豪華な食事と言うわけではないのだが、家庭の味といえばいいのだろうか、食べていて凄く落ち着く味だ。少し、母さんの事を思い出してしまう。


「喜んで貰えたなら何よりです。でも流石にちょっとほめ過ぎですよ、もう。それに今日はユートさんのおかげで食材を奮発出来ましたから」


 そう言いながらも満更でもない様子だ。実はミミと買い物をしてからここに来たのだが、食材購入の費用は俺が出しておいた。

 宿に泊まるには心もとないが、こうして食事をする分には事足りている。

 ミミは遠慮していたが、タダで泊めてもらうわけにもいかないのでそこは押し切った。交換条件ではないが、美味しい夕食を作ってほしいとお願いもしたけれど。

 そのかわり一文無しに近い状態なので、明日から冒険者として働かないとまずい。


「いやいや、本当に美味しいよ。ミミはきっと良いお嫁さんになるよ」


「にゃ、にゃにを言っているんですか。変なこと言うユートさんは嫌いです」


 ミミさん、とてもわかりやすいですね。ぷんぷんしている姿はとても可愛らしくて、俺は思わず顔から笑みがこぼれてしまう。


「あー、笑わないで下さいよ、もう! もう! もう!」


 可愛い猫さんが今度は牛さんになってしまった。


「ごめん、ごめん。ところでミミはシアンと知り合いみたいだけど、彼についてはわかる事を教えてほしい。流石に対策もなしに戦えないからね」


 俺は誤魔化すように話題を変えることにした。

 シアンについて知っている事は槍を使うのと、Dランク間近の期待の新人ということくらいだ。


「んー、小さい頃は一緒に遊んだりしていましたけど、ちょっと意地悪になってからはあまり話すこともなくなっちゃって。シアン君のお父さんは槍術の道場を開いていて、そこで槍の扱い方を教わっていました。確か道場内でも一、二を争う腕前だとか。同じパーティの人たちも、道場の門下生だと思います」


 それだけの腕前ならランクが上がるのも早いのだろう。パーティメンバーも気心知れた人間同士なら連携も取りやすそうだ。

 それよりもミミとシアンは幼馴染なのか。ギルドでの絡み方やミミに言葉から察するに、ミミの事が好きなんじゃないか。

 随分と短気な奴だとは思ったが、見知らぬ怪しい男が気になる幼馴染と一緒にいたから、俺に突っかかってきたのだろう。


「なるほど、武器の扱いについては向こうの方が上みたいだね。力も……獣人族なら俺よりもありそうだ。さて、どうしたものか……」


 勝てる要素が見当たらない。魔法が使えないうえ、武器はリーチの短いダガーのみ。

 剣ならグレイ団長直伝の王国流剣術が使えるから、多少はなんとか……ん?


「なぁ、ミミ。図々しいお願いだと承知の上だけど、ミミの持っているショートソードを借りる訳にはいかないのかな」


 すっかり忘れていたが、ミミはショートソードを持っていた。剣を扱える様子がないので護身用だとは思うが、決闘の時だけでも借りられたらなんとかなりそうだ。


「ごめんなさいユートさん、あの剣は大切な物なのでお貸しする事は出来ません。本当にごめんなさい」


 軽く聞いたつもりだったのだが、物凄い勢いで謝られた。


「いや、俺の方こそ軽々しくお願いして申し訳ない。ミミの大切な物だとは知らずに無神経だったよ。こちらこそごめんなさい」


 俺は慌ててミミに謝罪をする。

 よくよく考えれば想像できたはずだ。ミミは見ず知らずの俺をこうして泊めてくれる優しい子だ。そんな子が、剣が無くて困っている俺を見て、放っておくわけがないだろう。

 つまり、ミミからの提案がなかった時点で、何かしらの理由があるはずだと思いつくべきだった。


「い、いえ、ユートさんが悪い訳じゃありません。ただ、あの剣は……その……」


「大丈夫、無理に話さなくてもいいよ。ミミの様子を見ていれば何か理由があるのはわかるからさ」


 無理に聞き出す必要はない。もう少しお互いの事を知ってからでも問題ない。


「あぅ、ありがとうございます。いつかきっとお話ししますから、少しだけ待っていてください」


「勿論だよ。これから一緒にパーティを組んでいくなら、時間はいくらでもあるし、焦る必要はないよ。俺だってミミに話せない事はあるから、お互い様だよ」


 俺だって勇者で魔王だ。勇者としてはまだまだ成長途中だし、魔眼の力も全く使えない。それでも、とんでもない秘密には違いないだろう。


「そ、そうですね。私たちパーティですもんね。私もユートさんの秘密を聞けるように頑張りますにゃ」


 何を頑張るのかはわからないが、ミミが笑顔になったから何でもいいか。

 こうしてミミの家での時間は穏やかに過ぎていった。


 食事を終えた俺は、部屋のベッドで明日の対策を考えながら眠りにつく。

 パーティを組めるかどうか実際に決まるのは、明日の決闘を終えてからなのだから、絶対に負ける訳にはいかない。




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